信頼度最低「SNSインフルエンサー」に次ぐワースト2位なのに医師より稼ぐ"年収4000万円超"の職業の名前
プレジデントオンライン / 2025年1月16日 10時15分
■1000万円超えの高年収は、医師、大学教授、パイロット
どんな職業で働くか、判断材料の最大項目のひとつは「収入」だろう。また、社会的に信頼されているか職業かどうかも働きがいに直結するので、職業選択の際に意識するポイントだろう。
そこで、今回は、職業別の年収比較と、各職業への信頼度の国際比較を見てみよう。
まず、厚生労働省の「賃金センサス」(賃金構造基本統計調査)を基に、職種・職業別の平均年収(男女計)とその変化を図表1に示した(年収=決まって支給する現金給与額×12+前年1年間の特別給与額)。データは最新のもので2023年版があるが、前回までと職種分類が変更となり過去分と比較できないため、2005年、2012年、2019年のデータを使った。2020年以降のコロナ禍の影響については反映されていないが、そうした影響を受ける前の「本来の職種評価」を見ることができるはずだ。
多くの職種が300万~500万円の年収水準に収まっている。
1000万円超えの高年収職種は、医師、大学教授、航空機操縦士(パイロット)である(2019年の数字では、順番に1169万円、1101万円、1695万円)。歯科医師も2005年当時は1000万円近かったが、現在では、かなり下がってしまっている(905万円→570万円)。
医師とパイロットは、養成にかかる期間や費用が多くかかる高度な職業である点やその職種への需要と供給の面から高収入の説明がつきそうであるが、大学教授の場合は、独占的地位を維持しているがゆえの高収入のきらいがなくもない。
これに次ぐ800万円かそれに近い高収入職種としては、弁護士、公認会計士・税理士、不動産鑑定士、記者が挙げられる。記者を除くといわゆる士業(注)と呼ばれる職種である。士業が高収入であるのは、それだけ社会の専門職種化が進んで来ているせいだろう。
(注)士業とは、弁護士や社会保険労務士など、専門的な資格が必要な職業の俗称であり、資格名称の末尾が「士」で終わるため士業(サムライ業とも)と呼ばれる。
なお、データの対象は、従業員10人以上の民営事業所で働く者なので、個人営業で高収入のケースは含まれていない点に留意が必要である。例えば、パイロットは調査対象として全員が含まれていようが、医師の場合は開業医の多くが含まれていない。2023年に厚生労働省が実施した「医療経済実態調査報告」では開業医の年収は勤務医の約1.8倍とされる。2019年の「医師」の年収が1169万円なので開業医は約2104万円となるが、経営費用もかかるので単純に比較することはできない。
■年収が上昇している職種・下降している職種
逆に300万円を下回る低収入職種として目立っているのは、スーパー店チェッカー(レジ係)、洗たく工、調理士見習、洋裁工、ミシン縫製工、ビル清掃員、用務員などである(いずれも19年、順に250万円、269万円、263万円、220万円、218万円、261万円、282万円)。ただし、図表1のデータ(数字)は男女計なので、女性比率が多い職種では給与の男女差が反映して低収入職種として目立つ傾向があろう。
年次推移を見ると、平均すると2005~2012年の「減少」職種数は全体129職種のうち87職種と多かったが、2012~2019年には21職種とかなり減っている。
2012年(あるいは2005年)からの年収減少で目立っているのは、歯科医師、電車車掌、航空機客室乗務員(キャビンアテンダント)(05年678万円→19年496万円)、発電・変電工(05年624万円→19年518万円)、用務員(05年368万円→19年282万円)などである。
電車車掌、金属工などは職種に対する需要減が大きな理由となっているだろうが、歯科医師への需要はむしろ高齢化とともに増加しているのに、年収が減っているのは、やはり、歯科医が多すぎて競争が激しいためだろう(歯科クリニックはコンビニより多いなどと歯科医自身が嘆いているのをよく聞く)。
逆に2012年(あるいは2005年)からの上昇が目立つのは、技術士(05年529万円→19年667万円)、一級建築士(05年539万円→19年703万円)、弁護士、不動産鑑定士(12年680万円→755万円)、記者(05年695万円→19年792万円)、航空機操縦士(パイロット)(12年1152万円→19年1695万円)、陶磁器工(05年295万円→19年418万円)、自動車組立工(12年473万円→19年507万円)、クレーン運転工(05年467万円→19年510万円)、掘削・発破工(05年495万円→19年617万円)、鉄筋工(05年346万円→19年445万円)、配管工(05年382万円→19年467万円)などである。
ここでも技術士や一級建築士などいわゆる10士業以外を含む広い意味での士業が多く、専門職需要の堅調のためだろうが、パイロット、自動車組立工、クレーン工、鉄筋工、配管工などは、人手不足が理由だろう。陶磁器工は陶芸ブームの反映の可能性がある。
なお、この調査ではいわゆる「営業マン」というカテゴリーはないが、「自動車外交販売員」が自動車の営業職であり、「営業」の代表として解釈すれば、05年442万円→19年514万円となっている。
■どの国でも信頼度が高いのは医師や科学者、英米でレストラン給仕
次に職業別の信頼度データを見てみよう。
フランスの世界的な調査会社であるイプソス社は、各国でどんな職業の人間が信頼されているかの国際意識調査を実施している。ここでは、32カ国、21の職業について調べた結果を各国における順位別に図表2に示した(イプソス社の報告書にはデータが示されているだけで、順位グラフは筆者のオリジナル)。
凡例の順番は世界平均の純信頼度(「信用できる」マイナス「信用できない」)の順位である。信頼度の高い順に、医師、科学者、教師、レストランの給仕スタッフ、軍人、一般の男性/女性、警察官と続き、逆に、信頼度の低い順に、政治家全般、SNSのインフルエンサー、広告担当幹部、政府の閣僚、経営者、政府職員/公務員と続いている。
これらの職業についてはカラー線などで国による違いが明確になるよう工夫している。中間的な信頼度の職業については共通のグレー線であらわしている。国の順番は左から所得水準の高さで並べた(左は先進国、右は途上国)。
国別の職業別の信頼度については結論的には次のような特色が見てとれる。個別には以下のコメントを参照されたい。
① 医師は信頼度トップの国がほとんど
② 科学者は中進国で信頼度トップ
③ 教師は途上国で評判が良い(日本は異例に悪い)
④ 英米でトップ信頼度のレストラン給仕スタッフ
⑤ 警官の信頼度は汚職が多い途上国で低い
⑥ 政治家の評判の悪さは世界共通
⑦ インフルエンサーなど広告関係者の評判は先進国で特に低い
信頼度の高い職業の方から見ていこう。
医師は32カ国中16カ国とちょうど半分の国で1位となっている。科学者は8カ国で1位となっているに過ぎないから、医師への信頼度の高さは世界共通だということが分かる。医師への信頼度の高さは先進国、途上国の差には関わりがないことも図からわかる。
わが国の職種別の年収でもトップクラスであり(図表1)、信頼度も世界的に高く、収入がよいということで、能力のある青少年が目指す憧れの職業となっているのも当然だろう。
国際的に医師が信頼されていることから、医師が主導する国連の専門機関である世界保健機関(WHO)、あるいは国際民間援助団体であるNGOの中でも医師がつくる「国境なき医師団」に対する世界からの信頼度も高くなっている。
いくつかの国では医師への信頼度がそれほど高くない場合があり、こちらの方が何らか説明が必要だろう。医師への信頼度が、米国は4位、韓国は5位、ルーマニアでは7位と相対的に高くない。米国は医療費の高さで嫌われているのかもしれない。ドラマや映画による憶測だが韓国では貴人の奴婢的な存在だったためかもしれない。ルーマニアの理由は不明である。
2番目に信頼されているのは科学者であるが、科学者を1位に挙げている国は中進国に多いようだ。
先進国ではスウェーデンで科学者が1位となっているのが目立っている。やはりノーベル賞の国だからだろう。
3番目に信頼されているのは教師であるが、教師の場合は、先進国ではそれほど信頼度が高くなく、1位となっているのはもっぱら途上国だという特色がある。日本では12位と異例に低い信頼度が目立っている。
図表3には、世界順位と日本順位の差(相対順位)を示したが、日本の教師の相対順位は+9と世界平均より比べて大きく低くなっている。そのほかの職業では、世論調査員とジャーナリストが+4と教師に次いで信頼度の相対順位が低くなっているが、教師ほどではない。
前出の厚労省の給与データでは、「高校教諭」は05年750万円→19年709万円と減少傾向にあった。
関連して、反対に、世界順位より高くなっている職業として目立っているのは、裁判官、弁護士、政府職員/公務員であり、世界順位より-5となっている(すなわち5位高い)。世界では、法曹関係者や公務員といえどもえこひいきや汚職なども多く、その評判は日本よりもずっと低いのだということを理解しておく必要があろう。
公務員の一種であるが、警官の信頼度は国により極端に異なっている点が特徴である。警官への信頼度が1位であるのはシンガポールだけである。先進国ではこのほかドイツで警官への信頼度は高いが、アイルランドや英国ではかなり低い。日本も7位とそれほど高くない。一方、途上国ではメキシコ、タイで18位、インドネシアで19位など警官への信頼度が非常に低い国が多い。やはり、汚職警官の多さによるのだろう。
今回の調査で最大の意外な結果となっている事項は、レストランの給仕スタッフ(店主、ウエーター、ウエイトレス)が米国と英国で1位となっている点である。この2国では、客の個人情報をけっして漏らさないという信頼を得ている職業なのだという文化的な特異性がうかがわれる。アイルランド、オランダ、コロンビアでも2位と高い。そうした職業倫理が特にないアジアでは、この職業への信頼度は高くない(シンガポール、韓国、日本、マレーシア、タイ、インド)。
軍人(自衛官)は信頼度の高いほうの職業であるが(そうでないと安心できない)、軍事クーデターがときどき起きるタイのように下から2番目と非常に評判が悪い国もある。日本は5位であり、米国、カナダの2位にはかなわないが比較的評判がよい。
■信頼度が低いのは政治家、SNSインフルエンサー
次に、信頼度の低いほうの職業である。
政治家一般が最低であり(最低ランクの国が15カ国)、政治家が就くことの多い閣僚、政治家が指揮する公務員など政治がらみでは信頼度が世界的に低い点が目立っている。
日本でも政治とカネの問題、政治家の不始末などの頻出から、政治家への信頼は地に落ちた感があるが、これは、世界共通の現象だと理解しておく必要がある。
ちなみに、2024年の衆参両院の国会議員の1年間の所得は議員1人当たりの平均2530万円だった。さらに、議員1人当たり月130万円あまりの歳費が支給されており、これを加えると計約4090万円ということになる。日本国内では信頼度が最も低いSNSのインフルエンサーに次ぐ低さだが、収入は世界トップ級に高い額を稼いでいることになる。
各国で信頼度がもっとも低い職業として目立っているのが「SNSのインフルエンサー」である。世界14カ国で最低ランクとなっている。ただし、評判が低いのは先進国であり、途上国ではそれほど低くないのも特徴である。広告担当幹部も似たような傾向を見せている。
経営者(ビジネス・リーダー)も評判のよくない職業であるが、これは、国によってかなり異なっており、コロンビアの8位、ルーマニアの9位、イタリアの11位のように比較的評判のよい国もある。政府職員/公務員も国によってかなりばらつきが大きい。
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統計探偵/統計データ分析家
東京大学農学部卒。国民経済研究協会研究部長、常務理事を経て現在、アルファ社会科学主席研究員。暮らしから国際問題まで幅広いデータ満載のサイト「社会実情データ図録」を運営しながらネット連載や書籍を執筆。近著は『なぜ、男子は突然、草食化したのか』(日本経済新聞出版社)。
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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)
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