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「ダメ上司」のもとほど、ニコニコ働くほうがいい…ソニー元社長が断言する「チャンスを掴む人」「逃す人」の差

プレジデントオンライン / 2025年1月31日 7時15分

インタビューに応じる平井一夫さん - 画像=プレジデントオンライン編集部

「働かないおじさん」にならないためには、どんなことに気を付ければいいのか。『仕事を人生の目的にするな』(SBクリエイティブ)を書いた、元ソニー社長兼CEOの平井一夫さんに聞いた――。(後編/全2回)

■“働きに応じて給料をもらう”ことが染みついている

今年(2024年)の自民党総裁選で、解雇規制の緩和がテーマの一つにあがりました。議論が深まらないまま立ち消えになった印象ですが、結論から言うと、私は解雇規制の緩和は時期尚早だと考えています。

もともとソニー・ミュージックエンタテインメントで働いていた私は、30代半ばでニューヨークオフィスに赴任しました。その翌年にPlayStationの北米発売に関わったことを契機に、06年にソニー・コンピュータエンタテインメントの社長になるまで長らくアメリカで働いていました。

海外経験が長かったせいか、私自身にはペイフォーパフォーマンス、つまり働きに応じて給料をもらう雇用・賃金体系が染みついています。

経営の視点でも、ペイフォーパフォーマンスはやむを得ない面があると考えています。日本企業では、年功的な賃金体系で高い給料をもらっているのに、それに相応しい仕事をしない“働かないおじさん”が批判の的になっています。実際、みなさんの組織にも「この人辞めたら働き口あるのかな」と感じるような“働かないおじさん”がいるかもしれません。

■「働かないおじさん」が“チーム全体”の力を落とす

“働かないおじさん”の是非はプロ野球球団にたとえるとわかりやすい。かつてホームランを何十本と打って活躍した選手を、打てなくなった後もかつての報酬で雇い続けたらどうなるか。

その球団は他の有望な選手に高い報酬を提示できなくなり、チーム全体の力を落としてしまう。企業も本来はペイフォーパフォーマンスで処遇することによって、戦う集団になるでしょう。

ペイフォーパフォーマンスの考え方は日本文化に馴染まないという声もありますが、日本のプロ野球は昔からペイフォーパフォーマンスでやってきて、WBCでは世界一にもなりました。ペイフォーパフォーマンスだからチームプレイできないというのは間違い。スポーツでできてビジネスでできない理由はないと思います。

ただし、だからといってドラスティックに解雇規制を緩和することには反対です。パフォーマンスが落ちた人に外に出てもらえば、その人はどうなるのでしょうか。労働市場の流動性やセーフティネットのない状態で組織の外に出たら、ネガティブなインパクトが大き過ぎます。

解雇規制緩和と、出口における手当てはワンセット。それも一気に進めると危険なので、一歩ずつ進める他ないと思います。

■だからと言って“放り出す”のはあんまりだ

その過程で企業も取り組むべきことがあります。企業はこれまで「我が社に貢献してくれたら一生面倒を見る」と言って終身雇用を前提として社員を教育してきました。

しかしいまや終身雇用は大企業を中心に成り立たなくなりつつある。そうなった途端に、活躍できなくなった50歳前後の社員を放り出すのはあんまりです。解雇された人は、「いままで野球しかしてこなかった。今から他のスポーツをどうやって覚えればいいのか」と途方に暮れるでしょう。

もし自社の人材流動性を高めたいなら、自社でしか通じないスキルやノウハウばかりを教えるのはNGです。若い時期から他社や他業界でも広く通用する汎用的なスキルを身につけてもらい、その上に自社独自のスキルを習得してもらう教育体系を準備する必要があります。

賃金体系も入口のところから変えるべきです。とくにエンジニアリングやAIの世界は若い人も高いパフォーマンスを出せます。それに合わせて初任給3000万円出したっていい。そのかわりパフォーマンスが落ちてきたら給料10分の1あるいは会社から卒業かもしれませんが、入社時からペイフォーパフォーマンスでダイナミックに処遇されていたら、納得感があるはずです。

これはあくまでも一例。ペイフォーパフォーマンスになっても混乱や軋轢が最小限で済むように、システム全体を考えながら少しずつ進めるべきでしょう。

■「ダメ上司」の部下ほど、ニコニコ働くほうがいい

一方、個人は個人で、将来、野球選手のように戦力外通告を受けないように自らキャリアを築いていく必要があります。いまいる組織からはもちろん、仮に何らかの事情で外に出ることになっても他の組織からも必要とされる人材になる。それがペイフォーパフォーマンスを味方につける条件です。

若い人にこのような話をすると、「希望の部署に配属されず、経験を積めない」「ダメ上司に当たった時点でチャンスなし」と相談を受けることがあります。実際、組織にはさまざまなダメ上司がいます。「パワハラ・セクハラ」「手柄は自分のもので、失敗は部下のせい」「人の話は聞かない」「明確な判断をしない」「朝令暮改」「気分の浮き沈みがある」。

悩むビジネスマン
写真=iStock.com/Yuto photographer
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yuto photographer

こうした上司を放置すると「うちの会社はこんな上司を容認するのか」とますます士気が下がるため、会社は早急に対処すべきですが、現実には動いてくれないケースもある。

しかし、そこで腐ってはダメです。たとえば上司が良いマネジャーではないことを知っているのは、直属の部下だけではありません。上司の無能ぶりは、おそらく他の部署のマネジャーや部門の責任者にも知れ渡っています。

そこで大切なのは、ダメ上司のもとでも明るくニコニコ働くこと。ダメ上司につられてネガティブな顔をしていたら、「あの部下もその程度の器」と思われるだけ。逆にニコニコして「あの社員はひどい上司の下でも真面目に仕事ができる」「結構頑張っている」と評価されれば、誰かが味方してくれて次にチャンスが転がり込んでくる可能性が高まります。

この状況を逆手に取れば、“ちゃんと芯があるから任せても安心だ”という評価につながるわけです。部署の配属も同じ。与えられた条件のもとで最大限ポジティブに対応することが次のキャリアにつながります。

■私もアメリカ時代に“リーダー失格の烙印”を押された

マネジャーになって以降も自分を磨くことを怠ってはいけません。ただ、マネジャーに求められるのは自分よりもチームのパフォーマンス向上です。そこを履き違えるとダメ上司と同じ末路をたどります。

平井一夫さん 元ソニー社長兼CEO
写真=小田駿一、フォトリタッチ=兵頭誠(VITA inc.)
平井一夫さん 元ソニー社長兼CEO - 写真=小田駿一、フォトリタッチ=兵頭誠(VITA inc.)

忘れもしません。ソニー・コンピュータエンタテインメントアメリカの社長時代に人事担当役から大目玉を食らいました。私は「部下に任せるより自分でやったほうが早い」と考えるタイプで、実際に何にでも顔を突っ込んでいました。

それを知った上司に「部下にデリゲーション(権限委譲)しないからみんなモチベーションが下がっている。そんな身勝手なマネジメントではリーダー失格」と通告を受けたのです。

それからは大反省して積極的にデリゲーションするようになりました。経験不足の部下に仕事を任せれば、短期的にはパフォーマンスが落ちることもあるでしょう。しかし部下に経験を積ませるのは上司の仕事です。

また、裁量を得てモチベーションが高まれば、それだけで経験不足を補ってあまりある効果が期待できます。このときの失敗で気づいていなければ、私は自分のパフォーマンスばかりに目が行くダメなマネジャーになり、その後はチャンスをもらえなかったかもしれません。

■部下は「武勇伝」「自慢話」で奮い立たない

もちろん「仕事を任せる=何もしない」ではありません。それでは本当に“働かないおじさん”です。マネジャーは意思決定の他、メンバーが仕事をしやすい環境を整えたりサポートする役割を担っています。なかでも私が重視していたのはコミュニケーションでした。

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写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

部下は上から命じられた仕事を単にこなすだけのロボットではありません。なぜこの仕事が必要なのか納得して仕事をしたいと思っているし、こちらの思いも上司に聴いてもらいたいと思っています。その機会を繰り返しつくってお互いに理解し合うことが、マネジャーに課せられた大事な仕事の一つです。

私は社長になって以降、ランチョンミーティングやタウンホールミーティングを頻繁に行っていました。「一緒にランチを食べるだけなら簡単」と甘く考えてはいけません。

日本人社員は比較的マイルドですが、海外でランチョンをやると「なぜ赤字のテレビ事業を残して、VAIOを売却したのか。納得できない」と厳しい質問が飛んでくることもしばしば。100%納得してもらうことは難しいにしても、そこで誠意を持って説明できるかどうか。それによってコミュニケーションは毒にも薬にもなります。

仮に厳しい質問がなくても同じです。ダメなマネジャーは、部下の話を聞くどころか、部下を叱咤激励するつもりで自分の武勇伝を披露して場を凍らせます。自慢話を聞いて奮い立つ部下はいません。参加者がそれぞれの職場に戻った後、「こんどのマネジャーは期待できない」と悪評が広がって終わりでしょう。

■“働かないおじさん”にならないために「価値を高める」

私はマネジメントのスキル(といっても、上に行くほど問われるのは心の知能指数ですが)を磨いて自分のキャリアを築いてきました。一方、ペイフォーパフォーマンスの時代になれば、プログラマーのようなスペシャリストとしてスキルを磨いて自分の価値を高めるアプローチも有望でしょう。

平井一夫『仕事を人生の目的にするな 』(SB新書)
平井一夫『仕事を人生の目的にするな 』(SB新書)

いずれにしても大切なのは、自らキャリアを築いていこうとする強い意思です。私は基本的にはペイフォーパフォーマンスに賛成で、日本企業が世界で戦っていくためにもそちらにシフトすべきだと考えています。

ただ、冒頭にお話ししたように急激な変革は劇薬であり、進め方を間違えれば社会にネガティブなインパクトを与えかねません。現実的にセーフティネットの拡充とセットで一歩一歩進めなければならないでしょう。

その進捗のスピードはまだ見えないところがありますが、ビジネスパーソン個人としてはいち早く備えておくに越したことありません。いざ解雇規制が緩和されたとしても慌てないように、今から自分の価値を高めておく。それが将来、“働かないおじさん”になることを避ける唯一の道です。

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平井 一夫(ひらい・かずお)
元ソニー社長兼CEO、一般社団法人プロジェクト希望 代表理事
1960年東京生まれ。父の転勤でNY、カナダで海外生活を送る。84年ICU卒業後、CBS・ソニー入社。ソニーミュージックNYオフィス、SCE米国法人社長などを経て、06年ソニーグループ・エグゼクティブ。07年SCEI社長兼CEO、09年ソニーEVP、11年副社長、12年社長兼CEO、18年会長。19年より24年までソニーグループシニアアドバイザーを務める。著書に『ソニー再生』(日本経済新聞出版)がある。

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(元ソニー社長兼CEO、一般社団法人プロジェクト希望 代表理事 平井 一夫 聞き手・構成=村上 敬)

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