だから「兄弟で仲良く不動産相続」は難しい…実家を半分ずつ相続した52歳兄と46歳弟の残念な結末
プレジデントオンライン / 2025年1月29日 8時15分
■兄弟2人で相続した実家を泣く泣く売却
滝田家では、長男の守が実家で暮らし、母のみどりを介護していました。守がそのまま家を継ぐことは、滝田家の暗黙の了解でした。
母のみどりが亡くなると、守と呉夫は遺産分割について話し合いました。とはいえ、守は「この家や財産を継ぐのは自分だ」と信じて疑わず、この話し合いも、「そのことをあらためて合意して、ハンコ代を渡す場」くらいに捉えていました。
しかし、呉夫は突然、「法律では、兄弟平等だよね」と言い出したのです。守ははじめこそ驚いたものの、欲張るつもりは毛頭なかったので、2人で均等に分けることに。結果として預貯金500万円は半分ずつ、自宅の不動産も半分ずつ相続して共同で保有することにしました。
ところがその数年後、呉夫が次のように言い出しました。
「兄貴、俺、今、失業中なんだ。貯金を切り崩して生活しているんだよ。子どもの学費もかかるから、実家の持ち分を買ってもらうか、一緒に売ってもらうわけにはいかないか?」
2人は何度も話し合いました。しかし、守にはさすがに買い取るだけの金銭的余裕はありません。かといって、呉夫の家族を路頭に迷わせるわけにもいきません。
2人は何度も話し合いを重ね、最終的には泣く泣く実家を売却することにしたのです。
■「平等」のはずだが、モヤモヤが残る
「割り切れない」――これが相続でもめる大きな原因です。財産的にも、感情的にも、スパッと割り切れるケースは少数派かもしれません。
財産的に割り切れないものの代表格が、不動産です。お金なら簡単に分割できます。しかし、自宅など不動産はそうはいきません。この事例では、権利を2分割して相続しましたが、これは平等を絵に描いたようなやり方です。2人は裁判沙汰になったわけではなく、兄弟仲は今でも良好です。
しかし、守には割り切れない感情が残りました。
■兄弟それぞれに立場と言い分がある
次男の呉夫は、両親のことは守に任せっぱなしで、「便りのないのはよい便り」とうそぶき、めったに帰省しませんでした。かたや守は、法要やお墓の管理、親戚付き合い、近所付き合い、地域の祭りのお手伝い、消防団など、さまざまな務めを果たしてきました。金銭的には平等な相続でも、それ以外の部分は必ずしも平等とは限りません。
お墓や仏壇などを守る「祭祀の承継」まで含めれば、必ずしも金銭で均等に配分することが平等とはいえないように思うのですが、法律では、祭祀の承継と遺産の承継を完全に分けて捉えています。祭祀を承継する人間に配慮して相続分を決めるという規定はありません。
ただし次男の呉夫からすると、「兄貴は大学に行かせてもらったじゃないか」「実家暮らしで家賃を入れていないだろ」といったように、不公平感を抱いているかもしれません。立場が違えば言い分も違うのですから、どちらが正しくてどちらが間違っているというわけではありません。
■「寄与分」が認められるハードルは高い
このように、金銭的に完全に平等に分けたからといって、祭祀の承継を含めて、さまざまな面で必ずしも平等にはならないからこそ相続はややこしいのです。
ただ、守は母のみどりを献身的に介護していたので、「寄与分」が認められる可能性があります。寄与分とは、被相続人の事業を手伝っていたり、療養看護をしていたりといったことを行っていた場合、本来の相続分とは別に与えられるものです。
寄与分の金額は、相続人同士の話し合いで決めるのが原則ですが、折り合いがつかなければ裁判所による調停、さらには裁判所の判断を仰ぐことになります。
ただし、「自分も親を介護していた」という人は多いと思いますが、寄与分の要件は厳しく、現実的には寄与分が認められるケースはそれほど多くはありません(図表2)。
■相続がますますややこしくなる可能性
かつて、寄与分は相続人のみが対象でした。しかし、2019年から新たに「特別寄与(特別寄与料制度)」ができて、相続人以外でも貢献分を請求できるようになりました。
たとえば、長男の妻が義父や義母を介護していたケースでは、以前は妻が相続の際に貢献分を求めることができませんでした。しかし、今は貢献分を請求する道が開かれ、義父や義母を献身的に介護していた妻が報われるようになったのは、喜ばしいことといえます。
一方で、特別寄与の制度によって、相続の当事者が増えるという側面もあります。当事者が増えれば、それだけ意見の調整が難航したり、遺産分割が複雑化したりという可能性も増えるわけです。
また、寄与分が認められるためには図表2の要件を満たすほか、被相続人の診断書やカルテ、要介護認定書など健康状態を証明する書類、介護日記や介護に使った費用の領収書などが必要となるので、これらの書類はしっかり保管しておきましょう。
■土地の値段に500万円の差がある?
介護施設で暮らしていた明美は、夫から相続した土地を2つ持っていました。夫が自分で買って住んだ土地と、父親から相続した土地です。明美が亡くなると、長男の治と次男の浩が明美の財産を分けることになりました。
兄弟で話し合い、治が土地A、浩が土地Bを相続することになりました。実勢価格(時価。すなわち、実際に市場で売買される価格)では、土地Aは3000万円、土地Bは2500万円です。すると土地Bを相続する浩が、次のように言い出しました。
「俺がもらった土地、そっちより500万円安いから、預貯金100万円と、あと400万円欲しい」
「ちょっと待てよ。路線価ではどちらも2500万円だぞ。平等じゃないか。預貯金は山分けの50万円ずつだ」
浩はこのように反論し、こうしてもともと仲が良かった兄弟に亀裂が生じてしまったのです。もめにもめた挙句、結局は預貯金100万円を浩に渡すことで合意しましたが、兄弟の仲は断絶してしまいました。
■「4つの価格」が相続トラブルの原因に
不動産は「一物四価」といわれます。時価(実勢価格)、公示価格、路線価、固定資産税評価額の4つの価格があるからです。
相続税の算出法にはルールがありますが、遺産の分割でどの価格を基準にするかは決められていません。これが不動産の相続でもめる大きな原因になっています。
相続人によって、不動産を高く評価してもらいたい人もいれば、低く評価してもらいたい人もいます。不動産を多く受け取る人からすれば、評価が低いほうがいい。そうすれば、他の相続人に渡すお金が少なくなるからです。逆に、不動産以外の財産を受け取る人からすると、不動産価格は高いほうがいい。そのほうが代償金を高く取れるからです。
「一物四価」であるがゆえに、不動産をめぐってこのように利害関係が生まれやすいのです。
■同じ価格でも将来の価値は大きく異なる
仮に、まったく同じ価格の2つのアパートを相続するとしましょう。相続人の間で、価格についてはもめずに合意できました。それでは、都市部の駅近にあるやや築古アパートと、田舎町の駅近にある新しいアパートでは、あなたならどちらが欲しいですか? ――迷わず、都市部の不動産を選ぶでしょう。
田舎は、人口減少がどんどん進んでいくでしょうから、いずれ入居者募集に苦しみ、家賃も下げなければならなくなるでしょう。一方、都市部は田舎ほど人口が減りませんし、入居者募集も田舎ほど苦労しないでしょう。ニーズがあれば、家賃もそれほど下げなくてすみます。長期的な運用を考えると、都市部のアパートのほうが将来有望です。
つまり、現時点では同じ価格の不動産でも、立地によっては時間軸を加えた運用価値が異なるのです。不動産の相続では、この運用価値も絡んでくると、ますます遺産の分割が難しくなるのです。
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あす綜合法務事務所グループ・田舎相続不動産代表
早稲田大学政治経済学部を卒業。在学中に、司法書士、行政書士、宅地建物取引士等の資格試験に合格し、2008年に当時埼玉県内の開業司法書士として最年少の24歳であす綜合法務事務所を創業、現職。地元を中心に東京都や関東全域から、相続・遺言関連、不動産関連、企業法務関連等の幅広い依頼が寄せられて飛び回り、特に相続・遺言関連業務の受託件数は年間100件を超える。埼玉県庁、寄居町役場、埼玉県商工会連合会、埼玉りそな銀行等主催セミナー・講演会での講師実績多数。地域に根ざしながらも、ラジオ法律相談に定期出演、日本行政書士会連合会「行政書士法人の手引」の校正校閲、弁護士事務所とのアライアンス、雑誌やネットメディアへの執筆等、地域や資格の枠を超えた活躍で注目されている。著書に『あるある! 田舎相続』(発売:講談社、発行:日刊現代)がある。
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(あす綜合法務事務所グループ・田舎相続不動産代表 澤井 修司)
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