探偵に数百万円かけたのに不倫の証拠が押さえられない…そんな妻が離婚できた「不倫よりも決定的な理由」
プレジデントオンライン / 2025年1月28日 9時15分
■「夫が不倫、探偵に数百万円かけたが証拠が得られない」
主婦のA子さん(48歳)が離婚の相談にいらっしゃいました。
「夫が不倫をしているから離婚したいが、なかなか証拠が取れなくて困っている。どうしたら離婚できるか」というのです。
夫は7歳年上の会社員です。
帰りが遅い日があり、女性の影はあるものの、何度探偵を付けても空振りで、費用だけが数百万円もの高額になって困っているそうです。
また、夫はモラハラ気味なのでそれも不満ではあるものの、録音を警戒しているのか、怒鳴っている音声などもなかなか録れていないということでした。
相談を終えて、離婚の協議とともに証拠の取得方法などをアドバイスしてほしいということで依頼を受けました。
依頼を受けると、依頼者の方から離婚協議に必要な資料を送ってもらったりして、詳しい打ち合わせを行って方針を決めていったりする流れになります。
A子さんの場合、不倫の証拠を取得したいということなので、打ち合わせを行い、夫の行動パターンや交友関係などを詳しく聞くことにしました。
■夫のスマホ「不倫の写真はなく盗撮の画像しか見つからない」
でも、夫は交友関係が狭いので、飲みに行くというのは嘘できっと女性と会っているはず。
夫は家ではいつも不機嫌にしていて、『お前は女として魅力がない』などと言ってくるので他に女性がいるに違いない……」
こういった話をしばらく続けた後、A子さんは、「スマホのロックが外れていたから不倫の写真がないかと見てみたんですが、盗撮の画像しかなくて……」とおっしゃいました。
盗撮という言葉に驚いて詳しく聞くと、夫は常習的に女性の盗撮をしているというのです。
■「盗撮よりも不倫が許せない」
A子さんが見たという盗撮の画像は、電車やエスカレーターなどで不特定多数の女性の後ろ姿やスカートの中を撮影したもので、フォルダの中に数百枚保存されていました。
相手に見つかって駅員などに突き出されてA子さんが謝りに行ったり、示談したりしたことが何度もあり、逮捕されたこともあるそうです。夫は盗撮癖を認めていて、警察沙汰になるたびに、「ついやってしまう」「もうやらない」と泣きながら言うそうです。
一般的に、犯罪を繰り返している場合は、法律上の離婚理由として認められる可能性が高いです。つまり、これまでの犯罪歴やその内容について立証できれば、離婚原因を証明することができ、それに加えて不倫の証拠を取得しなくても離婚が可能です。
そのように説明しましたが、A子さんはあまりピンと来ていないようで、「盗撮は私にとってどうでもいいことなんです。夫が不倫していることが許せません」とおっしゃいました。
■盗撮癖をメインの理由として離婚協議
その後もしばらく説明を行って、A子さんとの間で、盗撮癖をメインの理由にして離婚協議をするという方針が決まりました。
夫に連絡を取り、離婚協議を始めました。度重なる盗撮による警察沙汰で夫婦関係が破綻していると伝えると、夫は特に抵抗することもなく、すんなり離婚に応じました。
こうしてA子さんは離婚することができました。
この事例を読んで、皆さんはどう思うでしょうか。A子さんは感覚が麻痺していると思う人もいれば、やはり盗撮より不倫の方が許せないと思う人もいるかもしれません。
弁護士の視点からすると、配偶者の犯罪や暴力は、「婚姻を継続しがたい重大な理由」として破綻が認められやすいものです。
しかし実際に、離婚と言えば不倫、不倫と言えば証拠という固定観念があり、それに固執して方針を考えてしまう人が少なくないのです。ドラマや、芸能人のスキャンダルなどのイメージが強いのかもしれません。
そういった人は、A子さんのように、最初は不倫やモラハラの離婚相談に来て、話を聞いていくうちに、相手がひどい人だというエピソードの一つとしてようやく、「たびたび逮捕されている」といった話が出てきます。
一例として盗撮を挙げましたが、配偶者が痴漢や窃盗で何度も逮捕されたり示談したりしている場合であっても、A子さんと同じように、不倫の証拠がないと離婚できないと考える人もいます。
■犯罪では離婚を考えない人も多い
他にも、横領や薬物使用などでも、似たような事例を経験したことがあります。
こういった人に話を聞くと、そもそも配偶者が犯罪をしても、それだけでは離婚したいと思わないようです。特に盗撮などのいわゆる性犯罪は、本来不倫よりもインパクトがある行為に思われますが、あまりそう思わずに結婚生活を続けています。
客観的に見ると、性犯罪は不倫と同じように配偶者への裏切りですし、窃盗などの犯罪も平穏な家庭生活を脅かす裏切りと言えますが、特定の相手と肉体関係を持つことに比べると、自分が裏切られたという実感がわかないのかもしれません。
また、自分が被害を受ける側ではないと、相手が危険な人だ、離れないといけないという考えにもあまり至らないようです。
さらに特徴的なのは、だからといって、配偶者に病院に行くことを勧めるなどの対策を行うわけでもなく、「あの人はしょうがない人だから」程度にしかとらえていないということです。
配偶者が犯罪をするのが日常的なことになってしまった結果、「犯罪を繰り返すのは病的な原因があり、それを取り除かないとやめられるものではない」という認識を持てなくなってしまっているのだと思います。
余談ですが、配偶者の犯罪で示談に奔走した人でも、前科が付かないように、または会社に知られずに身柄拘束を早く解きたいという思いで動いているだけで、被害者に対する感情はあまり持っていないことが多いです。
世間は「犯罪者の家族にも道義的責任がある」と思いがちですが、血縁関係のない配偶者の犯罪については、どこか他人事という人が多いです。
■犯罪歴があるのに不倫にこだわるのは得策ではない
こういった心理の詳細は心理学などの分野で分析されているものと思われますが、弁護士からお伝えしたいアドバイスは、「離婚したい場合、こういった犯罪歴があるのに不倫にこだわるのは得策ではない」ということです。
「不倫の方が慰謝料がもらえるから」と考える方もいるかもしれませんが、昨今は不倫の慰謝料が低くなる傾向にあり、裁判における相場は100万円に満たないものが多いです。また、探偵費用を上乗せして請求できるということもないため、慰謝料額を探偵費用が超えれば経済的なメリットもありません。
不倫はあくまでも民法上の不法行為です。刑法上の犯罪の方が、一般的には悪質性が高い行為といえます。
しかし「離婚と言えば不倫」、そして「不倫の証拠が必要」というイメージが根強いため、不倫の証拠集めにこだわってしまう人が後を絶ちません。昨今は同じようにモラハラにこだわる人も増えてきています。
どういった事情を理由に離婚できるかは、なかなか自分では判断が難しいと思います。まずは弁護士に相談してアドバイスをもらうのがよいでしょう。
とはいえ、相談の際に、恥ずかしいことだからと考えて、配偶者に犯罪歴があることを隠してしまう人もいます。これは弁護士からすると有利になる事情を隠されていることになってしまいますので、隠したりはせずに、正直に話すことをおすすめします。
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弁護士
北海道札幌市出身、中央大学法学部卒。堀井亜生法律事務所代表。第一東京弁護士会所属。離婚問題に特に詳しく、取り扱った離婚事例は2000件超。豊富な経験と事例分析をもとに多くの案件を解決へ導いており、男女問わず全国からの依頼を受けている。また、相続問題、医療問題にも詳しい。「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ系)をはじめ、テレビやラジオへの出演も多数。執筆活動も精力的に行っており、著書に『ブラック彼氏』(毎日新聞出版)、『モラハラ夫と食洗機 弁護士が教える15の離婚事例と戦い方』(小学館)など。
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(弁護士 堀井 亜生)
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