「コロナワクチンで50万人が死亡」「日本で人体実験している」…反ワク派の主張を専門家と徹底検証した結果
プレジデントオンライン / 2025年1月18日 17時15分
※本稿は、『プレジデント』2024年12月13日号「コロナワクチンは危ないのか?」を追記・再構成したものです。
■インフルも新型コロナも猛威を振るっている
インフルエンザの感染が急激に拡大している中で、新型コロナウイルスの感染者数も同時進行で増加している。
「コロナワクチンは危ない」という反対運動が展開され、SNSなどで拡散された。これによって、ワクチンに対する不信感や忌避感が強まり、接種率が低調になっている影響と見られている。
果たして、ワクチンに反対する人々の主張は、信用に値するのだろうか?
ワクチン問題に詳しい大阪大学免疫学フロンティア研究センター・宮坂昌之招へい教授の協力を得て、ワクチンに反対する主な主張をファクトチェックした――。
■「50万人も自国民を殺してるんだよ!」
「厚生労働省の職員、出てこい! 人殺し!」
「ワクチン薬害を認めろ!」
2024年12月、厚生労働省が入る中央合同庁舎に向かって、集まった人々が激しい言葉を浴びせていた。その中には、ワクチン接種後に亡くなった人の家族もいる。
騒然とした雰囲気の中、「コロナワクチンが人を殺している」、とプリントされた横断幕が風になびく。ワクチンに反対する抗議活動だった。
「50万人も自国民を殺してるんだよ、お前ら分かってんのか、厚労省!」
こう叫んだのは、コロナ禍で注目されるようになった長尾和宏医師である。なぜ、「50万人を殺した」ということになるのだろうか?
■超過死亡数の大半はワクチンが原因?
後日、長尾医師にメールで質問すると、次の返信があった。
(※抜粋・要約)
超過死亡とは、過去のデータに基づく予測値を超えた死亡数を指す。
長尾医師が述べた「50万人」は、累計40~60万人の中間をとったらしい。だが、大半がワクチンによる死亡である、という根拠は示されていなかった。再質問したが、回答はなかった。
■確かに死亡リスクはゼロではないが…
“50万人の超過死亡はワクチンが原因”という主張について、大阪大学免疫学フロンティア研究センター・宮坂昌之招へい教授は、論理が飛躍していると指摘する。
「ワクチン接種と超過死亡がよく重なったのは、7回の定期接種のうち1回のみでした。“超過死亡説”が本当なら、接種のたびに超過死亡が起きたはずです。したがって超過死亡はワクチンではなく、新型コロナ感染症によって起きた、と考えるべきでしょう。
中東カタールでは、約700万回のワクチン接種が行われ、138人が接種後30日以内に死亡しました。このうち112人はワクチンとの関連は無し、あるいは可能性が低いと判断されています。世界的にワクチンが原因で死亡する頻度は、100万回接種に数回でした。
ワクチンは決してゼロリスクではありませんが、接種のメリットとデメリットを冷静に判断する事が必要です」
ワクチン接種後、心筋炎が起きるケースが報告されているが、確率は100万回に10回程度で、新型コロナ感染で心筋炎が起きる確率に比べてずっと低いことが分かっている。
■情報不足で評価できないケースが多い
2021年に行われたコロナワクチンの第1回と第2回の接種は、いずれも日本人の約8割が受けたが、3回目以降の接種率は低下の一途を辿った。7回目の接種(2023年9月20日から2024年3月31日)は、約14%にとどまった。
ワクチン接種後に死亡したケースが、センセーショナルに報道されるたび、恐怖感を覚えた人は多いはずだ。ただし、死亡原因がワクチンだと明確になったケースは、ごくわずかでしかない。
ワクチンに関連した死亡者数は2種類ある。1つは医療機関や製薬企業からの副反応疑い報告で、現時点の死亡者数は「2261人」だ(※2024年10月29日の厚労大臣記者会見)。
このうち「ワクチンと死亡の因果関係が否定できない」と専門家が判断したのは、わずか「2人」のみ。残りは「情報不足で評価できない」ケースが大半を占める。接種から最大28日間が報告対象なので、ワクチン接種とは関係のない死亡が含まれてしまうのだ。
もう一つが、ワクチン被害救済制度で、国が認定した死亡者数である。厚生労働省の疾病・障害認定審査会によると、2025年1月10日時点で「累計940人」。認定された人の遺族に、死亡一時金と葬祭料が支給された。
ただし、その全ての死因がワクチンと確定したわけではない。「厳密な因果関係までは必要とせず、接種後の症状が予防接種によって起こることを否定できない場合も対象」と厚労省が定めているためだ。
■接種と突然死のタイミングが重なった可能性
なぜ、ワクチンと死亡の厳密な因果関係を、認定条件にしていないのか。その理由について、宮坂招へい教授は次のように解説する。
「日本人は、剖検(※死因を調べる解剖)に抵抗感が強いので、接種後に亡くなった方の大半が死因を特定できません。だからといって、厳密な因果関係が分からない方を救済対象から排除すると、ワクチン接種に国民が不安を抱くことになります。
実はコロナ禍の前から、日本では心臓病が原因で年間約9万人、1日あたり約250人が突然死していました。コロナワクチンは短期間に国民の約8割が接種したので、たまたま突然死と重なってしまったケースが多いと考えるのが自然です」
断っておくが、筆者は厚労省やワクチンの製薬企業から記事の執筆などで報酬を得たことは一切ない。むしろ、問題点を厳しく追及して疎まれる存在である。
■mRNAワクチンのスパイク蛋白は危険?
コロナワクチンには、新しいmRNA(メッセンジャーRNA)の技術が使われている。通常の新薬は10年前後の臨床試験を経て承認されるが、コロナワクチンは約1年間で開発されて(※)緊急承認された。そのため、安全性の確認が不十分だという主張がある。
※ mRNAワクチンは、がん治療を目的に約10年前から研究が行われていた
京都大学の福島雅典名誉教授は、コロナワクチンに反対する理由として、「スパイク蛋白の毒性」を挙げた。
「mRNAワクチンのスパイク蛋白が強い毒性を持っていて、血栓を形成して血管が詰まり、ワクチン自体も強い炎症を起こします。同時にワクチンは、全身に行き渡ってスパイク蛋白をいつまで作るか分かりません。ブレーキがない自動車をハンドルなしで走らせたようなものです。スパイク蛋白が毒であることに間違いありません」
■反対派がスルーする研究論文の特異な条件
「全国有志医師の会」という団体も、権威ある医学誌『Circulation Research』に“スパイク蛋白の毒性”を示した研究論文が掲載されているとして、コロナワクチンに反対している。
この主張について、宮坂招へい教授は“重要な点に触れていない”と指摘した。
「この研究で用いたスパイク蛋白質の濃度は、ワクチン接種後に体内で検出されるスパイク蛋白質の500倍以上です。現実には起こりえない条件なので“スパイク蛋白質が体内で毒素になる”という主張には論理の飛躍があります。“血管内で炎症が起こった”という記述もこの論文に見当たりませんでした。
生体内のスパイク蛋白質は一定時間で消えることは、多くの実験で確認されています。“いつまでも体内に残ってスパイク蛋白が作られる”という主張は、裏付けのない仮説に過ぎません」
■レプリコンワクチンは「人体実験」?
現在、65歳以上や基礎疾患のある人を対象に、コロナワクチンの8回目となる定期接種が実施されている(※自治体によって終了時期は異なる)。ネガティブな情報が広まっている影響か、接種率は極めて低い。
今回の定期接種では、次世代型mRNAのレプリコンワクチン(商品名:コスタイベ)が、世界に先駆けて承認された。
mRNAが体内で一時的に複製される新しいタイプのワクチンで、既存のmRNAワクチンよりも強く免疫が誘導され、抗体の持続時間が長い。接種後の強い倦怠感や発熱などの副反応も、大きく改善されたという。
販売が日本の製薬企業(Meiji Seikaファルマ)なので、今後のパンデミックに備える意義も大きい。
だが、このレプリコンワクチンに対して、激しい反対運動が起きている。
世界に先駆けて承認されたことを“日本での人体実験”と揶揄、レプリコンワクチンを接種した人に対して、入店拒否や診療拒否の動きまで起きているのだ。
■「シェディングが起きる」というデマが拡散
東京都内のあるクリニックでは、レプリコンワクチン接種者の立入さえも拒んでいるが、医療機関としての適格性を疑う理由を掲げている。
・複製されたスパイク蛋白質が周囲に“シェディング(感染の意)”する
・レプリコンワクチンの接種者は「歩くバイオハザード」
(※クリニックがインターネット上に公開している資料より抜粋・要約)
“シェディング”という現象は、コロナワクチンでは確認されていない。荒唐無稽なデマだが、SNSなどで拡散された結果、“ゾンビワクチン”という俗称まで付けられた。
懸念した日本感染症学会などが、シェディングを否定する声明を出したが、一度ついた悪いイメージを払拭するのは難しい。
このクリニックでは、ワクチン後遺症の治療と称して、高額な自由診療を行っている。
また、「細胞力復活点滴」、「脳神経返り咲き点滴」などの医療機関とは思えない治療や、“がん治療支援”と称して「高濃度ビタミンC点滴」を実施していた。いずれもエビデンスがない、エセ医療である。
レプリコンワクチンに反対する一方で、エビデンスのない高額な自由診療を行う姿勢には疑問が残る。クリニックに取材を申し入れたが、拒否された。
■製薬会社が現役の国会議員を提訴した理由
コロナワクチンに反対する政治家として、存在感を発揮しているのが、立憲民主党の原口一博衆議院議員(佐賀1区)だ。レプリコンワクチンについて「生物兵器まがい」と発言して、Meiji Seikaファルマから名誉毀損で東京地裁に提訴されている。
2024年10月の衆院選では「ワクチンを3回以上打っている国も日本だけ(原文抜粋)」と、選挙公報に記載していた。結果的に原口氏は当選しているので、その主張を信じた人も多かったに違いない。
だが、厚労省の調査では、アメリカ、イギリス、ドイツなどでの欧米諸国で少なくても5回以上のワクチン接種が行われ、現在も接種が実施されている。原口氏はどのような根拠で主張したのだろうか? 事務所に取材を申し入れたが、回答はなかった。
HIVを発見してノーベル医学・生理学賞を受賞した、フランスのリュック・モンタニエ博士は「新型コロナワクチンを打てば2年以内に死亡する」と警告していた。今となっては、彼の警告は虚しく響く。(高橋徳・中村篤・船瀬俊介『コロナワクチンの恐ろしさ』〈成甲書房〉より)
社会的に高い地位や、素晴らしい肩書きを持つ人の発言が、必ずしも信用に値するとは限らないことを、コロナの時代が教えてくれた。
■「非専門家」の意見を鵜呑みにする代償
厚労省は国民の死因について、毎月5カ月後に公表している。そのデータから、新型コロナ感染症で死亡した人数を2024年と2023年で比較したのが、図表1だ。
1月を除いて、2024年のほうが、新型コロナでの死亡が明らかに多い。ワクチンに対する忌避感が広まり、接種率が低下したことが影響している可能性が考えられる。
宮坂招へい教授は次のように警鐘を鳴らす。
「新型コロナウイルスの変異によって、ワクチンの感染予防効果は当初よりも低下しました。しかし感染した場合、ワクチンを接種していない人の死亡率は、接種した人よりも数倍高いことが分かっています。
ワクチンに反対する医師の大半は、感染症や免疫の専門家ではありません。接種のリスクだけでなく、ベネフィット(恩恵)についても冷静に判断して下さい」
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ジャーナリスト、ドキュメンタリー作家
1966年生まれ。フジテレビの報道番組ディレクターとして「血液製剤のC型肝炎ウイルス混入」スクープで新聞協会賞、米・ピーボディ賞。著書に『やってはいけない がん治療』(世界文化社)、『バリウム検査は危ない』(小学館)、『やってはいけない歯科治療』(小学館)など。
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(ジャーナリスト、ドキュメンタリー作家 岩澤 倫彦)
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