5%賃上げで大企業社員だけ潤って何の意味がある…99%占める中小企業が今直面するコロナの「返済地獄絵図」
プレジデントオンライン / 2025年1月17日 10時15分
2025年の日本の景気の行方はどうなるか。景気指標を丁寧に読み解きながら予測してみたいと思います。
1月20日に発足する、「アメリカ・ファースト」のトランプ政権の動向は私たち日本人の生活に直結します。グリーンランドやメキシコ湾を巡る彼の言動をみると、今後も過激な発言をする可能性は大。とりわけ関税をはじめとする政策は日本経済を直撃します。就任後、どのような政策をどういう優先順位で行ってくるか、注意が必要です。
トランプ案件とともに今後の景気を左右するのが国内経済です。まず、賃上げがどの程度行われるか。賃上げ率がインフレ率を大きく超えられるかが焦点です。
近頃、賃上げのニュースがよく出てきます。大企業では昨年に続き5%を超える賃上げを表明しているところも少なくありません。
たとえば、すかいらーくホールディングスで6.4%、住友化学は5.5%程度、アサヒグループホールディングスは6%を目指すと表明しました。イオンではパート従業員の時給を7%上げるとしています。ただ、日本の全企業数の約99%は中小企業であり、働く人の約7割は中小企業に属するので、結局は中小の賃上げがどの程度になるかがカギを握っています。
■賃上げはインフレに追いつくか
景気の最重要項目である、賃上げとインフレ率について細かく見ていきましょう。
ひとりあたりの給与を表す「現金給与総額」によれば、2024年初は前年比1%台の伸びにとどまりましたが、賞与の影響もあり、6月は4.5%、7月は3.4%と比較的大きく伸びました。その後は、2%台半ばから後半の伸びが続いています。
これに対し、インフレ率(生鮮除く総合)はどうか。年初は現金給与総額の伸びを上回っていましたが(=インフレを加味した「実質賃金」はマイナス)、賞与期には、現金給与総額よりもインフレの伸びが低く、最近では、ほぼ同じくらいの上昇率を示しています。(厳密には、現金給与総額と比べる場合には、「生鮮除く総合」と違うインフレ率を使うこともありますが、図表1では実感として分かりやすい「生鮮除く総合」と比べた)。
つまり、夏には、インフレ率を加味した「実質賃金」は一旦プラスに転じていましたが、最近では現金給与総額の伸びとインフレ率がほぼ同じで、実質賃金は11月までの4カ月はマイナスといった状況です。
2025年のインフレに関しては、2%台での動きが続くと予想しています。食品などの値上げが続く中、運送などのサービス価格も人手不足の影響もあり前年比2%台後半で推移しそうです。日本経済新聞が主要企業100社の社長に行ったアンケートでも90.8%の企業が検討中も含めて値上げをする意向です(1月9日付朝刊)。今年は消費者物価が大きく下げることはなかなか考えにくい状態です。
■伸びない消費支出とインバウンド依存
さらなる値上げラッシュが確実な中、GDPの半分強を支える「消費支出」はどうなるか。現在は、実質賃金がマイナスの状況下のため低迷しています。財布の紐は固く結ばれています。
4月と、賞与が出た7月は前年比で消費支出はわずかにプラスとなった以外は、マイナスが続いています。これでは、景気が大きく持ち上がるのは難しいです。
ただ、訪日客が過去最高だったコロナ前の2019年の3188万人を2024年は大きく超えていると推測されており、家計の消費の低迷を底支えしている面があります。
しかし、インバウンドにはデメリットもあります。外国人にとっては円安もありバーゲン価格で日本旅行を楽しめて万々歳でしょう。旅行資金にゆとりがあるので、主に外国人を対象としている都市部のホテルが設定する価格が1泊10万円程度でも支払えます。すると全体の宿泊料金相場が上がり、日本人相手のホテルなども軒並み値段が上がります。
出張旅費も上がり、一部の企業の収益を圧迫する要因ともなっています。外国人や日本の一部富裕層向けのホテルの価格と、一般の日本人向けホテルとでは大きな差が出ており、社会が二極化というよりは二分化されているようにも感じます。
■中小企業の賃上げはなかなか厳しい
そこで注目点は、企業が2025年度も昨年同様かそれ以上の賃上げができるか、です。企業の業績面はどうなっているかチェックしましょう。
図表3は財務省が四半期ごとに発表している「法人企業統計」です。表には「設備投資」と「営業利益」の数字を載せてありますが、設備投資、営業利益ともに、7~9月までは、前年を比較的順調に上回っています。
こうしたデータを見る分には、ある程度の賃上げは可能だと考えられます。ただ、先にも述べたように働く人の7割が属する中小企業においては、残念ながら大企業ほどの賃上げが期待できない、と主に中小企業のコンサルタントを担当している私は考えています。
もちろん、多くの企業で人手不足が続いており、大企業が賃上げをすれば、中小もマンパワー確保のための賃上げが必要となります。
三井住友銀行が30万円の初任給を支給する、あるいはファーストリテイリングが33万円まで初任給を引き上げることで話題となりました。初任給を上げるということは、他の若手社員の給与も公平性を確保するために上げるということです。中小でも人材確保のためには、ある程度の賃上げをするでしょう。
ただ、中小の場合、いくつかの懸念があります。
ひとつは、コロナ対策のために政府が始めた「ゼロ・ゼロ融資」(実質無利子・無担保融資)の返済が始まっていることです。資金繰りが以前より厳しく、実際に倒産件数も月に1000件近くまで増加しています。
もうひとつは、金利が上昇し始めたことです。昨年にマイナス金利が解除され、7月には政策金利(短期金利)の上限が0.25%まで上がりました。長期金利(10年国債利回り)も現状1.2%を超えて上昇しており、それに連動して貸出金利も徐々に上昇しています。有利子負債の多い企業には負担が増えているのです。金利はさらに上昇すると考えられます(これに関連して、1月23、24日の日銀の政策決定会合の動きに注意が必要です)。
そうした中で中小企業を含め日本経済が賃上げをどこまでできるか。石破茂首相は、「最低賃金を2020年代に1500円まで上げる」と発言しましたが、中小企業経営者の中には、「本当に実現するのでしょうか」と心配顔で私に質問する人も少なくありません。
■少数与党の政策で景気は短期的には下支えされるが…
短期的に景気を下支えすることはできそうです。なぜなら、前述したように少数与党で政権基盤が脆弱(ぜいじゃく)であるために、自民党などは「国民の手取りを増やす」という野党の意見を採用することになるからです。
103万円の「壁」についての議論が活発になされましたが、今は予算案などを通すために、石破内閣は多くの妥協をしています。自民党としても、7月に参議院選挙を控えているため、野党に押されてというよりは、自分たちが主導的に行っていると見せるため、有権者ウケを狙った政策を今後も打ち出すかもしれません。
ただ、それが景気を上向かせるかどうかは未知数です。石破政権は少数与党という立場で、クセ者・トランプにうまく対応しながら、中小企業勤務の社員にも賃上げの恩恵が届くような仕組みを作れるか。2025年の日本経済の行方はその手腕次第と言えるでしょう。
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小宮コンサルタンツ会長CEO
京都大学法学部卒業。米国ダートマス大学タック経営大学院留学、東京銀行などを経て独立。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座2020年版』など著書多数。
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(小宮コンサルタンツ会長CEO 小宮 一慶)
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