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トランプ関税砲で日本の食卓に何が起きるか…エコノミストが「食材の価格高騰よりも心配」という意外な影響

プレジデントオンライン / 2025年1月21日 8時15分

2024年12月22日、アリゾナ州フェニックスで開催された年次イベント「アメリカ・フェスト2024」でスピーチするドナルド・トランプ次期大統領 - 写真=AFP/時事通信フォト

第2次トランプ政権が発足した。「米国第一」の高関税政策が及ぼす、日本の食生活への影響は何か。エコノミストの崔真淑さんは「トランプ前政権では、日本政府は安い輸入品や農作物をアメリカから多く受け入れた。今回も関税を武器にさまざまな交渉を推し進めてくる可能性を考えておかなければいけない」という――。

■トランプ関税砲が放たれる

プチ農業を始めて4カ月。春菊やカブ、ブロッコリーなど自分で育てた野菜を食べる喜びを味わいながら、「食」への関心もいっそう高まる新年の始動です。

日々、食べているものが、実際どんな経緯で自分の口まで届くのか。私が今、最も気になっているのは、“タリフマン(関税男)”を自称する米トランプ大統領の関税による、輸入食品への影響です。

「トランプ関税砲」という言葉もちまたで聞かれるように、対中国に60%、カナダやメキシコに25%、それ以外の国にも10~20%の関税をかけるといった公約を掲げてトランプ政権は始まりました。

この関税政策に対し、「The Washington Post(ワシントン・ポスト)」は、輸入品すべてではなく特定分野に絞って関税を課す方向で議論が進んでいると年初めに報じましたが、トランプ氏自身がこれを、「誤りでフェイクニュースだ」と否定。実際、「関税など外国からのすべての歳入を徴収するために外国歳入庁を創設する」と自身のSNSに投稿し、大統領就任の1月20日からの新庁創設となったのです。

■高関税時代に執着するタリフマン

英国経済誌『The Economist(エコノミスト)』は昨年末、トランプ新政権に対して次のような見解を報じていました。

「共和党にも、海外に一律関税をかけることを反対している議員もいる。なぜなら関税をかけると、輸入品が値上げになるため、結果的に国民の負担が増えてGDP(国内総生産)がマイナスになる。よって間接的に増税になることから、景気が失速してしまうのではないかと懸念しているからだ」と。

こうした臆測をものともせず、トランプ氏は25年1月1日にSNSで「関税。そう関税だけが、かつて我が国に大きな富をもたらした」と発信します。19世紀末の「高関税時代」への郷愁をストレートに表明、まさに、タリフマンの声明です。

日本としても、トランプ氏の関税政策のみならず、関税を武器にさまざまな交渉を推し進められる可能性を考えておかなければなりません。なにしろ米国は、日本の農林水産物輸入国の第1位(第2位は中国)、輸出国の第3位(第1位・中国、第2位・香港)であり、輸入額は約2.1兆円、輸出額においては2062億円(2023年統計)という関係だからです。

■なぜ自由貿易を手放そうとしているのか

トランプ前政権(2017年1月20日~21年1月20日)では、日本政府は日本に対する関税を少しでも抑えようと、安い輸入品や農作物をアメリカから受け入れました。

おそらく今回も同じようなことを仕掛けられることでしょう。とはいえ、すでにそれなりにトランプ政権に譲歩しているため、もはや受け入れ可能な自由貿易の枠は少ないのではないか、それゆえ今回は、10~20%の関税引き上げを日本に対して行う可能性があるかもしれないとも言われています。

関税を武器に、「アメリカの食品をもっと買いなさいよ、アメリカの自動車をもっと買いなさいよ」と言われる可能性は十分にあるだろう。私はそう確信しています。

星条旗とドル紙幣
写真=iStock.com/welcomia
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/welcomia

そもそもトランプ政権が、自由貿易を手放そうとしているのはなぜでしょうか。

自由貿易の良さとは、いわゆる経済学の“比較優位”です。つまり、自国が得意な産業を輸出し、不得意な産業を輸入することで、自国と貿易相手国お互いの経済のパイが大きくなる、という原則。そこへ関税をかけすぎると、国内の物価が上がり、国民の所得がマイナスになり、GDPも下がる。だから、みんなで自由に流通させたほうが、それぞれの国のGDPが大きくなり、自由貿易は最高だよね、というざっくりした流れが経済学の理論で指摘されてきました。

■アキレス腱である日本にとっての食料輸入

この理論でいくと、極端なことを言えば、日本は車だけ売り、そのお金で海外から食料
品を買えばいいと言う人もいるかもしれません。ですが、国際的な有事が起きた場合、食料品が輸入できなくなれば、日本国内では餓死が生じるかもしれません。車がなくても生きられますが、食料がなければ人は生きられないのです。

ですから、何が貿易の対象であるか、さらに言えば何が“自国が不得意な産業”で、輸入がなければ成り立たないかを常に意識することが重要です。

そして日本にとって、食料品はアキレス腱。カロリーベースの食料自給率が4割を切る現状において、自給率の向上には、国内農産の基盤強化が不可欠です。

特にここ数年は、ロシアのウクライナ侵攻によってウクライナの小麦の生産量が減り、国際価格が高騰しています。それによって日本の小麦の自給率を高めたほうがいいのではないか、やはり有事に備えて、自国でいろいろなものをつくるべきだ、といった声も確実に大きくなってきているのです。

■ロバート・ケネディ・ジュニアの長官就任の影響

先述のとおり、関税を武器に「もっとアメリカの食品を買いなさい」となったとき、実際どのような不都合が起きるのでしょうか。

私の懸念は、米国内で規制された添加物まみれの安価な食品を日本が引き受けざるを得なくなる、という流れです。

トランプ新政権において、米国食品医薬品局(FDA)の長官には、ジョンズ・ホプキンズ大学のマーティン・マカリー氏が指名されています。マカリー氏は、新型コロナウイルスのパンデミック時にワクチン接種の義務化に反対し、自然免疫の重要性を主張したことで知られている外科医です。また、FDAの上位組織である保健福祉省(HHS)の長官には、これまた反ワクチン活動で知られるロバート・F・ケネディ・ジュニア氏が指名されています。

もともとロバート・ケネディ・ジュニアは、「今のFDAは、アメリカ国内で流通している食品の化学物質や添加物を全く管理できていない」「アメリカ国民の健康が危険にさらされている」と主張している人。実際、州レベルでは、食品の安全を守る動きが出始めていて、ニューヨーク州でも、食品の安全性評価を開示する法案が提案されています。

こうした動きの中で、ロバート・ケネディ・ジュニアが長官に就任すれば、FDAの審査部門を改革し、食品添加物の規制をより強化するかもしれません。

■添加物まみれの食品輸入増の恐れ

アメリカ国内で添加物が規制されると、アメリカの多くの食品会社が、今までのように添加物を使えない。となると、利益が出にくくなります。その譲歩策として、アメリカ国内で規制された添加物使用の食品を、規制の甘い日本に輸出すればいい。よってアメリカは、添加物まみれの食品を日本側に受け入れるように要求してくるのではないか……。日本の一市民として、これは非常に気になる動きです。

アメリカのスーパーのスナック売り場
写真=iStock.com/Hispanolistic
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hispanolistic

トランプ関税によって、より安価な食品、加工食品が輸入されるようになると、安く買えるものが増える一方、日本国内の農産を維持することが、より難しくなっていくでしょう。

連載第2回でもお伝えした通り、欧米では国内の食料品を安くする代わりに、農業従事者に対して補助金を直接的に支払う形になっていますが、日本は高い市場価格を消費者が負担しています。かつ、その税金も農業従事者の手には直接届きません。

「持続可能で安全な国産品」を作るには、農業従事者に直接的に補助金を支払う欧州の仕組みも日本は取り入れる必要があるでしょう。そうしなければ、アメリカから安い食料品がどんどん入ってきたときに、国産品が対抗できなくなる恐れがあるからです。

■国産品に応援投資ならぬ応援消費を

一方、このままだとアメリカの経済が失速するのではないか。トランプ政権は長く続かないのではないか、という声も実はあります。

全米経済研究所(NBER)は、2016年にトランプ政権の関税政策がどう産業に影響したか、という論文を公表しています。それによると、基本的には「マイナス」であると。なぜなら安く輸出できる農作物が増えたからといって、農業従事者の所得がそう増えるわけではない。結果、非常にネガティブであったとされています。

とはいえ前回のトランプ政権では、株価は上がり、GDPも成長したことは事実です。

現政権の狙いは、関税によって国民が実質的に増税になったとしても、個人に対しては所得減税、企業に対しても何かしら減税策を講じることで、プラスマイナスゼロもしくはプラスにもっていこう、という思惑があるのではないでしょうか。

いずれにしても、トランプ氏は外交手段に関税を使い、アメリカ製品の輸出増を目指しています。だからこそ私たち日本の消費者は、今後さらに米国から輸入される食品、特に添加物が多く使われる加工食品や調味料、お菓子などについて、細心の注意をはらっていく必要があるのです。

すでに日本には、外国産の安価なものがたくさん輸入されていますが、私自身は、日本の伝統的な製法でつくったものを、可能な限り買うように心掛けています。応援投資ならぬ“応援消費”です。上手に情報を集めながら、日々の糧から自分なりに世界情勢を注視していきたいと思います。

スーパーの棚からハムを選んでいる女性の手元
写真=iStock.com/Hakase_
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hakase_

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崔 真淑(さい・ますみ)
エコノミスト
2008年に神戸大学経済学部(計量経済学専攻)を卒業。2016年に一橋大学大学院にてMBA in Financeを取得。一橋大学大学院博士後期課程在籍中。研究分野はコーポレートファイナンス。新卒後は、大和証券SMBC金融証券研究所(現:大和証券)でアナリストとして資本市場分析に携わる。債券トレーダーを経験したのち、2012年に独立。著書に『投資一年目のための経済と政治のニュースが面白いほどわかる本』(大和書房)などがある。

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(エコノミスト 崔 真淑 構成=池田純子)

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