認知症の最大の原因は「年齢」ではない…「ヨボヨボな75歳」と「元気バリバリな95歳」を決定的に分けるもの
プレジデントオンライン / 2025年1月20日 17時15分
※本稿は、内田直樹『早合点認知症』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■「年齢」と「老化」はイコールではない
訪問診療をしていて度々、感じることの1つが、「人によって老化のスピードは違い、見た目だけで75歳か、95歳かは区別がつかない」ということです。
何が老化を早めるのか、一概に示すのは難しいのですが、遺伝的な影響があり、さらに生活習慣や持病の有無などが大いに関係すると感じます。年齢と老化は決してイコールではありません。
そして、老化が早い人ほど認知症を早く発症するとも思います。
認知症の最大のリスク因子は「年をとること」とされますが、それは年齢を重ねて認知症の状態になっていくのではなくて、老化が進むことで認知症の状態になっていくということなのです。
年齢は何歳でも老化が早く、認知症が進行し、自分の身の回りのことのほとんどを人に委ねて暮らしている人がいる一方、100歳を超えても老化を感じさせず、認知症の状態ではない人もいて、年齢はただの数字だと思うようになりました。
『早合点認知症』(サンマーク出版)の137ページではアルツハイマー型認知症の原因であるアルツハイマー病の進行度、重症度を評価するためのスケール「FAST」を紹介しています。この表の最右列に、私たちが左列の機能を何歳頃に獲得するかが示してあります。
■93歳の大叔父から友達申請が来た
これを見ていただくと、アルツハイマー病の進行過程は、赤ちゃんの発育・発達の逆をたどることがわかり、つまり、アルツハイマー病とは老化の一部だと考えることもできると感じます。
少し前のこと、私の大叔父(93歳)がSNSを始めて、私に友達申請がありました。しかし私は大叔父の年齢を考え、「きっと“なりすまし”だろう」としばらく放置していたのです。すると叔母(大叔父の娘)との会話の機会に「『直樹が申請許可してくれない』と嘆いていた」と聞いて、失礼を反省したのでした。
高齢者医療に携わるなかで年齢はただの数字だと実感しながら、身近な人に対してエイジズムがあったことに気づきました。
エイジズムとは「高齢者だから」と年齢の型にはめて考えること。年齢を理由に、偏見で差別することを意味する言葉です。
大叔父を客観的に見れば、自分らしく生活を楽しむ達人。老いを感じさせない人ですから、改めてエイジズムで人をみるものではないと感じた出来事でした。
■他者のサポートも「自力の一部」として考えていい
第1章で「認知症とは暮らしの障害」と書きました。これをもう少していねいに言うと、生活上で必要になる「身の回りのことをする」が、具体的に、自分でどれくらいできるか、できないか、ということになります。
こうした状態を評価する国際的な尺度があって、IADL(手段的日常生活動作)というものです。図表1に日本老年医学会が示している表を載せました。
これらをチェックして、合計点数が高いほど、暮らしの障害はないと考えます。
表をご覧になって、何か感じたでしょうか。
「年をとったら、こういうことができなくなるのも仕方がないのでは?」
そのように感じる人が少なくないのではないかと思いますが、その印象は勘違いで、結果として認知症の進行を速めてしまう危険もあるので、説明しましょう。
認知症の状態になる人が多い80代には、生活上、自分でできないことが増えることが多く、本人も、周囲の人も「年だから仕方がない」と考えがちです。
しかし、先にも述べたとおり、年齢はただの数字で、80代でも一人暮らしで、自分の身の回りのことを自分で「采配」して行っている人もいます。采配というのは、全部自力で行わなくても、他者のサポートも「自力の一部」として利用している場合も含むからです。手を貸してもらえる先が多いほど、「自力」のパワーが強いと考えられます。
■「年だから仕方ない」は認知症を加速させる
一方、身の回りのことが自分でできない、采配も人に委ねざるを得なくなってきた場合、これは単純に年齢のせいではありません。
年をとり、老化し、認知症の状態になったため生活に支障をきたしている。
そう考えるのが正確で、大切です。なぜなら、この認知症の初期段階を見逃してしまうと、家庭内に引きこもった生活となりやすく、できないことが増え、認知症の進行が加速してしまう危険があるからです。
「ザ・認知症」のイメージが重度認知症の状態に偏っているため、本人も、周囲の人も「年だから仕方がない」、「(イメージとは違うから)まだ認知症ではない」と考えてしまうのではないでしょうか。
しかし、認知症は暮らしの障害なので、IADLの低下が見られたら、認知症の状態になったと疑いましょう。
そして専門医療の受診や病型診断、暮らしのなかの支援・環境調整など“次の手”を早めに打つのがいいです。
■認知症を進行させてしまう「環境」がある
訪問診療では「愛情」ゆえにすべてを家族に委ねて、IADLを加速度的に失っているのかもしれない、と感じる高齢の方と会うことがあります。
最初は、身の回りのことをする不自由さや、時間がかかるようになったのを見兼ねて、家族が代わりに整えるようになったのかもしれません。しかし、その愛情が自立度を低下させ、IADLや認知機能の低下をまねいてしまっている可能性を感じることがある、ということです。
家族は互いに家族のためを思っていることが伝わってきます。しかし、私が訪問診療をするようになる頃には、「できなくなったから家族が手助けした」のか、「家族が先回りで手助けしたから、できなくなった」のか、判別は難しいことが多い。
一方で、認知症の人のなかでも、俗にいう“おひとり様”で「自分でやらなければならない」環境にある人の場合、IADLや認知機能の変化は比較的ゆるやかです。
とはいえ、先回りの手助けが悪いなどというのではありません。安全性への配慮などから、それが必要な場面も往々にしてあります。
ただし、こうしたことから老化のスピードや認知症の状態に、遺伝的な影響と生活習慣病の有無などとともに、「環境」も影響することがわかる、と考えられるでしょう。
この視点が、認知症を理解するうえで、とても重要だと思っています。
■「治せる認知症」があることを知っておこう
つまり、助けない(支えない)でもなく、助けすぎ(支えすぎ)でもない、「ほどよい」サポート。まさにこれからの社会全体の課題だと思い、私も考え続ける日々です。そしてこの社会の環境も、認知症フレンドリーな社会にアップデートすることが、みんなの早急の課題と思っています。
認知症の診断を受けると、その後、状態が悪化した場合に、「認知症だから仕方ない」と諦められたり、出ている「困った症状」を薬でなんとかする(鎮静する)ことだけが考えられたりするケースが現状は多いのではないかと危惧しています。
認知症を誤解していて、とても大切なことを見落としていると、そうなります。命にかかわる場合もあることなので、私はこうした現状を「早合点認知症」の残念な実例として、みなさんに知っておいていただきたいと思っています。
このようなケースは、治療ができる認知症なのに、認知症だから仕方がない、治療法はないと早合点されている状態です。みなさんが、「そういうことがある」と知識をもてば防げることですので、解説します。
■まずは症状が変化した原因に目を向けること
多くの場合、認知症の進行はゆるやかで、急に悪化したり、昨日と今日が大きく違ったり、朝と晩で違ったりすることはありません。
もし急な変化があったら、「せん妄」という意識障害や、「うつ病」などの精神疾患が重なっていたり、治療ができる認知機能障害が重なっていたりして認知症の状態が悪化した可能性を考えてみるべきです。
認知症は進行性だから悪化しても仕方がないと諦めるのも、出現した症状にだけ対処するのもNG。まずは症状が変化した原因に目を向けることが大事です。
認知症の原因となる脳の障害を起こす病気は70以上もあります。このなかには、治療ができるものが含まれます。そして、治療ができるものでも、医療へのアクセスが遅れると、治療をしても認知症の状態の改善が難しくなるものもあります。
また、1人の人に4大認知症のいずれかと、治せる病気が原因の認知症が重なっていることはよくあることです。4大認知症のうち2つが重なっていることもあります。
ですから認知症はグラデーションをもっていて、わかりにくいものだと言うのです。わからなさに対して謙虚なまなざしで、いろいろな可能性を考慮する必要がある、と言えます。
症状の変化に気づいた場合も、真っ先に「改善できる可能性」について考えましょう。
(認知症専門医 内田 直樹)
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