「認知症」だと思ったら全然違う病気が見つかった…脳の認知機能が急低下する人に圧倒的に不足している栄養素
プレジデントオンライン / 2025年1月23日 17時15分
■認知症には原因となる病気が70以上ある
拙著『早合点認知症』(サンマーク出版)では、ここまで認知症が大いに誤解されていることについて述べてきましたが、その弊害の1つが「誤った診断」です。
誤った診断とは、治療できる病気で認知症の状態になっているのに、アルツハイマー型認知症と思い込まれていたり、認知症になった原因疾患を検討しないまま「4大認知症の何かだろう」と見立てられていたりすること。
ある年、私のクリニックで認知症と診断した231例中、前医から紹介状があったケースは215例でしたが、紹介状にはただ「認知症」とのみ書かれていて、アルツハイマー型とも、レビー小体型とも、何も書かれていない人が2割を超えていました。
すでにお伝えしたように、認知症とは状態にすぎません。認知症の状態にあることを確認したら、本来は次の段階としてその原因となる病気の検討に入ります。原因となる病気とは、アルツハイマー型など70以上あるものです。しかし、単に「認知症」としか書かれていないということは、この原因となる病気が何かという検討が行われていないことを意味し、「過小診断」と言えます。
■患者や家族が自己診断を誤っているケースも
誤診や過小診断では、アルツハイマー型認知症にしか適応のない抗認知症薬を服用することとなって、副作用で具合が悪くなることも起こり得ます。治療できる病気が見逃されて、後で見つかったとしても治療開始が遅れたため、認知症の状態は改善しないことも起こり得ます。
また、医師などの医療者や介護職などによる誤診や誤った見立てのほかに、患者さんご自身やご家族が「自己診断を誤っている」ことも往々にしてあります。
患者さんやご家族のなかには「きっとアルツハイマー型認知症に違いない」と自己診断をして、「アルツハイマー型認知症なら治療法はないから病院に行っても仕方がない」という勘違いをしていることもあるのです。
どちらの場合も「受診しない」というのは共通なので、治療できる病気が原因であったとしても、診断・治療が遅れてしまいます。
■確定診断後「急に症状が悪化」したら要注意
認知症についての誤解が誤った診断をまねき、早合点認知症を増やす連鎖は実際に起きています。しかし、治療できる病気が原因の認知症もあり、「治療をすれば認知症の状態から回復する」という知識が誰かにあれば、連鎖を止められます。
認知症を疑ったら、まず、治療できる病気かもしれないと考え、治療可能な代表的な病気の特徴と照らし合わせ、検査をすること。たとえ医療者に知識が欠けていても、ご自身やご家族に知識があれば、医療者に情報提供をしたり、検査を求めたりすることができます。
とくに、認知症と診断されていて、急に症状が悪化したと思われたとき、短期間に認知機能のスクリーニング検査(改訂長谷川式簡易知能評価スケール〈HDS-R〉など)の結果に大きな差があるときは、治療できる病気の合併を検討すべきです。
確かに、多くの認知症の原因疾患は進行性で、不可逆性のため、月日を経たのちは、認知症の人の暮らしの障害や認知機能の変化は進行していきます。一方、脳外科、内科系などの病気が原因の認知症は、全認知症のうち数パーセントの発症率にすぎません。
しかし、数が少ないからといって、検討しないでいいとは言えません。現状、数多く見逃されているから、数パーセントにすぎないとされているのかもしれません。
治療できる病気の合併を見逃さないことは、認知症の診療・支援を最適化するための最重要ポイントだと、みなさんの理解が広がることを願います。
■いくつもの病気を見逃さないために「血液検査」はマスト
「治療できる認知症」、つまり、認知機能を低下させ、暮らしの障害を起こすことがある病気で、血液検査で見つけることができるもの。
まずは代表的な「ビタミンB12欠乏症」「甲状腺機能低下症」を紹介します。
ビタミンB12欠乏症
偏食や、栄養の吸収障害を起こす消化器の病気(胃切除などの手術も)などが原因で、ビタミンB12が不足し、認知症の状態になるのが「ビタミンB12欠乏症」です。
ビタミンB12の不足は血液検査でわかり、ビタミンB12を補充する治療で認知機能障害などの症状が改善します。その後、再発を防ぐために、ビタミンB12が不足した原因を探して、治療や生活改善が必要になりますが、いずれにせよ治療可能な問題なので、早期受診、発見が望ましいのです。
■甲状腺機能低下症も認知症と間違われやすい
ビタミン不足と認知症が関係するとは、意外に思う人もいるかもしれません。しかしビタミン欠乏症によって認知機能障害や記憶障害、精神症状が生じることはめずらしいことではありません。アルコール依存症など特定のリスクをもつ人の場合、ビタミンB1不足でも起こり、近年ではビタミンDの不足によっても認知症の状態になる可能性が指摘されています。
ですから、認知症を疑うときは血液検査でビタミン欠乏症ではないことを確かめることが大切です。
甲状腺機能低下症
また、甲状腺機能低下症(慢性甲状腺炎の「橋本病」を含む)も認知機能障害や意識障害、精神症状などをまねき、暮らしの障害を起こしますが、血液検査で見つけることができます。
病気がわかれば必要な甲状腺ホルモンを服薬する治療を行い、甲状腺機能の回復にともなって、認知機能低下などの症状が回復します。
これら治療可能な認知症を見逃さないために、特別難しいことをする必要はなく、まず血液検査を行い、病気があればスタンダードな治療をするだけのことです。
しかし、認知症の診断ではそこに目が向けられていないことがあり、抗認知症薬を処方されている人のうち、甲状腺機能の検査を受けていた人は数割にとどまっているという調査結果も出ています。
■画像診断で見つかる2つの「治せる認知症」
読者のみなさんはこれを機に、身近な人が認知症の診断を受けたら、血液検査でわかる病気を除外したうえでのことか、確かめてみてください。
4大認知症を検討するより先に、まずは血液検査から。
認知症の「早期受診」を推奨するのは、4大認知症を確認すること以上に、治療できる認知症を早めに見つけることが大切だからです。
受診のタイミングなどについては『早合点認知症』の次章でさらに詳しく述べますので、参考にしてください。
続いて、脳の画像診断によって見つけ、治療ができる病気で、認知症の状態になる代表的な脳の病気を2つ紹介します。「特発性正常圧水頭症」と「慢性硬膜下血腫」です。
特発性正常圧水頭症
特発性正常圧水頭症はとてもわかりやすい特徴が3つあります。その1つが認知症の状態(認知機能の変化により、暮らしの障害が生じた状態)。さらに次の2つのうち1つでも当てはまったら、可能性ありと考え、画像診断を受けましょう。
■がに股ぎみ、ふらつきやすくなったら脳外科へ
残り2つの特徴は「歩行障害」と「尿失禁」です。
歩き方が変わり、がに股ぎみになり、歩幅が狭くなり、すり足で歩き、ふらつきやすくなります。そして、頻尿になり、トイレに間に合わなくなってしまう。これらは「年のせい」「認知症のせい」とも混同されやすいので、要注意です。判別しにくく、心配なら、脳外科などで画像診断を受けて、特発性正常圧水頭症ではないことを確かめましょう。
というのも、特発性正常圧水頭症であれば脳脊髄液の流れを改善する「髄液シャント術」を受けることになり、治療が早ければ認知症の状態や、歩行障害などの症状が改善する可能性が高いからです。ところが、脳脊髄液が脳を圧迫していた期間が長いほど、脳のダメージは大きくなり、症状改善の可能性が低下してしまいます。
■大量飲酒、がん、動脈硬化で起きる「慢性硬膜下血腫」
慢性硬膜下血腫
また、慢性硬膜下血腫は脳の静脈からじわじわ出血し、その血液が脳と頭蓋骨の間に少しずつたまって、外側から脳を圧迫する病気です。この圧迫によって認知症の状態が生じます。脳卒中(脳梗塞、脳出血)などとの違いは、頭痛やもの忘れ、話しにくさなどの症状がゆっくりと出てきて、進行していくところ。「年のせい」「認知症の悪化」などと思われ、見逃される危険があります。
血腫ができる原因はさまざまで、外傷(軽い頭部打撲や、脳が揺り動かされるような転倒事故など)のほか、大量飲酒、感染症、がん、動脈硬化、貧血などが原因となることもあります。
基本的には脳外科などで画像診断を受け、血腫を除去することで、後遺症を残すことなく認知症の状態や、頭痛などの症状は改善するのですが、発見が遅れれば後遺症が残る可能性が高くなります。
読者のみなさんは先の「血液検査でわかる病気」と同様、身近な人が認知症の診断を受けたら、画像診断でわかる病気が除外されているか、確かめてみてください。
(認知症専門医 内田 直樹)
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