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無駄になるかもしれない年金保険料を払うべきか…「大人の発達障害」で10年無職の長男を持つ母のモヤモヤ

プレジデントオンライン / 2025年1月18日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/seven

62歳の女性は65歳の夫、35歳の長男と暮らしている。長男は20代前半に発達障害の診断を受け、現在無職。年80万円の障害年金を受給しているが、再就職を目指している。ただ、状況によっては、払う年金保険料がムダになる可能性もあると知り、自分たち両親が他界後のわが子の将来を案じる女性はずっとモヤモヤしている。その理由とは――。

■現在無職の発達障害の35歳男性は親亡き後も暮らしていけるか

今回の相談者の長男は、「大人の発達障害」によって、仕事ができなくなり、無職の状態が続いていました。しかし、クリニックへの通院を続けたことで徐々に落ち着きを取り戻し、今は就職に向けた訓練を受けています。いずれは就職して、自立した生活が送れるようになるのではないかと、母親は期待を膨らませています。まだ就職活動を始めていないのですが、将来の資金状況を確認してほしいと相談に来られました。

相談者の家族構成
相談者:母親 斎藤 良子さん(仮名)62歳(主婦)
家族:父親 章さん(仮名)65歳(年金生活)
長男(35歳、無職)
次男(33歳、会社員)すでに結婚して独立

資産
・貯蓄額:4000万円(退職金を含む)
・自宅(マンション)

収入
・夫の老齢年金:年額272万円
・長男の障害年金:年額82万円

支出
・生活費:年額約250万円
・住居費、その他の支出:年額140万円

今回相談に来られたのは、専業主婦の母親(62歳)です。年金受給者の夫(65歳)と無職の長男(35歳)の3人暮らし。長男の将来について資金シミュレーションをしてほしいという依頼でした。聞けば、長男は20代前半で発達障害と診断され、障害年金を受給(年額82万円)しています。現在は就業を目指して、就労移行支援に取り組んでいます。

長男は、子供の頃から友達付き合いが苦手で、学校でトラブルを起こしてしまうこともあったそうです。ただ、登校拒否になることもなく、無事に大学まで進学しましたので、性格的なものと思っていたそうです。

ところが、大学を卒業後に就職してから、状況が一変しました。職場の人間関係がうまくいかず、問題社員のレッテルを貼られてしまいました。「場の雰囲気を読む」のが苦手で、たびたびトラブルを起こしてしまったようです。そのあげく、職場に居づらくなり、1年もたたずに仕事を辞めてしまいました。

その後、クリニックを受診すると、「発達障害」と診断されました。子供の頃からその要素はあったのかもしれませんが、社会に出て、周りとの協調性が重視されるようになると、うまくやっていけなくなってしまったようです。「大人の発達障害」と言われる状況だと思われます。

■働きたい。でも、働くと年80万円もらっている障害年金が…

一時期はすっかり自信をなくして、うつ状態にもなりましたが、通院を続けたことで徐々に落ち着きを取り戻し、就労移行支援を受けるまでになりました。就労移行支援は、障害福祉サービスのメニューのひとつで、障害者が就労するための知識やスキルを身につけ、就職までのサポートが受けられるサービスです。

本人も少しずつ前向きになっており、母親としては長男の社会復帰に期待を膨らませています。最初はアルバイトのような形でも、いずれは正社員として自立した生活を送れるようになることを願っています。

そこで、母親は自分や夫が亡くなって以降の、残された長男の将来の資金状況を把握したいと、私のもとを訪れたのです。私は、家計の状況などを伺いながら、長男が残念ながら社会復帰できなかった場合、できた場合のパターンでシミュレーションを作成しました。

社会復帰できなかった場合は、両親他界後、2歳下の弟さん(独立・結婚し家庭を持っている)に相続の配分などに協力を得ることができれば、現在、夫婦の貯金が4000万円あり、持ち家に住み続けるということで何とか生活はしていけそうです。

一方、社会復帰できた場合は、本人が収入を得られることで、少し余裕ができ、安心して老後まで生活していけそうです。私は母親に、分析の結果を説明します。

【私】けっして余裕があるわけではありませんが、経済的にはなんとかやっていけそうです。もちろん、就職して自立できれば、老後は安定します。念のため、障害年金が支給停止になる前提でシミュレーションをしましたが、老後の家計状況に問題はありません。

【母親】就職して収入が得られるようになると、障害年金は出なくなるのですね。

意外な事実を知ったという表情で、母親は顔を曇らせてそう尋ねてきました。

喫茶店のコーヒー
写真=iStock.com/Kayoko Hayashi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kayoko Hayashi

【私】就職できたから、収入が得られるようになったから、即座に障害年金の支給が止まるわけではありません。障害により日常生活がどのくらい困難なのか、で決まります。世の中にはお勤めしていても引き続き障害年金を受給している人は少なくありません。

【母親】確認ですが、障害年金が止まった場合は、老後には普通の年金がもらえるんですよね?

【私】そうです。65歳以降は老齢基礎年金と老齢厚生年金を受給することになります。ただ、免除期間が長いので、老齢基礎年金の金額は少なくなります。

【母親】えっ、どういうこと?

【私】今は国民年金の保険料は払っていませんよね。

【母親】そうです。障害年金をもらっている人は「払わなくてよい」と年金事務所から言われましたから。

【私】確かに保険料の支払いは免除されていますので、払わなくても“未納”ではありません。ただ、老後に老齢基礎年金を受給する際には、その分、年金額が少なくなる仕組みです。

老齢基礎年金は、国民年金または厚生年金の保険料を払っていた期間で金額が決まります。保険料の支払いが免除となったので、保険料を支払わなかった期間は、一部減額された金額で年金額が計算されることになります。そんなことを私は説明しました。

■「払った保険料はムダになるといいうことですか?」

【母親】そうなんですか。では払ったほうがよいのですね。今からでも払うことはできますか?

【私】払うことはできます。ご長男が老後に老齢基礎年金を受給するのであれば、年金額を増やすために、あえて払っておくというものひとつの方法です。

【母親】では、そうします。さっそく支払うための手続きをします。

【私】ただ、悩ましいのは、必ずしも保険料を払っていたほうがよいというわけでもないということです。仕事が再開できたとしても、日常生活での困難が続き、ずっと障害基礎年金を満額受給する場合もあるからです。その場合、払った保険料は年金額に反映されません。

【母親】ということは、要するに、払った保険料はムダになるといいうことですか?

【私】まあ……そういうことですね。

【母親】では、払ったほうがよいのですか? それとも払わないほうがよいのですか?

【私】これは状況によって変わってきますので、どちらが得か、一概には言えません。もし詳しく確認されたいのであれば、年金事務所におたずねください。

長男の将来の経済的な問題を何とかしたいという気持ちの強さゆえ、母親の口調はいささか詰問調になっていました。その後、母親は年金事務所に行ったそうで、後日、その時の状況を教えてくれました。

年金手帳の上に置かれた、177円分の硬貨
写真=iStock.com/itasun
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/itasun

【母親】年金事務所でも、国民年金保険料を払うべきか否か、どちらがよいかは教えてくれませんでした。

さらに母親は続けます。

【母親】それにしても、「払わなくてもよい」と言われたから払わないのに年金額が減ってしまうとか、払った分がムダになるとか、おかしいですよね。

【私】私もそう思います。結局のところ、老後に、老齢基礎年金と障害基礎年金のどちらを受給する可能性が高いかで判断するしかありませんね。

私は明確なアドバイスができませんでした。

【私】ひとまずご長男の回復を祈って払っておくというのはどうでしょう?

【母親】でも、払ったお金が無駄になってしまうかもしれないのでしょう?

【私】はい、そのとおりです……

母親は終始釈然としない様子でしたが、それは私も同じです。2つの年金制度には明らかな矛盾があり、明確な答えがないというのが現状なのです。

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村井 英一(むらい・えいいち)
ファイナンシャルプランナー
「働けない子どものお金を考える会」メンバー。 大手証券会社で個人顧客の投資相談業務を長年行い、ファイナンシャルプランナーとして独立後は、資産運用に限らず、家計の見直し、住宅購入、老後資金など幅広い相談を受ける。 特に、長期にわたる家計のシミュレーション分析を得意とし、ひきこもりや障害を持つお子さんとそのご家族の資金計画を行っている。

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(ファイナンシャルプランナー 村井 英一)

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