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75歳でガクッとくる人と元気な人の違いはコレ…現役医師が検診勧める「痛くも苦しくもないが重大な疾病の名」

プレジデントオンライン / 2025年1月25日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Toa55

元気に長生きするためには、がんや心疾患など、命に関わる病気だけでなく、体全体に目を配る必要がある。90歳の現役医師である折茂肇さんは「私が20代の頃から東京大学で研究を続けてきたのは、高齢者の健康長寿のカギを握る疾病。潜在患者数が推計1590万人もいるのに、検診率は5%と低い」という――。

※本稿は、折茂肇『ほったらかし快老術』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

■男女とも甘く見てはいけない50歳からの「骨密度の低下」

人が成長するのに伴い、骨は長く、太く、丈夫になり、成人になったとき最も成熟する。「骨を構成するカルシウムなどが骨にどのぐらい詰まっているか」を表す「骨密度」は、20歳ごろに最も高くなる。しかし、50歳を過ぎるころから新陳代謝のバランスが崩れ、骨密度が低下していく。

骨密度が低下することで骨がもろくなり、骨折しやすくなる病気が骨粗鬆症だ。骨折しやすい場所は年齢により異なるが、一般的に手首(橈骨)や背中(脊椎)、足の付け根(大腿骨)などに起こりやすい。若いころと比べて骨密度が70%以下になると骨粗鬆症と診断される。

骨粗鬆症の原因は、加齢による骨の老化、女性ホルモンの欠乏、運動不足、カルシウム不足など、さまざまだ。女性ホルモンと関わりが深いため閉経後の女性に多くみられるが、男性にも起こる。男性はとくに、80歳を超えてから骨粗鬆症の症状が現れる人が多いという特徴がある。

■骨粗鬆症になると「ドミノ骨折」が起き、病気のリスクも高まる場合も

骨粗鬆症は、古代エジプト時代からあったといわれるほど、古くからある病気だが、注目されるようになったのは近年になってからだ。その理由の一つは、人間の寿命が長くなったことと想像できる。昔の日本では、骨粗鬆症が問題になるほど長生きする人は珍しかったのだろう。

骨粗鬆症による骨折が怖いところは、一度骨折すると、次から次へと別の骨折を引き起こす「ドミノ骨折」が起こることだ。それによって、歩きにくくなる、背中が大きく曲がって内臓を圧迫する、寝たきりになるなど、日常生活に大きな影響をおよぼすようになる。骨が悪くなることは、骨だけでなくその周辺の筋肉や関節など、体を支えたり、動かしたりする運動器全体の健康に直結する。

さらに、骨粗鬆症になると、心筋梗塞や脳梗塞などといった、心臓や血管の病気のリスクが高まるという報告もある。「たかが骨。たかが骨折。生命に関わるものではない」などという考えは大間違い。骨こそが健康長寿のカギを握る急所なのだ。

■骨粗鬆症の研究者として、知ってもらいたい事実

私が骨の研究をするようになったきっかけは、東京大学医学部を卒業した後、医学部附属病院第三内科に研究生として入局して3年目に、教授から「カルシウム代謝の研究をするように」という命を受けたことだった。当時の日本では、カルシウム代謝の研究をしている人はほとんどおらず、全く未開拓の分野だった。私の人生は常に新しいことへの挑戦の連続であるが、よくよく考えてみると、これが第一の挑戦だった。

その後、老年病学教室に入ってからもカルシウム代謝の研究は続けた。それがウナギカルシトニンの存在の確認と、骨粗鬆症治療薬の開発につながり、1993年に製造承認を取得することとなった。

しかし、そもそも1985年ごろまでは、骨粗鬆症という病気はほとんど知られておらず、その当時は「年をとれば腰が曲がるのは仕方ない」と考えられていたのだ。私は、骨粗鬆症が女性ホルモンの欠乏やカルシウム不足などが原因で起こる高齢者特有の病気であること、治療によって骨折を予防することが高齢者のQOL(生活の質)を高めるために重要であることを、世に広く知らしめたいという思いを強くした。

そこで骨粗鬆症財団の発足に関わり、1991年の設立時から理事として参加。2001年から現在に至るまで理事長を務めている。財団の主な事業は、骨粗鬆症の研究に対する助成と、一般市民への啓発活動を行うことだ。市民公開講座を開催したり、全国各地の医師たちによる「骨を守る会」の啓発活動を支援したり、毎年10月20日の「世界骨粗鬆症デー」に「おばあちゃんの原宿」と呼ばれる巣鴨で啓発イベントを行ったりと、これまで30年以上にわたり啓発活動を続けてきた。

女性の骨粗鬆症有病率
出典=骨粗鬆症財団「数字でみる骨粗しょう症」(Yoshimura N, et al, J Bone Miner Metab 40(5): 829-838, 2022)

■骨粗鬆症の潜在患者数は約1590万人もいるのに…

その成果として、製薬会社による2018年の調査では、「骨粗鬆症を知っている」と答えた人は99.3%、「どのような病気か詳しく知っている」と答えた人は71.7%という結果が得られた。

近年では、メディアなどで取り上げられることも増え、今ではこの病気の名を知らない人はいないであろう。しかし、この病気の本当の怖さまで理解されているとは、まだ思えないのだ。それは、骨粗鬆症検診を受けている人が全国平均でわずか5.3%にとどまっており、骨粗鬆症の潜在患者数は約1590万人もいると推計されているにもかかわらず、医療機関で薬物療法を受けている人は20〜30%に過ぎないという現状があるからだ。

高齢者に骨の状態を説明する医師
写真=iStock.com/PonyWang
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PonyWang

■痛い、苦しいなどの症状がないためか検診受診率が低い

骨粗鬆症という病気は、それ自体には痛い、苦しいなどの自覚症状がないため、検診や治療の必要性をあまり感じないのかもしれない。骨折を繰り返して初めて、骨粗鬆症と診断される人もいるくらいだ。

しかし、健康寿命を延ばし、自立した高齢者でいるためには必要な検診や治療をきちんと受け、骨粗鬆症とそれによる骨折を予防することが非常に重要なのだ。私は骨の研究者として、このことを多くの人たちに知ってもらいたい。社会の高齢化はまだまだ止まらない。ということは、骨粗鬆症の患者さんもさらに増えていくだろう。

■身体機能はゆるゆると低下するのではなく、75歳でガクッと落ちる

人の体の老い方、つまり「老化」について伝えたいと思う。

人が年をとるのに伴って、身体機能が衰えていくこと、病気が増えていくことは多くの人が理解していることであろう。ただ、多くの人は機能が少しずつ衰え、ゆるゆると坂を下っていくように低下していくというイメージを持っているのではないだろうか。確かに、さまざまな調査によって出されたデータでは、そうした下り坂のようなグラフで示されることもあるが、それは平均的な統計データとしてはそうみえるだけである。

このように、骨折は高齢者にとって健康状態を急激に悪化させるきっかけになる。

75歳以降にガクッと落ちていく人は、自覚症状がないままに骨が老化していった結果、骨折というアクシデントによりそれが顕在化する。75歳以降もゆるやかな老化をたどっていく人は、骨が丈夫であることが必要条件なのではなかろうか。

骨粗鬆症患者数と男女の割合
出典=骨粗鬆症財団「数字でみる骨粗しょう症」(『骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版』ライフサイエンス出版)

■「もう遅い」と思わず、今からでも実践したい骨折予防の3大対策

元気で長生きするためには、とにかく骨の健康を保つこと、骨折を防ぐことが重要であることを理解していただけただろう。では、骨を強くし骨折を予防するためにはどうすればいいのか。対策はこの3つだ。

①転倒を防ぐ
②カルシウムを摂取する
③日光浴をする

難しいことはない。すぐに始められることだ。「もうこんな年になってから何をしても手遅れだ」と思う人もいるかもしれないが、今からでも決して遅くはない。ぜひ今日から始めてほしい。

それぞれについて詳しく解説する。

■自宅の環境をバリアフリーにし、とにかく転ばないように

①転倒を防ぐ

大腿骨の骨折を起こす原因で多いのが転倒だ。高齢になるとちょっとしたことで転びやすくなる。これは老化の一つともいえ、視力が低下したり、体のバランスを保つ機能が低下したりすることで、ちょっとしたことでふらついたり、物につまずいたりして転びやすくなる。

自宅でつまづいて倒れた高齢男性
写真=iStock.com/Toa55
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Toa55

生理的な老化現象のほか、認知機能の低下、めまい、変形性膝関節症や末梢神経障害などの病気や、治療のために服用している薬が原因で転倒しやすくなることもる。どのような原因があるにせよ、年をとったら転びやすくなることを意識して、常に注意することが必要だ。

まずは環境を整えることが必須である。床や敷き物のちょっとした段差、すべりやすい床、床に置いてある障害物(歩くときに邪魔になる可能性のある物)など、改善すべきところはする。また、風呂場やトイレ、階段、玄関などに手すりをつける、コード類は歩くときに邪魔にならないようにする、暗い場所は照明で明るくするといった対策も必要だ。

加えて、定期的な運動により筋力を強化すること、バランス感覚を養うことも忘れないようにしたい。散歩や体操のほか、欧米では転倒予防に太極拳が推奨されており、機械的なトレーニングより太極拳のほうが転倒予防に有効との報告もある。

■1日の目安は700〜800mg、カルシウムを効率的に摂取せよ

②カルシウムを摂取する

カルシウムは、シシャモや干しえび、シジミのような魚介類、豆腐や納豆をはじめとする大豆製品、牛乳やヨーグルトといった乳製品、小松菜やチンゲン菜、ひじき、切り干し大根、いりごまなどの野菜・海藻類・種実類に多く含まれる。

佃煮、煮干し、わかめ、チーズ 、牛乳
写真=iStock.com/hungryworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hungryworks

カルシウムをとるといっても、ただ闇雲に摂取するのではなく、できるだけ効率よくとれるように工夫することが望ましい。以下にポイントを挙げる。

・1日3食しっかり食べる(高齢者の骨量を維持するために、また低栄養を防ぐためにも1日3回の食事で必要な栄養素を不足なくとることが大切)

・1日のカルシウム摂取量の目安は700〜800mg(牛乳、チーズ、ヨーグルト、豆腐のなかから1日に2品食べるといい)

・牛乳や豆乳のほか、スキムミルク(脱脂粉乳)も活用しよう(牛乳や豆乳をそのまま飲むのが苦手な人は、コーヒーや紅茶、みそ汁などに加えても。スキムミルクは効率よくカルシウムを摂取できるため、飲み物のほか、シチューやフライの衣、卵焼き、野菜炒めなどの料理に加えるのもおすすめ)

・魚は骨まで愛して(魚は骨まで食べるとより効率的にカルシウムを摂取できる。骨まで食べられる煮干しやじゃこ、酢で軟らかく調理した南蛮漬けやマリネ、骨ごとすり身にしたつみれなどをメニューにとり入れるといい)

・自家製の簡単ふりかけでカルシウム補給(桜エビや小魚、ごま、ワカメ、海苔などをすり鉢やフードプロセッサーで細かく粉砕してカルシウムふりかけを作ることもすすめられる。手作りすれば市販のものより添加物や塩分を抑えることができる)

・カルシウムはビタミンDやビタミンKと一緒にとる(ビタミンDはカルシウムの吸収を助け、骨を丈夫にして筋力を高める。ビタミンKはカルシウムを骨に取り込み、骨を強くする。ビタミンDは魚や干ししいたけなどのキノコ類に、ビタミンKは緑黄色野菜や納豆、海藻類に多く含まれる)
(公益財団法人骨粗鬆症財団のリーフレットより)

カルシウムは、食事からとる場合はとりすぎを心配する必要はないが、カルシウム製剤やサプリメントなどで摂取するときは量を定め、とりすぎないように注意が必要だ。そのため、薬剤やサプリメントを使用する場合は、自己判断で使うのではなく、必ず医師に相談してほしい。

20歳以上の女性のカルシウム摂取量
出典=骨粗鬆症財団「数字でみる骨粗しょう症」(厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査」、『骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版』ライフサイエンス出版)

■体内でビタミンDを作るため、真冬でも日光浴する

③日光浴をする
折茂肇『ほったらかし快老術』(朝日新書)
折茂肇『ほったらかし快老術』(朝日新書)

骨を強くするためには、日光を浴びることも大切だ。紫外線というと、しみやしわなどの肌トラブルや皮膚がんなど、悪いことばかりが注目されるが、皮膚に紫外線が当たることでビタミンDが形成される。高齢になると、肌でビタミンDを作る力も、活性化させる力も衰えてしまう。食事に加え、日光浴でビタミンDを補えることが望ましい。

長時間する必要はなく、1日15〜30分ぐらいで十分だ。夏場は日差しの強すぎる時間帯は避け、冬場やくもり、雨の日はやや長めに時間をとるといい。

日光を浴びると、脳内に「幸せホルモン」とも呼ばれる「セロトニン」が分泌され、気持ちが明るくなる、集中力が高まるなどの効果も期待できる。散歩も兼ねて、骨を強くするためにぜひ日光浴をしよう。

このように、骨を強くするためにできることは多くある。高齢者でもそれほど苦労せず実践できることも多いはずだ。

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折茂 肇(おりも・はじめ)
医師
公益財団法人骨粗鬆症財団理事長、東京都健康長寿医療センター名誉院長。1935年1月生まれ。東京大学医学部卒業後、86年東大医学部老年病学教室教授に就任。老年医学、とくにカルシウム代謝や骨粗鬆症を専門に研究と教育に携わり、日本老年医学会理事長(95~2001年)も務めた。東大退官後は、東京都老人医療センター院長や健康科学大学学長を務め、現在は医師として高齢者施設に週4日勤務する。

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(医師 折茂 肇)

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