だからインドは爆速で経済成長している…インドの若者の「なりたい職業ランキング」上位に入る「トッパー」とは
プレジデントオンライン / 2025年1月29日 16時15分
※本稿は、松本陽著、西岡壱誠企画『教育超大国インド』(星海社新書)の一部を再編集したものです。
■インドの私立学校で私が驚いたこと
私は、教育事業を行うベネッセホールディングスにてインド現地法人の取締役を務め、現在は自身でインド現地で教育事業を立ち上げている。
そんな私が最初に訪れたのはデリー首都圏の私立学校の一つで、首都圏の中でもお金に余裕がある親御さんが多く、アッパーミドルからアッパー層の家庭の子が中心の学校で、学力的にはトップ10%くらいの学校でした。
訪れてまず率直に思ったのは、「日本と全然変わらない、っていうか日本よりも環境がいいんじゃないか」ということでした。机も日本の学校と同じようなもので、教室の後ろや廊下には至る所に、偉人の格言・名言が綺麗に印刷されたポスターが貼られていました。
そして当たり前のように、パソコンルームには最新のマックブックが一人一台ずつ置かれてあり、さらには理科室のような場所には、STEAM教育用かと思われる、様々なロボット系の器具が所狭しと置かれているなど、設備的には日本よりも揃っているのではないかと感じました。
その上で、生徒さんを観察していて驚かされたのは、「基本的には休み時間もずっと勉強している」ということでした。みんな非常に勤勉で、休み時間だろうと関係なくずっと机に向かっている生徒が半分以上でした。
もちろん日本にもそういう学校があるとは思いますが、それにしても頑張っているな、と感じました。クオーター(四半期)ごとの学力テストでクラスが分けられるそうで、そこで上位と下位が分かれてしまうので頑張っているのだとか(インドのすべての学校がそうなのではなく、都市部を中心としたアッパーミドル層以上の私立の場合と私は理解しています)。
■トップ大学合格者=「大谷翔平」
初めてインドの学校を訪れた感想としては、月並みな感想ですが「日本だけでなく、インドにおいても、勉強・受験ってすごく大事なんだな」というものでした。
これだけなら「まあ、日本でもこういう学校はあるもんな」という話で終わるかもしれません。しかし、学校から出た時、街中であるものを見つけました。
それは一枚のポスターでした。若者の顔が大きく写されているポスターで、遠くから見ると選挙ポスターと見分けが付きません。でもそれは、とある大学の合格者のポスターだったのです。
その大学とはインドのトップ大学であるインド工科大学(भारतीय प्रौद्योगिकी संस्थान、Indian Institute of Technology、IIT)です。いわば日本で言う東京大学のような大学です。その大学の合格者たちのポスターが並べられていたのです。
現地の人に「なんでこんなものが飾られているの?」と聞くと、こんなふうに答えられました。「これはね、この街の誇りなんだよ。これだけの若者がこの街から合格した、という誇りなんだよ」と。つまりは、日本で言うところの大谷翔平さんや藤井聡太さんのような扱いです。それだけ、大学受験に対する比重は重いのです。
■若者が強烈に憧れる「トッパー」
インドの学習塾に足を運んだ際にも、大学受験に対する比重の重さを感じさせられました。空気感が違うし、気迫が違う。ただ勉強しているだけではなく、10代の子が本気で、「人生を賭けて」勉強しているのです。ひたすら勉強で、それ以外のことは目もくれない、そんな文字通り、鬼気迫る様子で勉強している姿を、目の当たりにしたのです。
貼ってあるポスターも印象的でした。「人気職業ランキング」が壁に掲示されていたのですが、その序列は①エンジニア②医者③大学の先生④オリンピックメダリスト⑤トッパーといった具合です。
メダリストよりも、エンジニアや医者・大学の先生が上なのです。中でもエンジニアと医者の人気は圧倒的です(理系が強いインドにおいて、弁護士や経営コンサルタントなど、いわゆる文系の職業は一切入っていません)。
ちなみに⑤のトッパー(Topper)とは、インドにおいて日本の「大学入学共通テスト」のような位置付けの試験であるClass 10 Board ExamおよびClass 12 Board Examにおいて満点をとった生徒のことです。
日本では考えられませんが、その共通テストで満点もしくは限りなく満点に近い点数をとると、新聞にその生徒の名前と点数、所属する学校や塾の名前が掲載されます。
個人情報は一体どうなっているんだ、と思わずにはいられませんが、トッパーはさながらオリンピックのメダリストと同格のような扱いを受けていて、若者たちやその保護者にとっては強烈な憧れの存在なのです。
■1年目の年収8000万円
なぜ、それほどまでに勉強の比重が高いのでしょうか。これには、歴史的に様々な事情が複雑に絡み合っているので、一概に「これが理由です」と言い切るのは非常に躊躇いもあるのですが、そう言っても何も始まらないので、あえてかなりシンプルに言語化するとすれば、「勉強によって生活が豊かになる」ことが、多くのインド人にとって共通認識になっているから、と私は考えています。
具体的に言えば、先述のインド工科大に合格し、コンピューターサイエンス(情報工学)の学位を取得して卒業する学生には、グーグルやアップルをはじめとした世界中のトップ企業から高額のオファーが届きます。
大学卒業後のいわゆる新卒(日本以外の国に新卒という言葉はありませんが)での平均年収は日本円換算で2000万〜3000万円とも言われており、インド工科大が公表している、2023年度の学部卒で最も高額なオファーを獲得した人の初年度年収は約8000万円だったとのことです。
8000万円……頭がクラクラするような大金ですが、このレベルになってくると、本人のみならず、保護者やおじいちゃんおばあちゃんまで、3世代もしくはそれ以上を一生養うことができる十分な額を、学部卒で手に入れられるということになります。
■「インド工科大に行けば、人生が変わる」
もちろんインド工科大だけがインドの大学ではありませんし、年収などのインセンティブだけが勉強を頑張るモチベーションではない、というのはもちろんそうなのですが、これだけ並外れた経済的・金銭的インセンティブが、勉強が好きであろうがなかろうが、子どもたちを勉強へと邁進させる強烈なドライバーになっていることは、現代インドを象徴する光景の一つと言わざるを得ないでしょう。
これらの環境は、塾だけではなく、街全体で用意されています。インドは企業や自治体が教育資金を全面的に支援することが大きな特徴です。これは、寄付や施しの文化が根付いていることに起因しています。街をあげて受験を応援するカルチャーがあり、企業も売り上げの一定額をCSR(企業の社会的責任)として寄付しなければならないため、奨学金がかなり充実しています。
訪問先の学習塾から帰ろうとした時、こんなことが書かれたポスターを見つけました。
「勉強がすべて。勉強してインド工科大に行けば、人生が変わる」
なるほど、こういう価値観がインドの塾や学校では日常的に刷り込まれているのかと非常に強く痛感させられたのでした。
■強烈な格差
やがて、デリーに駐在するようになった私は、デリーに限らず、バンガロールやムンバイなどの他都市や、その周辺地域に隣接する規模がやや小さめの都市(インドではティア2、ティア3の都市と呼ばれています)も含めて、インドの様々な地域を見て回ることになります。
ティア1と呼ばれる都市部は、インドに10くらいあるのですが、そこはもう先進国と何も変わらないと言っていい。その一方で、そこから離れて遠方の地域に行くと、ある意味、私が当初想像していたインドそのままの場所も、まだまだ無数に存在していました。インドの国土面積は日本の約8.7倍とはるかに広く、人口も日本の10倍以上です。
そしてなんといっても、日本と比べ物にならないほどの格差社会です。色々な意味で格差は非常に大きく、そして深いです。一口にインドと言っても、インドのどの都市、どの産業、どの領域を切り取って語るのかによって、全然話が変わってくるわけです。
デリー・グルガオン・バンガロールの街並みは、もはやある種、先進国よりも先進国らしいですが、そこから1〜2時間ほど車を走らせた先の街では、まだまだ牛に荷物を運ばせていて電気も通っていないような場所も存在していたりもするわけです。
一方では先進国の人よりも先進国の暮らしを楽しみ、一流の大学でエンジニアとして活動すれば年収1億円も全く現実味のない数字ではない、その他方で、年収的な意味で言えば、その対極にある生活をされている方も、またザラにいるのです。
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スタディオス社長
1989年、京都府生まれ。2012年、一橋大学社会学部(教育行政学専攻)卒業後、株式会社リクルート入社。オンライン学習サービス「スタディサプリ」の創業期にジョインし、新規事業開発・海外展開に従事、2019年に退職・渡英。ロンドン大学教育学研究科(University College London - Institute of Education)にて教育工学の修士号を取得後、2020年より株式会社ベネッセホールディングスに入社。インド現地法人を立ち上げ、取締役およびHead of Product & Operationを歴任、2024年に退職。現在は、外資系IT企業にて日本の公教育DXの推進と並行し、自身の会社をインドで立ち上げ、インドの高校生向けの進路支援事業のトライアルという二足の草鞋に挑戦中。
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(スタディオス社長 松本 陽)
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