だから90歳で糖尿病でも酒や食事を楽しめる…元東大教授が「75歳以上は好きに食べていい」という医学的根拠
プレジデントオンライン / 2025年1月26日 9時15分
※本稿は、折茂肇『ほったらかし快老術』(朝日新書)の一部を再編集したものです。
■老化による身体的な変化も「なんとかなる」と考える
老化は進みこそすれ、戻ることはない。予防や、乗り切るための知恵と工夫にもいずれは限界が来るだろうし、それはそれとして受け入れ、あまり深刻に考えないことも大切だろう。
トータルケアをする上では、精神的・心理的なケアも欠かせない。臓器がそれぞれで関係し合っているように、体と心もつながっている。心が不健康な状態になれば体の状態も悪くなってしまう。
衰えてしまったことやできなくなったことを嘆くのではなく、いや、嘆いてもいいのだが、そこであきらめるのではなく「じゃあ、どうする?」と発想を転換させて「できること」を考えてみる。あるいは、「なるようになるさ」と開き直って、考えることを放棄したっていい。私は「たいていのことはなんとかなる」ととらえているから、思い悩むこともないし、自分のできることをしながら毎日気ままに生活できている。
■90歳で糖尿病でも、気にせず好きなものを食べている
私には糖尿病の持病があるが、食べたいものを食べている。お酒も飲んでいる。血糖値だけでなく血圧も肥満も気にせず、好きなものを自由に食べたり飲んだりしているから、全然やせない。でも、そのおかげで90歳になってもフレイル(健康と要介護の間の状態)にならず、転んでも骨折せず、杖を使ってでも自分の足で歩いて仕事に通えているのだと思っている。
一般的に、糖尿病といえば、糖質を制限し、カロリーや脂肪分も控えめにし、野菜中心の食事にすることが望ましいといわれている。しかし、私は医師であるが、その必要性を感じていない。むしろ、糖質を気にして食べたいものを我慢することや、あれもダメ、これもダメと制限されることのほうがよほど体に悪いと思っている。それは、私自身が食べることが好きで、自分の好きなものを好きなように食べたい、好きなお酒も我慢せずに飲みたいという思いが人一倍強いせいもある。
また、75歳を過ぎたら、細かいことは気にしないというほったらかしの精神によるものもある。
しかしそれだけではなく、75歳以上になると病気のリスクがそれまでとは変わることに基づく考えもある。この年になったら、若いころの常識にとらわれなくていいことも増えるのだ。
■2年前に小脳梗塞を発症し1カ月ほど入院したが…
話はそれるのだが、私は2年前に小脳梗塞を発症し1カ月ほど入院したが、その病院の食事はひどかった。ある日の献立は、コッペパンと焼き魚という組み合わせだった。あれにはまいったな。今でこそ、魚のフライやソテーをはさんだサンドイッチなどもあるが、ちゃんとパンと魚のどちらもがおいしく食べられるよう工夫されているはずだ。その病院での食事はそんな代物ではなかった。
栄養価は満たしているのだろうが、食べる人の満足度は全く考えられていない。ただでさえ入院中は食事だけが楽しみという人も多いだろうに、あの食事は今でも記憶に残っているほどひどいものだった。あれ以来、味覚が狂ってしまったのではないかと思っている。もう少し患者のことを考えてほしいものだ。
なお、現在勤務している高齢者施設の食事は楽しみの一つになっている。管理栄養士が栄養価を計算してメニューを考え、施設内で調理もしている。これは日本に数多くある施設の中でも珍しい、誇れることだと思う。昼食は施設内の施設長室で一人でとるのではあるが、入所者と同じ食事をいただいている。低コストでありながら、おいしく食べられるようメニューが工夫されていることに感心する。
■老年医学の新しい常識では、むしろ低血糖や低栄養を心配すべき
一般的に、75歳未満では高血糖は心血管疾患による死亡リスクを高めるとされているが、75歳以上になると、高血糖による心血管疾患の死亡リスクの増加は軽度となることがわかっている。一方で、低血糖による転倒や骨折、脳卒中などのリスクは高くなる。つまり、75歳以上になると、高血糖よりもむしろ低血糖のほうが体に悪影響をおよぼすようになるのだ。
そのため、75歳以上の糖尿病の治療においては、血糖コントロールの目標値を中高年の目標値よりも少し緩めにして、低血糖による合併症を防ぐことを重視している。日本老年医学会と日本糖尿病学会とが合同で、「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」を発表し、年齢や身体機能、認知機能の状態などによって目標値を検討することとしている。
なお、これは医療にかかること自体を否定するものではない。高齢者はちょっとしたことで急変もあるため、医師に日々の状態を把握しておいてもらうことは重要だ。
■75歳以上になると高血圧の基準も少しゆるくなる
高血圧については、近年のガイドラインで75歳以上の高齢者では降圧目標がやや緩く設定されている。これは、高齢者は身体的、精神的な状態や生活背景に加えて、治療の効果や副作用の現れ方などにも個人差が大きいと考えられるためである。そこで、臓器の障害の程度や持病の有無、認知機能の状態、フレイル、生活習慣などから医師が総合的に判断して、各々に応じた降圧目標や治療法を検討することが必要とされている。
高血圧治療ガイドラインでは一般的な降圧目標は、75歳未満で診察室血圧が130/80mmHg未満、75歳以上で140/90mmHg未満とされている。家庭血圧ではそれぞれ5mmHg低い値が目標である。ただしこれは、自力で外来通院可能なレベルの健康状態の人を対象としていることに注意しなければならない。フレイルや要介護の人、認知症の人などは、降圧治療開始基準や降圧目標を判定する十分なエビデンスがない。
脂質異常症についても、主に65〜74歳では高LDLコレステロール血症は心筋梗塞などの冠動脈疾患のリスクを高める要因とされているが、70歳以上の高齢者についてはLDLコレステロール値と冠動脈疾患に関連性は認められないという報告が多い。
■肉を食べられる高齢者は、健康で元気な人が多い
また、肥満については、中年期では認知症の発症リスクを高める要因となるが、65歳以上ではむしろ、体重減少が認知症を引き起こすきっかけになるということがわかっている。低栄養による体重減少は、認知症だけでなくサルコペニアやフレイルにつながるものとしても注意が必要だ。若いころから中年期までは、肥満によるメタボリックシンドロームが健康を損なう要因とされ、改善を求められるが、75歳以上になると、むしろやせている人の低栄養に注意したい。
高齢者の低栄養は、筋肉量が減り、筋力が低下するサルコペニアにつながり、身体機能の低下、つまりフレイルを誘引することになる。前述の通り、筋肉に関する研究が進むにつれ、高齢者ほど低栄養に陥らないように高たんぱくの食事を心がけることが大切であるとわかっている。高齢者こそ肉を食べることが大切なのだ。肉を食べられる高齢者は、健康で元気な人が多い。
しかし、75歳を過ぎてから急に「さあ、肉を食べよう」と思っても、そうそう食べられるものではない。准高齢者(75歳未満)のうちから、肉を中心とした高たんぱくの食事をとる習慣をつけておくといいだろう。
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医師
公益財団法人骨粗鬆症財団理事長、東京都健康長寿医療センター名誉院長。1935年1月生まれ。東京大学医学部卒業後、86年東大医学部老年病学教室教授に就任。老年医学、とくにカルシウム代謝や骨粗鬆症を専門に研究と教育に携わり、日本老年医学会理事長(95~2001年)も務めた。東大退官後は、東京都老人医療センター院長や健康科学大学学長を務め、現在は医師として高齢者施設に週4日勤務する。
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(医師 折茂 肇)
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