殺害した女性の携帯電話でアダルトサイトを視聴し…スナックのママが戦慄した連続殺人犯の異常すぎる行動
プレジデントオンライン / 2025年1月16日 19時0分
■「福岡3女性連続強盗殺人事件」のろくでもない犯人
その男の犯行内容がろくでもないことはわかっていた。だが、そのろくでもなさが、私の想像を超えていたことが明らかになったのは、後に彼が通い詰めていたスナックの点在する、歓楽街を取材したときのことである。
男の名は鈴木泰徳元死刑囚(2019年8月2日に福岡拘置所で死刑執行。当時50)。
彼は04年12月12日、福岡県飯塚市の公園で専門学校生のA子さん(当時18)を絞殺。続いて同月31日に北九州市の路上で仕事に向かうパート従業員のB子さん(当時62)を刺殺し、現金入りのバッグを強奪する。そして05年1月18日には福岡市の公園で、通勤途中だった会社員のC子さん(23)を刺殺して、手提げバッグを強奪した、通称「福岡3女性連続強盗殺人事件」の犯人である。
05年3月4日に逮捕された、直方市に住む土木作業員の鈴木は当時35歳。犯行時に彼は運送会社に勤めており、トラックで生鮮食品などの配送をやっていた。
パチンコやスナック遊びなどで多額の借金を抱えていた鈴木は、親に借金の補填をしてもらうなどしていたが、それにも限界があった。やがて、生活を改めようとしない彼は、看護師の妻から愛想を尽かされ、夫婦生活を拒絶されてしまう。以降、仕事の配送ルートで、みずからの性欲と金銭欲を満たすための“標的”を探すようになったのである。
■犯行後に飲み歩く
そうした理由であったことから、鈴木は若いA子さんとC子さんに対しては、殺害前に強姦しようとして、公園に連れ込んだことがわかっている(うち1件は未遂)。また、B子さんに対しても、当初は赤いレインコートを着た彼女を強姦目的で付け回すも、途中で年配の女性であることがわかったことから、その場で強盗目的に切り替え、まず包丁で刺して殺害し、バッグを強奪したのだった。
鈴木は3人目の被害者であるC子さんの事件を起こした翌日である、05年1月19日未明に、乗務するトラックで交通事故を起こしてしまい、入社からわずか3カ月の間に3度の事故を起こしていたことから、同月22日に退職している。
じつはこの運送会社を退職した日の夜、鈴木は彼の自宅から近い直方市の歓楽街に、友人と飲みに出ていた。すでに3人を殺害していた彼は、そこで知り合った人物の紹介で、逮捕時の職業である、土木作業員の仕事に就くことになったのだ。
■スナックのママが見た殺人鬼の横顔
直方市内でスナックを経営する60代のXさんというママは、私の取材に語る。
「(鈴木は)たまに店に来てくれる若いお客さんに連れられて来たんです。ちょうどそのときにうちの娘が店を手伝っとってね、『あら、××ちゃんのお父さん』って、顔を知っとったんです。娘は保育園の保育士をしとって、そこに鈴木の子供が通いよったの」
犯行当時、鈴木には妻との間に2人の幼い子供がいた。この店を初めて訪れた日の鈴木は、笑顔交じりで酒を飲み、カラオケで歌を歌うなどして上機嫌に過ごし、帰っていったそうだ。Xさんは続ける。
「態度は普通でしたよ。明るく笑いよったし、大声で歌いよったしね。後で考えたらとんでもない話よねえ。やけど、そんなおおごとをしでかした(大変な事件を起こした)素振りは、なーんもなかったんです」
呆れ顔のXさんによれば、初来店から3、4日して、鈴木は同店に今度は一人でやってきたのだという。
「最初のうちは前と同じように飲んで歌いよったんですけど、そのうちぽつりと、会社を辞めたばかりやとか、子供がおるけ大変やとか、急いで仕事を探さんといけんという話をするんです。でね、私はこの店のほかに土建会社を経営しとるんですよ。ちょうど1人くらい従業員を入れようという話をしていたんで、土建の仕事ができるんやったらうちへおいでって話をしたら、やるっていうことで、2月2日から働くことになったんです」
■右手に巻かれた包帯
それから翌月の3月8日に逮捕されるまで、鈴木はXさんの経営する土建会社で、土木作業員として働いていたのだ。彼が逮捕され、Xさんが鈴木と一緒に働いていた従業員に、なにか不審な点はなかったか尋ねたところ、仕事ぶりは真面目で、とくに怪しいところはなかったとのことだった。
取材でこの街を歩くと、鈴木の痕跡が至るところに残されていた。
「それこそ事件を起こしよる間だとか、その後も店に来てたんですよ。2週間に1回のこともあれば、2日連続ということもあった。でも様子は普通なんです」
そう語るのは、別のスナックのYママである。鈴木は20歳前後からこの界隈に出没し始め、同店の常連だったという。
「他の常連さんから聞いたんですけどね、年末、それこそ12月末に、彼が北九州で事件を起こしたことがあったやないですか。その日の犯行の後に、散髪に行っとるんですよ。手をケガして包帯を巻いとったらしくて、店の人から『どうしたと?』って聞かれたとき、『人の車を持ち上げて、助けちゃりよった』と話していたそうです」
これは2番目の、北九州市のBさんが被害に遭った事件のことだ。鈴木は包丁でBさんをめった刺しにした際に自身の手を切っており、後の裁判での検察側冒頭陳述においても〈被告人(鈴木)は、本件包丁に付着した血痕で手が滑り、自らの右人差し指を切ってしまった〉とある。
■見慣れない携帯電話の正体
この店では鈴木が、3番目の事件の被害者であるCさんから奪った携帯電話を使っている姿が、目撃されていた。
「(Cさんの)事件の後、店で彼が見慣れない携帯をいじりよったんで、それを見て『2台持っとうと?』と聞いた憶えがあります。どう答えたかは記憶してないんやけど、それが被害者から奪った携帯やったみたいで……。複雑な気持ちになりますね」
鈴木が逮捕された際、彼はCさんの携帯電話を使って、アダルトサイトにアクセスしていたことが判明している。その理由は接続料金を節約するため。彼は犯行時のみならず、強奪した物品に関しても被害者を蹂躙していたのだ。
鈴木が20代から常連だったという、もう一軒のスナックのZママは、取材する私に呆れ顔で言い切る。
「鈴木の印象はとにかく性欲が強いということ。どこどこの店に行って(性行為を)したんやけど、どうやったとか、そういう話ばかりしてましたから。あと、『奥さんがさせてくれん』ともこぼしていました。
事件を起こす1、2年前からうちの女の子にご執心で、おみやげを持ってきたり、その子がつくとフルーツ盛りを頼んだりしていたんですね。それで一度、鈴木が彼女におみやげとして持ってきた焼き鳥を、他のお客さんにも振る舞ったことがあるんです。その途端にふて腐れてしまい、慌てて私がとりなした記憶があります」
■「もし行っとったら私が殺されとったかも」
この店では鈴木を要注意人物として認識していたようだ。
「だいたい午後8時半とか9時に来て、午前1時半とか2時のラストまでいましたね。目的はお気に入りの子をアフターに誘うことでしたけど、危ないから二人きりでは行かせずに、私やもう一人の子が一緒に付いていくようにしてました。
そういえば、別のスナックのフィリピン人の女の子は、事件を起こしとる最中に、鈴木から3回くらい昼ごはんに誘われとるんです。全部断ったみたいですけど、『もし行っとったら私が殺されとったかも』と話していました」
3人を殺害してもなお、鈴木はみずからの行動を改めることはなく、これまで通りに夜の街へ出ては、無邪気に遊んでいたのである。その、反省のかけらもない、底抜けに無感覚な姿には、ただただ恐れを抱いてしまう。
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ノンフィクションライター
1966年生まれ。福岡県北九州市出身。雑誌編集者、雑誌記者を経てノンフィクションライターに。「戦場から風俗まで」をテーマに北九州監禁殺人事件、アフガニスタン内戦、東日本大震災などを取材し、週刊誌や月刊誌を中心に執筆。著作に『完全犯罪捜査マニュアル』『東京二重生活』『風俗ライター、戦場へ行く』などがある。
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(ノンフィクションライター 小野 一光)
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