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豊田章男会長はこのビジネスチャンスを見抜いていた…「経済大国ニッポン」復活に必要なたった一つのこと

プレジデントオンライン / 2025年1月20日 9時15分

2025年1月6日、テクノロジー見本市“CES”で講演するトヨタ自動車の豊田章男社長。 - 写真=DPA/共同通信イメージズ

■世界最大の家電見本市は「AI」一色だった

今年、世界経済の牽引役としてのAI=人工知能は、さらに重要性を増すことになるだろう。AIの利用範囲は、情報関連にとどまらず家電製品や自動車、さらには宅配にまで及ぶ。AIなくして、現代社会は機能を果たせない状況になりつつある。1月に米ラスベガスで開催された、世界最大の家電見本市である“CES”、は、それを確認するイベントになった。

そのAIを支えているのが、先端の高性能半導体だ。高性能半導体がなければ、AIを十分に稼働させることができない。特に、AIの学習に欠かせない画像処理半導体(GPU)は最重要な要素といえる。そのGPUの世界最大手である米エヌビディアのジェンスン・フアンCEOは、GPUがAIの成長と新たなソフトウェアの創造を可能にし、世界の成長を主導するとの考えを示した。

■ラピダスが「米国半導体設計大手と連携」と報道

エヌビディアは、米テスラや中国の比亜迪(BYD)と協業して車載用半導体の開発を強化してきた。エヌビディアの車載用半導体技術は、自動車のソフトウェア化の流れを加速させる主な要因になっている。販売台数世界トップのトヨタにとっても、エヌビディアのソフトウェア開発力は競争力向上に欠かせない要素になりつつある。

GPUなど先端半導体の製造分野でも変化が起きつつある。わが国の半導体メーカーにも注目が注がれている。先端チップの受託製造事業の開始に取り組む“ラピダス”は、半導体設計大手の米ブロードコムと連携すると報じられた。それは同社にとどまらず、わが国産業界全体にとって大きい。

AIチップの性能向上により、世界経済全体でハードよりソフトの重要性が高まる。ラピダスが国内外の有力企業と連携し、自動車などの機能変容を支えるチップを供給できるか、今後のわが国の経済全体に重大な影響をもたらすことになるはずだ。

■「自分で考えて動くロボット」がついに現実に

今年のCESの主役は、GPUの設計、開発、関連ソフトウェア分野で独走状態にあるエヌビディアのフアンCEOだった。エヌビディアの高性能半導体に対する期待は、世界的に一段と高まっている。同氏はCESの講演で、今後のAIの発展プロセスのひとつを提示した。

ファンCEOによると、今日の主流である生成AIは、エージェンティックAIに成長する可能性があるという。エージェンティックAIとは、基本的に、AIが私たちに代わって、さまざまな作業を行う機能を持つようになることだ。中長期的にAIはさらなる進化を遂げ、フィジカルAIに向かう。フィジカルAIでは、自動運転やロボットの自律的な作動を可能にし、人間と相互に関係しあうことが可能になる。まさに、かつての夢だったロボット時代の到来だ。

エヌビディアはCESで、“Cosmos”と呼ぶ次世代AI開発ソフトウェアを発表した。また、最新のAIチップである、“ブラックウェル”の技術を使ったクリエイター向けグラフィックスカードの“GeForce RTX 50”、小型のAIパソコンの“Project DIGITS”も発表した。エヌビディアは、AI分野での優位性の維持を狙っているのだろう。

■半導体分野はPC、スマホからAIへ舵を切った

一方、CESで競合他社のAI関連発表もあった。米アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)、クアルコムなど半導体大手はAIパソコン向けの新製品を発表した。韓国サムスン電子はAIを使った船舶運航管理システムを発表した。

そうした先端分野とは対照的に、PCやスマホなどの半導体分野では世界的に需給バランスが緩み気味だ。車載用のマイコン、パワー半導体、そしてPC向けの中央演算装置(CPU)、パソコンに使われたDRAMなど汎用型のメモリー装置など、世界的に在庫がだぶついている製品もある。

AIとそれ以外の分野で、世界の半導体の需給の違いは鮮明だ。世界の半導体企業は、ロボットなど次世代のAI技術を支えるチップ開発投資の手綱を緩めることはできない。先端技術の実用化に必要な研究開発、投資、提携などを強化できるか否かで、企業の競争力に大きな差がつくからだ。今年のCESはそれを再認識する機会になった。

■トヨタがエヌビディアと手を組んだ背景

今年は、わが国企業が世界のAI関連分野に進出できるか否か、極めて重要な年になるだろう。その中で、最も注目される企業のひとつがトヨタ自動車だ。

2017年、トヨタはエヌビディアと初期の協業を始めた。一部車両にエヌビディアの車載用チップを搭載し、自動運転技術の向上に取り組んだ。一方、中国自動車メーカーは、急速に自動運転ソフトウェアなどの開発を進め実用化した。中国勢の台頭はトヨタも想定外だったかもしれない。

足許、米欧の大手自動車メーカーは多くEV需要の減少で業績が厳しい。トヨタはエヌビディアとの関係を強化し、自社の自動車に先端ソフトウェアを実装し、自動車のソフトウェア化の潮流に対応する姿勢を示している。車載AIの性能向上などを目指し、トヨタは超光速通信と消費電力量の削減を可能にする、“光半導体”の実現を目指すNTTとも協業する。

今回のトヨタとエヌビディアの新たな協業発表は、有力な半導体企業との関係深化なしにはAIへの適応が難しいことを示唆する。これまで、トヨタは基本的に自前主義で、ハードウェアの製造技術を磨き成長した。従来の自前主義に頼る発想では、これからの早い変化や成長への対応が難しい時代になっているということだろう。

車の未来のインストルメントパネル
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■ハード×ソフトウェアの企業連携が進むか

昨年、日立製作所もエヌビディアとの協業を明らかにした。協業で鉄道インフラのメンテナンスなどを効率化するシステムを共同で開発する。AIを用いたシステムは、早期の異常検知を可能にして収益の安定性向上に寄与すると期待される。

その他にも、鉄道車両運行を司るシステムのアップデートや、それによるエネルギー消費量の抑制。このような社会インフラの持続性向上に、AIなどソフトウェアが果たす役割は拡大すると考えられる。

ソフトウェア主導の時代に対応するために、AI関連半導体で世界的に優位性の高い企業との協業が欠かせない。トヨタ自動車も、事業環境の変化にしっかりと対応するために、エヌビディアとの関係強化を急いでいる。そうした動きを重視する企業は世界全体で増えている。

■「半導体大国」復活はラピダスにかかっている

一方、エヌビディアにいくつかの課題はある。その一つは、先端チップの製造ラインの確保だ。当面、AI関連分野のチップ需要は供給を上回るだろう。半導体の受託製造を行う台湾積体電路製造(TSMC)の先端製造ラインは、当面、フル操業状態が続くとみられる。供給を増やすためには、受託製造企業を増やすことは必要になる。

そこに、わが国に重要なビジネスチャンスが訪れようとしている。重要な鍵を握るのはラピダスだ。1月上旬、ラピダスに重要な報道があった。同社は、製造工場を持たないファブレス企業の米ブロードコムとの連携が報じられた。具体的には、ブロードコムが開発した、回路線幅2ナノメートル(ナノは10億分の1)の先端AIチップの半導体を受託製造するというのである。それは、ラピダスにとって大きな追い風になるはずだ。

ブロードコムは、アップルなどがデータセンターでAIの学習に使う半導体供給を受注し業績を拡大した。供給能力の向上に向けて、ブロードコムはラピダスを選んだとみられる。

今後、ラピダスを受託製造パートナーに選ぶ企業は増えることも想定される。次世代半導体の設計技術などで協力を表明した、米IBMやカナダのAI開発企業であるテンストレントなどだ。量産前だが、わが国に集積した高純度の半導体部材、製造装置メーカーなどの要素技術を結合することで、ラピダスが先端AIチップの良品率向上を実現するとの期待は高い。

■自動車に並ぶ基幹産業に育てられるか

ラピダスの成功は、今後の日本経済に決定的に重要だ。1990年代、わが国の半導体産業は競争力を失った。日本経済はデジタル化やIT化にも遅れた。それをカバーし、景気回復を支えたのはハイブリッド車を生み出した自動車産業だった。

今後、世界的にソフトウェアが、自動車などハードウェアの性能を決めるようになる。自動車産業が世界的な競争力を維持し、日本経済を支え続けるとは限らない。エヌビディアにとっても、TSMC以外の受託製造パートナーの増加は成長の実現に欠かせない。

ラピダスが先端AIチップの量産化を実現すれば、先端半導体の製造を委託する世界の企業は増えるだろう。それは、半導体部材などサプライヤーの成長を刺激し、TSMCなどの対日直接投資の増加を誘発する可能性もある。

現在、わが国に国際的な競争力を持つ先端半導体メーカーは見当たらない。もちろん、先行きは楽観できない。しかし、ラピダスが世界のIT有力企業の付託に応えて高付加価値の半導体を供給できれば、わが国がAI時代に対応することは可能だろう。自動車に続く成長分野として半導体分野の底上げを実現できるか否か、わが国の産業界は重要な局面を迎えている。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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