1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

「最初の半年はお金が出ていくだけ、貯金は底をつきかけた」熟練コンサルが明かす"経営コンサル業"の難しさ

プレジデントオンライン / 2025年1月21日 16時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/koumaru

経営コンサルタント業の倒産が増えている。何が起きているのか。2003年に百年コンサルティングを創業した経営コンサルタントの鈴木貴博さんは「倒産しやすいコンサル業には3つのパターン、破綻に至る要因にも3つのパターンがある」という――。

■経営コンサルタント業に資格は必要ない

企業の信用情報を提供する東京商工リサーチによれば、2024年の経営コンサルタント業の倒産が154件と、2023年に続いて2年連続で過去最高を更新したようです。

原因別では不況型倒産が全体の約3分の2と大半を占め、従業員数5名以下の事業者が全体の93%、資本金1億円未満の中小企業がほぼすべてを占めたといいます。

事業規模的に私の会社と同じ規模の会社で倒産が増えているわけです。幸いにして私の周囲の同業者が破たんしたという話は聞かない一方で、私から見れば事業構造を一番よく知っている業界ですから、何が起きているのかはだいたい見当がつきます。

経営コンサルタントの視点で、なぜ経営コンサルタントの倒産が起きているのか、分析してみましょう。

最初に、業界の概要から説明しましょう。経営コンサルタント業は他の士業と違ってそもそも資格が必要ありません。極端な話をすれば、自分が何らかの経営ノウハウを持っていると思った読者の方は今日からでも経営コンサルタントを名乗ることができます。

次に経営コンサルタントとして儲かるためにはそのノウハウがカネになることが必要条件です。クライアント企業がノウハウを習得することで1000万円儲けることができるから、コンサルタントに喜んで100万円の報酬を払うのです。

■小規模な会社の場合、専門化しているケースが大半

そして今回話題になっている小規模なコンサルタント会社の場合は、そのノウハウは何らかの切り口で専門化しているケースが大半です。例を挙げると、

・人脈をもっていて口利きができる
・補助金や行政への申請に詳しい
・IT分野で集客やSNS、セキュリティなど専門的な知識を提供できる
・不動産開発や出店など特定の領域で豊富な経験を持つ

というようなケースです。

たとえば私の会社は経営コンサルタント業ですが、最近、他の経営コンサルタントに頼ったことがあるので、わかりやすい事例として紹介します。インボイス制度が始まった際に、会計ソフトを新しくしたときの話です。

簡単に説明すると、新しいソフトの導入で20万円ほど費用がかかるのですが、国が補助金を用意していて申請すると15万円の補助がもらえるのです。あの時期、どの中小企業でも、

「なんでこんなインボイスごときに手間暇をかけさせられるんだ」

と立腹していた経営者が多かったと思います。ソフトを変えないと業務が立ち行かなくなるので高いソフトを購入せざるをえないため、その不満を軽減するためにこのような仕組みが作られたのです。

■IT投資の補助金申請のコンサルタントを利用した

ところがこのような補助金というのは、大半のケースでは申請が複雑怪奇につくられています。インボイスに対応したIT投資の補助金をもらう場合でも、まず政府のGビズIDという制度に登録したうえで、ITを使って経営を効率化する宣言をして、指定された業者を通じて会計ソフトを購入して、それを導入して経営が効率化した証拠をまとめて、報告書を記入する必要があります。

こういった補助金に関する行政文書は、一般の国民にはどうもわかりにくく書かれているようにしか思えません。別の話ですが、同じ年に私は自宅にEV用の電源を設置したことがあります。10万円ほどの投資で、補助金を申請すれば5万円ほど戻って来るという話がありました。ところがその申請フォームを何度読んでもよくわからずに申請を断念したことがあります。

そんなときに利用したのが、IT投資の補助金申請のコンサルタントでした。導入前と導入後に二度、オンライン会議の形で必要な申請手順をワンストップの形で教えてくれて伴走してくれました。そのおかげで無事、補助金をもらうことができたのです。

コンピュータオンライン会議
写真=iStock.com/itakayuki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/itakayuki

■最初の半年はお金が出ていくばかりだった

さて、このように経営コンサルタントにとっても経営コンサルタントは役に立つ存在なのですが、そのコンサルが破産するというのはどのような状況なのでしょうか?

20年以上前、自分がコンサル業を開業したときの話をさせていただきます。よくコンサルタント業は参入が容易だと言いますが、実は開業には結構な資金がかかります。私の場合、コンサル会社を卒業して自分で始めたという経緯でした。それこそ電話一本で仕事ができると考えていたのですが、開業当初、トータルで2000万円ほどのお金が必要で、預金通帳が底をつきかける経験をして驚いたものでした。

説明しますと、最初に事務所を借りたのですが、創業したばかりの会社が事務所を借りる際には信用がないことから敷金が6カ月もとられました。オフィス家具はニトリで、パソコンはデルで、インターネットは街角で無料で配っていたYahoo! BBで、といった具合にそれなりに節約して創業するのですが、やはり初期投資はかかります。

さて、知り合いの経営者をつてに、仕事をとって無事経営コンサル業を始められました。始めてみると、当然のことですが一番お金がかかるのは人件費です。昔の仲間に声をかけてプロジェクトチームを組成するのですが、コンサル料はプロジェクトが完了しないと入ってこない一方で、人件費は毎月出ていきます。最初にまとまった売上金の入金があるまでの約半年は、ほぼほぼお金は出ていくだけでした。

■すぐにサラリーマンに戻る人は結構いる

実はコンサルを始めてもうまくいかず、すぐにまたサラリーマンに戻る人は結構います。今回、経営破たん事例として統計に数えられている154件のケースは、すべて負債総額が1000万円を超えた事例です。つまり開業当初はうまくいって、業容が大きくなり、銀行からお金を借りていたけれども、最終的に破たんした事例がそれだけあったということです。

私の会社の場合は最盛期でも銀行からの借入金は5000万円で、今ではすべて完済しています。年齢的にも引退に近づいているので、もう倒産のリスクはないのですが、その意味で破産をする可能性があったのは、このように銀行から借り入れをしたうえで、従業員を増やしていた時期だったでしょう。

■倒産しやすいコンサル業のパターン

ここからは私のケースではなく、倒産しやすいコンサル業のパターンを説明します。オフィス街に事務所を構えて、従業員としてコンサルを5名抱えていて、銀行からは5000万円の借入金があるとします。

このような会社の場合、キャッシュフローの面では毎月1000万円程度の資金が出ていく構造でしょう。コンサル5名の給与と福利厚生費だけで月600~700万円。事務所も応接室や会議室が必要ですから家賃は月100万円を超えるでしょう。

パソコンと電卓
写真=iStock.com/solidcolours
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/solidcolours

コンサル会社の場合、R&Dに相当する出費もそれなりにかかります。各種セミナーに出席して新しいトレンドを勉強するとか、週3~4回は毎晩、どこかの経営者と会食をして情報収集するとかで、やはり月100万円以上の投資が必要です。

コンサル会社を経営する立場で申し上げると、このような状況に見合った収入が安定して入ってくる構造をつくることが必要です。

これはコンサル会社によって本当に様々なのですが、一例を挙げれば、会員企業が100社あって月々の顧問料が5万円入ってくれば、固定収入だけで月500万円と費用の半分をカバーできます。そのうえで月額数百万円の特別なコンサル案件が月3~4本安定して入ってくればこのような支出構造を維持できることになります。

■破たんにつながる「3つのパターン」

そしてその状況から急速に業績が悪化して破たんにつながる場合は、大別すれば3つのパターンに分けられるでしょう。

・属人的に顧客の支持を得ていたコンサルタント個人が突然いなくなる
・特需のように増えてきた仕事が、一転して激減する
・時代が変わりかつてのノウハウが通用しなくなる

といった3つのケースです。

一番目のケースは私の場合でも、最盛期に急に私が事故や重病で一線からリタイアする事態が起きていたら、うちの会社も無傷では済まなかったでしょう。このようなリスクは小規模なコンサル会社は常に抱えるリスクである一方で、経済全体では確率的にしか起きません。ですから、今話題になっているコンサル会社の倒産急増の主因ではないでしょう。

一方で二番目のケースは業界が常に抱えるリスクです。おそらく今起きている倒産急増現象の3分の2ぐらいはこの「特需がなくなる」という原因によるものではないかと私は推測します。

たとえば中国進出を専門ノウハウにしてきたコンサル会社があったとすれば、昨今の状況は極めて厳しい逆風になるでしょう。なぜなら日本を含む西側企業が急速に中国への投資を切り上げているからです。

■コロナ禍との関連も推測される

2023年頃から倒産が急増しているという点からは、コロナ禍との関連も推測されます。コロナ禍を機会に政府や自治体がさまざまな中小企業支援の制度を立ちあげたことで、それらの制度への申請を得意とするコンサル会社には特需が起きました。それで陣容を拡充したところ、一転してそれらの制度が終了したとしたらそれは大きな打撃になります。

マスクを外して空に掲げる手
写真=iStock.com/triocean
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/triocean

冒頭でもお話ししたとおり、コンサル業が成立する大前提は、あるノウハウを通じてクライアント企業が儲けることができるからです。その儲けの前提が変わってしまえば、需要は急に激減するのは当然ですが、事務所や従業員といった固定費は出費が続きます。

先述したインボイス制度や、マイナ保険証、グリーン税制など、世の中に新たな制度ができるたびにそこを狙ったコンサル業が成長するのですが、それらの制度や仕組みの中には狙い通りに拡大しないものや、逆に終わるものが一定数出てきます。制度に翻弄されるコンサル会社の破たんはそれなりに多いはずです。

そしてもうひとつ、これから先、不気味に増えるリスクを抱えているのが、3番目の理由として挙げた「コンサルのノウハウの陳腐化」です。

■「ノウハウ陳腐化」のサイクルが加速化する

この領域でわかりやすいものがDXによるビジネスの進化です。クライアントはITを武器に経営を革新させていきたいのですが、そのためにはどのITをどのように使うかが問われます。それについていけない旧世代のコンサルは、高齢の経営者への助言者としてしか生き残ることができません。

そして中堅のコンサルにとっても安心はできません。現在のDXはこれからの数年でAIをベースにしたDXに置き換わることが確実です。ノウハウ陳腐化のサイクルがこれから先、スピードを速めるのです。

ではこの先、コンサル業界はどうなるのでしょう。あくまで私見として述べさせていただくと、コンサルビジネスというのは本質的には、20代・30代で自身が得てきたビジネスの知見を、40代以降にノウハウとして販売するビジネスなのだと割り切って考えるのが重要だと思います。

■現在業界の中核を担うコンサルも寿命は長くない

そう捉えるとコンサル業界は人の新陳代謝が常に起きるビジネスだと理解できます。要するに、私のように1990年代から2000年代のビジネスシーンでノウハウをためてきたコンサルは、すでに引退の時期を迎えているのです。そして2010年前後に若手ビジネスパーソンとして活躍した人たちが、現在、DXでの変革を起こすコンサルとしては業界の中核を担っていますが、その寿命もそれほど長くないと自覚すべきです。

今、20代・30代として会社を牽引している若手は仕事を通じてAIの威力をまざまざと実感しているはずです。その世代がコンサルとして独立を始める近未来にはIT型のDXコンサルも引退を迎えます。その流れをふまえて計画的に事業継承ないしは事業縮小を行うことがコンサル業界には必要なのでしょう。

それが簡単にはできないから、今、経営コンサルタント業の破たんが増加するという現象が起きているのだと私は捉えています。

----------

鈴木 貴博(すずき・たかひろ)
経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AIクソ上司」の脅威』など。

----------

(経営コンサルタント 鈴木 貴博)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください