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「テストの点数でご褒美」「本1冊読破でご褒美」学力を上げるのは?…慶大教授の「科学的に正しい子育て」

プレジデントオンライン / 2025年1月21日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

親がどのようにアプローチすれば、子供の学力は上がるのか。慶應義塾大学教授で教育経済学者の中室牧子さんが、科学的な根拠に基づいてアドバイスする――。(前編/全2回)

※本稿は、『プレジデントFamily2025冬号』の一部を再編集したものです。

■Q 正しい「褒め方」は? >>「努力」を褒めて

このところ、「褒め育て」とでもいうような、子供を褒めることを奨励する教育論が花盛りです。では、褒めることが本当に子供の学力を上げるのでしょうか。

結論から言ってしまうと、褒め方によります。つまり下手に褒めてしまうと効果がなかったり、かえって子供のやる気を失わせてしまったりすることもあるのです。

コロンビア大学のクラウディア・ミューラー教授は、どんな褒め方が子供の成績を上げるのかを調査しました。

公立小学校の児童を対象にIQテストを受けさせて、その結果について、片方のグループは「あなたは頭がいいのね」などと生まれつきの能力を褒め、もう一方は「あなたはよくがんばったわね」と努力したことを褒めたのです。

その後、同じ子供たちに、さきほどよりもかなり難しめのテストを、そして最初に受けたのと同程度のテストを受けさせました。

結果、3回目に受けた、最初と同程度のテストで成績が伸びたのは、努力を褒めた子供たちだったのです。一方で、能力を褒められた子供たちは成績を落としてしまいました。

褒め方の違いによって、それぞれの子供たちには、成績だけではなく、テストへの取り組み方にも違いが表れました。

能力を褒められた子は、2回目の難しいテストでいい点が取れなかったときは、成績についてウソをつく傾向がみられました。さらに、成績が良かったときは「自分には才能があるからだ」と考え、成績が悪かったときは「自分には才能がないからだ」と考える傾向がありました。

つまり、生まれつきの能力のせいだと考えて努力をしなくなってしまった。だから、最終的な成績が落ちてしまったのだと考えられるのです。

対照的に、努力を褒められた子たちは、2回目の難しいテストに向き合っても、粘り強く解こうと挑戦する傾向がみられました。また悪い成績を取ったときには「努力が足りないせいだ」と考え、さらに努力をした結果、成績を伸ばすことができたのです。

このような「成果は生まれつきの能力によるのではなく、努力によって変えられる」という思考を「成長マインドセット」といい、学力や将来の収入につながる資質として注目されています。

英エセックス大学のスール・アラン教授は、研究プロジェクトに意欲的なトルコの公立小学校で介入調査を行いました。

介入した学校では研修をしたことで、教師たちが、生徒たちの結果だけではなく「努力」を褒めるようになりました。たとえば、毎日宿題をきちんと提出したことや授業中に良い質問をしたことなどを褒めたのです。

最新研究から子育ての疑問に答える新刊『科学的根拠で子育て 教育経済学の最前線』。
中室さんの新刊『科学的根拠(エビデンス)で子育て 教育経済学の最前線』(ダイヤモンド社)。

結果、児童たちは、「やり抜く力」が高まったことがわかりました。やり抜く力とは、ペンシルベニア大学のアンジェラ・ダックワース教授が、成功の要因として大事なのは、才能よりも「困難があっても粘り強く努力を継続する力」と定義したものでGRITと呼んで有名となりました。やり抜く力を伸ばすためには、成長マインドセットが欠かせません。

アラン教授の実験で、努力を褒められた子供たちは、行動も変化しました。難しい計算問題を出されると、たとえ答えを間違えても、再び挑戦するようになったのです。

さらに、成長マインドセットを身につけた効果は長期間続くこともわかりました。介入の2年半後に追跡調査をしたところ、介入群の生徒は数学の学力テストの偏差値で2近くも高かったのです。

親が子供を褒めるときは、テストの点数や成績が気になるものかもしれません。ただ、学力を上げたいのなら、普段子供たちがやっている宿題や学校でのがんばりといった努力を褒めてやるほうが理にかなっているのです。

■Q 子供を「ご褒美」で釣ってもいい? A 効果的なやり方は…

何も言われなくても自分から勉強に取りかかれる子はなかなかいません。少しでもやる気になってほしいと、ご褒美で勉強をするように仕向けることもあるのではないでしょうか。

なかには、ご褒美で釣るのはよくない、と後ろめたく思っている方もいるかもしれません。しかし、私はご褒美で釣ることは決して悪いことではないと思っています。経済学の研究によると、子供のうちに勉強しておくことが将来の収入につながることがわかっています。親が上手に手助けすることで机に向かうことにつながるのです。

では、どんなご褒美が効果的なのでしょうか。

①テストで良い点を取ったらご褒美をあげる。
②本を1冊読んだらご褒美をあげる。

この二つのやり方ではどちらが効果があると思いますか。

ハーバード大学のローランド・フライヤー教授の研究によると、後者のような「本を読んだらご褒美をあげるよ」「宿題を終えたらご褒美をあげるよ」といった具体的な“インプット”にご褒美をあげた子供たちの学力が顕著に上昇することがわかりました。一方で、「テストの点数が上がったらご褒美をあげるよ」といった結果=アウトプットにご褒美を与えたグループの学力はまったく改善しなかったのです。

100点と30点のテストの答案用紙
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

理由を考える鍵は、インプットにご褒美をあげた子供たちは、何をすべきかが明確なため行動に移しやすかったということでしょう。「テストの点数が上がったらご褒美」と言われても、何をしたらいいかは示されていません。具体的な行動に移せなかったり、学力を上げる効果のないことをがんばってしまったりしたのでしょう。

それでは、ご褒美には、どんなものを与えるのがいいのでしょうか。

シカゴ大学のスティーヴン・レヴィット教授の行った実験では、小学生にはお金よりもトロフィー(400円ほどの安物)のほうが大きな効果があったことがわかっています。子供が喜ぶような目に見える具体的なご褒美が、特に小さい子供の場合は効果があるようです。一方、中高生などでは金銭のほうが効果が大きいことがわかっています。

また、「宿題を終えたらご褒美」というのと、「次の誕生日が来たらご褒美」とでは、前者のほうが有効です。人間には、目先の利益が大きく見えてしまう性質があるからです。

以上から、効果的なご褒美の設計は、「インプット」に対して、すぐにあげるというのがよさそうです。

■学習習慣をつけるご褒美のあげ方は?

一度きり勉強に向かうのではなく、わが子には勉強「習慣」を身につけてほしいと親は思うものでしょう。お金によるご褒美が、良い習慣を形成することにつながることを示した研究もあります。

健康やダイエットのためにスポーツジムに通い始めたけれど続かなかったという経験をお持ちの方もいるのではないでしょうか。カリフォルニア大学サンタバーバラ校のゲーリー・チャーネス教授らは、大学生を対象に実験を行いました。

それによると、最初の1週間の間に1回以上スポーツジムに行けば25ドルが支払われ、続けて次の4週間で合計8回以上ジムに行けば追加で100ドルが支払われたグループは、実験直後もジムに行く回数が多く、さらに実験終了後、お金がもらえなくなった13週後にもジムに通い続けていたのです。

一方、最初の1週間だけにお金を支払われたグループと、お金を支払われなかったグループは、ジムに通う頻度は実験前と変わりませんでした。つまり習慣化のためには、①始めるときの抵抗感を和らげ、②ある程度の期間繰り返すことが必要だとわかります。その二つの壁を、ご褒美により越えさせてやれば習慣化につながるということです。

『プレジデントFamily2025冬号』(プレジデント社)
『プレジデントFamily2025冬号』(プレジデント社)

これは、子供が勉強習慣をつけるためでも同様に考えることができるでしょう。まずは最初の一歩を踏み出すための手助けとしてご褒美をあげる。そして1回だけではなく継続的にご褒美をあげ続けることで、習慣とするところまで見守ることが必要です。

注意すべきは、この実験では、もともとジムに通う習慣があった人は、お金を支払われたことでかえってジムに行く回数が減ってしまったことです。お金を報酬としたことで、もともとその人が持っていたスポーツへの関心や健康への意識が低減してしまったと考えられます。

このことから、お金をご褒美にして習慣形成につなげるには、まだ勉強習慣が身についていない子を対象にするといいことがわかります。もし、自分で学習計画を立てているような子供をお金で釣ろうとしてしまったら、本来の勉強への好奇心や興味を失わせてしまう結果になってしまうかもしれません。

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中室 牧子(なかむろ・まきこ)
慶應義塾大学総合政策学部教授
慶應義塾大学総合政策学部教授。慶應義塾大学卒業後、米ニューヨーク市のコロンビア大学大学院でMPA, Ph.D.を取得。専門は教育経済学。日本銀行等を経て、2019年から現職。デジタル庁シニアエキスパート(デジタルエデュケーション担当)、東京財団政策研究所研究主幹、経済産業研究所ファカルティフェローを兼任。政府のデジタル行財政改革会議、規制改革推進会議等で有識者委員を務める。日本学術会議会員(第26期)。テレビ朝日「大下容子ワイド!スクランブル」コメンテーター(木曜隔週)。朝日新聞論壇委員。著書に『「原因と結果」の経済学』(ダイヤモンド社)がある。 最近の論文には、 Takahashi, R., Igei, K., Tsugawa, Y., & Nakamuro, M.(2024). The effect of silent eating during school lunchtime on COVID-19 outbreaks. Social Science & Medicine Sato, K., Fukai, T., Fujisawa, K., & Nakamuro, M. (2023). Association between the COVID-19 pandemic and early childhood development. JAMA Pediatrics などがある。

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(慶應義塾大学総合政策学部教授 中室 牧子 構成=本誌編集部)

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