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2023年から2024年の急成長ぶりが凄まじい…半導体企業のスター「エヌビディア」と「日本のゲーム機」の深い関係

プレジデントオンライン / 2025年1月28日 8時15分

講演するエヌビディアのジェンスン・フアンCEO=2024年11月13日午前、東京都内 - 写真提供=共同通信社

仕事の視野を広げるには読書が一番だ。書籍のハイライトを3000字で紹介するサービス「SERENDIP」から、プレジデントオンライン向けの特選記事を紹介しよう。今回取り上げるのは津田建二著『エヌビディア 半導体の覇者が作り出す2040年の世界』(PHP研究所)――。

■イントロダクション

2024年6月18日、市場に衝撃が走った。米半導体大手エヌビディアの時価総額が約3兆3350億ドルに達し、世界首位に躍り出たのだ。生成AIの「頭脳」となる半導体の急成長によるものという。

今やGAFAMに2社を加えた、米国株式市場を代表するテック企業「マグニフィセント・セブン」の一員となった同社。どんな企業なのか。

本書では、日本では一般にあまり知られていないエヌビディア(NVIDIA)の、これまでの技術革新の道のりを、半導体やAI産業全体の現況とともに解説している。

エヌビディアは、ゲーム機で写実的な3次元グラフィックスを描くためのGPU(Graphics Processing Unit)を開発する企業として1993年にスタート。2024年ノーベル物理学賞受賞者の一人、ジェフリー・ヒントン氏が、2012年に、ニューラルネットワークによる高度な画像認識技術「AlexNet」を発表したが、その高速の機械学習にエヌビディア製のGPUなどが使われたことから、同社は一躍注目を浴びることになる。

著者は、国際技術ジャーナリスト、News&Chips編集長。日経BPにて、「日経エレクトロニクス」「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」等の編集記者、副編集長、シニアエディターを経て、アジア部長、国際部長などを歴任。海外のビジネス誌の編集記者、日本版創刊や編集長を経て現在に至る。

1.エヌビディアとは何者か
2.AIの技術開発と各国企業
3.世界半導体業界のトップへ
4.自滅した日本の半導体産業
5.工場を持たない、設計に特化したファブレス企業
6.半導体とは何か
7.注目企業と半導体のサプライチェーン
8.エヌビディアが注力してきたGPUとは何か
9.創業してからAIに辿り着くまでの道のり
10.広がる技術と、各国企業との幅広い連携
11.AI技術の進化は、半導体の進化でもある
12.現実のAI、これからのAI

■2023年から2024年にかけての伸びが突出している

エヌビディアは、2024年度第4四半期(23年11月~24年1月期)の売上額が主要(*半導体)他社の2023年の第4四半期(10~12月)と比べてトップになっている。1位のエヌビディアは221億ドル、2位TSMCが196億ドル、3位サムスンが158億ドル、4位インテルが154億ドルである。

エヌビディアの急成長ぶりは半導体企業全体のなかでも群を抜く。特に、2023年から2024年にかけての伸びは突出している。2023会計年度(2022年2月~2023年1月期)の売上額は269.7億ドルだったが、2024会計年度(2023年2月~2024年1月期)には売上額が609.2億ドルになっている。実に、2.26倍、126%もの伸びだ。

■日本のゲーム機隆盛による「大きな波」

エヌビディアは、1993年4月5日に、3人の創業者たちによって設立された。1人は今でもCEOを務めている台湾系アメリカ人のジェンスン・フアン氏である。フアン氏は、AMD(*大手半導体メーカー)でマイクロプロセッサの設計を手掛けており、その後、LSIロジック社でCore Ware製品のディレクターを務めた。

2人目は、サンマイクロシステムズ社のエンジニアだったクリス・マラコウスキー氏、3人目はIBMとサンマイクロシステムズでグラフィックスチップの設計者だったカーティス・プリエム氏だ。

彼らはシリコンバレーにある「デニーズ」で、パソコン上で写実的な3次元グラフィックスを描くチップに関するアイディアを議論していた。写実的な3Dグラフィックスを描くためには、パソコンではなくもっと高度なコンピュータが必要だった。

なぜ、創業者3人はグラフィックスチップを開発しようとしたのだろうか。共同創業者のクリス・マラコウスキー氏は、ビジネス誌『Forbes』(米国電子版/2016年11月30日付)のインタビューで、「次にくる『大きな波』が、日本で沸き起こっていると感じたからだ」と答えている。

ここで言う日本で起きている「大きな波」とは、ゲーム機のことだった。1990年代初めの日本では、ソニーのPlayStation、セガのセガサターン、任天堂のNINTENDO64といった家庭用ゲーム機におけるハードウェア性能競争が白熱していた。近いうちに3Dグラフィックス機能が家庭用ゲーム機に搭載されるとエヌビディアの創業者3人は確信していたのだ。

白い矢印が描かれたアスファルト
写真=iStock.com/FotografieLink
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FotografieLink

■任天堂のゲーム機Switchに採用された「Tegra」

デニーズでのディスカッションをベースに、資本金4万ドルでエヌビディアは創業された。当時のアメリカでは、ザイリンクスやアルテラ、クアルコムなどのファブレス半導体企業がすでに生まれていた。エヌビディアには4万ドルの資本金しかないため、工場を作らずにファブレスとして生きる道を選んだ。

そして、1997年についに、世に問う最初の本格的な製品GPU「RIVA 128」の発売にこぎつけることができた。エヌビディアのGPUは、パソコンのマザーボード(*主基板)に挿し込むドーターボード(*マザーボードに付属する小型プリント基板)としてのゲーム用カードに搭載される。「TITAN X」や「GeForce GTX 1080」といった製品名でグラフィックスカードとして市場に出た。

この製品は、競合他社に比べて約4倍の描画性能を持っていたため、エヌビディアはSTB Systems社やDiamond社、Creative社との取引を獲得し、1998年1月期に初めて単年度黒字を達成したという。それ以来、ゲーム機用のGPUの性能向上をさらに進め、ゲーム機用GPUとして不動の地位を確立した。

エヌビディアは、タブレットに使うモバイルプロセッサにも挑戦している。2011年のMWC(Mobile World Congress:世界最大級のモバイル関連展示会)では、モトローラ社のタブレット端末「Xoom(ズーム)」が「サクサク動いて絵がきれい」と大評判であった。ここにエヌビディアのTegra2が採用されていたのだ。

その頃、エヌビディアのGPUは「性能は優れているが、消費電力は10W(ワット)を優に超える」といったイメージを持たれていた。これを払拭したのが、先駆的なモバイルプロセッサといえる、このTegra2だった。その後、Tegraプロセッサは、2016年に任天堂のゲーム機Switchに採用され、急激ではないが着々と売り上げを増やしてきた。

■AIで成長が急加速した背景

エヌビディアの成長の要因は、なんといってもAIである。2012年に、CNN(畳み込みニューラルネットワーク)手法を使った、高度な画像認識技術がカナダのトロント大学のニューラルネットワーク研究者のジェフリー・ヒントン教授らのグループで開発され、「AlexNet」と名付けられた。

このAlexNetが使っていたディープラーニング技術に注目が集まり、以降ディープラーニング、機械学習の論文がうなぎ上りに増えていったのだ。

実は、このAlexNetのディープラーニングにはエヌビディアのGPUとソフトウェアCUDAが使われていた。大学や企業の研究者がディープラーニングを研究していくうちに、CPUで計算するよりもGPUで計算するほうが学習は速く進むことに気がついたヒントン教授によって、論文として発表された。その論文を読んだエヌビディアのエンジニアが、ニューラルネットワークを使ってGPUを動作させてみると、画像認識の精度が上がることがわかったという。

卒業キャップ、本、ラップトップ
写真=iStock.com/LumiNola
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/LumiNola

■2021年度からの「2つの事業の柱」

エヌビディアは、それまでゲーム機用の画像処理のGPUを中心に開発をしていたが、AlexNetの登場以降、AIについても研究をし始めた。その結果、ゲーム機に使っていたGPUがAIの基本モデルであるニューラルネットワークの演算に使えることがわかり、GPUでAIの学習・推論の性能を上げるための技術開発に取り組み始めたのだ。

エヌビディアは、2021年度からはグラフィックス部門とコンピュート&ネットワーキング部門の2つを事業の柱とすることに変更した。

グラフィックス部門に分類されたのは、ゲーム機やPC向けのGeForce GPU、ゲームストリーミングサービスや関連するインフラ向けのGeForce NOW、企業向けワークステーションのグラフィックス向けのQuadro/NVIDIA RTX GPU、クラウドベースのビジュアルおよびバーチャルコンピューティングのvGPU、インフォテインメントシステム向けには自動車用プラットフォームである。

コンピュート&ネットワーキング部門に分類されたのは、データセンターのプラットフォーム、AIやHPC(スーパーコンピュータなどの高性能コンピューティング)のアクセラレータに向けた応用、買収したメラノックス社のネットワーキングとインターコネクトソリューション、自動車のAIコックピット、自律運転開発、自律運転のビークルソリューション、そしてロボットや組み込みシステム用の「Jetson」などである。

■AIやコンピュータはほぼすべての産業で必要とされる

現在、エヌビディアのソリューションビジネスは、6つの領域から成り立っている。(1)AI、(2)データセンターとクラウドコンピューティング、(3)デザインとシミュレーション、(4)ロボティクスとエッジコンピューティング、(5)ハイパフォーマンスコンピューティング、(6)自動運転車両である。

AIやコンピュータの活用は、さまざまな業界に及ぶ。製造業や金融、社会インフラ事業、運輸交通、通信、医療・ヘルスケア、教育、環境、経済、気象情報などほとんどすべての産業で必要とされている。このため、エヌビディアのブログホームページを開けてみると、パートナーシップを結んだというニュースがずらりと並んでいる。

■あらゆるソリューションを提供できる「プラットフォーマー」

津田建二『エヌビディア 半導体の覇者が作り出す2040年の世界』(PHP研究所)
津田建二『エヌビディア 半導体の覇者が作り出す2040年の世界』(PHP研究所)

例えば、製造請負サービスの台湾フォックスコンや、企業向けERPソフトウェアのドイツのSAP、欧州のデジタル銀行Bunqなどの名前が並んでおり、さまざまな産業とパートナーシップを組んでいることを窺い知ることができる。エヌビディアパートナーネットワークのウェブサイトを見ると、1137団体ものパートナーがいる。

エヌビディアの、ゲーム分野、コンピューティング分野、AI分野に共通する強みは、GPUグラフィックスプロセッサという「ハードウェア」、並列演算を容易にするCUDAという「ソフトウェア」、さらにはカスタマイズや検証するための開発環境など、システム化するために必要な技術を盛り込んだソリューションすべてを提供できることである。

同社は自らを「プラットフォーマー」と呼んだりしている。また、最近のフアン氏は、「AIファウンドリ」と呼んでいる。

※「*」がついた注および補足はダイジェスト作成者によるもの

■コメントby SERENDIP

エヌビディアの戦略には、当たらなかったものもある。ダイジェスト本文にある、同社のTegra2を採用したモトローラ製のタブレット「Xoom」は、後発のiPad 2に駆逐されてしまった。だが、エヌビディアの幹部の一人は、創業者兼CEOのジェンスン・フアン氏について「10年単位で考える能力を持っている」と評している。目先でうまくいかなくとも、コアな技術を磨いておけば、10年後には需要が出てくる可能性がある、と判断したのだろう。実際、2012年にAlexNetが発表され、その10年後の2022年にChatGPTが登場している。あらゆる可能性を見据えて、基盤となる強みを伸ばしていくのは、不確実な時代のリーダーに欠かせない判断といえるのかもしれない。

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(書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」)

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