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なぜホワイト企業で「退職代行」が使われているのか…「連休明けに社員がバックレる」職場の意外な共通点

プレジデントオンライン / 2025年1月22日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gyro

退職代行サービス「モームリ」の運営会社によると、連休明けの1月6日、過去最多となる256件の退職依頼があったという。経営コラムニストの横山信弘さんは「退職代行の登場は2000年代後半から2010年代初頭とされていて、最近登場したサービスではない。利用者が急増している背景には、3つのポイントがあるのではないか」という――。

■9連休明けに依頼殺到した「退職代行サービス」

今年の年末年始の休みは長かった。「奇跡の9連休」とまで言われるほどだった。

しかし、この長い冬休みのあとに、企業を震わせる驚きの事態が待っていた。退職代行を利用して会社を去る人が急増しているという。

若い世代だけでなく、50~60代でも利用が増えているらしい。退職代行は簡単に退職を進められる反面、会社側や残る社員にとっては複雑な問題をもたらすことがある。なぜ人々は退職代行を使うのか。そして、このような動きは職場を健全化するのだろうか。

意外なことに、必ずしもブラック企業や労働環境の悪い企業だけが退職代行を使われているわけではない。

今回は退職代行を利用する人、そして利用される職場の課題について考察する。退職代行サービスの利用を検討している人や、人材管理に悩んでいる企業担当者は、ぜひ最後まで読んでもらいたい。

■マジメすぎて退職を言い出せないという人も

退職代行とは、利用者に代わって会社へ退職の意思を伝え、必要書類の手配などを行うサービスのこと。特長は、利用者が直接上司や会社にコンタクトをとらなくても手続きを進められる点だ。

とりわけハラスメントの恐れがある場合や、強い引き止めにあって心労が募るケースなら、こんなに心強いサービスはないだろう。さらに最近では、マジメすぎて自分で退職を言い出せない人も利用しているという。

長い休暇明けは心も体もリセットされやすい時期だ。日ごろの仕事や職場環境への不満が一気に噴き出すことがある。年末年始やゴールデンウィークなどの長期休暇直後に利用者数が急増するのはこのためだ。

私の知人の会社でも、年明けにいきなり2人、退職を申し出されたと言って嘆いていた(退職代行サービスを利用されたわけではない)。

■利用者急増の背景に「3つのポイント」

退職代行サービスが注目を集めるのは、単に「簡単に退職できる」という利便性だけが理由ではない。近年の働き方や価値観の変化も多いに関係しているだろう。情報の拡散スピードが上がったことも無視できない。

こうした背景を理解するため、以下3つのポイントでまとめてみた。

(1)働き方や労働観の変化
(2)SNSやネットニュースによる情報拡散
(3)職場内コミュニケーションの不足

それでは、一つ一つ解説していこう。

(1)働き方や労働観の変化

終身雇用が崩れ、転職やキャリアチェンジが当たり前になりつつある現代。「合わない会社に長くとどまる必要はない」という考えが広がっている。タイパ(タイムパフォーマンス)を重視する若年層どころか、50~60代でも増えている。

自分の人生を再設計する動きが活発になったことが要因だろう。

(2)SNSやネットニュースによる情報拡散

退職代行は、2000年代後半から2010年代初頭にかけて日本で登場した。最近登場したサービスではない。

このサービスが昨今、とくに注目されるようになったのは、当然SNSやインターネットニュースの影響が大きい。SNSやネット記事で、具体的な体験談が瞬く間に共有されるようになった。利用の手順や料金も公開されており、「自分でも使えるかもしれない」という安心感が、退職代行への敷居を低くしていると言える。

(※ちなみに海外では、一般的ではない。多くの国では退職は個人の当然の権利とされているからだ。このようなサービスの必要性が低いと言える)

(3)職場内コミュニケーションの不足

ハラスメントの問題だけでなく、マジメすぎて退職を言い出せない人や、引き止められて精神的に疲弊した人が退職代行を選ぶケースも無視できない。

もし上司や人事との対話がこまめに行われていれば、ここまで追い詰められずに済んだ可能性もある(筆者の私見である)。実際は相談の場がなかったり、指導者が部下の本音を汲み取れていなかったりする状態が続き、結果として退職代行につながっているのではないか。

【図表1】「退職代行サービス」利用料の相場は…

■使われるのは「ブラック企業」だけではない

退職代行というと、使われるのは「パワハラ体質の企業」「残業の多い会社」といった負のイメージが先行する。しかし現実はそう単純ではない。

意外なことに、社員教育に熱心で人間関係の良好な企業でも退職代行が使われるケースがあるのだ。なぜだろうか?

たとえば熱心な上司との関係が良好であるがゆえに、退職の意思を伝えられないことがある。熱心な指導を受け、期待にこたえられないことへの後ろめたさから、直接の対話を避けてしまうというのだ。同期との絆が強い職場でも、裏切り者になりたくないという思いから、退職代行に頼るケースもある。

立って話しているビジネスマン
写真=iStock.com/imtmphoto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/imtmphoto

どちらも一見すると健全な職場に思える。しかし、そのような職場だからこそ、退職代行のニーズが生まれてしまう。「ブラック企業だから退職代行を使うのだ」という単純な構図では語れない実態があることを、企業は理解しておく必要があるだろう。

■「レッテル」を貼られてしまう可能性

また、働く人の価値観の変化も退職代行サービスの利用が増えている要因だ。

しかし、退職代行は利用する人にとってメリットばかりではないだろう。当然、デメリットもあるのではないか。

精神的な負担を軽減できることは、利用者の大きなメリットだ。直接の対話による心労を避け、スムーズに次のキャリアへ移行できる。

では、デメリットは何か? 最も大きいのは、今後のキャリアにおける評価への影響だろう。退職代行をよく利用される企業も特定されてしまうだろうが、その逆もしかり。とくに狭い業界であれば、瞬く間に伝播する。

「履歴書を見てピン! ときた。退職代行を使ってA社を辞めた営業は、この人だ」
「A社はブラックでもないのに、退職代行を使って辞めるなんて……」

正当な理由があるのかもしれないが、

・A社を辞めた営業
・退職代行サービスを使ってA社を辞めた営業

とでは、あまりにも印象が違う。面接する前から、レッテルを貼られてしまう可能性はゼロではないだろう。転職市場では「退職時の対応」も重要な評価ポイントとなるからだ。

たとえ退職代行の利用歴がレファレンスされなくとも、その経験によって「逃げグセ」がついてしまうこともある。常識的に考えて「退職代行を使うぐらい切羽詰まった状態」だったのか。それとも、そこまででもなかったのか。

礼節を重んじるなら、お世話になった上司や先輩に自分の口で退職意向を伝えるべきなのが、一般的な常識だ。一度「逃げグセ」がついてしまうと、ミスや失敗など、都合の悪いことを報告できない人になってしまう可能性もある。

デメリットについてもよく理解したうえで利用したほうがいいだろう。

■企業にとっての「危険信号」

私がコンサルタントとして考えさせられるのは、退職代行と職場健全化の関係だ。

たしかに、退職代行の利用が広がることで、一部のブラック企業に厳しい現実を突きつけることになる。ハラスメントが横行する社風を放置すれば、優秀な人材ほど早めに去っていく可能性があるからだ。

ブラック企業とまでは言えなくても、何らかの組織の問題を抱えている企業も「なぜ自社で退職代行が使われるのか」を考えざるを得なくなる。

上司との関係性や企業の労働環境など、解決すべき課題が隠れている可能性が高い。もし上司のパワハラや理不尽な引き止めが原因だとすれば、会社として何らかの対策は急務だ。

退職代行の利用は、企業にとって一つの「危険信号(アラート)」と言ってもいいかもしれない。

赤信号
写真=iStock.com/CG6 Images
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/CG6 Images

■「一時的な流行」ではない

退職代行サービスが一時的な流行で終わるとは思えない。転職サービスと同様に、ある一定のマーケットを掴み、発展し続ける。人々の労働観が変化する中で、退職代行が担う役割はこれからも大きくなるはずだ。

私は経営コンサルタントとして、どちらかというと企業側に立つ人間だ。そういう点からしても、優秀な人材が退職代行で去る事態を黙って見過ごすわけにはいかない。

退職代行サービスの登場は、企業と従業員の関係に大きな転機をもたらしたといえる。

今後、退職代行の事業者は、コンサルティングを含めた新しいサービスを次々と登場させ続けるだろう。だが真に健全な職場を求めるなら、企業の自助努力が不可欠だ。とくに上司と部下との、絶え間ないコミュニケーションと理解が欠かせない。上司側だけでなく、部下側にも主体性が求められる。

退職代行が生む波紋を他人事とせず、問題を直視することが、組織と個人のよりよい未来につながると考える。

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横山 信弘(よこやま・のぶひろ)
経営コラムニスト
1969年、名古屋市生まれ。アタックス・セールス・アソシエイツ代表取締役社長。企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。15年間で3000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラム、昨今はYouTubeチャンネル「予材管理大学」を通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。メルマガ「草創花伝」は3.8万人超の企業経営者、管理者が購読する。著書に『絶対達成マインドのつくり方』『絶対達成バイブル』など「絶対達成」シリーズのほか、『「空気」で人を動かす』などがあり、その多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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(経営コラムニスト 横山 信弘)

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