1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

プライドある大人に身だしなみを注意…職場で“気まずい指導”が必要なとき、一流が使う“鉄板のシナリオ”

プレジデントオンライン / 2025年1月23日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/years

職場で部下に指導をするとき、どう伝えるといいか。人材育成事業を展開するラーンウェル代表の関根雅泰さんは「相手の言動を変えてほしい時は、まずは『良い点』を伝え、次に改善点を1つだけ指摘するといい。その上で、今後どのような言動を取ろうと考えているのか、本人に言わせることだ。自分の口に出して言った言葉であれば、より納得性の高い約束になる」という――。

※本稿は、関根雅泰『改訂新版 オトナ相手の教え方』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。

■相手の言動の変化を手助けする3つのポイント

これまでの経験、自分なりの考え、プライドもある大人相手に、自分の言動を変えてもらうのは難しいものです。

10年、20年、それが当たり前だと思って過ごしてきた行動や考え方を変えるためには、かなり意識して直さなければならないからです。ただ、少し厄介なだけで、不可能なわけではありません。

そこで、変化の手助けをよりスムーズに行えるポイントを3つ挙げたいと思います。

ターゲット(標的)
シナリオ(筋書)
フォロー(追跡)

です。

次から1つずつ見ていきましょう。

まず、ターゲット(標的)を明確にします。ここでいうターゲットとは、相手の変えてほしい言動のことです。私たちが「変えてほしい」と考えるということは、その言動はどちらかというと「悪い」あるいは「望ましくない」言動であるといえるでしょう。例えば、服装、立ち居振る舞い、言葉遣い、お客様や周囲の人への接し方、仕事の進め方などです。

会社のメンバーとしてふさわしくない言動があるならば、改善してもらう必要があります。誤ったパソコンの操作方法や資料作成の仕方、TPOにそぐわない身だしなみなど、仕事上必要な最低限の知識から教えなければいけない場合もあります。

■「良い言動」と「悪い言動」の両方をターゲットにする

それだけではなく、あいさつをしない、返事の声が小さい、お礼が言えないなど、教える立場の私たちとしては、正直「そんなことまで言わなくちゃいけないの」と思いたくなるようなことを指導することもあるかもしれません。

特に、指摘する内容がマナーや言葉遣いなど、基本的な内容であればあるほど大人相手に言いづらくなりますが、それらの「悪い言動」を「望ましい言動」に改めるように指導しなければなりません。

ちなみに「良い言動」あるいは「望ましい言動」は、そのまま「続けてほしい言動」になります。「悪い言動」だけではなく、相手の「良い言動」もきちんと把握しておきます。

その言動が「望ましい」ものであるということが本人に伝われば、その後もその言動を続けてくれる可能性が高くなるからです。逆に、いつも「悪い言動」ばかり指摘されていたら、相手も嫌になってくるでしょう。

「変えてほしい言動」というターゲット(標的)を設定する目的は、「現状と目標の差」を埋めるためです。「変えてほしい言動」(現状)は何で、「望ましい言動」(目標)は何なのか、教える私たちがはっきりさせておく必要があります。

ターゲット(標的)というぐらいですから、相手の言動をよく観察する必要があります。的がきちんと見えていないと、当てることもできないので、明確にさせることが大切なのです。

「望ましい言動」について考える際には、職場の他のメンバーの「良い言動」も参考にしてみてください。

■「変えてほしい言動」は1つに留める

ターゲット(標的)という「変えてほしい言動」が明確になったら、次はシナリオ(筋書)を作ります。

シナリオ(筋書)といっても大げさなものではなく、「こういう順番で、こんな感じで伝えよう」と大まかな流れでかまいません。大人の言動を変えてもらうというのは、相手のプライドの問題もあり、かなり難しいことです。そのような難しいことに挑戦するわけですから、私たちも事前にある程度の準備をする必要があるのです。

シナリオ(筋書)の大まかな流れを考える時は、次の2つを参考にしてみてください。

「良い点から改善点へ」
「吐く・吸う・吐く」

相手の言動を変えてほしい時は、まず「良い点」から伝えます。「良い言動」は今後も「続けてほしい言動」なのですから、それらの言動はこれまで通りしっかり継続してもらえるよう伝えます。行動分析学では、良い言動を誉めることで、その言動が「強化」され、繰り返されるといわれています。

オフィスで話しているアジアのビジネスマン
写真=iStock.com/itakayuki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/itakayuki

「Aさんは掃除を本当によくやっていると思います」

「Aさんは、電話営業の時の声がいいですよね」

「Aさんが作成してくださった資料、見やすくてすごく助かりました」

など、こちらが相手のことをきちんと見ているということを伝えるのです。そのためにも、抽象的な言い方ではなく、具体的な言動を伝えることが大切です。

下手に、「すごくいいですよ!」と言っても、何が良いと感じているのかはっきりしていないと、「この人、何を言っているんだろう」とかえって不信感を抱かせてしまう可能性があるからです。

■改善点は、まずは1つに留める

この後、耳に痛いことを言わなくてはいけないわけですが、相手を誉めるというワンクッションを入れることで、相手も「ここまで見てくれているこの人に言われるなら仕方ない」と思ってくれる可能性が高まります。

「良い点を伝えてから、改善点を伝えてください」と言うと、ここの切り替えを難しく感じる人もいるのですが、「今伝えた点は、良い点として今後も続けてほしいんですが、1つ改善してほしい点があるんですよ」と前置きをしてから、改善点の指摘に入っていけば、よりスムーズに改善点の話ができるようになります。

良い点を伝え終わったら、改善点を伝えましょう。改善点も良い点同様、何をどうしてほしいのか具体的に伝えるようにしてください。

【図表1】シナリオを参考に指導している例
出典=『改訂新版 オトナ相手の教え方』

また、改善点は、あれもこれも言わずに、まずは1つに留めることをおすすめします。私たちがついやってしまうのが「あれもこれも」伝えてしまうことです。私たちも言いたくないことを言っているので、少し感情的になったりすると「この機会に、まとめて言ってやろう!」と歯止めが利かなくなることもあるでしょう。

しかし、一方的に改善点を伝えた場合、実際は半分以上伝わっていないことが大半です。相手も大人ですから神妙に聞いてくれていますが、心の中では納得がいってなかったり、あるいは聞き流していたりするからです。

こういう厳しいことを言う場面では、「言うべきことを言った」ことに満足し、「これで自分の役目は果たした」と考える人もいますが、教える側が目指している目的は「現状と目標の差」を埋めることであり、ターゲット(標的)である「変えてほしい言動」が目標である「望ましい言動」に変わらなければ意味がないのです。

相手にとっては耳が痛いことを言われているので、一度にあれこれ言ってもいきなりは変われません。ターゲット(標的)である「変えてほしい言動」は、絞り込んだほうがよいでしょう。

そして、この「改善点を伝える」時は、「吐く・吸う・吐く」を意識するのをおすすめします。

【図表2】教える側が、一方的に叱っている悪い例
出典=『改訂新版 オトナ相手の教え方』

■今後の言動を「本人に言わせる」

良い点を伝えたら、「改善点」を指摘し、それに対する自分の考えや意見、時には反論や言い訳をきちんと吐き出してもらいましょう。

私から見ると、Aさんの報告の仕方は間違っているところがあるようにも思うのですが、Aさん自身はそのことについてどう思いますか?

といったように、相手に吐き出してもらうためのきっかけとして、改善点の指摘はさらっと行うようにします。相手が自分の意見や考えを吐き出してくれたなら、その上でこちらの言い分を吸わせます。

Aさんの考えも十分に理解できます。ただ、クレームがあった時の報告については今後改善してほしいと思っています。クレーム対応は、丁寧さも大切ですが早さも重要になってくるので、概要だけでも先に伝えてもらいたいです

と、改善してほしい理由(Why)と共に伝えます。具体的な改善点を伝えた後は、もう一度「吐かせ」ます。こちらの言い分を吸わせた上で、さらに反論があるなら吐き出してもらいます。その上で大事なのは「今後の合意」です。

あまり良い話ではなかったと思いますが、今回の話を聞いて、今後Aさん自身はどうしようと思いますか?

と、今後どのような言動を取ろうと考えているのか、相手に言わせるのです。ここで相手が言ってくれた内容が、今後、実際にやっていく言動ということで、次のフォロー(追跡)につながっていきます。

ここでのポイントは、今後の言動を「本人に言わせる」ことです。こちらが「今後、クレームが発生した際には、出先からでもいいのですぐに連絡するようにしてください」と言ってしまうのではなく、相手に言わせましょう。

自分の口に出して言った言葉であれば、より納得性の高い約束になります。そのためにも、「今後、どうしますか?」と問いを投げかけた後の「間」が重要になります。

相手が考え、言葉を出すまでの「間」を取ること。沈黙に耐えきれず、こちらが言葉を挟まないよう、我慢してみてください。

そして、もう1つアドバイスをするとしたら、教える側と教わる側とで、良好な人間関係を築いておくということです。

「改善点を指摘する」という、相手にとって厳しいことを言い、それをきちんと受け止めてもらうためには、「この人に言われるなら」と相手に思われるような信頼関係が必要になってくるからです。

■相手のモチベーションを上げる教え方

人に何かを教える際に「改善点を指摘する」と、当然ですが相手は落ち込みます。厳しい指摘を言われたことで、今後の仕事に対するモチベーションが下がってしまうかもしれません。

先ほどの「吐く・吸う・吐く」パートのように、「今後の言動」を本人が言ったとしても、その通り動いてくれるかは分かりません。もしかすると、相手も「とりあえず、ここではこう言っておかないと」という心理が働いているかもしれないからです。

そうならないよう、最後には相手のモチベーションを上げて、「よし! やってみよう!」という気持ちにさせる必要があります。では、どうすれば相手のモチベーションを上げることができるのでしょうか。

ここでは、モチベーションが上がった状態を、「よしやろう!」と本人がやる気になり行動できる状態と定義します。これは、心理学の用語でいうと「自己効力感」が高まった状態と言えます。

「自己効力感」とは、心理学者のA.バンデューラが提唱したもので、「自分ならできる!」という自信を意味します。この「自己効力感」を高めるために、私たちができることは次の4つです。

■自己効力感を高める4つの働きかけ

達成経験のリマインド

達成経験のリマインドとは、次の例のように本人の過去の「達成経験」を思い出させることです。「前にAさんは、似たような状況で○○ができていましたよね。だから、今回も同じようなやり方でできるのではないでしょうか」。本人が過去に達成したことこそが、現在の自己効力感の土台になります。いったんは失ったかもしれない自信を取り戻してもらうことが大事です。

オフィスで話しているアジアのビジネスマン
写真=iStock.com/itakayuki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/itakayuki
他者事例の提示

他者事例の提示は、他の人がやったことを参考例やモデルとして見るよう提案することです。例えば「他部署のBさんは、○○というやり方でやったみたいですよ。Aさんなら、何かヒントにできるのではないでしょうか」と言ったように相手に伝えます。他者事例を提示する際の注意点は、あまりにレベルが違いすぎる相手の事例を出さないことです。「あの人は特別で、自分には無理」と感じさせてしまわないよう、注意が必要です。

励まし

励ましは、「Aさんならできますよ! 大丈夫!」のように、こちらが相手を信頼していることを伝え、直接的に元気づけることです。抽象的な言葉でもいいので、感情を込めて本気でそう思っていることを伝えます。

心身のケア

心身へのケアは、相手の心と身体に配慮することです。心身の状態が悪い中では、なかなか自信は取り戻せませんし、やる気も起きません。「今日は色々あって疲れたでしょうから、まずは帰ってゆっくり休んでください。少し落ち着いてから、また話しましょうか」といったように少し時間を置き、心身が整うことで本人の自信が戻ってくることがあります。

ここで紹介したような4つの方法を使って、本人の自己効力感を高め、「よしやろう!」と思ってもらえる働きかけをしましょう。

■相手が変わるまで気長に見守る

「相手の変化を手助けする」の仕上げは、フォロー(追跡)です。

「変えてほしい言動」(ターゲット)を相手に「改善点」として筋書(シナリオ)を通して伝えたとしても、次の日から相手の言動が変わることはないでしょう。

本人なりのこだわりがあったり、プライドが邪魔をしたり、あるいはそうでなくても、今まで慣れ親しんだ言動を変えていくのは困難なものです。

そこで必要になるのが、「フォロー(追跡)」です。

関根雅泰『改訂新版 オトナ相手の教え方』(クロスメディア・パブリッシング)
関根雅泰『改訂新版 オトナ相手の教え方』(クロスメディア・パブリッシング)

「今後の合意」で約束した言動をきちんと行えているのかを見ていきます。きちんとできているならば、良い点として伝えます。例えば、「Aさん、あれから報告についてきちんと実践されていますね。さすがです」といったように、その都度声を掛けるようにします。

繰り返しになりますが、大事なのは相手の言動をよく観察することです。仮に「今後の合意」で約束したことができていないとするならば、また折を見て伝えることも必要になるかもしれません。

手間はかかりますが、大人の行動はそう簡単には変わりません。私たち自身もそうでしょう。数日、数週間で変わる時もあれば、場合によっては数カ月あるいは数年かかってしまう時もあるでしょう。その時は、気長に見守るぐらいの覚悟も必要になってきます。

最後に、大事なことを1つ付け加えさせて下さい。相手に「変わってほしい」と思った時は、まず自分の行動を省みることも必要です。

例えば、相手に自分のことを「もっと感謝してほしい」と思った時には、まずは自分が相手に感謝してみるなど自ら態度で示すことで、信頼関係が築かれ、教わる側も受け入れやすくなります。

----------

関根 雅泰(せきね・まさひろ)
ラーンウェル 代表取締役
1972年埼玉県生まれ。南ミシシッピー大学卒業後、二社での営業、講師経験を経て、2005年、研修会社ラーンウェルを設立。2010年、仕事をしながら東京大学大学院へ進学。「経営学習論」の中原研究室に参加。新人の組織適応やOJTについて研究。2013年、学際情報学修士号取得。企業研修での専門分野は「教え方」(現場でのOJTや社内講師の養成)。NBSオンライン講座「部下後輩が育つ!上手な仕事の教え方入門」、ダイヤモンド社「研修開発ラボ」等を担当。

----------

(ラーンウェル 代表取締役 関根 雅泰)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください