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黒柳徹子さんには"正解"への強い執念があった…「世界ふしぎ発見」で草野仁がやっていた"黒柳対策"の中身

プレジデントオンライン / 2025年1月30日 18時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/webphotographeer

どうすれば会話が上手くなるのか。テレビキャスターの草野仁さんは「“自分が言いたいこと”を伝えるだけでは、会話が終わってしまう。相手に合わせた言葉遣いや、その先の反応まで意識するといい」という――。(第2回)

※本稿は、草野仁『「伝える」極意』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

■「相手が話を聞いてもらえる状態」に持っていく

Q:すぐに機嫌を損ねることで有名な大物と遭遇。取るべき行動は?
①先入観を捨てて、自ら挨拶する
②怒られそうなので、話しかけられるまでは黙っておく

うまく伝えるためには、相手の気持ちをほぐし、話を聞いてもらえるような状態にもっていく工夫も大切です。私は、司会を務めている番組では必ず、私のほうからゲストの方の控え室にご挨拶に伺っています。

ゲストには、大変度胸の据わった方、緊張でそわそわなさっている方と、いろいろな方がいらっしゃいます。本番前に少し柔らかめのお話をして、気持ちをほぐしてあげるのは、番組をうまく運ぶ上でも欠かせないことです。

『日立 世界ふしぎ発見!』では、初めてのゲスト、若いゲストも多くいらっしゃいましたから、必ず控え室に訪ねて行き、番組に関係のないことも交えつつ、ひとしきりお話をして、気持ちを和ませてあげるようにしていました。司会者がゲストの方を訪ねることは珍しいと聞いていたので、他ではあまりやっていないのかもしれませんね。

そのことで言うと、ヤクルトスワローズや楽天ゴールデンイーグルスなどの監督を務めた野村克也(のむらかつや)さんと、妻の沙知代(さちよ)さんのことを思い出します。

■“野村克也に近づこうとする人”は少なかった

1993年から1997年まで司会を務めた、朝日放送の『朝だ! 生です旅サラダ』では、野村夫妻がシークレットゲストとして登場したことがありました。本番は朝8時半からでしたが、お二人は7時にはそろって控え室に入ってこられて、スタジオ内をあちこち歩いたり、廊下の自動販売機を見たりして、少し落ち着かない様子でいらっしゃいました。

それを見て、私は「これはひとつ、先にお伺いしよう」と思い、控え室のドアを叩きました。「おはようございます。草野仁でございます。今日はひとつ、よろしくお願いいたします」と挨拶すると、野村克也さんは「おお」と喜んで迎えてくださいました。後日、「草野君のおかげでリラックスして本番に臨めた」と、大層喜んでいらしたことを聞きました。

プロ野球ファンの間では周知のことですが、野村さんはこだわりのある方で、それがわかっている人は、事前に野村さんにあまり近づいていこうとはしませんでした。私は、そのような態度は一切見せずに、よいお話をいろいろと差し上げたところ、思った以上に打ち解けることができたのです。

たとえ相手がどんな立場の方でも、壁を作ったり受け身になったりすることなく、自分の方から心を開いていくことは、一人の社会人としても身につけるべきことと言ってもよいでしょう。

■黒柳徹子は「正解したい」思いが強かった

Q:たとえれば、会話は何と同じ?
①壁打ちテニス
②野球のキャッチボール

1986年から2024年まで、38年間続いた『日立 世界ふしぎ発見!』は、世界各地を訪れた「ミステリーハンター」が出すクイズに答えていただく番組です。

クイズとひとくちに言っても、AかBかといった二択でもないし、手がかりとなるキーワードも与えられません。ミステリーハンターがレポートする映像を見て、自分で一から答えを導き出すことが求められます。

そこで、考えるきっかけを求めて、司会者の私にいろいろな質問が飛んでくるわけです。放送では、やりとりの時間はそれほど長くないように見えるでしょう。ですが実際には、結構長い時間、いろいろなヒントを差し上げていました。

中でも、レギュラー解答者の黒柳徹子(くろやなぎてつこ)さんは、「正解したい」という強い執念をおもちでした。映像を流しているときヒントになりそうなことは全てメモを取り、私とのやりとりもメモに取る。そうやって、答えを出すために役立つと思う情報を貪欲に集め切って、「さて正解は何か」と考え始めるという具合です。

首相官邸に入るユニセフ親善大使の黒柳徹子さん=2023年6月30日
写真=共同通信社
首相官邸に入るユニセフ親善大使の黒柳徹子さん=2023年6月30日 - 写真=共同通信社

■「相手に合わせたやりとり」がいい

そんな黒柳さんの質問に正面から答えていると、なかなかいいところに食いつかれて、あやうく正解につながりそうになることがあります。ですから「なるほど、この質問で私がこう返したら正解だと思っているな」と気付いたら、核心から少しそれた返しをしていました。

また、質問をした後の私の表情をじっと見ていて、「こんな反応をしたときには、いい線をついているんだな」と判断されるので、一生懸命に逆の表情を作って見せることもありました。こんなふうに、黒柳さんとは、司会者と回答者としての切磋琢磨がありました。

相手に伝える場面では、自分がきちんとやることだけに意識が向いて、相手の反応まで気が回らないこともあるでしょう。

確かに、伝えるべきことを間違わず、かつ残さずに言い切ることは大事です。しかし、やりとりというものは、野球のキャッチボールと同じです。相手に合わせた強さのボールを、相手が受け取りやすいコースで投げないと、受け取ってもらえません。

相手に合わせた言葉や反応、返し方にまで意識が行き届くようになると、今度はそのやりとりが楽しいものに変わってきます。どんな方が相手でも、きっとテニスのラリーのように話が続けられるようになるでしょう。

■「?」を意識すると、話題を引き出せる

Q:語尾に何を意識すると会話が続きやすい?
①疑問形である「?」
②気分を高める「!」

くり返しになりますが、会話とは、自分と相手とのキャッチボールです。相手が複数いる場合は、サッカーのようにパスを回しながら行うもの、という表現が近いでしょうか。

相手からよいボールを返してもらうには、野球ならば、ちょうどグラブにパシッと収まるような球を投げることが必要です。サッカーなら、相手が走り込んでくるところを予測して、絶妙な軌道を描くパスを出したいところです。

会話でそれを叶えるには、相手への働きかけ方が大事になります。そのためには、「。」ではなく「?」で終わる会話を意識しましょう。

たとえば、休日の過ごし方について話をしているとします。そのとき「この間、阿蘇の草千里(くさせんり)で乗馬をしたんです」と、自分が体験した事実を話したとします。すると相手は、「ふうん、そうなんですか」と、返事を返してくれるでしょう。ただし、話はこれ以上発展しません。そこで完結してしまったからです。

それよりも、「この間、阿蘇の草千里で乗馬をしたんです。馬に乗った経験はありますか?」と、「?」で終わるほうが、「いいえ、でも、競馬は大好きで、競馬場によく出かけているんです」のように、相手の話を引き出すことができます。

話す2人
写真=iStock.com/AscentXmedia
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AscentXmedia

■“どう返ってくるか”も頭に入れておくといい

続けて、「そうなんですか。競馬場に出かけると、いろんなことがわかるのではないですか?」とか、「面白そうですね。競馬場まではどうやって?」と、「?」で終わる会話を意識すると、さらに話が広がっていくでしょう。

このようなやりとりが続くと、次第に相手も、「そうなんですよ。もしかして、競馬にご興味があるのですか?」 と、「?」で返してくれる可能性が高まります。それに「はい、一度行ってみたいと思っているので、見どころを教えてもらえますか?」と「?」で返すと、さらに楽しく会話が続けられるでしょう。

「?」で終わる会話をするときは、相手からの「返し」があることも頭に入れて、話を聞くと同時に、自分の意見ももっておく必要があります。

誰かと意見交換するのは、いつも楽しいばかりとは限りません。ときには思わぬことが返ってきたり、痛いところをつかれたりすることもあります。野球で言えば、剛速球やデッドボールのようなものでしょうか。

ですが、知らない間に、相手からのいろいろな「球」を受けて、キャッチボールが上手になっていることに気付くはずです。そして、「こんなときは、こんな返しが来るだろう。そうしたら次は……」と、会話の反応も読めるようになっていくでしょう。

また、他の人の考えを聞くことによって、自分の意見との違いや共通点もわかってきます。それによって、相手の考えとどこが違うのか参考にしたり、取り入れられる点はないか、どのあたりで合意ができそうかなど、さまざまな考え方をすることができます。「?」で問いかけることは、最終的に、自分の考えをまとめることにもつながる、とてもよい習慣なのです。

■注意や指導は、“伝える側の工夫”が最も必要な場面

Q:反発心の強い部下への注意、どう切り出すべき?
①時短のためにも、ストレートに本題から入る
②クッションとなるような雑談をしてから、徐々に本題に移る

相手に伝える内容には、いいことばかりではなく、言いにくいこともあります。会社や学校で、あるいは家庭で、部下や後輩、わが子に対して、「こうしてほしいな」「これは注意しておいたほうがいいな」「最近ちょっとおかしいぞ」など、注意や指導をする場面が必ず出てきます。

聞く側にとって、気持ちのいいものではないことが多いので、伝える側の工夫がもっとも必要な場面かもしれません。とりわけ近頃の若い方は、自分の行動に対して他から何かを言われることへの免疫が、以前に比べてとても弱いように思えます。

私がNHKでスポーツ放送をしていたときは、先輩方から「あのときの放送は、もっとこういうふうに言ってはどうだろう」などと指導を受けることはごく当たり前でした。また、「確かにその通りだな」と、素直に受け取っていました。

しかし今は、必要なアドバイスひとつするにも、上司はとても気を遣うと聞きます。それどころか、「何を言うんですか、それが私のいいところなんです」などと反論する部下もいるそうです。

上司と部下が会議
写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

■「相手にあわせた対応」が必要

そこで日ごろから、メンバーが普段はどんな様子でいるのか、そしてどんな人間性の持ち主なのか、これまで人に対してどんな対応をしてきたのかをよく見ておいて、相手に合わせた対応をしなければいけません。

素直に聞いてくれる相手だと判断したら、形式にこだわらず、「今日はこのことについて、君の考えを聞きたいのだけれど」という入り方でよいでしょう。

いっぽう、言われたことに何か一言返したい、自分は人とは違うと反発心をのぞかせておきたいタイプには、「先週は忙しそうだったけれど、もうヤマは越えたみたいだね」など、本題とは離れた柔らかい話題から入って、反応を見ながら本題に近づいていくのがいちばんでしょう。

私が出会った上司の中で、とりわけよい指導をしてくださったと思っているのは、スポーツアナウンサー時代の師匠でもある、元NHKアナウンサーの羽佐間正雄(はざままさお)さんです。

羽佐間さんは1954年に入局され、1964年の東京オリンピック中継実況をはじめ、夏冬合計11回の五輪実況を担当されました。また、春夏の甲子園での高校野球やゴルフの全米オープンなど、大型スポーツ中継に長く携わった名アナウンサーです。

■“尊敬する上司”は、評価や批評をしなかった

羽佐間さんは、私が入局3年目に鹿児島から福岡に異動したとき、東京から管理職として昇進して来られました。私は羽佐間さんの放送を聞いて、この方のような放送ができるようになりたいと、ひそかに目標にしていました。

その方が直接の上司としてやってきて、「草野君、僕は君を育てるために東京から来たんだぞ」とおっしゃったのです。最高の殺し文句に感激すると同時に、「もし自分が期待に反して成長できなければ、大アナウンサーの羽佐間さんの名声まで傷つけてしまうことになる。これはよほどがんばらなくては」と、一層奮い立ちました。

その後3年間ご一緒して、本当によい指導をたくさんいただきました。羽佐間さんは、「今日の放送はここがよくなかった」「ここは悪かった」といった、評価や批評の言葉を使わないことが特徴でした。

終わったことを後から落とすのではなく、「今日の放送を聞いていたんだけれど、あの部分でこういうふうに言ったらどうだっただろう」とか、「君がこういう視点をもって臨んでいたことは、方向性としてはとてもいいと思うよ」と、次に目指すべき方向性や目標を常に示してくださっていたのです。これこそ、上司の理想の指導だなと思います。

草野 仁さん
写真=稲垣純也

■“緊張”で失敗した知事へのインタビュー

Q:聞き手はどのような立ち位置であるべき?
①話し手よりもへりくだるべき
②話し手と対等の立場であるべき

私はキャスターとして、これまで本当に多くのさまざまな方にお会いして、お話を聞いてきました。現場の様子も、どれひとつとして同じではありません。リラックスしたムードのときもあれば、はりつめた状況のこともあります。

また、相手の方に楽しくお話ししていただけるような質問をすることもあれば、聞きにくいことをあえて投げかけて、お話を引き出さなくてはいけないこともあります。

インタビューでは、相手から気持ちよく話を引き出さなくてはいけませんから、どういう形で話に入ればよいか、相手の気に障るような表現をしていないかなど、相手の方の性格や傾向を考えた作戦をいろいろと立てていきます。

今までにあまり大きな失敗をしたことはないのですが、本書で前にお伝えしたように、新人アナウンサーとして鹿児島局に赴任して早々、初めて知事にインタビューをしたときには、すごく緊張しました。

■聞き手と話し手の立場は「対等」である

地位の高い方への取材というので、こちらが恐縮して、へりくだりすぎてしまったのだと思います。ラジオ放送でしたが、聞いている方にも緊張感やぎこちなさが伝わってしまったことでしょう。

草野仁『「伝える」極意』(SBクリエイティブ)
草野仁『「伝える」極意』(SBクリエイティブ)

経験がなかったとはいえ、私の最初のインタビューは失敗だったということです。今振り返ると、新人としてはよくありがちな失敗なのだろうとは思います。しかし、聞き手と話し手というのは、立場上は対等でないといけないわけですから、たとえ聞きにくいことがあっても、聞かなければいけないのです。

新人の私はその原則を忘れて、下手(したて)に出すぎた。そのために、聞いている人が「何をやっているんだ、話が聞けていないじゃないか」と違和感を覚えたわけです。

人は何となく、「聞き手は相手に対してへりくだるべきである」と思い込んでいるものですが、それは間違いなのです。このことがあってから私は、どんな目上の人であっても、きちんとインタビューをしなければいけないと肝に銘じたのです。

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草野 仁(くさの・ひとし)
テレビキャスター
東京大学文学部社会学科卒業後、1967年NHKに入局。主にスポーツアナウンサーとしてオリンピックの実況中継や「ニュースセンター9時」などの報道番組のキャスターも務めた。1985年2月NHK退局後、フリーに。数多くの情報番組、バラエティ番組の司会を務め、中でもTBS「日立 世界ふしぎ発見!」は38年も続く驚異的長寿番組となった。近著に2013年『話す力』(小学館)、2015年『老い駆けろ!人生』(KADOKAWA)などがある。

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(テレビキャスター 草野 仁)

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