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もう誰も止められない中居&フジの破滅ドミノ…CM差止め2日で150本超、春改編CM枠も売れない自業自得

プレジデントオンライン / 2025年1月20日 17時15分

記者会見するフジテレビの港浩一社長=2025年1月17日、東京都港区 - 写真=時事通信フォト

■お粗末すぎるフジが陥ったに負のスパイラル

中居正広氏の女性トラブルについて、フジテレビの港浩一社長が1月17日金曜午後に会見を行った後、大手スポンサー5社がCMを差し止め、その数は週末の2日間で150本を超えた。社長会見まで同局は悪手を打ち続け、その後の自社の報道番組での対応もお粗末な内容と言わざるを得なかった。まさに負のスパイラルに陥っているように見えるが、同局経営の行く末を想像すると……。

■119はフジテレビ自身へのエマージェンシーコール

フジの1月クールのドラマ月9は、清野菜名主演「119エマージェンシーコール」である。一本の電話で命をつなぐ消防局通信指令センターの指令管制員の物語だ。

このドラマを放送する同局にとって、119つまり1月19日は緊急コールに等しい事態の1日となった。スポンサーによるCM差し止めが150本を超えたからだ。

法人向けに全録サービスを提供するPTP社の記録によれば、CM差し止めは雪崩を打ったように続いている。企業の動きは早かった。会見直後の深夜「FNN Live News α」(0時10分~)で3本、続く「オールナイトフジコ」で5本、さらに翌朝6時からの「めざましどようび」では14本のCMがAC広告に置き換えられた。

AC広告の露出はほぼ大半の番組で見られ、結局週末2日間で150を超えた。CM差し止めを週末までに行ったのは以下の日本を代表する歴史のある大手5社に及んでいる。

トヨタ自動車
日本生命保険
明治安田生命保険
アフラック生命保険
NTT東日本

後述するが、今回のCM差し止めは、天変地異などで起こる場合とは意味合いが大きく異なる。

■一連の経緯での問題点

既に大量の報道がなされているので、ここでは簡単に経緯を整理して、フジテレビの対応の問題点を指摘しておく。

2023年6月:芸能関係者X子さんが中居氏から意に沿わない性的行為を受ける。
フジの対応:直後に事案を認識。

2024年12月:週刊誌によりフジテレビ幹部の関与と報道。
フジの対応:直後に社員の関与はなかったとコメント。

2024年1月9日:中居が公式サイトで謝罪。トラブルは事実と認める。
各局の対応:この前後で中居氏出演番組の休止や中居氏の出演見合わせを発表。

1月15日:米投資ファンドのダルトン・インベストメンツが書簡で「激怒」表明。
第三者委員会の設置を要求。

1月17日:港浩一社長の会見。
1月18日:CM差し止めが始まる。

フジテレビの対応は、とにかく遅い。問題を認識して以降、事実上1年半も放置した格好だ。港社長はプライバシー優先を強調したが、それを隠れ蓑に問題が収束するのを待っていたと感じた人は少なくない。

社の見解が揺れるのも気になる。局幹部の関与が報道されると、即座に「関与はなかった」とコメント。社内調査による結果というが、もしそれが確かなら、なぜ17日の会見で再調査となったのか。年末の調査はお手盛りではないか、との批判が出たのは当然だ。

中居氏への対応も納得できるものではない。問題の張本人への聞き取りがなかったばかりか、中居氏が司会を務める番組について、「唐突に終了することで、臆測が生じることを懸念して、慎重に終了のタイミングを図っていた」と港社長はいう。うまく行けば続行できると考えていたのかと勘繰られても仕方ない。

そして17日の会見のやり方。参加者を限定し、動画撮影や中継を一切認めなかった。そして記者からの質問に対して、30回以上「回答を控える」を繰り返した。本当に応える気はなく、仕方なく形ばかりを整えたと思えてしまう。

フジテレビ社屋
フジテレビ社屋(写真=くろふね/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

■会見を扱うフジ番組の明暗

1月19日までに社長会見を扱うフジの番組は6本放送された。ところが扱いは、他局と比べて見劣りするものが多かった。

まず17日会見の直後に放送された「イット!」。この番組でフジ職員の宮司愛海アナウンサーは、「会社が生まれ変わる一歩にすべき」と自分の言葉で語り、気を吐いた。

19日夜の「Mr.サンデー」も意欲的だった。外部のコメンテーターがフジの対応に厳しく批判を加えたからだ。例えばノンフィクションライターの石戸諭氏は、「ダメージを大きくしている」とフジの対応の不味さを指摘した。編集者の黒岩里奈氏は、日弁連のガイドラインに沿わないフジの今後の調査を、「納得する視聴者はいるのか」と切り捨てた。

しかし、残り4本は残念なものが多かった。例えば「日曜報道 THE PRIME」。踏み込んだ部分は確かにあった。元大阪市長の橋本徹弁護士が、「(会見のやり方を)テレビ報道機関の否定にもつながりかねない」と断罪したからだ。他の企業の不祥事について今後、テレビの前での説明を求めても、「フジテレビだって説明しないんだったら」と会見拒否の理由に使われかねないとした。

この橋本氏の発言への同局幹部でもあるキャスターの発言がいただけない。「調査結果については速やかに説明していくことが求められて」いると認めながらも、「適時、公表すべきことはさまざまな機会を通じて説明」とまるで経営者を代弁する木で鼻をくくったような発言で終わった。

18日早朝の「めざましどようび」でも、管理職の女性アナウンサーがメインキャスターを務めていたがコメントは皆無だった。どうやらフジは、若い女性キャスターこそ自らの言葉で向き合ったが、経営側と思しき人々は当たり障りのない司会ぶりで逃げていた。サラリーマン社会の実相を見せつけられた思いだ。

19日午前の「ワイドナショー」は最低だった。芸人やタレントの発言は通り一辺倒。そもそも司会も芸人だが、中居氏と同じように局職員と一緒に飲む機会が何度もあったはずで、なぜ自分の時の経験を質問しないのか。元記者というコメンテーターも発言したが、フジに忖度しているのかと勘繰るような表面的な発言しかなかった。

■広告収入激減のピンチ

先に紹介したように、今回の社長会見は海外の大株主発言の直後に行われた。当該株主から見れば、昨春に2000円を超えていた株価が年末までに300円ほど下がり、今年に入り1600円を切る事態になっていた(20日終値は1785.5円)。ガバナンスの失敗を苦々しく思っていた可能性は高い。

【図表】キー4局の広告収入(毎年度2Q比較)
億円(縦軸)、年(横軸)

そもそもフジの業績は、過去15年間、決して芳しいものではなかった。毎年度の第2四半期での広告収入を振り返ると、07年度をピークにその後は右肩下がり基調で、この1~2年はピークのほぼ半額だ。かつては2位に1.2倍と大差の首位だったが、今や4局中最下位で、トップの7割ほどしかない。

そこに今回の不祥事だ。社長会見の失敗で、すかさず5社がCM差し止めを行った。一般にAC広告への差し替えは、申し出たスポンサーが広告料を負担する。天変地異などの状況に鑑み、華やかなCMの放送が商品や会社のイメージにプラスよりマイナス効果を生むと考え自粛するからだ。

ところが今回は異なる。原因がフジの側にあるので、局としては広告費を請求しにくい。商慣行に従って請求したとすれば、広告主の怒りと失望は収まらず、次の契約更改で取引を失う可能性が大きい。仮に広告費を請求しないと、この週末2日だけで150本のCM収入を失い、事態はしばらく続くので、ただでさえ苦しい台所事情は一層火の車になる。

今後を見通すと、状況はさらに厳しい。上記5社に加え、第一生命も20日から放映を差し止めるとした。他の社についても、CMを継続した場合の企業イメージを考慮し、先行する6社に続く可能性が残る。実際、週が改まった20日月曜の午前中までには、セブン&アイ・ホールディングス、日本マクドナルド、サッポロビール、花王、JR東日本、ダイハツ工業、スズキなどもCM放映の見合わせを決定した。差し止めドミノの規模はどこまで広がるだろうか。

しかも第三者を入れた調査は今月か来月中のスタートだ。そこから結果が出るのにしばらくかかる。また、その内容が不十分だとさらなる失望を呼び、CM差し止めは拡大と長期化の一途だ。

加えて今は、4月改編に向けたタイム広告主募集の時期だ。フジのガバナンスが不透明な中、今回は契約を見送るスポンサーが続出しても不思議ではない。以上の諸々の状況を前提にすると、24年度4Qおよび25年度の同局の広告収入は極めて厳しくなると予測される。

そもそも問題は、23年6月に認識されていた。それをタレントなどへの忖度から具体的な対応を避け続けた。そして1年半後にスクープされ、かつ大株主に断罪されるに至った。極め付きは急遽行った社長会見の失敗だ。

要因はいくつもあるが、経営陣の最大の問題は世間や時代との感覚のズレだろう。80年代からテレビ界のトップ企業となった同局だったが、2007年をピークにずるずる業績が下がる中で、何が問題なのかを分析する時間はたっぷりあった。

それを怠った末に、今回は本格的な負のスパイラルに陥った。メディアや報道機関なのに、視聴者やステークホルダーの目を含め社会の常識や時代認識に欠けた代償はあまりに大きいと言わざるを得ない。

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鈴木 祐司(すずき・ゆうじ)
次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト
愛知県西尾市出身。1982年、東京大学文学部卒業後にNHK入局。番組制作現場にてドキュメンタリーの制作に従事した後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。デジタル化が進む中、業務は大別して3つ。1つはコンサル業務:テレビ局・ネット企業・調査会社等への助言や情報提供など。2つ目はセミナー業務:次世代のメディア状況に関し、テレビ局・代理店・ネット企業・政治家・官僚・調査会社などのキーマンによるプレゼンと議論の場を提供。3つ目は執筆と講演:業界紙・ネット記事などへの寄稿と、各種講演業務。

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(次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト 鈴木 祐司)

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