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こんな「CM差し替えドミノ」は見たことがない…スポンサー企業に見放されたフジテレビ社長の"致命的な失言"

プレジデントオンライン / 2025年1月21日 7時15分

フジ・メディア・ホールディングス(HD)の本社に掲げられた(手前上から)日本国旗、フジ・メディアHDの旗、フジテレビの社旗=2025年1月17日、東京都港区 - 写真=時事通信フォト

中居正広氏を巡る一連の問題で、フジテレビにCMを出稿していた企業が続々差し替えを決めている。桜美林大学准教授の西山守さんは「記者会見での港浩一社長の『あの発言』がまずかった。あの一言のせいで、企業が事態を重く見た可能性は高い」という――。

■前代未聞のCM差し替えドミノ

タレントの中居正広氏と女性との間のトラブルにフジテレビの社員が関与していた疑惑について、1月17日にフジテレビが記者会見を開いた。その翌日、トヨタ自動車、日本生命などの大手企業は、フジテレビに出稿しているCMをACジャパンのものに差し替えた。

NTT東日本、第一生命、明治安田生命保険、アフラック生命保険、花王、日産自動車などもCMの差し止めを発表するに至っている。

筆者は約20年間広告業界に身を置いていたが、今回のような事態は前代未聞だ。東日本大震災などの大災害、安部晋三元首相の殺害事件のような世の中を騒がす大事件などが起きれば、企業CMの一部、あるいは全部がACジャパンのものに差し変わるが、今回のフジテレビのCM差し替え騒動は、それらと同レベルの現象が起きている(ただし理由はまったく異なる)。

スポンサー企業が不祥事を起こしたり、番組に出演するタレントが不祥事を起こしたりした場合も、同様の差し替えがされることがある。直近では、松本人志氏の性加害疑惑が発覚した際に、松本氏の出演番組のCMの一部がACジャパンに差し変わった。

■「セシウムさん」テロップでは番組が打ち切りに

テレビ局側の問題で差し替えが行われることもある。有名な事例としては、2011年に東海テレビ(フジ系)の番組「ぴーかんテレビ」の中の「夏休みプレゼント主義る祭り」の当選者を知らせる場面で「怪しいお米 セシウムさん」などと不適切なテロップが表示された件がある。問題発生後、同番組のCMはすべてACジャパンに差し変わり、最終的には番組自体が打ち切りになった。

今回のフジテレビの事案はテレビ局側の問題に起因するため、最後のケースと類似している。しかしながら、「ぴーかんテレビ」の例に限らず、これまで起こったのは番組単位での差し替えだ。テレビ局側の問題によって特定の番組に限定されず、広くCMが差し変わる現象は、筆者が知る限り本件のみである。

その点で、このたびフジテレビのCM差し替えは前例がなく、「前代未聞」と言ってもよい事態なのだ。

■「セクシー田中さん」騒動でもCM差し替えはなかった

概して、メディア企業は叩かれやすい。特に最近ではテレビ局が標的にされやすい。2024年に関していえば、年明け早々に、ドラマ「セクシー田中さん」の原作者の自殺という痛ましい事件が起き、日本テレビが非難された。原作者の死の前に、ドラマ制作をめぐって、原作者と日本テレビ、および脚本家とのトラブルが明るみになっており、日本テレビは激しく批判された。

7月には、系列局の日本海テレビの元幹部社員による「24時間テレビ」の寄付金などを着服した問題が発覚し、日本テレビも大きな批判を浴びた。横領を行った元幹部は、業務上横領の疑いで書類送検されている。

さらに、100キロマラソンのランナーを務めたお笑い芸人のやす子さんが、足を痛め、台風も接近している中で、トラックを75周も走ったことに対して、過酷な状況に追い込んだことが批判された。以前から、同番組は「感動ポルノ」といった批判がされ続けていたが、2024年はテレビ局に向けての批判がピークに達した感がある。

しかしながら、日本テレビの不祥事によって、同局のCM放映が差し控えられることはなかったし、「24時間テレビ」単体を見ても、スポンサーが離反するという現象も確認できていない。

昨年の日テレの事案では、死者も出たうえ、違法行為も行われている。一方、今年のフジテレビの問題においては、いまだ社員が問題に関わっていたかどうかも明らかになっていないし、違法行為を行っていたということも確認できていない。

フジテレビと日本テレビに対するスポンサー企業の対応の違いはどこにあるのだろうか?

■日テレとフジの明暗を分けた要素

スポンサー企業が、フジテレビでCM差し替えを行った理由として、下記の2点が挙げられる。

1.経営者レベルでの問題と捉えた
2.フジテレビの事案の方が、事態がより深刻だと見なした

フジテレビの記者会見直後にCM差し替えが起きたことを考えると、記者会見のどこかに問題があったということだ。最も問題視されたのは、トラブルの発生直後に港浩一社長に報告が上がっていたということだと筆者は考えている。

港社長に情報が上がっていただけでなく、最終的な意思決定は港社長に委ねられていたということだ。

フジテレビ本社ビル
フジテレビ本社ビル(写真=Jorge Láscar/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons)

現場の社員レベルで深刻な問題が起こっており、経営陣がそれを把握していなかった場合、企業や経営者は管理責任が問われる。一方で、問題自体の責任は負わないケースが多い。

■「経営者レベルの問題」と企業が認識した

三菱UFJ銀行の貸金庫窃盗事件においても、半沢淳一頭取は謝罪を行っているが、引責辞任まではしていない。もちろん、経営者自身が窃盗に関与していたとしたら、彼らも引責辞任か解任に追い込まれる。

「セクシー田中さん」の原作者自殺問題も、「24時間テレビ」の寄付金着服問題も、現場レベルで起きた問題ではあるが、経営者が関与していた問題でもなければ、知っていて対処を怠っていたわけでもない。

フジテレビの場合は、社長自体が問題の所在を知りながら、中居正広さんを番組に起用し続けたこと、番組の打ち切り等の対応を取らなかったこと、トラブルになった女性のケアを十分に行わなかったことが批判されている。もちろん、こうした一連の行動が適切であったのかなかったのかは、今後の調査で検証する必要がある。

しかしながら、この度の記者会見で、本事案が経営者レベルでの問題であるという事実が露呈してしまったのだ。

■社員の不祥事の責任すべてを企業が背負うべきなのか

筆者はかねて主張している(ただし、多くの人はそれを受け入れようとはしない)のだが、昨年の日テレの不祥事は、メディアやSNSで騒がれているほどには日テレ側に非はない(決して全く非がないと言っているわけではない)。

「セクシー田中さん」の原作者の死の引き金になったのは、SNSでの脚本家、および日本テレビに対するバッシングである。ドラマ制作をめぐるトラブルがあったことは紛れもない事実だが、それだけで原作者の芦原妃名子さんは亡くなることはなかった。つまり、制作者に原作者の死の責任のすべてまで背負わせることはできないのだ。

「24時間テレビ」も同様である。寄付金の着服は系列局の社員個人が行った行為だ。一部のメディアやSNSでは、まるで日本テレビが会社ぐるみで寄付金を着服したかのような叩き方をされたが、それは事実と異なる。

欧米で同じ事件が起きたとしたら、企業側は「自分たちは被害者だ」として、横領を行った社員を刑事告発したり、訴訟を提起したりしただろうし、企業側の責任が問われることもなかっただろう。

日本テレビは謝罪をして再発防止策を発表した。しかしながら、現実問題として系列局の社員を監視して、横領行為を事前に完全に防ぐことは、はたして可能なのだろうか?

■社長から説得力のある説明はなかった

フジテレビの場合は、メディア報道がおおむね事実であったと仮定すれば、同社の社員が直接問題に関与していたことになる。さらに、その問題を経営者も把握していながら、根本的な対策を講じてこなかったと読み取れる。

フジテレビ側は、問題の事案に対して「社員の関与はなかった」と主張しているが、記者会見で説得力のある説明がなされていないため、視聴者、およびスポンサー企業の疑念は払拭されなかったと思われる。そのため、一部の企業はCM差し替えという判断を下したのだ。

■フジテレビに課せられた短期的、中長期的な対応

通常の企業の不祥事と同様、フジテレビには下記のプロセスで対応策を講じることが求められる。

調査の実施 ⇒ 調査結果の発表 ⇒ (問題社員の処分等の)対応策の実施 ⇒ 再発防止策の策定

ただし、このプロセスを貫徹するためには、短くとも数カ月、場合によってはより長い期間を要する可能性がある。要するに、上記は中長期的な対応策ということになる。

しかしながら、すでにCMの差し替えという事態が起きており、その流れが加速しているという現状がある。

誤解もあるようだが、CMの差し替えはCM契約の即終了を意味しているわけではない。「CMの放映を一時的に差し控える」ということであり、状況次第ではすぐに復活させることもできる。

逆に言えば、CM再開を実現するために、フジテレビは短期的な対応策も平行して実行していかなければならないということだ。

具体的には、

1.経営者が当該案件に対する説明責任を果たすこと
2.スポンサー企業への説明と対話を行うこと

ということが重要になる。

■フジテレビの「誠実さ」が待たれる

記者会見が不完全燃焼に終わった点については、港社長自身の口で、改めて納得のいく説明を行う必要があるだろう。特に、記者会見で表明されていた、調査委員会のより具体的なあり方を示す必要がある。それは、短期的な対応策として重要であるだけでなく、中長期的な対応策の第一歩ともなる。

今回の事案においては、スポンサー企業は事前にフジテレビから説明を受けておらず、報道で問題の存在を知る結果となっている。今後は、フジテレビは現場レベルで、スポンサー企業に対する説明責任を果たすことが求められる。同時に、彼らとしっかり対話を行うことが重要だ。

現状では、フジテレビの不祥事が確定したわけではなく、依然として疑惑の段階に留まっている。調査結果が発表されるまでは、スポンサー企業も最終的な判断を保留にせざるを得ないのだが、CMを控えて待つのか、CMを放映しながら待つのかは、フジテレビ側の態度の「誠実さ」にかかっている。

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西山 守(にしやま・まもる)
マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授
1971年、鳥取県生まれ。大手広告会社に19年勤務。その後、マーケティングコンサルタントとして独立。2021年4月より桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授に就任。「東洋経済オンラインアワード2023」ニューウェーブ賞受賞。テレビ出演、メディア取材多数。著書に単著『話題を生み出す「しくみ」のつくり方』(宣伝会議)、共著『炎上に負けないクチコミ活用マーケティング』(彩流社)などがある。

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(マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授 西山 守)

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