病院でもらう咳止め薬よりも断然効果が高い…医師の間では常識「ひどい咳がラクになるスーパーで買える食材」
プレジデントオンライン / 2025年1月23日 16時15分
■過去最大級のインフル大流行
年末年始の「奇跡の9連休」が終わり、また「日常」がはじまった。連休中には、このときばかりに日ごろ行くことのできない海外旅行を満喫した人もいただろうし、浮かれる世間とはまったく関係なく、年末年始も仕事をし続けていた人もいただろう。逆にこの連休のせいで働く機会を失い、収入を減らしてしまった人も少なくなかったかもしれない。いずれにせよ、長期の連休は私たちの生活に大きな影響を与える。
とくに真冬の大型連休は、ゴールデンウィークやお盆時期とは異なり、人の移動にくわえて気温の低下と空気の乾燥が進むことから、感染症の流行を引き起こしやすい。じっさい今シーズンはコロナ禍以降で最大級のインフルエンザ大流行となった。若干ピークは過ぎたとはいえ、今なお医療機関には多くの発熱者がつめかけ、問い合わせの電話も鳴りやまない状況だ。
問い合わせの電話がつながっても、受診できるかどうかはわからない。医療機関側としても時間もマンパワーもリソースも無限ではないため、診療を一定程度制限せねばならないからだ。さらにやっと受診にこぎつけても、検査キットがないので確定診断が下せないと言われてしまった患者さんもいるだろう。
■なぜどこも検査キットが足りないのか
コロナ上陸前であれば、この時期の急な発熱と咳、のどの痛み、関節痛といえば、わざわざ検査などしなくても「インフルエンザ」と診断できた。もちろん当時も検査キットはあったし、診断に迷う場合には私も検査を活用したが、診察所見でインフルエンザとの診断に矛盾がなければ、検査をせずに「インフルエンザ」と診断していた。
だから検査キットが一気に枯渇してしまうことはあまり経験しなかったし、かりにキットがなくても診断を間違うことはまずなかった。だが2020年以降、そのやり方は大きく変わってしまうこととなった。発症早期では、インフルエンザとコロナの症状は似ていることも少なくなく、症状、診察所見だけではこれらを鑑別することが非常に難しくなったからである。
このため、急な高熱と咳、のどの痛み、鼻汁といった症状を呈して受診された方には、やはり検査をすることになる。昨今、医療機関で検査キットが枯渇しやすくなっているのは、こうした理由もあろう。
それにくわえて、薬不足もここにきて深刻化している。すでに多くの人がメディアで見聞きしているかもしれないが、この数年ジェネリック医薬品をはじめとした薬剤の供給が非常に不安定となっている。
■そもそも「かぜ」は病名ではない
その理由は、医薬品メーカーの不祥事などによる業務停止処分が発端といわれているが、それだけでなく、そもそもの医療費抑制政策としての薬価切り下げや原材料費の高騰によりメーカーが利益率の低い医薬品の増産をためらうといった構造的な問題があるとされる。こうした背景のもと急速に需要が高まれば、当然ながらユーザーすべてに十分な医薬品は供給できなくなる。
じっさい今回のインフルエンザとコロナの大流行で、多くの人がその当事者となっていることだろう。「かぜ」を引いたからと、かかりつけ医にいつも処方される薬を頼んでも、「欠品なんですよ」と断られたり、代替品を出されたりという経験をした人もいるのではなかろうか。
ちなみに私がかぜに「」を付すのは、かぜとは病名ではなく、鼻からのどといった上気道から、ときに下気道とよばれる気管支に急性の炎症をおよぼす疾患の総称、「かぜ症候群」だからである。したがって医師による「かぜ」との診断は、症状や診察所見から「かぜ以外の疾患」が考えにくく除外されたときに、はじめて下されるものだ。医師が「診断はかぜです」と断言や明言せずに「おそらくかぜでしょうね」と濁した表現で“診断”を患者さんに伝えるのは、このためだ。
■「かぜを早く治す薬」は存在しない
その意味では「かぜ」の診断は医師でさえ不確かなものなのだが、たびたび患者さんから「かぜ薬をください」と求められることがある。こうした患者さんが求めている「かぜ薬」とは「かぜを早く治す薬」であろうと推察されるが、かりに診断が「かぜ」で間違いないとしても、そもそもそのような特効薬は存在しない。これは昨今の薬不足の状況ではとくに、すべての人で共有されねばならない「事実」だ。
毎年冬になるとテレビには各製薬会社からさまざまな総合感冒薬のCMが流されるが、いまだに「かぜには早めの……」であるとか「速攻……アタック」といった、早く飲めばかぜを早く治せるやに思わせるキャッチコピーが溢(あふ)れている。これらの“誇大広告”、いや医師からすればかなり怪しい広告がこうした「かぜを治す薬が存在する」との誤解を生みだし続けている最大の原因だと私は思っている。
そしてこのような宣伝に誘導されて市販薬を買って飲んではみたものの、症状が治まらずに受診される人も少なくない。こうした人は「市販薬で治そうと思ったのですが、やっぱり医師の処方薬でないと治らないと思って」と医療機関を訪れる。
一方で「いやいや、かぜ薬は治すものではなくて、症状を緩和するものでしょう。それくらいは知っているよ」という人も、最近は少しずつ増えてきた。しかしこうした人でも、「市販薬ではなかなか効かないので」と医療機関を訪れる。
■処方薬と同じ成分、用量であっても効果はほぼ同じ
もちろんこれらの人のなかには、市販薬で症状が改善しない理由が、そもそもの診断が「かぜ」ではなく、細菌性肺炎や化膿性扁桃腺炎のような抗菌薬による治療を必要とするものである可能性もある。したがって市販薬が効かないことを理由に受診すること自体は、まったく間違いではない。
しかし、こうした特別な薬剤を必要とするものではない、圧倒的に多い「かぜ」の患者さんについていえば、市販薬が効かない理由は、それが市販薬だからではない。さらに言ってしまえば、医療機関で「かぜ」の患者さんに私たち医師が処方する薬にも、「効く」といえるものはない。
市販の総合感冒薬に含まれている成分を見てみると、解熱鎮痛剤、去痰剤、抗ヒスタミン剤、中枢性鎮咳剤などが一般的だが、これらの市販薬に含まれている成分と、医師が処方する薬の成分はほぼ同じであることが、その理由だ。
最近では解熱鎮痛剤や去痰剤などの用量を処方薬と同じレベルに増やしたものを“売り”にしている商品もあるが、これとて効果はほとんど変わらない。そもそもこれらの成分一つひとつに、症状を緩和させるエビデンスを持つものも、ほとんどないのである。
■咳止め薬を飲むならハチミツのほうが断然いい
たとえば鎮咳薬として処方薬でもよくつかわれる「デキストロメトルファン」(メジコン)は、海外の小児の咳を対象にした研究で、プラセボ(偽薬)と比較しても改善推移、有効性はほとんど変わらないという結果がすでに20年以上前に複数出ているし、むしろハチミツのほうが「効く」とされているのは、医師の間ではよく知られている。
市販薬にはこれよりもさらに「強い」とされるコデインが含まれているものもあるが、市販薬では効かないという患者さんの実感どおり、これとて「かぜ」の咳にはほとんど効かないと考えてよい。
むしろ痰のからんだ咳を薬の力で強力に抑えてしまうことは、それこそ危険だ。咳は炎症によって増えた汚い痰を、体外に弾きだす「生体防御反応」だからである。この重要な咳の反射をこれらの「強い薬」で脳の中枢に働きかけて止めてしまうと、この汚い痰が気管支から体外に排出できなくなってしまうのだ。
「かぜ」であっても、インフルエンザやコロナであっても、多くの患者さんがつらいと言う症状は、このような咳や痰がらみだ。医師としても、なんとかしてあげたいと思う気持ちはあるものの、この生体防御反応と自浄作用とを、薬という人間が作り出した人工物で抑え込むことは不可能だし、そもそも抑え込んではならないのだ。
■すべて知っているのに医師が薬を出す理由
それを知りつつ「症状緩和のため」との方便で医師が処方するのが、鎮咳薬であり去痰薬なのである。そして先述したように、その成分は市販薬ともほぼ同じ。むしろ市販薬は、あらゆる症状を網羅すべく各成分が1錠に盛り込まれている「フルスペック」。医師が個別の症状に応じて処方するのを「アラカルト」とすると、市販薬はラーメンでいうところの「特製全部盛り」だ。
つまりいかなる薬にも「かぜ」を早めに治す効果はいっさいないばかりか、症状を緩和させるという効果についても、きわめて怪しいと言えるのである。医療機関で市販薬を凌駕する「かぜ薬」など出てくるはずがないことを理解いただけただろうか。つまり、咳、痰、鼻水といった「かぜ」の諸症状は、薬ではなく時間でしか解消できないものなのである。
医師ならこの事実を当然知っているのだが、医療機関に行けば「かぜでしょうね」との“診断”とともに「ではお薬を出しておきましょうね」と医師は言い、患者さんもその言葉に納得する、という状況が常態化している。
つまり医師は自分が処方する薬が「かぜ」に効かないこと、偽薬と同等のものであることを知りつつ処方しているのである。それはなぜか。もちろんカネ儲けのためではない。たんに患者さんに納得してもらう時間がないからだ。
■「休んでください」と言われて納得する患者さんは少ない
さて読者の皆さんは、本稿をここまで読むのにどのくらいの時間を要しただろうか。そして納得できただろうか。
これまで縷々私が書いてきた内容を、一人ひとりの患者さんにわかりやすい言葉で相手の理解度を確認しながら語り、そのうえで「かぜに効く薬はありません。市販薬も処方薬も成分はほぼ同じ。処方薬のほうが効くわけではありません。かぜの諸症状を改善させるのは薬ではなく、時間です」と説明するには、ゆうに15分はかかる。
しかもこのような説明をされ、いっさい薬を処方せずに帰そうとする医師に納得できる患者さんは、いったいどれくらいいるだろうか。
冒頭でも述べたが、現在発熱外来には非常に多くの患者さんが詰めかけている。患者さん一人ひとりにかけられる時間は1~2分ていど。問診も診察もそこそこに検査し、型どおりの処方をするという流れ作業で人数をさばかざるを得ず、「事実」を患者さん一人ひとりに理解してもらうために、15分もかけていられないというのが実情だろう。
だから「かぜ」と“診断”した患者さんに効きもしない薬をつぎつぎと処方することになっているのだ。驚かれるかもしれないが、そもそも「かぜ」にたいする投薬は、医師の本来の仕事ではない。
■「休むことが許されない社会」を変えるべき
先にも述べたが、「市販薬で治らない」という人のなかには、ときに「かぜ」ではなく抗菌薬の処方が必要な人もいる。私たち医師の本来の仕事は、この一見「かぜ」のように見える患者さんのなかから「かぜ」ではなく、治すための適切な処方が必要な人を見抜くことである。
現在臨床現場で足りないとされる薬剤のうち、発熱者や「かぜ」にかんするものとしてよく名前が挙がるのは、抗菌薬や鎮咳薬、去痰剤のたぐいだが、こうした医師の本来の仕事を踏まえれば、抗菌薬の欠品は非常に由々しき問題だ。
だが鎮咳薬や去痰剤についていえば、そもそもが絶大な効果を期待できるものではない。それを知らない医師はほとんどいないはずなのに欠品しているということは、やはり「効かない事実」を説明せずに「とりあえず処方」していることも、薬不足の大きな原因ではなかろうか。
「薬の欠品」は“先進国”としてあり得ない由々しき問題だが、これを奇貨として、無意味な処方と無意味な内服といった、過度な薬依存について、医療者とユーザー双方が思考し直す良い機会にしてはどうだろうか。
「かぜ」を治すのは薬ではなく、時間。休むことこそが治療。「咳を止めないと出勤できないので、咳止めを飲まないと」という、休めない社会構造がもしもあるなら、そんな社会をまず「治す」ことから始める必要があるだろう。
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医師
1968年生まれ。医師。10年間、外科医として大学病院などに勤務した後、現在は在宅医療を中心に、多くの患者さんの診療、看取りを行っている。加えて臨床研修医指導にも従事し、後進の育成も手掛けている。医療者ならではの視点で、時事問題、政治問題についても積極的に発信。新聞・週刊誌にも多数のコメントを提供している。2024年3月8日、角川新書より最新刊『大往生の作法 在宅医だからわかった人生最終コーナーの歩き方』発刊。医学博士、臨床研修指導医、2級ファイナンシャル・プランニング技能士。
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(医師 木村 知)
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