ホリエモンが救世主に見えてくる…「ACジャパンより外資が怖い」フジテレビがこれからたどる"最悪のシナリオ"
プレジデントオンライン / 2025年1月21日 14時15分
■CMが「ACジャパン」ばかりになった
フジテレビ社長の港浩一氏が緊急記者会見を開いた。中居正広氏が女性との間に「トラブルがあったことは事実」と認め、この二人を引き合わせる場をセッティングしたのがフジテレビの社員であると一部の週刊誌で報じられたことを受けたものだ。
その直後から、花王やトヨタ、日産自動車などの大手スポンサーが次々と自社のCMをACジャパンのものに差し替えたり、CM放送を差し止めたりする事態が発生している。新聞報道によると、CMを見直す企業は50社超にのぼるという。
この現象はなぜ起こったのか。
企業側はCM撤退の理由を語ってはいないが、フジテレビの社長会見が原因であることは火を見るよりも明らかだろう。スポンサーは今回の会見でのフジテレビの対応を見て、ガバナンスの乏しさを実感し、「こういう会社にCMを出稿すれば、同じような企業体質だと視聴者に思われかねない」と思ったのではないだろうか。つまり、消費者の「
では、今回の会見のどこがいけなかったのか。
記者会見に参加メディアの選別や映像禁止などの「制限」をかけたことが「閉鎖性」や「隠蔽性」を感じさせ、のっけから印象が悪かった。これは作戦としては完全に失敗だ。港氏は終始「調査委員会に委ねる」を繰り返したが、その「調査委員会」の「客観性」や「透明性」「独自性」が担保されるとは到底思えず、調査の具体的な指針も示されなかった。
■「上納システム」を否定しなかった惨めな社長会見
また、中居氏と女性のトラブルを直後に知りながら何の手立ても講じてこなかったことも露見してしまった。肝心な「編成幹部社員の関与」や週刊誌が報道した「恒常的な女性社員の上納システム」の有無に関しては、あいまいな返答しかできなかった。
なぜ、そんな“惨めな”会見になってしまったのか。理由は2つある。
1.会社の幹部に危機感がない
2.上に進言できない企業風土がある
1.の「会社の幹部に危機感がない」だが、いまテレビ局のトップにいる幹部たちはちょうどバブルの時期に“おいしい”思いをしてきた世代だ。その特徴は“イケイケでいい加減”、「自己中の塊」のような人たちである。
そんな人物がいきなりスポンサーや投資ファンドという外圧を受け、慌てふためいて「とりあえず、社長の顔見せで事なきを得よう」と思ったであろうと容易に想像できる。もしかしたら「社長が出向けば、『おー、よく出てきたな』と感心してもらえるに違いない」とまで思っていたかもしれない。要するに「勘違い世代」なのだ。
■「日枝体制」が招いたガバナンス低下
そして2.の「上に進言できない企業風土がある」だが、これは、準備もまともにできていないのに「とりあえず」と敢行しようとする上司に意見することができない風潮が社内にあったということだ。私がフジテレビ社員への取材をしたところによると、記者会見の詳細は事前に社内に情報共有されてはいなかった。上層部と一部の広報部員しか詳しい内容は知らされていない。
だが、少なくとも広報部員は知っていたわけだから、読者の皆さんは「『社長、この内容の記者会見だとまずいと思います』と進言すればいいではないか」と思うだろう。
しかし、長年、「日枝体制」下で粛清を強いられてきた社員にそんな反骨精神はない。「傀儡」や「イエスマン」だけを重用して、歯向かうものは切り捨ててきたからだ。「それがフジテレビの企業風土だ」と多くのフジテレビ社員や元社員が私に証言してくれた。
以下は、元フジテレビプロデューサーでJPNEWS通信社代表の中村雅一氏から聞き取った社員たちの声だ。
「まともで優秀な社員は冷遇されて、既に追い出されたり自分から退社していて、忖度上手の無能しか残っていないので、この先もグダグダでデタラメな対応が続くと断言します」
「事件発生はともかく、その後の対応がデタラメなのは、昔からの社風・伝統ですね。大問題が発生すると、とりあえず逃げて2週間ぐらい音信不通になり、隠れて様子を見ながら部下に対応させて、ほとぼりが冷めたころに、何事も無かったような態度で現場に来るって感じの先輩が何人かいました」
あまりにもリアルな話ではないだろうか。
■いまはまだ「第1フェーズ」の序章
いまもなお続いているCM放映差し止めや差し替えによって、今後フジテレビに起こる「インパクト」はどれほど巨大なものになるのだろうか。
私は、いまはまだ「第1フェーズ」の序章に過ぎないと見ている。企業側の都合でCMをACジャパンのものに差し替えているだけだからだ。これは、すでにスポンサーが買っていたCM枠を投げ捨てるようなもので、フジテレビに損失はない。
しかし、問題は新たなCM枠が購入されなくなってから生じてくる。いまのままでは、「ナショナルスポンサー」と呼ばれる大企業の新規出稿は当面難しいだろう。そうなればフジテレビは経営的に打撃を受ける。これが「第2フェーズ」である。
■最悪の場合、すべてのCMを「投げ売り」に…
そして次に待ち受けているのが、「第3フェーズ」だ。
この「第3フェーズ」は、フジテレビの画面からナショナルスポンサーのCMがすべて消えるという現実だ。CM放映における「負のスパイラル」が始まるのである。CM枠が売れない場合にテレビ局が採る手段は2つしかない。自局の番組の宣伝CMで埋めるか、枠を投げ売りするかだ。
「枠の投げ売り」とは、その企業の健全性や信頼性をチェックする「企業考査」を甘くして、とにかく値段を下げて、買ってくれる企業に売ることだ。そういった企業は全国に知名度がある企業ではないことが多い。一流有名企業のCMが流れなければ、テレビ局のブランド力は落ちる。そんなテレビ局でCMを流したいとは思わないからだ。
もちろん、ブランド力がない企業の株価は下落してゆく。当事者のフジテレビ社員であれば、考えただけでも恐ろしい事態に陥るのである。現に、そうなることを見越していた賢明なフジテレビの早期退職者は、「改めて、早めに見切って脱出した判断が間違っていなかったと思いました」と述べている。また、「2年前の早期退職プログラムに参加しないで残った人たちは大後悔してるのでは?」と心配している。
■忘れてはいけない2つの教訓
では、以上に挙げたような危機的な状況下にいるフジテレビに求められる、今後の対応は何なのだろうか。
それを考える際にヒントになる指針がある。過去にCMがACジャパンのものに差し変わった事例を検証し、そのなかから解決の糸口を探るという方法だ。ACジャパンのCMが流れるときは、大きく分けて2つのケースが考えられる。
一つは「災害」、もう一つは「不祥事」が起こったときだ。後者の「不祥事」の場合には2つのパターンがある。「ジャニーズ性加害問題」や「松本人志氏の性加害疑惑」のように「タレント」が起こすものと今回のフジテレビのように「局」が起こすものだ。
後者のテレビ局による不祥事が発端となってCM差し替えにまで発展した事例を挙げる。読者の皆さんの記憶にも残っていると思われる2つだ。
1.東海テレビの「セシウムさん」事件(2011年)
2.日本テレビドラマ「明日、ママがいない」事件(2014年)
1.の通称「セシウムさん」事件は、2011年8月4日(木)に放送した地方ローカル番組「ぴーかんテレビ」において、岩手県産の米「ひとめぼれ」をプレゼントする際に、当選者として「怪しいお米」「汚染されたお米」「セシウムさん」等の不適切な表現が表示された字幕テロップを放送してしまったというものだ(「東海テレビHP」より抜粋)。
2.の「明日、ママがいない」は日本テレビ系列で2014年1月15日から3月12日まで毎週水曜日22:00~23:00の「水曜ドラマ」枠で放送されていた。ドラマのなかの児童養護施設の描かれ方が事実と異なると、ドラマで取り上げられた「赤ちゃんポスト」を運営する慈恵病院が子どもたちや職員への謝罪を求めて、大きな社会問題となった。
いずれもスポンサーが提供を降りたり、自社のCMをやめたりする事態に陥ったため、CMがACジャパンの公共広告に差し替えられた。
■ポイントは迅速、真摯、継続
参考にすべきは、上記の両者の対応である。1.の東海テレビは翌日の5日の番組で経緯を説明する検証番組をおこない、外部の上智大学文学部・音好宏教授を迎えて検証委員会を設置し(検証委員会はその後、再生委員会になる)、その後も検証番組を何度もおこなっている。
また、問題を風化させない目的で、問題を起こした8月4日を「放送倫理を考える日」に定めた。そして事件から13年経ったいまもこの過ちを忘れないようにと毎年、放送倫理の向上を目的にした「放送人研修会」を実施している。
私は2024年度の講師を依頼され、去年の12月に講演をおこなってきたが、全社員参加のスタジオには最前列に社長や取締役、各局の長が陣取り、熱心に耳を傾けていた。正直に言って、これだけ事件から時間が経過しているにもかかわらず、真摯で真剣な姿勢であることに驚いた。
2.の日本テレビは放送当初から苦情を申し立てていた慈恵病院や全国児童養護施設協議会(全養協)、全国里親会などと社長や制作局長自らが話し合いを重ね、番組の意図と思いを丁寧に伝える作業を地道におこなった。これら2つの事例から学ぶことは何か。
それは「迅速な対応」と「真摯な姿勢」、そして「継続した取り組み」である。「迅速な対応」においては、今回のフジテレビはどうか。1年半前に事件を知りながら、それを放置してきた。週刊誌が騒ぎ出さなければ、そのまま「知らぬ存ぜぬ」を貫き通すつもりだったのか。
記者会見のまずさをこれだけさまざまなメディアや記事で叩かれながらも、すでに4日経っても、またの「ダンマリ」だ。そこからは「真摯な姿勢」はまったく感じられない。
■株式を買い進める実業家・堀江貴文氏
「継続した取り組み」は、犯してしまった過ちを忘れないという教訓だ。人間は忘れてしまう生きものである。都合が悪いことほど忘れたがる。しかし、間違いを忘れない、問題を風化させないという心がけが大事なのだ。この点は、東海テレビに大いに学ばなければならない。
以上にフジテレビが今後求められる対応についての提言をおこなったが、それが適えられるかどうかがわからないいま、「最悪のシナリオ」もあり得ることを指摘しておきたい。
すでにネットニュースなどで報じられているが、実業家の堀江貴文氏がフジテレビの株式を買い進めている。20年前の2005年、当時ライブドアの社長を務めていた堀江氏はニッポン放送の株式35%を買収してフジテレビにM&Aを仕かけたが、フジグループの激しい抵抗にあって最終的に経営参加はできなかった。そのときの「恨み」をネットなどで語っているのを読んだ方も多いだろう。
同じ年の2005年、楽天の三木谷浩史氏がTBS株を15.46%取得し、直後に経営統合申し入れで始まったM&Aは5年以上にわたる泥仕合が続いた挙句、決裂した。遡ること1996年には、ソフトバンクの孫正義氏が「世界のメディア王」と称されるルパート・マードック氏率いるニューズ・コーポレーションとタッグを組んで、旺文社からテレビ朝日の株式21.4%を買い取り事実上の筆頭株主となった。しかし、この買収は大反発を受けて失敗に終わった。
このようにテレビ局の株式取得による買収はことごとく失敗している。
■「ホリエモンは『救世主』なのではないか」
しかし、今回、フジテレビに第三者委員会の設置を要求した米国の投資ファンド、ダルトン・インベストメンツの場合は、「質が違う」。フジ・メディア・ホールディングスの株式を7%超保有していると主張し、俄然「物言う株主」として存在感を示している。こちらは「外国資本」だ。
「目下のフジテレビの敵はホリエモンだ」と思っている人が多いかもしれない。だが、実は堀江氏は「救世主」なのではないかと私は感じ始めている。私は、フジテレビの再生への道は「サントリーのように「外部の血」を入れるしかないと考えている。「日枝体制」からの脱却だ。そのためには、日枝氏の息がかかった現在の幹部は総入れ替えしなければならない。「いっそのこと堀江氏に社長になってもらったら」とも思っている。堀江氏は16日に自身のXに「株買って総会行こうかな」と投稿した。テレビメディアやフジテレビに「興味」や「愛」がないとできない行動だ。
堀江氏
今回フジテレビに意見した海外の投資ファンドが考えていることは何か。
それは「敵対的買収」である。「敵対的買収」とは、企業の経営陣の同意なしに、直接株主に対して株式を買い集めて企業を支配しようとする方法だ。海外の投資ファンドがこの手口を使う場合、しばしば買収先企業の価値を一時的に下げるための戦術を用いる。
だとすれば、いまのフジテレビの状況はスポンサーや社会からの評価が低く、うってつけだ。買い付ける方としては、「しめしめ」と思っていることだろう。堀江氏の言動は、その防御策や対抗策になる可能性がある。堀江氏のXへの投稿の影響かどうかは不明だが、実際にフジテレビの株は買われ、株価は急伸している。
■「外国人株式規制」の抜け穴
日本のテレビメディアを含めた「電波」は私たち日本人一人ひとりの「共有財産」である。その財産を外国資本に支配される、そんなことがあってもいいのだろうか。少なくとも、テレビマンとして「少しでもいい番組を視聴者に見てほしい」と思って頑張ってきた私は嫌だ。
そう考えると、今回のフジテレビの一番の「罪」は、日本のメディアが海外資本に乗っ取られるチャンスを与えてしまったことではないかと思えてならない。「いや、そんなことはない。日本のテレビメディアは『電波法』や『放送法』に守られているではないか」と反論する人もいるだろう。
だが、思い起こしてほしい。孫正義氏とマードック氏のときのことを。当時のソフトバンクとニューズ・コーポレーションは折半出資の合弁会社を設立し、双方、10.7%ずつの比率で株を所有していた。だから、「電波法」や「放送法」に定められている、放送事業者における外国資本が占める株式は全株式の20%未満に制限されるという「外国人株式規制」には引っかからなかった。だが、実際には両者を合わせればテレビ朝日の株21.4%を保有していたのだ。そのやり方を海外の投資ファンドが狙っている可能性があるのではないか。7%の株式保有率も、3つの投資ファンドが束になれば21%にもなる。
■共有財産である「電波」の危機
私はかつて「テレビがメディアの雄」であった時代に生きてきた。だから、日本の電波が海外資本に乗っ取られてしまうことを嘆いてしまう。しかし、この考え方自体がすでに古いのかもしれない。それは、いままさにテレビ局で働いている後輩たちに尋ねてみた答えに歴然とあらわれている。意外と「海外資本ウェルカム」だったのだ。
「不健全な老人支配をされるより純粋に利益を追求してドラスティックな改善を要求された方がまだ合理性があって納得いくので、外資ファンド大歓迎です! 特に若手~中堅は。リストラ対象ど真ん中の管理職クラスしか抵抗勢力はいないですね」
何とも潔く、目から鱗の考え方ではないだろうか。
フジテレビの信頼回復への道のりは長い。まずは調査を迅速におこない、これまでの遅れを取り戻してほしいところだが、調査が正常な状態で進められるのかどうか、そのことすらも国民は疑問視している。まさに“いち企業としての”真価が問われている。
そして、教訓としなければならないのは、今回の問題はフジテレビだけのものではないということだ。他局にとっても、他人事ではない。ましてや、フジテレビが迎えているスポンサーによるCM撤退や外資による外圧、総務省の指導などの事態は、どのテレビ局にとっても「絵空事」ではない。明日の自らの姿なのだ。「今回すぐに」ではないかもしれないが、こういった失態を繰り返していると「いつかは」となってしまうだろう。フジテレビの振舞いや状態を分析し、テレビ業界の全体の問題として「他山の石」とできるかどうか、いまが正念場だ。
国民の共有財産である「電波」は、狙われている。
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元テレビ東京社員、桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授
1964年兵庫県生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、テレビ東京に入社。世界各地の秘境を訪ねるドキュメンタリーを手掛けて、訪れた国は100カ国以上。「連合赤軍」「高齢初犯」「ストーカー加害者」をテーマにした社会派ドキュメンタリーのほか、ドラマのプロデュースも手掛ける。2023年3月にテレビ東京を退社し、現在は桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授。著書に『混沌時代の新・テレビ論』(ポプラ新書)、『弱者の勝利学 不利な条件を強みに変える“テレ東流”逆転発想の秘密』(方丈社)、『発達障害と少年犯罪』(新潮新書)、『ストーカー加害者 私から、逃げてください』(河出書房新社)、『秘境に学ぶ幸せのかたち』(講談社)など。日本文藝家協会正会員、日本映像学会正会員、芸術科学会正会員、日本フードサービス学会正会員。映像を通じてさまざまな情報発信をする、株式会社35プロデュースを設立した。
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(元テレビ東京社員、桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授 田淵 俊彦)
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