「傾いた家」が続出するのは千葉県浦安市だけではない…大地震で液状化リスクが高い「東京の地名」
プレジデントオンライン / 2025年1月25日 8時15分
※本稿は、髙木健次『建設ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
■避けては通れないマンションの大規模修繕
「マンションの大規模修繕が進まない」というテレビや新聞での報道が増えています。
本稿では株式会社さくら事務所にお話を伺います。同社は個人向けのホームインスペクション(第三者による住宅診断)やマンションの管理組合向けのコンサルティング事業を展開しているほか、NHKドラマ『正直不動産』の監修もしています。
大規模修繕工事はマンションの規模によっては数億円単位(一戸あたり100万円以上)になることもあるマンションの一大イベントです。同社はマンション管理組合に対し、大規模修繕の施工会社選定や、工事中の巡回施工チェックなどをサポートしています。
国交省の調査では築40年以上経ったマンションの4割近くが外壁の剥落、漏水や雨漏りなどの問題を抱えています。マンションの維持管理費は管理会社への業務委託費などに充当する管理費と、修繕を行うために積み立てる修繕積立金の2つに分かれます。
■「2つの老い」によって費用が不足する
国交省のガイドラインでは外壁などの大規模修繕は12~15年に一度行うことが望ましいとされており、2024年現在は、2008年ごろに建設されたマンションが1回目の大規模修繕を迎える時期です。それ以前のバブル期に建設されたマンションは2~3回目の大規模修繕を迎えていることになります。
さくら事務所によれば、新築販売時の修繕積立金の設定額は1回目の大規模修繕費用をもとに算出されていることが多いので、1回目の大規模修繕でお金が足りない事態にはなりにくいそうです。
しかし、2回目以降になると建物や設備の劣化が進んで修繕箇所が増える上に、住民が高齢化・定年退職により収入が減っていることが多いため、修繕積立金の増額に対応できないことがあり、修繕費用の不足が起きやすくなります。
マンションは時間とともに外壁などの建築部分だけでなく、給排水管や機械式駐車場、エレベーターなどの設備系統も劣化していきます。この建物と住民の老いは「2つの老い」と言えるでしょう。
■管理組合だけで対応するのは難しい
工事会社も人手不足なので、人件費も上昇しています。新築時の修繕計画が昨今の物価高を反映していない場合は計画の見直しが必要です。また、私が話を聞いた工事会社は「マンション関連の工事は管理組合の議論が紛糾して待たされることがあるので、本音では話のわかる企業相手の案件をやりたい」と言っていました。
マンション管理組合は理事会が月に一度程度しか開催されないことが多いので、企業のように早く意思決定することは難しく、区分所有者で形成されている管理組合では、工法などに関する知識が乏しいケースもあります。そこで、管理組合に助言・サポートするさくら事務所のような専門家が必要とされるのです。
では、修繕積立金不足にどう対処するのか? 耐久性の高い材料を使うことで、大規模修繕の周期を12年から18年程度に延ばすことも可能です。しかし、耐久性の高い材料を使う工事内容を選択した場合、一回当たりの工事費用は上がります。長期のメリットを取るか、目先の費用か。「老いる」マンションの管理組合も難しい問題を抱えています。
■マンションが被災したら誰が直す?
マンションが水害などの被害を受けた際、エントランスなどの共用部は管理組合の加入する損害保険でカバーし、専有部(個人宅)は住民の加入する保険でカバーすることになります。
さくら事務所によれば、共用部の復旧工事は修繕積立金を流用できる規約になっているケースが多いですが、修繕積立金は災害を想定して積み立てていないことが多いため、災害があっても残高が足りない、となるケースがあるとのこと。
また、管理組合が加入している損害保険で個人賠償責任特約が付保されていない場合、住戸間で漏水事故があっても管理組合の保険ではカバーできないため、補修や補償を巡ってトラブルになることもあります。
新築、中古ともマンションを購入する場合は「目に見える内装のきれいさ」だけでなく、保険契約や管理組合の運営状況もよく確認したいですね。
さくら事務所は中古物件を購入する際の論点なども情報発信され、書籍も多く発行されていますのでご参考ください。
■地滑りや地盤沈下で自宅が「傾いた家」に
「曳家(ひきや)」「沈下修正」、これらは建設業界の人でもあまり聞いたことがない言葉かもしれません。曳家は建物を解体せず、建物をレールなどに載せて動かす職人のことです。
有限会社曳家岡本の代表、岡本さんは「土佐派」と呼ばれる伝統技術の継承者。東日本大震災をきっかけに曳家の技術を応用し、地震で傾いた家を元に戻す「沈下修正」に取り組んでいます。
2011年の東日本大震災後、千葉県浦安市周辺では大規模な「液状化現象」が発生。液状化現象は柔らかい砂の地盤に強い地震動が加わると、地層自体が液体状になることを指し、地滑りや地盤沈下を起こします。「傾いた家」の映像を見たことがある方も多いと思います。
浦安市では液状化で家屋が傾くなどの被害が8700棟発生しています(※)。家が土台から傾いてしまうと、構造がゆがんでしまい、見た目にはわからなくても地震に弱い家になってしまいます。かといって家を強引に持ち上げれば柱や壁などが壊れてしまいます。
※「浦安市液状化対策技術検討調査 報告書」
家を傷つけずに正常な状態に持ち上げて戻す。その「匠」が岡本さんです。講演や書籍を通じた情報発信もしているほか、漫画『解体屋ゲン』でも何度も紹介されています。
家を購入する際はどうしても家(上物)に目が行きがちですが、あまり目立たない「基礎」や「地盤」に目を向けてほしく、岡本さんに取材しました。
■震源地から離れた場所でも液状化は起こる
取材先の岡本さんは新潟にいました。
「能登半島地震により、新潟市内では全壊97軒、半壊3632軒、一部損壊1.1万軒の建物被害がありました。その大半が液状化によるものです。被害の約6割は西区に集中しています(※)。信濃川の旧流路~埋立地だったところですね。地元の工務店と接点があり、元旦の地震のあとすぐにスケジュールを押さえてくれと依頼がありました」
※新潟大学災害・復興科学研究所 調査報告書「2024年能登半島地震による新潟市域の液状化被害」
と岡本さんは教えてくれました。能登半島地震は石川県の被害が注目されがちですが、新潟でも実は大きな被害があったのです。
新潟も浦安も震源地から離れており、地震の揺れによる家屋倒壊被害は大きくありません。しかし、地盤によっては地震の振動による変形が地下で起きるのです。岡本さんによればポイントは「地歴」です。海岸沿いの埋立地、河を埋め立てた土地で液状化は多く発生します。
■東京都内で液状化リスクが高いエリア
自分たちの住んでいる土地は大丈夫なのか? と思われた方もいるでしょう。「都道府県名×液状化」で検索すると、各自治体が液状化リスクのある土地を公表しています。
例えば東京の場合、豊洲、南砂町、錦糸町、綾瀬などの液状化リスクが高いです。江戸時代、海や川だったところです。同様に、国土地理院の「地理院地図」のサイトでも「明治時代の低湿地」を検索できます。
液状化リスクのある土地は建物を建てる前に地盤改良(杭を打つ、セメントや砕石で固めるなどして地盤を強固にすること)をしていることが多いです。
■「安物買いの銭失い」はしたくない
「地盤改良は液状化の抑止にはなります。しかし、どんな地震でも絶対に大丈夫、という地盤改良工法はありません。地盤改良業者さんだけの問題ではありません。最近はデザイン優先で広いリビングを強調し、柱の少ない家を建てるハウスメーカーがあります。
柱が少ないと建物の荷重が分散しないため圧密沈下(構造物の荷重によって地盤を構成する土が押しつぶされ、じわじわと沈むこと)が起きやすいのです。
家は地盤と建物を一体で考えるべきですが、理解していない建築士もいます。新築にばかり注目し、災害後の修繕に意識が向いていないのです。最近は高気密住宅を売りにするハウスメーカーが多いですが、あくまで上物の話です。
地盤や構造は人命の問題です。コスパやデザインだけでなく、災害は日本中で起こる前提で、修理しやすい設計も念頭に家を建てた方がよいです。最悪の場合、新築を建て替えるのと同じくらいの修繕コストになることもあります」
と岡本さんは「匠」として家を建てる際の重要なポイントを教えてくれました。
「我々の技術力なら住民の方は住みながら沈下修正工事をすることも状況によっては可能です。しかし、良くない業者に頼むと引っ越しを伴うので、工事費は安くても引っ越し代を含めたトータルでは割高になる場合もあります。
技術のない業者に依頼すると、その場の工事費用は安いかもしれませんが、次の地震で再沈下が起こることもあります。目先のコストだけでなく実績をよく見て、慎重に業者は選んでください」
「安物買いの銭失い」をしないよう、私たちは「賢い施主」になっていく必要があります。
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クラフトバンク総研所長/認定事業再生士(CTP)
1985年生まれ。京都大学在学中に塗装業の家業の倒産を経験。その後、事業再生ファンドのファンドマネージャーとして計12年、建設・製造業、東日本大震災の被害を受けた企業などの再生に従事。その後、内装工事会社に端を発するスタートアップであるクラフトバンク株式会社に入社。社内では建設業界未経験の新入社員向けのインストラクターも務める。2019年、建設会社の経営者向けに経営に役立つデータ、事例などをわかりやすく発信する民間研究所兼オウンドメディア「クラフトバンク総研」を立ち上げ、所長に就任。テレビの報道番組の監修・解説、メディアへの寄稿、業界団体等での講演、建設会社のコンサルティングなどに従事。
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(クラフトバンク総研所長/認定事業再生士(CTP) 髙木 健次)
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