「今日があなたの定年退職日です」と言われ即日解雇…職員を無理やりクビにするブラック幼稚園の「非情な手口」
プレジデントオンライン / 2025年1月29日 17時15分
※本稿は、ブラック企業被害対策弁護団『ブラック企業戦記 トンデモ経営者・上司との争い方と解決法』(角川新書)の一部を再編集したものです。
■「今日があなたの定年退職日です」で即日解雇
あるところに、幼稚園と小学校を運営する学校法人があった。そこで働く2人が、今回の当事者である。
1人は幼稚園の園長のAさん。そして、もう1人は事務局の事務長のBさん。Aさんは、園長さんの業務と並行して、幼稚園児の保育に携わる日々。Bさんは、少し前から、幼稚園や小学校の事務長さんとして働くようになり、幼稚園児を温かく見守りながら仕事に励んでいた。
すると、ある日2人は、こんな趣旨のことを言われる。
「Aさん、あなたはもう高齢だから、幼稚園の園長さんは任せられない。定年ということで、今日、退職してもらうことが理事会で決まりました」
「Bさん、あなたは試用期間中だったんだけれど、本採用しないことになりました。不採用ということで、Aさんと同じく退職してもらうことが理事会で決まりました」
そう。2人は、いきなりクビにされてしまったのである。2人は、突然のことに驚いたが、ちゃんとした説明もなくいきなりクビにされて納得することができず、弁護士に相談することにした。
これが本件のあらましである。
■定年退職を装った即日解雇
相談を受けて話を聞いたところ、先述したように、Aさんについては「定年退職」、Bさんについては「試用期間中の採用拒否」ということで退職させていたことがわかった。そのうえで、就業規則を精査すると、この学校法人における通常の教職員の定年は、60歳(65歳までの継続雇用制度あり)とされているが、園長の定年については、特別な管理職であることを考慮して、通常の教職員の定年の規定は適用せず、「理事長が決定した日を定年とすることができる」と定めていることもわかった。
今回のAさんの場合、学校法人が一方的に定年日を当日と設定して、その日のうちに退職させたということになるので、定年退職を装った即日解雇であると整理することにした。
■圧倒的に足りなかった「解雇の理由」
また、試用期間の定めについて、この学校法人の就業規則をみると、出勤開始の日から6カ月間が試用期間とされていたが、Bさんは、働き始めてから6カ月はとっくに過ぎていた。そこで、Bさんについては、単純な即日解雇であると考えることとした。
2人とも強く復職を希望していたため、解雇無効の判決を勝ち取るべく、速やかに訴訟を提起することにした。
お気づきであろうか。ここまでの話のなかで、何かが足りないことに。ちなみに足りないのは、面白味ではない。もし、そう思われていたとしても、それは私の力ではいかんともし難い。豊かな想像力で補ってほしい。
足りないもの、それは、2人を解雇した理由である。提出された驚きの文書とは……。
■解雇には合理的な理由と相当性が必要
ご承知のこととは思うが、解雇は簡単にすることはできない。解雇には客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要とされる。私たちは、訴訟提起の段階から、今回の事件が理由なき解雇であることを追及し続けた。
学校法人側は当初、高齢のAさんには解雇権濫用の法理は適用されないなどという独自の見解を示すなどして、解雇であること自体を否定していた。
やがて、そのような主張が通らないことに気がついたのか、2人を解雇してからおよそ10カ月半、訴訟提起からおよそ7カ月半経過した段階になって初めて、裁判所に提出した書面において、2人の解雇理由に関する主張を具体的にするにいたった。
学校法人が解雇に相当すると主張する理由はさまざまであった。しかし、そのほとんどはまったく事実ではない言いがかりや、取るに足らないような出来事をもとに理不尽な非難をしているに過ぎないものであった。
「Bさんが、自家用車を不適切に駐車したために、他の教職員が駐めていた自動車が出しづらくなったことがあった」
「Bさんは、児童とのふれあいが不足していた」
などという理由が挙げられていたが、言いがかりもいいところである。
「Aさんは、園児を散歩させているときに転倒して、骨折してしまい、園児を危険にさらした」
などというものも挙げられていたが、たまたま業務中に怪我をしたことを解雇理由とされたのではたまったものではない。また、散歩コースは自動車等がほとんど通らない落ち着いた場所であり、そもそも危険など生じない。
■「いい職場が見つかった」でクビにするツンデレぶり
およそ解雇を正当化しうるような理由が指摘されることはなかったが、それでも、学校法人側が主張した解雇理由は、私たちを戦慄させた。事務長であるBさんの解雇理由として、こんなことが指摘されていたからである。
「Bさんが働き始めて間もない時期に、幼稚園の謝恩会に出席した際に、隣席にいた初対面の教員に対して、『いい職場が見つかりましたよ』と話しかけた。話しかけられた教員は不快に思った」
どうやら学校法人は、Bさんがいきなり職場のことを褒めたことが気に食わなかったらしい。もしかしたら、もっと時間をかけて学校法人のことをよく知ってから、褒めてほしかったのかもしれない。残念ながら、裁判でそんなツンデレな一面を見せられても、ドキッとする人はいない。私としてはTPOをわきまえてほしかった。
なお、学校法人は、この言動がどうして解雇理由になるのかは明らかにしなかった。やはり、急に褒められて恥ずかしかったのかもしれない。
■解雇は無効、学校法人は相当の解決金を支払った
学校法人の勢いはとどまるところを知らない。こんなことも解雇理由として挙げてきたのである。
「Bさんは、小学校の入学式の際、事務職なのに、学校長・学園長と同列に並んで、集合写真の撮影をした」
学校法人は、この写真撮影の件が、幼稚園の教職員として適格性のない行為であり、幼稚園の秩序を乱し、規律に違反する行為であり解雇理由にあたると主張していた。
入学式といえば、学校行事の一大イベントである。仮に、写真撮影などの場面で看過し難い問題が発生していたとするならば、その時点で処分をして然るべきであろう。
私は、学校法人から当時の集合写真が証拠として提出されるのを心待ちにしていた。しかし、ついに提出されることはなかった。非常に心残りである。
学校法人からのさらなるダメ押しを受けて、私は悶絶した。とどめがきたのである。
「Bさんが学校の正門のペンキを厚く塗りすぎたせいで、門の開閉がし辛くなった」
「それはいくら何でも」と思ったが、学校法人側はどうやら本気で主張しているようだった。ちなみにBさんが、正門にペンキを塗ったことはあるが、門の開閉に支障が生じるようになったことはなかった。
裁判所は、学校法人側が主張する2人の解雇理由には見向きもしなかった。裁判所からは、解雇無効を前提とする和解を勧告され、学校法人側が復職を拒んだため、金銭和解をすることとなった。
およそ不合理な解雇理由に固執し、争いをいたずらに長引かせた結果、学校法人側は、相当額の解決金を2人に支払うこととなった。乱暴な解雇をしたばかりか、解雇を正当化しようとして、かえって傷口を広げてしまった典型例である。
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(ブラック企業被害対策弁護団)
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