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「部下の目を見れば、隠し事をしているかわかる」三菱UFJ銀行が「行員の14億円窃盗」を見抜けなかった"盲点"

プレジデントオンライン / 2025年1月27日 9時15分

記者会見で厳しい表情を見せる三菱UFJ銀行の半沢淳一頭取=2024年12月16日午後、東京都千代田区 - 写真提供=共同通信社

■常識的に考えても信じがたい事件

国内の大手銀行で、貸金庫にあった多額の顧客資産が盗まれた。盗んだのは、当該銀行の行員という衝撃的な事件が起きた。

それに対して、頭取は「信頼・信用のうえに成り立つ銀行ビジネスの根幹を揺るがす」不祥事と説明した。その通りだろう。多くの人が大切なお金を銀行に預けるのは、銀行がそのお金を大切に保管してくれると信じられるからだ。その信用がなくなると、銀行の仕事は成り立たない。まさに、銀行は信用の上に成り立っているのだ。

その信用を揺るがす事件は、一人の女性行員が2つの支店で貸金庫からの顧客資産を窃取して発生した。しかも、4年半もの間、一人の行員による貸金庫から多額の窃盗が続いていた。一般常識から考えると、にわかに信じがたい事件だ。

■たった一人で14億円もの資産を盗んだ

本来、銀行は、業務を複数の行員が確認し、それを管理者が厳格に管理する体制になっているはずだ。それにもかかわらず、一人の女性行員が4年以上にわたって、10億円を上回る多額の資産を盗み続けた。結果から見ると、2つの支店では、不正を防ぐ制度設計が確立されていなかったということだ。

今回の問題が、銀行に対する社会の信頼感を棄損する可能性はありそうだ。少なくとも、貸金庫を安心して使うことは難しくなるかもしれない。わが国の銀行にとって重大な問題であることは間違いない。

1月16日、三菱UFJ銀行は「元行員の不祥事に関する対応状況・再発防止策等について」を公表した。そこには、約4年半の間、一人の行員が多額の顧客資産を窃取し続けた実態が記載されている。

被害の内容は、練馬(旧江古田支店含む)と玉川支店の貸金庫で、顧客が保管した現金や金(ゴールド)などだった。1月10日時点で判明した被害総額は約14億円。被害にあった顧客数は、当初の約60人から約70人に増加した。被害総額などは今後の被害内容の確認によって変動する可能性がある。

■スペアキーの封を開け、使用後に再度糊付けし…

同行の発表によると、元行員(今村 由香理、1月14日、窃盗容疑で逮捕)は、2020年4月から2024年10月、単独で貸金庫から顧客の資産を盗んだ。元行員は、支店の貸金庫や予備(スペア)の鍵保管などの管理責任を負う立場にあった。2022年6月以降は支店長代理の職位にあった。

元行員は自身の立場を利用して、予備の鍵を不正に利用した。封緘(ふうかん)された封筒を開けてスペアキーを持ち出し、貸金庫を無断で開けて現金等の資産を窃取した。使用後は鍵を封筒に戻し再度糊付けした。奪った現金などは、主に外国為替証拠金(FX)取引などにつぎ込んだという。

警察による任意の取り調べに対して、元行員は2013年にFX取引や競馬で700万円以上の損失を出し、民事再生手続きを受けたと明らかにした。その1年後、同行員は再びFX取引を開始したようだ。取引金額を増やした取引などを行ったこともあり、想定外に損失は増え行き詰まったとみられる。消費者金融への債務返済のため、貸金庫にあった顧客の現金やゴールドを盗むようになったとみられる。

■なぜ三菱UFJは防げなかったのか

元行員は、貸金庫の利用者の訪問パターンをつぶさに確認し、来店日時などを予測した。スマホや手書きメモなどで貸金庫内の状況も記録していたという。顧客の訪問タイミングなどに合わせ、窃取した顧客の資産を補填するために、他の貸金庫からも現金などを奪った。想定外の顧客訪問時には、貸金庫システムの電源を切り故障を装うなどして発覚を回避した。

三菱UFJ銀行が貸金庫からの窃盗を防げなかったのは、不正を未然に防ぐ体制や仕組みを確立できなかったためだ。一般的に、銀行は日々の現金繰り確認をはじめ、業務運営を一人ではなく複数で行う。二重、三重に客観的チェック体制を整備して銀行は良識、常識はもとより、法令や社内規定の遵守に基づいた業務運営を徹底してきたはずだった。

貸金庫の業務であれば、スペアキーを管理する封筒に割り印を押す際、顧客、担当する複数の行員の押印が必要であるはずだ。システムの運営と管理に関して、特定の行員一人だけが管理できる立場にあることも、一般的に考えて許容できるものではない。デジタル化の時代、システムを特定個人が自分の判断で切ることは考えられない。

■「部下の目を見れば、隠し事をしているかわかる」

しかし、三菱UFJ銀行では不正を防ぐ制度が機能していなかった。管理手続きの不備が考えられる。過去、三菱UFJ銀行では、貸金庫業務で不正がなかったという。組織全体でスペアキー悪用による、不正リスクの認識は不足していたのかもしれない。貸金庫の開閉記録などのルールは確立されておらず、業務運営体制は不十分だった。

また、牽制・モニタリングの体制も不十分だった。練馬支店では、営業課の経験が長かった元行員の主導で業務分担が固定化していたようだ。貸金庫の業務は、問題を起こした元行員任せになっていたのだろう。

銀行全体としてのモニタリング体制も十分ではなかった。銀行の子会社が予備鍵の管理状況を点検することになっていたが、具体的な方法は確立されていなかった。また、組織全体で「貸金庫に絡む不正のリスクは低い」との思い込みの影響も大きかっただろう。こうして4年半もの間、窃盗は放置された。

その他にも、行員の身上調査を定期的に行っていたかなど、潜在的なリスクを把握する取り組みを徹底したか否か、検証されるべき点は多いだろう。銀行OBによると、「部下の目を見れば、隠し事をしているかわかることは多い」と話していた。

■超低金利で貸金庫を利用する人が増えたか

1990年初めのバブル崩壊後、複数の銀行が合併することで三菱UFJ銀行は国内最大手の地位を手に入れた。複数の銀行が合併した結果、組織の隅々にまでコンプライアンスを徹底することが難しかったのかもしれない。

銀行ビジネス根幹には、人々の信用がある。強盗、紛失などから資産を守るために、わたしたちは銀行にお金を預ければ安心と考える。信用を支えに銀行は預金を集める。資金需要者の信用力を審査して融資などを行い銀行業務が成立する。それは、資本主義経済の成長を支える重要なファクターだ。

信用があるからこそ、わが国で貸金庫を利用する人は多い。2016年に日本銀行がマイナス金利を導入したことは、すでに低かった金利を一段と押し下げることになった。ATMで預け入れることのできる金額にも限度がある。金利が非常に低い状況下、貸金庫にお金を預けようとする人は増えたとの見方もある。

金とお札
写真=iStock.com/Thanyathep Eakphaitoon
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Thanyathep Eakphaitoon

■社会的な信用悪化は避けられない

今回の貸金庫不正問題をきっかけに、商業銀行の信用は低下する恐れがある。三菱UFJは貸金庫ビジネスをどう扱うかを検討するとしている。不正撲滅策としてのシステム導入などのコストに加え、貸金庫が脱税や犯罪に使われるリスクもある。

主要投資家の中には、同行の関係役員の役員報酬減額で済むとは考えづらいとの見方もある。貸金庫問題の実体解明が進むに伴い、金融庁が業務改善命令を出す可能性もあるだろう。

1月16日以降、貸金庫の新規受付を原則停止、あるいは貸金庫の予備鍵の管理強化を発表した国内の銀行は増えた。今後、他の銀行でも、貸金庫ビジネスの潜在的なリスク、運営コスト負担を理由に縮小や撤退を表明するケースは増えそうだ。今回の問題は、わが国における銀行の社会的な信用悪化につながる恐れを持つ。今回の事件を過小評価することは適切ではないはずだ。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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