プレイヤー時代は楽しかったのに…"ヘロヘロ中間管理職"が自分を取り戻す「会社にもメリット大」の決定的手段
プレジデントオンライン / 2025年2月3日 8時15分
※本稿は、安斎勇樹『冒険する組織のつくりかた 「軍事的世界観」を抜け出す5つの方法』(テオリア)の一部を再編集したものです。
■変革のカギは「中間」が握っている
トップダウン型の組織変革においては、経営チームの明確な意思が欠かせませんが、それを実務に落とし込んでいく段階では、やはり経営チーム以外のメンバーにも声をかけ、公式のプロジェクトチームを組成していくことになります。
このとき重要なのが、「どれだけミドルマネジャーを巻き込めるか」です。経営の視点だけではどうやっても偏りや死角が生まれますから、現場・現物・現実に日々向き合っているミドルマネジャーの協力は不可欠なのです。
また、とくに現場に大きな影響が出るような変革プロジェクトともなると、ミドルの重要性はいっそう高まります。
現場のメンバーたちに精神的な不整合が広がらないようにするためには、「この変革が自分たちにとってどんな意味を持っているのか?」についてミドルマネジャーがストーリーテリングするプロセスが欠かせないからです。どんなに経営が熱量を持っていても、ミドルマネジャーが現場目線の熱量に変換しなければ、組織の「温度差」は高まり、かえって変革そのものが組織を崩壊させかねません。
また、ボトムアップ型の組織変革においても、ミドルマネジャーの立ち回りは重要です。
新規事業にせよ、勉強会にせよ、現場と経営の中間に位置するミドルマネジャー自身が発起人となることで、その活動はより経営から認識されやすくなります。また、現場メンバーからはじまった草の根的な活動も、ミドルマネジャーが前向きなかたちで参画し、社内向けの広報活動にも協力的だと、変革を組織全体に広げるうえでのハードルはグッと下がります。
実際、大企業における新規事業開発が失敗するとき、その原因はアイデアそのものの良し悪しよりも、社内からのサポートの有無に左右されているという研究報告もあります。ボトムアップ型の変革プロジェクトの成否もまた、ミドルマネジャーのサポートにかかっていると言えるでしょう。
■責任の重みと仕事の負荷で「しんどい」
以上のように、トップダウン型かボトムアップ型かを問わず、ミドルマネジャーこそは組織変革プロジェクトを前進させていくための要なのです。
しかし、現代のマネジメントは複雑で難易度が高く、多くのマネジャーが責任の重みと仕事の負荷に「しんどい」思いをしています。
さらには後述するように、ミドルマネジャーは年齢や役割に起因する特有の悩み(アイデンティティ危機)とも隣り合わせです。
本書が提案する「職場デザイン」の心得は、いたずらにマネジャーの仕事を増やすためのものではありません。そうではなく、マネジメントの機能を組織的に「分散」させて、ミドルマネジャーたちに「変革の余力」をもたらすためのアイデアなのです。
ミドルマネジャーは組織変革の要ではありますが、だからといって、その責任をすべてミドルマネジャーに押しつけるのは避けるべきです。むしろ、ミドルマネジャーが組織変革を「自己実現の探究」に向けた絶好の機会として活用できるよう、組織全体でケアしていく姿勢が求められています。
■30代、40代の「アイデンティティ危機」と重なる
ミドルマネジャーがしんどい思いをする原因の1つに、「アイデンティティ・クライシス」と呼ばれるキャリア課題があります。これは「私らしさ」の認識が揺らぎ、自分が何者なのか、なんのために働いているのかがわからなくなる現象のことでした。
「新たなアイデンティティの探究」を通じてこれを乗り越えていくことこそが、冒険的世界観における「成長」だという論点は、すでに本書の[第1章]で触れたとおりです(102ページ)。
一般的に、人生で最初の「アイデンティティ危機」は、20歳前後の青年期に訪れるとされています。多くの若者は「自分探し」をしながらもなんとか社会に飛び出し、自分の職能と結びついたアイデンティティ(たとえばセールス、デザイナー、エンジニア、コンサルタントなど)を獲得していきます。
ところが、こうして仕事に熱中していた人も、マネジャーとなって指導や育成の役割を持つようになると、次第に「自分」が揺らぎはじめます。
厚生労働省の調査によれば、課長職の平均年齢は49.2歳だそうですから、マネジャーになるのは早くとも30代、一般的には40代以降でしょう。つまり、ちょうど家庭生活などでも役割の変化が発生し、気力や体力も衰えていきやすいタイミングです。
そのため、自分のなかに生まれた「新しい私」の要素との折り合いがつかず、自己の揺らぎに直面することになるのです。これは中年期特有の問題として「ミドルエイジ・クライシス(中年の危機)」とも呼ばれます。
■「自分の自己実現」をあきらめる人が出る時期
たとえば、ひたすらデザインの技を磨き続けてきたデザイナーでも、ひとたびマネジャーになれば、まったくデザインの仕事をしないまま、部下たちとの1on1の連続だけで終わる一日も出てくるでしょう。こういうとき、本人のなかに「自分はデザイナーだったはずなのに、いったいなにをしているんだろう?」という疑問が生じるのは、きわめて自然なことです。
また、つい最近まで同僚に対して発していた「がんばってね!」という言葉も、それが部下に対する「がんばってくださいね」になった途端、これまでとは違う意味合いを持つようになります。いつのまにか自分の言動の「主語」が“私”ではなく“会社”になっていることに気づき、そこに言い知れぬ違和感を抱く人もたくさんいるはずです。
組織で働く人が「自分の自己実現」をあきらめるのも、まさにこのタイミングです。プレイヤー時代にのびのびと仕事をしていた人が、マネジャーになった途端に「会社の駒」として振る舞うようになるのも、このアイデンティティ危機によるところが大きいと言えます。
新しい自分への違和感から逃れるために、ひとまず「調整役」に徹していたつもりが、いつのまにかその“仮面”にアイデンティティを乗っとられてしまい、自分なりの探究を完全に捨て去ってしまうのです。
■「新しいアイデンティティ」を探求する意識を持つ
一方、プレイヤーだろうとマネジャーだろうと、個々の自己実現をあきらめないのが冒険する組織のなによりもの特徴でした。
ただし、それは「マネジャーになっても自分のやりたいことだけを貫き通せばいい」ということではありません。ミドルマネジャーになった以上、マネジメントの成分も自分のなかに取り込みながら、「新たなアイデンティティの探究」に意識を向けることが不可欠です。
ミドルマネジャーのアイデンティティ探究が難しい理由は、プレイヤー時代の自分と、現在の役割とのあいだに「矛盾」が生じるからです。前述した例で言えば、「手を動かしてデザインしたい自分」と「他人のデザインを指導しなければいけない自分」との矛盾です。折り合いのつかない要素が共存することで、自分の「中途半端さ」に悩み続けてしまうわけです。
こういうときは、少し視点を変えて「元デザイナーの自分が、マネジャーの立場だからこそデザインできるものはなにか?」「デザインの力で、組織を変えていくためには?」といったように、過去と未来をつなぐ問いを立て、文字どおり「新しいアイデンティティ」を粘り強く探究する意識が求められます。
■組織づくりは「失った自分」を取り戻すチャンス
その意味で、組織づくりや組織変革へのコミットメントは、ミドルマネジャーのアイデンティティ探究を促進し、「失った自分」を取り戻させるための絶好のチャンスでもあるのです。
組織変革が求められているときこそ、ミドルマネジャーたちを精神的にケアしながら、積極的に変革プロジェクトを任せて、彼らの成長をあと押しする姿勢が会社側には求められます。
とくに、すでに触れたとおり、マネジメントチームは「組織の靭帯」です(本書181ページ)。プロジェクト推進にあたっては、ミドルマネジャーたちにチームとして連携してもらうようにしましょう。これによって会社の組織力そのものが底上げされると同時に、ミドルたちのなかにも「自分たちは組織を変えていけるのだ!」という手応えが育まれていきます。
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MIMIGURI 代表取締役Co-CEO
1985年生まれ。東京都出身。東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。組織づくりを得意領域とする経営コンサルティングファーム「MIMIGURI(ミミグリ)」を創業。資生堂、シチズン、京セラ、三菱電機、キッコーマン、竹中工務店、東急などの大企業から、マネーフォワード、SmartHR、LayerX、ANYCOLORなどのベンチャー企業に至るまで、計350社以上の組織づくりを支援してきた。また、文部科学省認定の研究機関として、学術的知見と現場の実践を架橋させながら、人と組織の創造性を高める「知の開発」にも力を入れている。ウェブメディア「CULTIBASE」編集長。東京大学大学院 情報学環 客員研究員。主な著書に『冒険する組織のつくりかた』『問いかけの作法』、共著に『問いのデザイン』などがある。
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(MIMIGURI 代表取締役Co-CEO 安斎 勇樹)
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