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NHK大河でも触れられた…深川、根津、赤坂…吉原より料金の安いライバル「岡場所」のかなりヤバい状況

プレジデントオンライン / 2025年2月1日 10時15分

撮影=河内 彩

NHK大河『べらぼう』序盤の舞台は吉原だ。芸能界一の大河フリーク・松村邦洋さんは「劇中で田沼意次と蔦重との会話で出てきたように、料金の安いライバルが江戸中でいくつも登場して、かなりヤバい状況だったようだ」という――。

※本稿は、松村邦洋『松村邦洋懲りずに「べらぼう」を語る』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■深川、根津、赤坂…吉原より安い「岡場所」

大河『べらぼう』の序盤の舞台になっている吉原。江戸でただ一つのお上公認の遊郭ですが、劇中でも田沼意次と蔦重との会話で出てきたように、この頃は料金の安いライバルが江戸中でいくつも出てきていて、かなりヤバい状況だったようです。

それが「岡場所」と「宿場町」でした。岡場所というのはもちろん非公認。取締りの対象になるはずなんですが、そこはお上の差配でして、取り締まるフリをしながら黙認して、その代わりにショバ代はちゃんと巻き上げてたんです。

岡場所で一番有名だったのは深川です。深川の料亭とか芸者さんは有名ですけど、今の富岡八幡宮から永代橋の間に仲町、新地、石場、櫓下(やぐらした)、裾継(すそつぎ)、土橋、佃という「深川七場所」がありました。

当時の深川は運河や水路が張り巡らされてましたから、お客さんは舟で行き来するんです。妓楼じゃなくて料亭に入って遊女と飲み食いして、で、そこの奥座敷でナニするわけです。吉原だと引手茶屋がやっていた遊女の手配は、舟の船頭さんがやっていました。

当時の深川の様子。大小さまざまな船が浮かんでいる。
当時の深川の様子。大小さまざまな舟が浮かんでいる。「浮繪江戸深川新大橋中須之圖(うきええどふかがわしんおおはしなかずのず))」(歌川豊春筆・18世紀)(出典=Colbase)

江戸時代、人が集まる場所といえば寺や神社の門前です。「岡場第一の遊里」と言われた根津は、今の文京区にある根津神社の門前、今の池之端から不忍通り沿いです。徳川家の菩提寺・寛永寺の門前に遊女たちが集まったのが上野山下です。現在のJR上野駅構内から駅前広場近辺だそうですよ。

文京区音羽にある護国寺も、今は講談社があるハイソな住宅地ですけど同じ岡場所でした。港区の赤坂に溜池山王っていう駅がありますが、あそこには昔、本当に溜池があって当時はホタルで有名だったそうですね。その溜池の周りがそうだったんです。

■「吉原の遊女」のライバル「宿場町の飯盛女」とは?

歴史の授業で、五街道って習いましたよね? 東海道、甲州街道、日光街道、中山道、奥州街道。日本橋からスタートして、最初の宿場町が江戸への出入り口なんですが、そこで「飯盛女」、つまり飲み食いの相手をした後でいっしょに寝床に入る女性を雇っていました。

大河ドラマ劇中で田沼意次に「宿場を栄えさせるのは何だ?」と聞かれた蔦重が「女とバクチです」と答えるシーンがありましたが、あれですね。

一番賑わったのが東海道の品川宿。『吉原細見』ならぬ『品川細見』も発行されて、一番多い時はその「飯盛り女」が500人いたそうです。内藤新宿は、江戸日本橋から数えて最初の甲州街道にある宿場で、四谷新宿という今に通じる別名もありました。今の新宿1丁目から3丁目、新宿通り沿いに宿が並んでいたんです。歌舞伎町や二丁目もその名残なんでしょうか。

奥州街道の千住、中山道の板橋にも「飯盛女」がいて、どこももっぱら吉原には手の届かない一般庶民や、中級・下級武士が出入りしていました。こうしたライバルたちに押され気味の吉原のために、蔦重はひと肌脱ぐことにしたわけです。

さて、鱗形屋孫兵衛の『吉原細見』の販売と編集を手伝い始めた蔦重は、早くも記念すべき処女作・遊女評判記『一目千本』を発行します。

「これ一冊で千本の“花”を見れますぜ」っていう意味で、別名『華すまひ』。これは花相撲という意味で、上下2巻、全体で約70ページに、それぞれ遊女たちに見立てた生け花をずらりと並べています。

なかなかの豪華本ですが、本屋さんに並べて売ったんじゃなくて、妓楼や引手茶屋、遊女たちがお客さんに贈りものとして配ったんじゃないかと言われています。だから出版の経費はそういう人たちから集めたのでしょう。

■蔦重と同じ? エイベックス松浦会長のバイト先

花の絵を描いているのが、当時の浮世絵界の重鎮だった北尾重政(橋本淳さんが演じます)。ルーキーがいきなり起用できる人じゃないですから、たぶん孫兵衛が紹介したんじゃないかと言われてます。実際、この重政はその後もブレーンとして蔦重のビジネスの大発展の大きな助けになっていきます。

そのイケイケ蔦重、何と『吉原細見』を自分で編集・印刷して売り始めます。蔦重版『細見』の誕生です。これには蔦重がもともとやっていた貸本業が関わってきます。

貸出先の多くは吉原で暮らす人たち。格式の高い老舗妓楼の主には教養人がいたし、単に読書好きだったり、銀座の高級クラブのホステスみたいに、お客さんとの話題作りのために読む遊女もいたかもしれません。

貸本を通じてそういう人たちと親しくなった蔦重には、まず『吉原細見』に載せる遊女たちの最新の情報が入るわけです。どこどこの妓楼に何ていう名の子が入ったとか、辞めたとか。それに近所の酒屋さんじゃないですが、親しい得意先は雑談の中でポロッと立ち入った話をしてくれることがありますし、プライベートで色んな貸し借りも生まれるでしょう。

こうして貸本を通じて自然と出来上がった蔦重の“吉原ネットワーク”は、『細見』の編集に止まらず後々の仕事のベースになっていくんです。『一目千本』はその最初の成果でしょうね。

エイベックスの松浦勝人会長が、大学時代に地元の横浜の貸しレコード屋でバイトをしていた話を思い出します。偉くなる人は、早いうちからそのジャンルに仕事で関わっているんでしょうね。

■愛之助さんの役回りは主人公の“露払い”?

ところで、それまで鱗形屋が出していたほうの『細見』はどうなったのでしょう? 出版は「生き馬の目を抜く」と言われるくらいエグい商売ですが、この時代もパクリはさすがにNGでした。なぜそんなことが許されたんでしょうか。

『細見』は、しばらくは蔦重版と鱗形屋版とが、『ナイタイ』と『夜遊び天国』みたいに競合して売られてました。蔦重は『細見』をリニューアルします。大判にしてレイアウトを変え、情報を詰め込んでページ数を減らし、印刷費を切り詰めました。普段から「オレならこう作る」とあれこれ考えてたんでしょうね。

そういう工夫が効いてか、鱗形屋版に段々と差をつけていき、蔦重版が生き残ります。『細見』は蔦重の独占販売となったわけです。商売のベースとしてこれは大きかったですね。

ネタバレになるから詳しくは話しませんが、こうなったきっかけは鱗形屋のあるスキャンダルでした。大河ドラマのホームページで、孫兵衛のことを「本屋商売の“師”であり、業界最大の“敵”」と解説してますから、蔦重とは敵対関係になるようです。

松村邦洋『松村邦洋懲りずに「べらぼう」を語る』(プレジデント社)
松村邦洋『松村邦洋懲りずに「べらぼう」を語る』(プレジデント社)

蔦重は『細見』だけでなく、孫兵衛が火をつけた黄表紙(大人むきの絵入り小説)ブームをさらに拡大させて、自分のドル箱に育てていきます。一方の孫兵衛は、ナンバーワン版元から徐々に衰退。目をかけた蔦重という若造に、はたから見れば出し抜かれた格好となるわけです。

愛之助さんは『鎌倉殿の13人』(2022年)で、小栗旬さんが演じる主人公・北条義時の兄・宗時を演じたときも、打倒平家の先頭に立つはずが、山崎の合戦であえなく殺される役回り。義時が表舞台に立つ最初のきっかけでした。『べらぼう』でも、鱗形屋は蔦重の露払いのような役回りを演じるんでしょうか。

愛之助さんは流星さんに向かって「フフフ、やるじゃねえか」と不敵に笑うのか、「この裏切りもんが!」と怒鳴りつけるのか、「オレの屍を越えていけ」とゲキを飛ばすのかはまだ分かりませんが、蔦重の成長ぶりを描くうえで見逃せないエピソードになるんじゃないでしょうか。

主な参考文献:鈴木俊幸『蔦屋重三郎』平凡社ライブラリー
別冊太陽『蔦屋重三郎の仕事』平凡社
安藤優一郎監修『江戸の色町 遊女と吉原の歴史』カンゼン

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松村 邦洋(まつむら・くにひろ)
タレント
大学生の頃、バイト先のTV局で片岡鶴太郎に認められ芸能界入りし、斬新な生体模写で一躍有名に。ビートたけし、半沢直樹、“1人アウトレイジ”、阪神・掛布雅之、故野村克也監督など多彩なレパートリーを誇り、バラエティ、ドラマ、ラジオなどで活躍中。筋金入りの阪神タイガースファン。芸能界きっての歴史通であり、YouTubeで日本史全般を網羅する『松村邦洋のタメにならないチャンネル』を開設。特にNHKの歴代「大河ドラマ」とそれにまつわる知識が豊富。著書に『松村邦洋懲りずに「べらぼう」を語る』『松村邦洋まさかの「光る君へ」を語る』『松村邦洋今度は「どうする家康」を語る』『松村邦洋「鎌倉殿の13人」を語る』がある。

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(タレント 松村 邦洋)

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