このままでは「未婚率70%」の時代が訪れる…日本の若者に蔓延する「子育てはコスパ悪い」という深刻な呪い
プレジデントオンライン / 2025年1月24日 18時15分
■日本の中間層は崩壊している
世の中とは残酷なもので、光があれば影ができます。強者がいれば弱者が必ず生まれるし、その結果として何かを得られる側と得られない側が発生するものです。学業しかり、スポーツしかり、恋愛も結婚もまたしかり。
私は、常々「恋愛強者3割の法則」と述べています。これは、令和の若者が特に恋愛離れしたのではなく、少なくとも1980年代から40年間終始一貫しています(〈「若者の恋愛離れ、セックス離れ」はウソである…「20代の4割がデート経験なし」の本当の意味〉参照)。
一方で、資本主義社会としては経済的に裕福な層とそうでない層とを分けてしまうことになります。いわば、経済強者と経済弱者を生み出します。
「強者と弱者」という二極で語られがちですが、実際には強者以外がすべて弱者なのではなく、真ん中に中間層というものが存在します。
恋愛強者3割と言いましたが、7割が弱者なのではなく、中間層4割、弱者3割という構成になります。経済的にも、富裕層と貧困層しかいないのではなく、真ん中に中間層が存在し、人口的にはもっとも多い。強者と弱者の格差や弱者救済という面ばかりがフォーカスされがちですが、実は今起きていることは中間層の崩壊です。
■つい10年前は年収300万円台で結婚できていた
昨今の少子化の原因はほぼ婚姻減に尽きるのですが、婚姻数が減少しているのはすべて年収中間層です。結婚は持続的に運営される生活ですから、経済力は重要です。そのあたり女性は現実的で、2021年の出生動向基本調査においても、結婚相手として重視・考慮する項目で「男性の経済力」は91.6%です。
しかも、女性の場合は、「自分より収入の高い男を選ぶ」という上方婚志向があり、2022年の就業構造基本調査から、結婚してまだ子のいない20代夫婦のそれぞれの年収構造を分析すると、女性の上方婚7割、同額婚2割、女性の下方婚(女性の方が男性より年収が高い)はわずか1割です。
逆にいえば、男性の場合経済力を高めれば結婚への道も開けるともいえるわけですが、ここもまた険しいものになっています。女性の大学進学率の上昇や社会進出によって、女性の稼ぐ力もあがっていますが、女性が自分より高年収の男性と結婚したいという前提になると、女性の年収があがればあがるほど、皮肉なことに結婚のハードルが高くなるからです。
事実、つい10年ほど前くらいまでは、20代で結婚に至る男性の経済力最低条件は年収300万円と言われ、実際300万円台で多くが結婚していました。30代でも400万円台です。しかし、2014~2015年あたりを契機に、一気にこの「男の結婚可能個人年収」のインフレが起きており、20代で300万円台では見向きもされないという状況に陥っています。
■2013年以降、中間層の子持ち世帯が激減している
さらに「男の結婚可能個人年収」だけではなく、結婚して子育てするための夫婦の「子育て可能世帯年収」も同時期にあわせて上昇しました。
国民生活基礎調査より、2003年、2013年、2023年と10年間隔で、20~30代世帯主を対象として、児童のいる世帯の年収別世帯数を見れば一目瞭然です。2003~2013年にかけてほぼその分布は変わっていませんが、2013~2023年にかけて、中間層年収帯の世帯数だけが激減しています。全体の世帯数も2013年からの10年間で半減しています。
対して、世帯年収900万円以上ではこの20年間ほぼ変わっていません。婚姻減といわれている中でも、経済強者は関係なく結婚し、子どもを産んでいるということになります。
■ここ10年で中央値がはねあがっている
それぞれの中央値を比較してみましょう。2003年の児童のいる世帯の中央値は498万円ですが、独身も含む20~30代の総世帯の中央値は446万円でしたので、それほど全体と乖離しているわけではありませんでした。2013年は児童のいる世帯516万円(総世帯461万円)、とあがっていますが10年間で3.6%増程度に過ぎません。総世帯との差も2003年と大きく違いません。
しかし、2023年となると、児童のいる世帯で591万円(総世帯461万円)とはねあがり、2013年対比で15%増です。
20~30代若者の年収が全体的に上昇したのではありません。2013年と2023年の総世帯の中央値はまったくあがっていません。要するに、2003~2013年400万円台から500万円強の世帯年収で子育てできていた20~30代が、2023年にはとてもその年収ではできなくなり、結果としてこの中間層の結婚が減った。それにより、子を持てる世帯の中央値があがってしまっただけです。
よりわかりやすくするために、年収ごと総世帯に占める児童のいる世帯(20~30代のみ)の割合を算出してみます。世帯年収別にどれだけ子を産んでいるかの割合です。
■日本の少子化は「中間層が結婚できない問題」である
明らかに、2003~2013年までの10年間と2023年とではまったく違う軌跡を描いていることがわかります。2013年までは、世帯年収300万円台で5割が子どもを持つことができました。400万円台では6割を超えます。しかし、一転2023年になると、300万円台では24%、400万円台でも33%へとそれぞれ半減してしまっています。日本の婚姻減とは、まさにこの20~30代の中間層が結婚およびそれに連動した出産ができなくなっている問題なのです。
いまだに「貧乏子沢山」が存在すると誤解している人もいますが、今は逆で、所得が高くないと子を持てなくなっています。同じく、2023年国民生活基礎調査から、所得五分位階級での世帯当たり子ども数(子ども1人以上いる世帯のみ)を計算すると、所得第一階級(下)1.52人、第二階級(中の下)1.46人、第三階級(中)1.66人、第四階級(中の上)1.71人、第五階級(上)1.69人となっており、第四階級と第五階級という上位40%がもっとも子どもの数が多くなっています。
繰り返しますが、少子化の最大の要因は婚姻減であり、婚姻減とはかつてボリューム層として婚姻・出産を支えてきた中間層の若者がそれをできなくなってしまったことによります。
■政府が児童手当を拡充した「皮肉な結果」
今の少子化対策は、子育て支援偏重すぎて、すでに自力で結婚・出産した夫婦にはある程度の支援がいきわたる反面、「本当は結婚もしたいし、子どもも欲しいと願う経済的中間層がいつまでも結婚できないまま放置されている」という状況です。
皮肉にも、この事態を招いたのは子育て支援など出生インセンティブ政策の弊害でもあります。2008年の会計検査院が指摘したように、児童手当等現金給付を拡充しても新たな出生増にはつながらず、今いる子への投資に充てられる。そのため子育てコストのインフレを招き、それが結婚そのものの可能年収の高騰を生み、結果中間層の婚姻を減少せしめるというもので、実際その通りになっています。
初任給の賃上げのニュースもさかんにされており、それ自体喜ばしいことですが、それも結局3割の大企業社員という経済強者の話です。3割の強者の平均が全体基準であるかのようなイメージがより一層の心理的なインフレを生むのでしょう。
とはいえ、決して、経済強者の足を引っ張るつもりは毛頭ありません。英国元首相サッチャーの言葉通り「金持ちを貧乏にしても貧乏が金持ちになれるわけではない」からです。強者と弱者の対立軸も無意味です。
そもそも経済強者といっても相対的なものです。相対的には経済強者層に分類される世帯年収900万円台の夫婦とて、子育てをするにはとてもゆとりがあるとは言えないでしょう。東京23区に至っては、6歳未満の子のいる世帯の中央値は1000万円を超えていますが(2022年就業構造基本調査)、それでも余裕があるとは思えていないはずです。
■日本人を縛る「子育ては金がかかる」という呪い
感情的には、それぞれの年収階級で「まだまだ足りない」と感じてしまうかもしれませんが、経済強者でさえそうならば、中間層はもっと苦しいでしょう。大事なのは、知らない間に多くの人が刷り込まれてしまった「子育てには大きなコストがかかる」という何か呪いのようなものからいったん離れて、中間層の稼ぎでも十分に安心して子どもを育てられる全体の経済環境の整備が必要だと思います。
強者と弱者という二極だけを見るのではなく、今まであまり議論されてこなかった中間層の底上げと復活こそが必要なのではないでしょうか。
真の少子化対策とは、子育て支援でもなく、官製婚活などの出会い支援でもなく、まず、この20年間も年収が増えていない中間層以下の現状に向き合うことであり、そこへの経済対策です。少なくとも中間層なのに「お金がないので諦める」という心理に若者が追い込まれないようにしてあげることではないでしょうか。
これ以上、結婚や出産へのコストが心理的インフレをすれば、結婚や子どもを持てるのは上位3割の強者だけとなり、未婚率70%時代が訪れるかもしれません。
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コラムニスト・独身研究家
ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。著書に『「居場所がない」人たち 超ソロ社会における幸福のコミュニティ論』(小学館新書)、『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』(ぱる出版)、『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会』(PHP新書)、『結婚しない男たち』(ディスカヴァー携書)、『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(中野信子共著・ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。
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(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久)
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