港区や中央区よりも上…有名でも財政に余裕があるわけでもないのに「幸福度が高い」自治体が存在するワケ
プレジデントオンライン / 2025年1月30日 16時15分
■「楽しい日本」の真意とは
1月24日の施政方針演説で石破首相は「楽しい日本」を目指すと表明した。
「楽しい日本」とはいささか軽い印象を抱かないでもないが、内閣官房の「新しい地方経済・生活環境創生本部」のホームページに掲載されている「地方創生2.0の『基本的な考え方』(令和6(2024)年12月24日)」の概要を見ると、どうやら東京圏への一極集中を抑制するためには「女性や若者にも選ばれる地域」とすることが必要であり、そのために「楽しい」地方をつくる、ということらしい。
ただ、個人的には「楽しい」だけではなく、より上位の概念である「幸せな日本」のほうがしっくりくる。なぜなら、人々はだれもが幸せになりたいと思って暮らしていると思うからだ。
■幸福度ランキング上位には町村が並ぶ
筆者が企画・設計・分析を行っている「いい部屋ネット 街の住みここちランキング&住みたい街ランキング」では、「街の幸福度&住み続けたい街ランキング」というものも発表している。
2024年12月18日に発表した「街の幸福度&住み続けたい街ランキング2024<全国版>」の「街の幸福度(自治体)ランキング」では、1位から12位までが全て町や村で、20位以内で町や村ではないのは、13位の東京都港区、14位の大阪府箕面市、18位の兵庫県芦屋市、19位の東京都中央区の4つだけだ。
20位以内にランクインしている16の町や村は、特定の地域に集中しているわけではないが、平成の大合併でも合併しなかった町・村が多い。16町村のうち平成以降に合併したのは安平町、市川町、日高川町だけだ。
一般的には、例えば広島県府中町のように広島市に囲まれていても、マツダの本社や工場があるため財政に余裕があり、独立の町制を維持しているようなケースが多いが、幸福度ランキング上位の街のすべてが財政的に余裕があるわけでもない。
また、人口を見ても、上位20位の町や村のうち人口が増加しているのは、2位の長野県原村と3位の北海道東川町だけになっている。
財政に余裕があるわけでも、人口が増えているわけでもない町や村で幸福度が高い場所があるのはなぜなのだろうか。
■結婚、子ども、年収、住む街…幸福度の構造
「いい部屋ネット 街の住みここちランキング&住みたい街ランキング」の個票データを使って幸福度の構造を分析してみると興味深いことが分かる。
詳しくは「いい部屋ネット街の住みここちランキング2023〈総評レポート②〉」などを参照いただきたいが、幸福度には以下のような構造がある。
・結婚していること、子どもが居ること、年収がある程度あること、住んでいる街に満足していること、住んでいる家に満足していること、未来は明るいと思うこと、家族関係が良好であること、仕事や収入、社会的地位に満足していることで幸福度が高くなる。
・男性は40代、50代で幸福度が低くなり、下流意識を持っていたり劣等感を感じたりしていると幸福度が低くなる。
そして、本稿のために新たに分析してみたところ、以下のようなことも分かった。
・パワハラを現在受けていると幸福度は大きく下がり、過去にパワハラを受けた経験も幸福度を下げる。
・転職経験は幸福度にほとんど影響がないが、転職しようと考えている場合は幸福度が下がる。
・喫煙者の幸福度は低い。
・男女で構造が多少違う。未婚男性でも年収が800万円以上になると既婚男性の平均に近づくが、女性の場合は年収800万円を超えると既婚女性の幸福度を超えることもある。
■子どもがいると生活満足度は下がるが幸福度は上がる
さらに、幸福度の代理変数として扱われることもある生活満足度を目的変数として同じ分析を行うと以下のような結果が得られた。
・結婚していることのプラス効果は幸福度に対しては大きいが、生活満足度に対しては小さい。
・子どもがいることは幸福度に対してはプラスに働くが、生活満足度に対してはマイナスに働く。
・年収や金融資産のプラス効果は幸福度に対してよりも生活満足度を押し上げる効果のほうが大きい。
つまり、幸福度と生活満足度を同一視してはいけない、ということであり、一部にある「子どもがいると不幸になる」という言説は正しくない、ということになる。
正しい理解は、子どもがいると生活満足度は下がるが、幸福度は上がる、というものだ。そして子どもがいることによる生活満足度の低下は、年収や金融資産が上昇することで相殺できる結果となっている。
■「地域の人間関係」から見える興味深い傾向
幸せには構造があり、結婚しているか、子どもがいるか、未来を明るいと思っているかといった個人属性の影響が大きいが、住んでいる場所からの影響もある程度ある。
そして、住んでいる場所からの影響で最も大きな影響があるのは生活利便性だが、地域の人間関係に注目してみると興味深い傾向がある。
主観的幸福度と居住満足度には相関係数で0.68とかなり強い正の相関があり、居住満足度が高い街の幸福度が高くなる傾向にある。
次に居住満足度と地域の人間関係が濃密だと思う比率を見ると、相関係数がマイナス0.48と強くはないが一定の負の相関がある。
そして、地域の人間関係が濃密だと思う比率と回答者のうち地元出身者が占める比率の関係を見ると、相関係数が0.64とかなり強い正の相関がある。
別の視点の分析として、地域には自分と似たような人が多いと思う回答者の比率と居住満足度の関係は、相関係数が0.62とかなり強い正の相関がある。
続いて、地域には自分に似た人が多いと思う回答者の比率と回答者のうち地元出身者が占める割合の関係を見ると、相関係数がマイナス0.39と強くはないが一定の負の相関がある。
これらの結果から以下のようなことが分かる。
・主観的幸福度を上げるためには、居住満足度を上げる必要がある。
・地域の濃密な人間関係は居住満足度を下げる傾向にあり、地元出身者が多いと地域の人間関係が濃密になる傾向がある。
・一方で、地域に自分と似た人が多いと居住満足度が上がる傾向があり、地元出身者が少ないと、自分と似た人が多いと思う人の比率が高まる傾向がある。
■住民の流動性を上げることで、幸福度を上げられる可能性
このような結果を考えると、地元出身者の比率を下げる、すなわち住んでいる人の流動性を上げることが地域の居住満足度を高め、地域の幸福度を上げられる可能性がある、ということになる。
地元出身者の比率が下がると、自分と似たような人が多いと感じる人が増えるというのは一見違和感があるようにも思えるが、元々地域には多様な人たちが住んでいて、そこに住宅開発等で新たに住宅を購入できるような家族世帯、すなわち属性の似た人たちが新たに移り住んで来ることで、地域に似た人が多いと感じるようになる、ということなのだろう。
今回、本稿執筆のために新たな分析も行ってみたが、幸福度の高い街に、なんらかの共通点を見つけ出すことはかなり難しい。だが、幸福度ランキング上位の街は、取り組み内容はそれぞれ違うが、かなり長い間、なんらかの取り組みを続けてきて、新しい住民が入ってくる循環を作り出せている。
これは、「地方創生2.0の基本的な考え方」には、奇しくも「全国各地で地方創生の取組が行われ、様々な好事例が生まれたことは大きな成果である。一方、こうした好事例が次々に『普遍化』することはなく、人口減少や、東京圏への一極集中の流れを変えるまでには至らなかった」と記載されているように、そもそも普遍化できるようなパターンがない、という可能性もあるということだ。
そして、そもそも高度成長期のように全国共通のパターンを見いだして、それを横展開していく、という手法そのものがもはや使えない時代になっている可能性が高いということだろう。
だとすると、「幸せな日本」を作るためには、地域の人の流動性を高めることがポイントになる可能性がある。
それは東京圏への一極集中を解消することではなく、都道府県内や近隣自治体の間で、人が移り住むことで、たとえ人口が減少したとしても、幸福度を高めることができる可能性がある、ということなのだ。
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麗澤大学工学部教授
博士(社会工学・筑波大学)・ITストラテジスト。1965年北九州市生まれ。九州工業大学機械工学科卒業後、リクルート入社。通信事業のエンジニア・マネジャ、ISIZE住宅情報・FoRent.jp編集長等を経て、リクルートフォレントインシュアを設立し代表取締役社長に就任。リクルート住まい研究所長、大東建託賃貸未来研究所長・AI-DXラボ所長を経て、23年4月より麗澤大学教授、AI・ビジネス研究センター長。専門分野は都市計画・組織マネジメント・システム開発。
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(麗澤大学工学部教授 宗 健)
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