同じフジテレビアナでも大違い…「会社が大好き」と泣く男性、「徹底的な調査を」と訴える女性の温度差
プレジデントオンライン / 2025年1月23日 17時15分
■女性アナはどう扱われてきた? 視聴者から疑問のまなざし
フジテレビのみならずテレビ業界における女性アナウンサー、女性社員はどう扱われてきたのか? 華やかな職業に見えながら、報道や番組進行といった本来の仕事の他に、性接待を強いられることはなかったのか?
視聴者にそんな疑念を抱かせているのが、中居正広氏の報道に端を発するフジテレビ問題だ。
2025年1月23日、地上波のテレビで多数の司会番組を持ち、芸能界の頂点にいた中居正広氏が引退を発表した。この事態に至ったのは、引退発表文にも「相手さまに対しても心より謝罪申し上げます」とあるように、中居氏本人の行動が原因だが、フジテレビというひとつの大企業の体質も問われている。
1月17日、ワイドショーや夕刊が間に合わない「金曜午後3時」という絶妙な時刻に、フジテレビ港浩一社長は記者会見を開いた。しかも阪神・淡路大震災から30年という関連ニュースの増える日に重ねてだ。
そのような小狡いタイミングで閉鎖的な会見を行い、かえってガバナンスの脆弱(ぜいじゃく)さを露呈したフジテレビ。スポンサーの反応は素早く、たった2営業日で75社を超す企業がCMを停止した。キッコーマンにいたっては1社提供の長寿ミニ番組「くいしん坊!万才」の放送取りやめを発表した。
■社長会見後、真摯な調査を訴えた宮司愛海アナに声援
非難轟々となった社長会見の夜、フジのニュース番組「Live News イット!」では宮司愛海アナウンサーが「調査はもちろん、社員に対する説明もしっかりと真摯(しんし)に行って、それを真摯に公表してほしい」と口元を引き締めて話した。
社内説明を願うのは、本来なら「内向きの声」ではあるが、もしかすると社員の声を経営に届ける構造がフジにはなかったのでは、とも考えさせられるコメントだ。
宮地アナは「一連の問題の大元、根本にいったい何があったのかということをしっかりと第三者の目を入れて調べてもらう。そして会社が生まれ変わる一歩にするべき」と話し、この姿にはSNSで賛同や応援の声が集まった。
第三者委員会の設置は、海外投資家・ライジングサンマネジメント社(ダルトン・インベストメンツ系)からの1月14日付のレターでも求められていたことだが、フジ会見では、港社長自身を含めた調査委員会を検討しているようだった。
だが、むしろ社長は「調査される側」だろう。なぜなら、「報道機関」の「幹部主導」で「女性の上納」が行われていたのではないかということが、この疑惑の最大のポイントなのだから。1月23日発売の「週刊文春」には、「フジ港浩一社長はX子さんに謝罪しなかった」「女子アナと毎月飲み会・港会」といった見出しが躍る。
■テレビ局・芸能界に性加害を許容する雰囲気はなかったか?
2024年12月の「週刊文春」の報道以来、この件は「中居正広さんの女性トラブル問題」と呼ばれてきた。この問題の本質は二つある。一点はタレント中居正広氏個人というより、フジテレビのコーポレートガバナンス。
そしてもう一点は、テレビ局をはじめとする芸能業界でセクハラや性加害をいまだ当然のものとみなす風潮があったのではないか、という疑問である。
女性を「道具」として利用する、面倒事を押しつける。そんな価値観が報道側にもあるからこそ、「テレビ局主導の性加害疑惑」を「女性トラブル」などとぼかすのではないか。
報道直後から中居氏の代理人弁護士は解決金の支払いを認めており、女性が被害者だったことは自明だ。それなのに、「女性トラブル」といわれる理不尽さ。これは中居正広氏またフジテレビと被害女性の間に、大きな権力勾配があったことを感じさせる。
■まるでひとごとの港社長に、フジが大好きと泣く男性アナ
1月20日朝のフジテレビ「めざまし8」では、司会の谷原章介氏が深く頭を下げて謝罪した。これは社長会見でなされるべきもので、一タレントの谷原氏に背負わせるべきシーンではなかっただろう。
同番組で、フジの酒主義久アナウンサーは「13年働いてきて一度もやめたいと思ったことはない」「大好きな会社」「大好きな仲間が、あの……いろいろ苦しんでいる姿」と泣いた。
泣くのが悪いとはいわない。だが、所属企業に疑惑の目が向けられているときに、中堅社員が公衆の面前で「会社が大好き」としゃくり上げるのは、情報の伝え手としてふさわしいのか。
おそらく男性正社員の酒主アナにとって、フジテレビは居心地のよい環境だったのだろう。だが女性アナウンサーや女性タレントにとっては? と視聴者としては不安になる場面であった。
酒主アナは「仲間の苦しんでいる姿」と話し、また港浩一社長も記者会見で「女性のプライバシー保護」を理由に「回答は控える」を連発したが、二人には被害女性に寄りそう発言は見られなかった。フジテレビ内の多くの男性経営者や男性社員の態度がこのようなものなのだとしたら、問題は根深い。
港社長は会見で被害女性へのコメントを求められ、「活躍を祈ります」と話した。まるで就活不採用の「お祈りメール」である。あまりにもひとごとではないか。傷ついた社員を退社させてしまったのだとしたら、経営者としてそのことへの自責の念や心苦しさはないのか。
■「ハラスメントの存在」自体は証言したMCの谷原章介氏
「めざまし8」で、谷原氏は自分の知るフジテレビ内の飲み会について「多少の行き過ぎた表現だったりハラスメントみたいなことがあったりしても」と話した。いま一般企業では、ハラスメントはそれだけで上長や人事への通報案件であるし、配置転換や処分につながることもある。やはり業界独特の「甘さ」があるのでは、と思わされた。
同番組で酒主義久アナが「会社が大好き」と涙する一方で、小室瑛莉子アナウンサーは、「徹底的に社内は洗いざらい調査をしてほしい」「膿を出しきらない限り報道機関としてこのような番組で伝える立場として自信を持って伝えることができなくなってしまいます」と話している。きわめて冷静で真っ当な意見だろう。
■TBS、日テレは性接待について社内調査の実施を発表
視聴者のまなざしはフジテレビにとどまらず、女性アナウンサーや女性タレントの扱いそのものにも向けられている。
TBSは中でも対応が早く、2025年1月18日「情報7DAYS ニュースキャスター」で安住紳一郎アナウンサーが「打ち上げ、飲み会、懇親会のようなものに、女性スタッフや女性アナウンサーが参加するっていうことはごくごく普通」と話しつつも、一方で「性接待を主に考えている他の社員やスタッフがいるとするならば、やっぱりその人間は当然処分されるべき」と語った。
また、1月20日、情報番組「THE TIME,」では同じく安住紳一郎氏がTBSでこれから社内調査を行うことを発表。安住アナは「フジテレビだけの問題なのか? あなた方は……という声も届いています」「他の放送局もあるのかないのかを調べるなら調べて、視聴者やスポンサーにきちんと説明するべき」とも話した。
■中居正広「金スマ」23年の歴史に終止符、サイトも削除
1月21日には日本テレビが、自社関連の会食などで不適切な性的接触がなかったか、外部の専門家も含めてヒアリングを行うことを発表した。22日にはテレビ朝日も同様の発表。今後、NHKやテレビ東京、また地方局なども同様の調査が求められるのではないか。
フジテレビ性接待疑惑は、番組の編成にも影響を及ぼしている。TBSは2001年から続いてきた「中居正広の金曜日のスマイルたちへ」の打ち切りを発表し、公式サイトもXアカウントも消えた。疑惑の浮上後、同番組でMCを務める中居正広氏の後ろに、ひな壇でずらりと並べられてきた赤いミニスカートの女性たちの意味について、SNS上で疑問が呈されることも増えていた。それらの過去画像を削除する意味もあったのかもしれない。
■いつまで女子アナ呼び? 保母や看護婦の呼称は消えたが
そもそも、女性アナウンサーが「女子アナ」と呼ばれつづける日本のテレビ業界が、他分野に比べて意識がズレている可能性はないだろうか。
「保母」「看護婦」が、「保育士」「看護師」に改まって久しい。「女優」表記も減って「俳優」呼びが増えてきている。いまの子どもたちは「スチュワーデス」という言葉を知らず、「フライトアテンダント」と呼ぶ。
しかし、テレビ局だけは「女子アナ」だ。バラエティや情報番組でも、大物の男性芸能人が司会者として主導権を握り、その脇に進行役として女性アナウンサーが控えていることが多い。
この「成功した男性タレント」+「サポートする控えめな女性アナウンサー」という構図は、大物男性芸能人がキャスティングに口を挟むほどの権力を持ち、テレビ局側がそれに過剰に迎合し、女性アナウンサーを差し出していたのではないか、という今回の「上納」の疑いにそのままリンクする。
キャスティング権を持つ大物芸能人や幹部社員に対して、女性アナウンサーやタレントがたった一人で拒否することはかなり難しいだろう。なぜなら「断れば仕事を干されるかも」という脅しが無言のうちにきいているからだ。
■セクハラに反抗的な態度をとると干された、という証言
BS番組に女性アナウンサーとして出演していたYouTuberの青木歌音氏は「あの歪な業界の裏を周知させることによって、早く浄化させたかった」とコメントした上で、1月20日に自身のチャンネルでこのように告発している。
「フジテレビの番組制作の界隈では、女性に対して“やっちゃう”。もうそれが普通だったんですよね」「皆の目の前でセクハラ発言されるんですよ。私も嫌がることができない」「というのも、1回その人に対してちょっと反抗的な態度とったときに(……)2~3週間干されたんですよね。結局私が謝ったから。また出してもらえたんですけど」
繰り返しになるが、これは、「中居正広さん女性トラブル問題」などではなく、「フジテレビガバナンス問題」であり、同時に、他局も含め、テレビ局をはじめとする「芸能業界のセクハラ・性加害問題」である。
■他人を踏みつけにしてつくるエンタメなら、楽しめない
今回の件は、テレビ局など芸能関係で働くすべての女性――アナウンサーも、制作スタッフも、食堂や清掃員などのケアスタッフも、出演するタレント、俳優、アイドル、モデル、ミュージシャン、文化人、それを支えるスタイリストやメイクさんも――あらゆる女性が、一人の人間として尊重されて扱われるよう、転換点とすべき出来事だろう。
我慢や忍耐は、ハラスメントや性暴力に対してではなく、情報を伝える、人を楽しませる、ものをつくる、人をサポートするといった「プロフェッショナルな領域」でこそ発揮されるべきだ。
港社長はずっとバラエティ畑を歩み、かつてのフジ黄金期の「楽しくなくければテレビじゃない」を地でいく人だったようだ。だが、その「楽しさ」が他人を踏みつけにした上でつくられたものならば、もう視聴者は心から楽しめない。
ハラスメントを排し、人権を尊重しながらも、報道やエンタメはつくれるはずだ。そこに本気を出すのかどうか、日本のテレビ局、また芸能界が問われている局面ではないか。
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ライター・コラムニスト
東京大学文学部卒業、出版大手を経てフリーに。企業広報やブランディングを行うかたわら、執筆活動を行う。芸能記事の執筆は今回が初めて。集英社のWEB「よみタイ」でDV避難エッセイ『逃げる技術!』を連載中。保有資格に、保育士、学芸員、日本語教師、幼保英検1級、小学校英語指導資格、ファイナンシャルプランナーなど。趣味は絵本の読み聞かせ、ヨガ。
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(ライター・コラムニスト 藤井 セイラ)
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