「老い」を感じさせるのは白髪でもシワでもない…齋藤孝が勧める「ヨボヨボ3点セット」を防ぐ30秒トレーニング
プレジデントオンライン / 2025年1月30日 17時15分
※本稿は、齋藤孝『60代からの知力の保ち方』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■注意すべき「老いの3点セット」とは
加齢による身体の変化にはあらがえません。白髪が増え、頭髪が抜けることもあるでしょう。シワやたるみ、シミが目立つようになり、猫背気味になるといった外見の変化に、私たちは敏感です。
『人は見た目が9割』(竹内一郎著 新潮新書)というタイトルの本がありましたが、老いという点では、私は声や話し方の方が大事だと思います。
初対面の方は声の調子、話し方によって、印象が変わってきます。年齢は話し方に出るのです。「話すスピードが遅い」「言葉が出にくい」「終わりがはっきりしない」。これが老いの3点セットです。話の趣旨がぼやける、聞いたことに答えていないなど、総合的な判断で「この人、ちょっと老いたな」と、周囲は感じるのです。
■しゃべる速度は思考よりもずっと遅い
私はテレビ出演が多いので、そこで特殊な訓練をしていると言っていいでしょう。例えば番組では、CMに切り替わる直前に5秒ほどのコメントを求められることがあります。緊張感漂う中で、言い間違いせず、言葉のセレクトも誤らずに、即座にバチッと決める。意識的な対応が要求されます。
大学の授業で人前に立ちますし、80、90分といった講演も、年間何本かこなします。滑らかに話している途中、あれなんだったっけと2秒止まるだけでも、聴いている側は何かおかしいと感じます。
若い頃から、私は澱(よど)みなく話すことを自分の特徴にしていこうと意識してきました。しゃべる速度は思考よりもずっと遅いからです。頭の回転に言葉がついていかないという感触は、文字にして文章を書く時にはっきりわかります。考えることが多すぎて、キーボードを打つ手が遅いと感じることがあります。
つまり、話していて言葉が出てこないのは、頭の回転が遅いということなのです。
■話す速度は「頭の回転数」に比例する
頭の回転数を上げると、話も必然的にスピーディーになります。
私は学生に、「今から1分で話してください」とテーマを指定し発表させることがあります。学生たちは話の前や間に「えーと」とか、「あー」という、無意味な言葉や口癖を挟みがちです。
次に「では、15秒で話してください」とリクエストしてみます。内容に比べ、圧倒的に時間がないわけですから、速く話すしかない。テキパキ話す練習を続けると、15秒という時間を長く感じられるようになります。
5秒で要旨を言うという指導も挟みます。「えーと」「あー」なんて言っている暇はありません。結論だけ言うことになります。
そこから逆に、15秒、1分と時間を延ばしていく。そういう訓練を経ると、どれだけ無駄な言葉が多くて話し方が遅かったのか、いかに言葉のセレクトのスピードが遅いのか、わかるようになります。
■高めの声で速めに話す訓練をすると…
テキパキ話すことがうまかったのは、私が教えた学生の中では、アナウンサーになった安住紳一郎さんです。学生の頃から、単位時間当たりの意味の含有率が高かった。30分話しても内容のある話を続けられた。特別な能力だと思います。
話すスピードを横軸に、意味の含有率を縦軸にして考えてみますと、スラスラ話すけれど、意味の含有率が低い方もいます。もたもたしていて意味がないのが最悪です。
意味があって、ゆっくり話すのは、声の低い方に許された話し方です。味わいがあって、じっくり話すことによっていい話をしている印象を高める、という技術はありますが、私は、ゆっくり話すことが宿命的に許されない体質です。声質が高いからです。味わいとは無縁な声の質なので、ゆっくり話すとおかしく聞こえます。スピードがある方が似合っているのです。
高めの声で速めに話す訓練をすると、口の回転も、頭と口の連動もよくなります。単語は店頭に並んでいる商品のように、取り出しなれているとすぐに出てくるようになります。
■ストップウォッチで音読
ストップウォッチを使った練習をご紹介しましょう。ストップウォッチは自分の話のペースをチェックするのに有用です。アナウンサーはストップウォッチを使ってニュースを時間内に読み切れるかを、事前に確認しています。
話すスピードは先ほども言いましたように、頭の回転を左右します。
これは、脳のストレッチだと思ってください。身体の健康を気にするように、頭も訓練しましょう。
相手もいないのに一人で何かしゃべるのも負担だという方には、音読をおすすめします。
夏目漱石の『坊っちゃん』は、テンポのいい文章なので、音読すると勢いが出ます。やめるのがもったいなく感じてしまうほどで、10分、20分やっても退屈しません。ポイントは、登場人物になりきって、お芝居をするように読むことです。そうすれば作者が文章に込めた生命力が、目覚めてくるはずです。
■「文豪の日本語」が身体に刻まれ、語彙力も高まる
テキストは大きな活字のものを用意、一気に全部読む必要はありません。少しずつ、毎日続けてみることです。
芥川龍之介『羅生門』、幸田露伴『五重塔』、中島敦『山月記』、宮沢賢治『銀河鉄道の夜』、太宰治『走れメロス』なども音読にふさわしい文章です。『平家物語』『歎異抄』『万葉集』もいいと思います。
いわゆる古典は、長い年月生き残ってきた書ですから、普遍性があり、音読に適しています。
文豪の日本語が身体に刻まれ、語彙力も高まるのが音読の良さです。
おしゃべりというのは自分の中にある語彙で話すので、インプットがないと語彙自体は増えません。普段の会話はだいたい500くらいの語彙ですんでしまいますが、何歳になっても新しい語彙が増えるのは楽しいものです。
名文が頭に入り、口の訓練にもなっていく。一挙両得です。
■目と口がズレる「速音読」
私は速く音読することを「速音読」と言っていますが、速音読にすると頭が一層テキパキ動きます。
速く読もうとすると、目は今読んでいる箇所より先に行かなくてはいけません。
抑揚も気にして意味が通るように読むためには、目で見ている内容と、今口にしている内容はちょっとずれるわけです。このズレがメタ的な意識を鍛えることにつながり、脳にいいのです。ここでいう「メタ的な意識」とは、今の自分を超えた意識という意味です。
例えばサッカーで言えば、自分が今いるところだけでなく、フィールド全体を俯瞰するようにとらえる選手の能力を「メタ・ビジョン」と言います。
もう一つ別のことを考えていられる脳を鍛えるには、速音読が最適です。
まず見開きページを、ストップウォッチを押して読む。つかえず読めるかどうか試していただいて、その秒数を記録します。1回、2回、3回とやっていきますと、たいていは3回目の方が速くなってきます。
ある一定量を、何分で読みきると決めるのもいいでしょう。
■途切れ途切れの話し方は、老いを感じさせる
百人一首なら何首読めるかとか、松尾芭蕉の俳句を次々と読んでみるのも面白いと思います。二十四節気や睦月、如月などの和風月名などを、10秒前後で言ってみるのも一つの方法です。陸上競技の練習にも似ていますが、実際に口に出すというところが最も大事です。私は速音読の本も書いていて、テキストも掲載していますので、参考にしてみてください。(『1分間速音読ドリル』他)
口周り、喉のどの筋肉が鍛えられ、誤嚥(ごえん)を防ぐ効果もあり、滑舌もよくなり、停滞を防ぎます。
一息をできるだけ長く、1ページをできるだけ少ない息継ぎで読みましょう。ちょっと潜水のようですが、息を長くする呼吸法を身につけ、息が長くなると、言葉が、途切れ途切れになりません。途切れ途切れの話し方は、老いを強く感じさせるものです。
呼吸力は生命力です。
ヨガでは完全呼吸法という呼吸法があります。基本的な呼吸法の一つで、腹式呼吸で息を吸いこんだ後、ゆっくりゆっくり吐き、お臍が背中につく、仰向けになっていたらお臍が床につくくらいなイメージで吐きながらお腹をへこませ、最後は「はーっ」と吐き切る。吐き切るのには、時間をかけます。
■筆者が「高校時代から意識していたこと」
私は高校時代から一息を長くすることについては意識的でした。授業中も密かに呼吸を長くしようと練習していたものです。
テニス部で団体戦をまかされていたので、試合で負けたくない。プレッシャーのかかる場面でも、常にメンタルをいい状態に整えておくために、脈拍を落とすと落ち着いていられるのではと考えたのです。
1分間の心拍数65回が平常時とすれば、50回を切ればかなり落ち着くはずだと、トライを繰り返すうちに、呼吸法によって脈拍を変えることができるようになりました。
適度にゆっくり吐く呼吸法と、その呼吸に言葉を乗せて速くしゃべるのを両立させると、呼吸のコントロールができるようになり、精神的なブレが減っていくのがわかります。
■30秒間、息継ぎせずに言葉を乗せる
速く読むというと、頻繁に息を吸うのではと想像されると思いますが、これは違うのです。一息で30秒ほどひっぱることを目標としてください。私は2分ほどかけて息を吐くことができます。長く息を吐きながら、言葉をベルトコンベアにどんどん乗せていく要領でしゃべると、途切れなく語ることができるようになります。
授業を受けていた学生から、「先生、頼むから息を吸ってください」と言われたことがあります。話を聞いていると、つられて息をするのを忘れてしまって、苦しくなると訴えられましたので、みなさんもこの点は気をつけていただきたいと思います。
歌うまYouTuberのずまさんという方を、私はいつも歌が素晴らしいなあと思って観ていたんですが、ある時、テレビ番組でご一緒することがあり、歌うコツをうかがってみると、「息をあまり使わないこと」とおっしゃるんです。顔の前に紙を下げて歌っても、その紙がほとんど揺れないそうです。
声帯が振動すれば、必ずしも息をたくさん使わなくとも声が出せるのだとわかりました。一息吸っただけでたくさん言葉が出せるのが、燃費のいい音の出し方です。
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明治大学文学部教授
1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業後、同大大学院教育学研究科博士課程等を経て、現職。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。ベストセラー作家、文化人として多くのメディアに登場。著書に『孤独を生きる』(PHP新書)、『50歳からの孤独入門』(朝日新書)、『孤独のチカラ』(新潮文庫)、『友だちってひつようなの?』(PHP研究所)、『友だちって何だろう?』(誠文堂新光社)、『リア王症候群にならない 脱!不機嫌オヤジ』(徳間書店)等がある。著書発行部数は1000万部を超える。NHK Eテレ「にほんごであそぼ」総合指導を務める。
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(明治大学文学部教授 齋藤 孝)
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