〈受験前必読〉インフル、風邪…あらゆる患者に接しても感染しづらい医師がしている"鉄壁の感染対策"
プレジデントオンライン / 2025年1月25日 13時15分
■さまざまな感染症が大流行中
さまざまな感染症が大流行中です。2024年末に国立感染症研究所が発表した「感染症発生動向調査週報」によると、なんといってもインフルエンザが31.8万人と最多で、新型コロナウイルス感染症も3万5000人弱、感染性胃腸炎が1万5000人、溶連菌感染症(A群溶血性レンサ球菌咽頭炎)が7000人になっています(図表1参照)。
新型コロナウイルス感染症の流行は終わったと考えている人が多いのですが、そんなことはありません。この時期に急な高熱が出て、のどが痛くなって咳や鼻水が出たら、約1割が新型コロナだと考えてください。インフルエンザか新型コロナなのかは、見た目だけで判別ができないため、検査が必要です。
また胃腸炎や溶連菌感染症も増えています。溶連菌感染症には抗菌薬が必要ですが、先月、「ジェネリック薬1錠は飴より安い価格でつくらされる…日本で薬が深刻な不足に陥っている理由 物価は上昇しているのに薬価は低下の一途」という記事でお伝えしたように、抗菌薬が不足しているせいで困っている患者さんが多いようです。さらに胎児に影響のある伝染性紅斑(リンゴ病)も多いので、妊婦さんは要注意。そのうえ、去年の春先から、子どもに多い手足口病がまだはやっています。手足口病は「この一年で2回目です」とか「3回目です」という子もいるほどです。
お子さんが体調不良で小児科を受診する際、インフルエンザや新型コロナ、水痘(みずぼうそう)などの疑いがある場合は隔離が必要なので、可能であれば事前に電話等で、または受付で伝えてください。診察時には、身近になんらかの感染症にかかっている人がいたり、なんらかの感染症が流行していたりする場合はお教えください。速やかな診断の助けになります。
■今話題の「ヒトメタニューモ」とは
そのほか、今、中国で爆発的に増えているという「ヒトメタニューモウイルス感染症(human metapneumovirus:hMPV)」が気にかかっている人も多いかもしれません。一部に「新型コロナのように、中国から日本に上陸してパンデミックが起こる」と危機感を煽るような記事があるため、怖く感じている人もいるでしょう。しかし、ヒトメタニューモは、国立感染症研究所の調査や定点把握疾患には入っていません。
それは日本にまだ入ってきていない感染症だからではなく、2001年に発見されたばかりの新しいウイルス感染症ですが、むしろありふれたウイルスだからです。欧米や日本の調査によると、10歳の時点でほぼ100%の人が抗体を持っている――つまりかかったことがある感染症です。少なくとも50年前からヒトの間で流行を繰り返しています。
このヒトメタニューモは、冬から春にかけて感染者を増やすウイルス。風邪くらいの症状で終わることもあれば、気管支炎や肺炎を引き起こしてしまうことも。RSウイルス感染症と症状が似ていて、2歳くらいの子どもがかかると、熱が続いて鼻水や咳が出て、だんだんゼイゼイがひどくなることが多いです。6歳未満であれば、保険診療内で検査キットを使って調べることができます。インフルエンザや新型コロナのような抗ウイルス薬がないので、ヒトメタニューモウイルス感染症だとわかっても、安静にして対症療法を行うしかありませんが、特に怖い感染症ではありません。ワクチンはありませんから、他の感染症と同じような予防対策をとりましょう。コロナウイルスが新型コロナウイルスになったように、ヒトメタニューモウイルスが変異したとしても、基本的な感染対策は同じです。
■意外性のある感染対策は眉唾もの
さて、今よくみられる感染症やヒトメタニューモは、感染したとしても1週間程度でよくなることが多いのですが、つらい症状に苦しむことになるので、子どもだけでなく大人だって、できたらかかりたくありませんね。そして、これから受験する子どもたち、卒園式や卒業式などのイベントのある子どもたちは特にかかりたくないでしょう。
そのため、感染症が大流行中の今、「○○で感染対策」「これで予防できる」などといった情報がテレビやインターネットで盛んに紹介されているのです。意外性のあるものほど話題になり、SNSで広く拡散されることから、中には明らかにおかしい対策もたくさん見かけます。
例えば、りんごやハーブ、亜鉛やビタミンDなどのサプリメント、アロマ、マッサージなどがいいといわれているようですが、そのようなことで免疫力を高めたり、感染症を予防したりすることはできません。感染症予防に特別な方法はありませんから、効果が不確かなものに頼らないようにしましょう。
それよりも、厚生労働省が出している「感染症対策の基礎知識」というまとめを参考にしてください。そこには「感染経路の遮断」「病原体(感染源)の排除」「宿主(自分)の抵抗力の向上」が大切だと書かれています。まずは、この3つを心がけましょう。
■医師が感染症になりにくい理由
ところで、テレビやSNSなどでは「医師があまり感染症にならないのはなぜか」ということも話題になっています。確かに、毎日さまざまな患者さんに接する割に、感染する医師は少ないでしょう。
私自身、インフルエンザにかかったのは10年以上前で、新型コロナには現在までかかっておらず、あまり風邪をひくこともありません。小児科を訪れる子どもたちは診察中に普段よりもよく泣き、ウイルスを含む飛沫がたくさん飛ぶので、小児科医が感染症にかからないのは不思議で、何か秘策がありそうに思われるかもしれません。でも、じつは感染しづらいのは、感染対策の基本を徹底しているからなのです。
仕事上「病原体の排除」はできませんから、「感染経路の遮断」「宿主の抵抗力の向上」が重要です。まず常にマスクをつけ、発熱患者の診察時には使い捨てのキャップと手袋もします。のどを診たり、鼻・のどの検査をしたりするときにはフェイスシールドも使用。クリニックの聴診器やペンライト、診察台机、椅子は頻繁にアルコールで拭いていますし、患者さんの嘔吐物や排泄物が付着したら直ちに次亜塩素酸ナトリウム液で拭きます。寒くても常に換気をし、空気清浄機を常用。私もスタッフもクリニックでは仕事着で過ごし、仕事が終われば上から下まで着替え、靴も替えて帰ります。そうして普段から十分な栄養と休養をとるように気をつけ、接種可能なワクチンはすべて受けています。
みなさんのご家庭においても、家族の誰かが感染症になることはよくあるので「病原体の排除」はなかなか難しいでしょうから、他の2つをできる範囲でやってみてください。お子さんにも理由までていねいに説明することが大切です。
■家庭でできる「感染経路の遮断」
子どもは何でも触りがちです。まずは外出先で手すりやドアノブ、ボタン、壁、床などをベタベタ触らせないようにし、食事前や帰宅時には手をよく洗ってください。なるべく毎日お風呂に入るなどして体の清潔も保ちましょう。それから以下のことに気をつけてください。
〈汚れた手で目や口や鼻を触らない〉
ウイルスや細菌などの病原微生物は手指などに付着し、手で目を擦ったり、口に食べ物を入れたり、鼻をほじったりした際に粘膜から侵入します。ですから、汚れた手で粘膜に触れないようにしましょう。
〈マスクを正しく使う〉
マスクは鼻まで覆うようにつけます。外側は汚染されていると考えて、ズレを直すために触ったりしないようにしましょう。マスクを取るときは、耳にかけた紐を引っ張って外します。なお、2歳以下は適切な着用が難しく、まわりの大人が体調の悪化に気づきにくくなるため、マスクをつけないようにしてください。
〈持ち物をアルコールで拭く〉
床や地面には、さまざまなウイルスや細菌が存在します。特に感染症患者が多く訪れる医療機関の床には要注意。土足の場所に荷物を置いたり、小さい子をハイハイさせたり、靴下で歩き回らせたりしてはいけません。やむを得ず床などに置いたり、飛沫が付着したりした衣服や靴、バッグなどは必ず洗剤を使って洗ったり、汚れた面をアルコール等で拭いたりしましょう。排泄物や嘔吐物が付着した場合は、アルコールでは消毒できないため、次亜塩素酸ナトリウム液を使います。
〈室内では換気・加湿する〉
部屋を常に適度に加湿して、人が集まったら定期的に換気をしましょう。
〈感染者は隔離する〉
少なくとも急性期には感染者と非感染者は部屋を分けて過ごす、食事や食器、タオル等を共有しないなどして、感染予防に努めましょう。
■「宿主の抵抗力の向上」のために
宿主の抵抗力向上のためには、ワクチンを接種し、栄養が偏らないようにし、睡眠不足に陥らないことが大切です。それぞれ以下のようなことに気をつけてください。
〈ワクチンを接種する〉
ワクチンのある感染症は、ワクチンで予防しましょう。例えば、新型コロナやインフルエンザにはワクチンがありますね。「ワクチンを接種するよりも、実際にかかったほうが抗体がしっかりつくからいい」という人がいますが、大切なのは免疫を獲得することではなく、感染症によって苦しい思いをしたり、たまたま重症化して後遺症が残ったり、命を失ったりしないことです。また感染症によって受験などのチャンスをなくさないことも重要でしょう。病気になっても薬で治せばいいという考えの人もいますが、抗ウイルス薬のような治療薬のない感染症が多いことも知っておいてください。
〈バランスよく栄養をとる〉
特定の食品をとればいいということはありませんが、日頃からバランスのよい食事をとること、十分な栄養をとることは抵抗力を高めるために大切です。
〈休息・睡眠をしっかりとる〉
休息や睡眠が足りないと、抵抗力が落ちてしまいます。疲れがひどいときには自宅でゆっくり過ごす、風邪っぽいと思ったら早く寝かせるなどしましょう。
結局のところ、感染予防対策には「これさえやれば大丈夫」という意外な方法はなく、基本が大事です。今後も、なんらかの新興感染症がパンデミックを起こす可能性は常にありますから、ご家族で基本的な予防方法を身につけておきましょう。最初は面倒に思うかもしれませんが、慣れれば自然にできるようになりますよ。
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小児科専門医
1971年、東京生まれ。一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都内で開業。医療者と非医療者の架け橋となる記事や本を書いていきたいと思っている。『新装版 小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』など著書多数。
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(小児科専門医 森戸 やすみ)
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