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定年後は「月5万円の収入」で生活できる…節税でも新NISAでもない「人生後半」にやるべき"たった一つのこと"

プレジデントオンライン / 2025年2月3日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SARINYAPINNGAM

人生後半の理想的な働き方とはどのようなものか。「とらばーゆ」元編集長で、慶應義塾大学SFC研究所上席所員の河野純子さんは「65歳以降は、月に5~10万円程度の収入を得ていけば十分に生活できる。お金の心配をしすぎずに、小さくても自分の好きな仕事を長く続けたほうがいい」という――。

※本稿は、河野純子『60歳の迎え方』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■60歳からの支出は大幅にダウン

まず、これからは小さな仕事でOK! という根拠を紹介していきます。実際にこれからどれぐらいの収入を目指せばいいのかは、それぞれの家計の事情やライフスタイル次第ではありますが、平均データを使った生涯収支から試算してみます。

まず支出についてです。一般的に言えば60歳からの支出は大幅にダウンします。その理由は人生の二大出費である教育費と住居費が大きく減るからです。皆さんも60歳になるまでには子どもが独立して教育費の出費はなくなり、住宅ローンも退職金で完済できるという人が多いのではないでしょうか。

データをみると、65歳以上の無職夫婦2人世帯の場合、月々の平均支出額は28万2497円(総務省統計局「家計調査年報」2023年)です。50代の勤労世帯(2人以上)の月49万6772円と比べると、21万4275円少なくなっています。

■介護にかかる費用は1人平均580万円

教育費や住宅ローンが減るのはわかるけれど、60歳以降は医療費が増えるのでは? と心配している人もいるかもしれません。けれども上記の支出の内訳で確認してみると、65歳以上の無職夫婦2人世帯で保健医療費は、月1万6879円、単身世帯で7981円。それほど大きな金額ではありません。入院などで高額の医療費がかかった場合も、収入に応じて自己負担額の上限がある「高額療養費制度」を利用できますし、民間の保険に入っていればより安心です(この機会に保険の中身の確認はしたほうがよいですが)。

将来介護が必要となった場合の備えはいくら必要でしょうか。私たちが要介護2になるのは95歳と想定、それから100歳までの5年間は介護サービスを利用するとしましょう。私たちは40歳から介護保険料を払ってきているので、公的な介護サービスを自己負担1割(収入によっては2~3割)で利用できます。どんな介護を受けたいかでかかる費用は大きく異なりますが、実際にかかった費用の平均として580万円(1人)というデータがあります(生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」2021年)。内訳は初期費用(介護ベッドの購入や住宅の改修など)で74万円、その後のサービス利用料が506万円(月8.3万円×介護期間5年1カ月)です。日々の暮らしの予算とは別に用意すべき資金の目安となるかと思います。

■企業の退職金は減少傾向

続いて収入についてみていきます。自分がいつ会社を辞めるといくらの退職金がもらえるのかは、会社の人事に確認を。企業の退職金は減少傾向にあり制度の見直しも進んでいるので、「先輩からうっすら聞いていた話と違う!」「こんなはずじゃなかった」ということがないように、ぬかりなくリサーチをしてください。

次に自分がいくらの公的年金をもらえるのかを確認します。会社員だった人が受給できる年金は、「老齢厚生年金」と「老齢基礎年金」(国民年金にあたる部分)の2階建てになっています。「老齢厚生年金」の額は、これまで納めてきた保険料と納付期間によって決まるため、人それぞれです。例えば、保険料は給与に一定の料率をかけて決まるので、給与が高かった人ほど高額の保険料を納めていて受け取れる年金額も多くなります。

また受給開始時期については、2000年の法改正で、60歳から65歳に引き上げられています。ただし経過措置があり、1966年4月1日以前生まれの女性の場合は、「老齢厚生年金」部分を少し早く受け取れることになっています。なかなか複雑ですが、自分がいつからいくらの年金を受け取れるかは、日本年金機構の「ねんきんネット」を見ればすぐにわかります。登録の手間はかかりますが、誕生月に送られてくる「ねんきん定期便」を待つこともなく、いつでもチェックできるのでお勧めです。

コインの入った瓶
写真=iStock.com/baona
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/baona

■共働き夫婦の年金は月27万円、75歳受給開始なら1.84倍に

受け取れる年金は人それぞれといいつつ、平均値を紹介しましょう。65歳以上の厚生年金受給権利者の平均受給月額は、女性10万9165円、男性16万7388円(厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業年報」2023年)です。残念ながら男女で大きな差がありますが、これは男女の賃金格差と就労期間の違いによるものです。こんなところにも大きな男女差があるのかとちょっとショックですが、目をつぶって話を前に進めます。このデータから夫婦ともに厚生年金に加入していた場合の1世帯当たりの受給額は、男女の合計額である月27万6553円という計算になります。

また前述の通り年金は原則として65歳から受給できますが、60~75歳の間で受給開始時期を選ぶことができ、開始時期を遅らせれば遅らせるほど、もらえる金額が増えていきます。「ねんきんネット」では、いつからもらえば受給額がいくらになるのかもシミュレーションできます。

例えば75歳まで受給開始を遅らせれば、65歳時の1.84倍の年金を受け取れます。65歳で受給開始した場合10万9165円だった人が、10年待てば20万863円になり、この金額が亡くなるまで続きます。「ねんきんネット」では、100歳までの総受給額の比較もでき、その違いにちょっと驚くはず。もちろん早く死んでしまったらもらい損ねることになりますが、あくまで年金は「保険」。早く亡くなるリスクに備えるか、長く生きるリスクに備えるかは考え方次第です。

その他に個人年金や投資による収益などがあれば足していきます。こうすることで、すでに確保できている収入がいくらなのかがわかります。

■65歳以降の収入は月5万円で賄える

さて、皆さんの場合、支出と収入の差はどれぐらいになりそうでしょうか。平均値の場合、65歳以上の無職夫婦2人世帯の支出は月28万2497円、受け取れる公的年金の額(夫婦とも厚生年金受給権者)は27万6553円なので、その差(赤字額)はわずか5944円です。つまり年金が受給できる65歳からは、夫婦2人で月々1万円の収入があれば、家計は赤字にならないのです。

とはいえ「老後資金」の準備は必要です。90歳まで働き、その先100歳までを「老後」とするならば、生活費120万円(赤字分1万円×12カ月×10年)と介護費用1160万円(580万円×2人分)で1280万円を準備しておく必要があります。65歳から90歳までの25年で割れば、月々に必要な貯金額は4万2600円ほど。先ほどの5944円と足せば、夫婦2人で5万円ほどの月収が得られれば十分に賄えます。

笑顔で話す夫婦
写真=iStock.com/maruco
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maruco

■「ゆとりある生活」を目指すなら…

問題は年金が受給できる65歳になるまで。継続雇用を選ぶのも1つの手ですが、夫婦2人で28万円(1人14万円)の月収が得られれば生活できると考えれば、会社にしがみつかないという選択肢もありそうです。そのあたりはのちほど触れていきます。

それから繰り返しになりますが、この試算はあくまで平均値。例えば前述の平均支出のうち、住居費は月1万6827円となっています。これは持ち家比率の高さ(65歳以上で84.5%/高齢社会白書2024年)を反映したもの。賃貸派の人は当然ながら家賃を見込んでおく必要があります。また定年退職したら、旅行にも行きたい、習い事もしたいという人も多いはず。そんな「ゆとりある生活」を目指すのであれば、月38万7000円が必要というデータもあります(生命保険文化センター 60歳代が考える「ゆとりある老後生活費」2022年)。先ほどの平均支出+10万円ですから、夫婦2人で+10万円の収入(合計15万円、ひとり7万5000円)が必要ということになります。

このように個人差はありますが、平均すると65歳以降の収入の目標は、月5~10万円と試算できます。

■単身者も月9万円の収入で大丈夫

単身者の場合も試算してみましょう。65歳以上の単身無職世帯の支出の平均は月15万7673円。女性が受け取れる年金(厚生年金受給権者)の平均額は10万9165円なので、その差は4万8508円。90歳まで働くとしてその先10年間の必要老後資金は、生活費582万960円(赤字分4万8508円×12カ月×10年)+介護費580万円で1162万960円となります。65歳から90歳の25年で割れば月々の貯金額は3万8736円。先ほどの赤字分と足せば、月々稼ぐべき金額は8万7244円となります。

ただし「ゆとりある生活費」として+5万円するならば、約14万円と少し大きな金額を稼ぎ続ける必要がでてきます。ただこれはあくまで女性の年金受給額の平均をベースにした机上の試算。男性同様の年金額を受給できる人であれば全く試算が異なってきます。また先ほど年金の受給開始時期を10年遅らせた試算を示しましたが、5年遅らせて70歳からの受給にした場合でも42%増額となり、受給額は15万5014円に。ほぼ月々の赤字は解消され、老後資金とゆとりある生活のために月9万円ほどの収入を得られればOKという試算になります。

■本当に年金をもらえるのか?

これらの試算は今後も年金がちゃんともらえることを前提にしています。少子高齢化に歯止めがかからず、経済成長も不透明ななか、今後本当に私たちは年金をもらえるの? 支給開始年齢もどんどん上がってしまうのでは? という不安の声も聞こえてきます。

でもその点は心配しすぎなくて大丈夫でしょう。厚生労働省は5年に一度、公的年金の健全性を点検する財政検証を行っています。2024年がその年にあたりますが、7月に発表された結果を見ると、30年後の年金水準はいまより2割ダウン(経済成長が過去30年を投影したケース)とのこと。その程度の目減りは覚悟しておく必要はありそうですが、それでも実は女性と高齢者の働き手が増えていることを受けて5年前よりも年金財政は改善しているのです。また支給開始年齢が60歳から65歳に引き上げになるまでには法改正から30年かかっています。よって、すぐさま支給開始年齢のさらなる引き上げはないと考えていいでしょう。

一方でこの試算では退職金やすでにある貯金の投資運用、個人年金、介護が必要になる前に持ち家を売却したり、持ち家を担保に融資を受けるリバースモーゲージの活用などは考慮していません。これらの資産活用を行えば、年金の目減りや、病気による離職などの様々なリスクに備えるだけでなく、生涯収支はもっと楽な試算になる可能性が十分あります。私も60歳を迎える前にファイナンシャルプランナーに生涯収支を試算してもらって、「なんとかなるんだ」と安心しました。詳しくは第二章でふれますが、人生100年時代を賢く生きるためには「金融リテラシー」を身に付けることはとても大事。苦手な人は信頼できるプロを見つけてアドバイスをもらうことをお勧めします。

■理想の働き方は、好きな仕事を長く続ける

少し話がそれましたが、ここでお伝えしたいのは、平均すれば年金受給開始以降(一般的には65歳以降)は、月々5~10万円程度の収入を得ていけば十分ということです。そう考えれば、お金の心配をしすぎずに、自分がやりたいこと、好きなことを仕事に選べそうな気がしませんか? 小さくても自分の好きな仕事をできるだけ長く続けていく。それがこれからの私たちの働き方の理想なのです。

河野純子『60歳の迎え方』(KADOKAWA)
河野純子『60歳の迎え方』(KADOKAWA)

例えば、59歳で衛星放送局を早期退職した北浦宏之さん(case1)の場合、人事に退職時期に応じた退職金の金額を聞き、社内でも噂だった「59歳で退職する」という選択肢が一番お得であることを確認。一方で自分がもらえる年金額を計算。携帯電話の契約やクレジットカードの会費なども細かく見直して退職後の収支を試算してみたところ、「住宅ローンももうないし、子どもも独立。自分にはゴルフなどお金のかかる趣味もない。妻も仕事をしている。自分の生活だけなら退職金と65歳からの年金プラスアルファで十分やっていける」と気づいて、時間の自由のない再雇用は選ばずに、早期退職を決意。スマートフォン1台で映画を撮り始めました。

監督デビュー作は自身の早期退職までの1年間を追いかけたドキュメンタリー「365DAYs+」で、定年退職を控えた同世代の会社員の皆さんから高い共感の声があがっています。収益的にはまだ赤字ですが、実に楽しそう。北浦さんの「世の中には老後の金銭的な不安をあおるような情報が多すぎる。冷静に計算してみれば、定年後こそ自由な人生を選べる」という言葉が印象に残っています。

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河野 純子(かわの・じゅんこ)
慶應義塾大学SFC研究所上席所員、ライフシフト・ジャパン取締役CMO
1986年リクルート入社。「週刊住宅情報」(現SUUMO)副編集長、「とらばーゆ」編集長、女性のライフ&キャリア研究チーム長を経て、2008年に住友商事に転身。17年独立。18年ライフシフト・ジャパン参加、慶應義塾大学大学院で人生100年時代のライフデザインの研究を始める。20年慶應義塾大学SFC研究所上席所員、21年上新電機社外取締役、22年ダイドーグループホールディングス社外取締役。いばらき大使。60歳を機に夫と愛犬ハナとともに、東京と神奈川県三浦市で2拠点生活を開始。共著に『実践! 50歳からのライフシフト術』(NHK出版)。

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(慶應義塾大学SFC研究所上席所員、ライフシフト・ジャパン取締役CMO 河野 純子)

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