「進撃の巨人」以来の大ヒットに…海外のアニメファンが大絶賛した集英社発の「オカルト青春アニメ」
プレジデントオンライン / 2025年1月26日 9時15分
■ジャンプ発のオカルト青春アニメが海外ファンに大ヒット
世界中にいるアニメファン約2000万人が集う「My Anime List」は、アニメ好きのためのWikipediaのような存在だ。
3カ月ごとに60~70本放送される新作アニメのページが新設され、Members(アニメをリストインしている人)、Score(アニメ評価)、Popularity(メンバーズ数の歴代ランキング)、Ranked(Scoreの歴代ランキング)の4つがトップに表示される。当然海外のアニメファンのためのサイトであり、すべて英語。
ここはエンタメを研究する私のような立場の人間にとって宝の山だ。6~7割が10~20代の若者世代、5~6割が欧米ユーザー、あとはアジア・南米などで日本人はほんの1%未満、という純粋な「日本人以外のアニメファン」サイトだ。
ネットフリックスや海外における最大級のアニメ配信サイト・クランチロールによって世界中に配信されたアニメをどう受け止めているかのリアリティが、ここにある。
2024年10~12月期は、『ダンダダン』一強の一言に尽きる。
今クールは『Re:ゼロから始める異世界生活』や『ブルーロック』、『うずまき』『BLEACH』など往年のヒット作があるだけでなく、『ありふれた職業で世界最強(ありふれ)』『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか(ダンまち)』『シャングリラ・フロンティア』『ソードアート・オンライン(SAO)』など含め、配信開始前から10万人級のメンバーズを集めた期待作が多かったシーズンである。
だが蓋をあけてみれば、配信前に15万人のメンバーズを集めていたダンダダンが、配信後にその数を3倍以上に伸ばし、55万人超えの独走態勢。2番手以降を置き去りにする「ダンダダンに一極集中したシーズン」であったといえるだろう。
■海外ファンから絶賛の声
海外ファンからのコメントも「今シーズンで最も奇妙で狂ったアニメ」「時間がないならこのアニメだけみて、他は全部やめよう」「ワイルドすぎるプロット」「タマを探すという浅はかなテーマにもかかわらず、キャラクターのダイナミックさ、大迫力のアクションシーンが秀逸」と絶賛が相次ぐ。
アメリカならではのコメントとして、“本当の男女平等”を評価する声もあった。ヒロインのモモは殴られ蹴られのリスクに晒されながらも戦う。“性的搾取”の描写はあれど、それはモモにも主人公のオカルンにも平等で、「これこそ正しい方向への一歩」という声すらあった。
「サイエンスSARUの『ダンダダン』とマッドハウスの『(葬送の)フリーレン』は最高の仕事をした」とアニメ制作会社も最高ランクの評価を受けている。
当初からもちろん期待値は高かった。ダンダダンは2021年の「ジャンプ+」連載当初から話題を呼んでいた。
毎話300万視聴を数えていた『SPY×FAMILY』、『チェンソーマン』、『推しの子』、『怪獣8号』と並び、ダンダダンもアニメ化すれば間違いなくヒットするだろうとは言われていた。
ちなみに編集者は林子平(りんしへい)氏、『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』などを手掛け大ヒット作品を連発するヒットメーカーだ。
■モチーフは超日本的なのに
MALでアニメ配信直前のメンバーズは15万人。ここ4、5年で期待値が非常に高かった作品以上で、群を抜いている。
初動を比較すると、『呪術廻戦』『地獄楽』は14万人、『推しの子』『怪獣8号』が13万人、『マッシュル-MASHLE-』『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと』が10万人、『葬送のフリーレン』は9万人だった。
とはいえ、ダンダダンのテーマはオカルトである。UFO、祟り、念力、都市伝説に妖怪という超日本的なモチーフをベースとした本作が、海外でここまで普及するとはさすがに予想の範疇を超えた結果である。
アニメ放送後の2カ月目、3カ月目の伸び率は、『鬼滅の刃』『呪術廻戦』『進撃の巨人The Final』『SPY×FAMILY』『フリーレン』といったここ6、7年の「大ヒット作」と遜色ない(アニメシリーズ化に至らなかったが『地獄楽』も3倍増の“後伸び大ヒット”のひとつだ)。
主幹事企業の担当者の発言によると「『進撃の巨人』以来、5年に1度くる大ヒットアニメの1つといえるレベルで当たっている」とのこと。『ダンダダン』はそのクラスの大ヒット作品なのだ。
■作者の知られざる苦悩
作者の龍幸伸(たつゆきのぶ)氏は「新進気鋭の若手が鮮烈デビュー」という感じではない。
2000年代半ばの就職氷河期で就職できず、バイト生活を続けながら21歳になってマンガを描き始めた。KADOKAWAに持ち込むも“ボロクソの評価”だったという。
ただ絵はうまかったのでアシスタントに誘われ、3年間粘った結果、2010年に「月刊少年マガジン」にて『正義の禄号』デビュー。続いて高校野球マンガ『FIRE BALL!』を連載するも1年強で終了。
編集者の林子平氏と出会ったのは2015年に「ジャンプSQ」に持ちこんでから。そこで『地獄楽』の賀来ゆうじ氏と『チェンソーマン』の藤本タツキ氏のアシスタントを経験する。
真面目すぎる龍氏の性格に「自分が面白いと思うものを楽しんで描く」2人の作家スタイルはよい刺激になったという。賀来氏も藤本氏のアシスタントをしており、「ジャンプ+」トップ作品は才能同士の直接的な刺激が生みだしたのだ。
2019年に龍氏が満を持して出した「キョンシーもの」の連載企画がボツ。龍氏はマンガが描けなくなってしまう。
■ぜひマンガで彼の画を見て欲しい
そこでヒントを出したのが林氏だった。彼は龍氏に何でも好きに書いてみてほしいと声をかけた。龍氏は自身のネタ帳を見たところ「映画『貞子vs伽椰子』が面白い。良い意味で馬鹿っぽくてすごく楽しめた」という記述を発見。
そこで「自分を呪ってきた『ターボババア』の力を使ってオカルトと対峙する」という設定が誕生する。
2021年4月にダンダダンの連載が開始するまで、作者の龍氏は15年強もの“苦しい時間”を過ごしていたことになる。
ダンダダンがずば抜けていたのは画力で、とにかく緻密な描きこみが驚愕のレベル。見開きという大ゴマでの迫力はマンガであることを忘れさせ、ハリウッド映画の一場面写として使えそうなレベルだ。
アシスタント5人体制とはいえ、毎話毎話で「描きこみがエグイ」という評価が「ジャンプ+」には並んでいる。
本作がアニメ化で広がることによって「マンガはアートである」という今の海外評価の潮流はまた一段違うステージにあげられる予感がある。ウルトラマンや特撮へのリスペクトも感じられ、龍氏にとって「自分が面白いと思うものを楽しんで描く」主題を見つけることができた作品なのではないかと思う。
■子供にはキツイ下ネタも
この難易度の高いアニメ化を実現したのがサイエンスSARU。『犬王』『夜は短し歩けよ乙女』や『映像研には手を出すな!』を手掛けた2013年設立のアニメ会社でまだ新しい。2024年に東宝が買収したことでも話題になった。
ダンダダンのアニメ化には、数十社が入札に参加し、多くの会社がアニメ製作委員会を組成したがっていた。その中で、集英社がサイエンスSARUと山代風我という監督ありきで選定したこと。このことが本作品の世界的成功を生み出す最初の成功要因だっただろう。
『鬼滅』でufotableが、『進撃』と『チェンソーマン』でMAPPAがスターダムをのぼってきたように、『ダンダダン』をもってサイエンスSARUもまた、トップ級アニメ制作会社に名を連ねてくることだろう。
「一貫性のあるストーリーラインがない」「ひどく子供じみたコメディライン」「(俳優と名前が一緒なだけで)発展する恋愛描写が浅い」「下品な下ネタが多すぎる」などなど批判もないことはない。
PG-13(13歳以下)でよいのかと不安になるほどキャラの“口の悪さ”や下ネタの純度も高く、「イチモツしゃぶらせろ」「バナナください」など子供に見せるのにためらうシーンも多い。
■傑作になるかどうかの分岐点
だがそれらをこえて魅力的な世界観を見事に落とし込む画力、斬新なキャラデザ、バトルシーンへの運びの秀逸さ、OPのCreepy Nutsの楽曲、そしてそれを傑作アニメに仕上げたサイエンスSARUの力に絶賛のコメントが世界中から集まっている。
「自分の金玉を取り戻すアホなテーマにもかかわらず、見事なアニメで感情をつかみ、楽しませるギミックに詰まったチョコレート箱のような作品」という点が海外ファンを強く魅了したことは間違いない。
進撃やチェンソーマン、鬼滅に感じられた哲学的部分が生まれてくるかどうかが、本作が10年をまたぐ傑作となるかの分岐点だろう。
■粒揃いだった「2024年10~12月期」
一作品が図抜けていたことが、同じシーズンに配信された他作品の評価を下げることはない。
『Re:ゼロ』はすでに大御所アニメとして確たる地位にあり、『ブルーロック』もU-20編での新展開でファンを増やした(ちょっと静止画が多すぎる印象はあるが、『キャプテン翼』のようにスポーツものの新ジャンルを築いた感はある)。
個人的に大好きな『うずまき』は白黒アニメという演出が最高だった。本作はもはやアニメではなく「執着」のアート作品といった趣である。
『チ。―地球の運動について―』は初アニメ作で海外では理解されがたかったかもしれないが、同作における登場人物が10数人軒並み処刑され、主人公格すら3ターンくらい入れ替わる壮絶な試みはマンガ史、アニメ史に記されるべきだろう。
■なぜ海外ファンに旧作のリバイバルがウケるのか
さらに今クールで特筆すべきは「旧作のリバイバル」である。
1989年のスタジオディーン作ではそこまで海外に広がらなかったはずの『らんま1/2』は2024年のMAPPAリメイクによって、メンバーズが12万人。Score8.13と高評価だった。この数字は今クールでは『ダンダダン』『BLEACH』に次ぐ。
これは『うる星やつら』のリバイバル(1981年スタジオぴえろ作のアニメを2022年にデヴィッド・プロダクションがリメイクした)の成功とも連動した話といえる。
「高橋留美子の『うる星やつら』のお陰で、現代のwaifu(俺の嫁、萌えを表現する)文化が確立された」と海外オタクにも高橋留美子氏の存在は強く響いている。
いまや海外ファンが「萌えの原典」を辿りに行くようなフェーズが始まっており、それはマルコの福音書から20年の時を超えてイエスの原点を時系列をもって記したルカの福音書のようなものかもしれない。
日本以上に反応が良かったのは『ドラゴンボールDAIMA』。魔人ブウ編以降を描いた『ドラゴンボール超』(2015年)から時を経て、悟空とベジータが子供の姿に変えられて共闘する作品だ。2026年は初アニメ化から40周年を迎える。それに向けた話題作りの最初のアニメリバイバルで、こちらもScore7.82と高評価だ。
海外ファンは2010年代に初めて動画配信で触れたという層も多く、“最新のアニメ絵”に慣れ過ぎている。
その意味ではプロットやストーリーとしては人気があっても2000年代以前のアニメ絵であるために受け付けられていない作品も多い。
現在WITSTUDIOによってリメイクされている『ONE PIECE』も同様で、今後も定番化したアニメ作品のリバイバルは増えていく傾向にあるだろう。
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エンタメ社会学者、Re entertainment社長
1980年栃木県生まれ。東京大学大学院修了(社会学専攻)。カナダのMcGill大学MBA修了。リクルートスタッフィング、DeNA、デロイトトーマツコンサルティングを経て、バンダイナムコスタジオでカナダ、マレーシアにてゲーム開発会社・アート会社を新規設立。2016年からブシロードインターナショナル社長としてシンガポールに駐在。2021年7月にエンタメの経済圏創出と再現性を追求する株式会社Re entertainmentを設立し、大学での研究と経営コンサルティングを行っている。著書に『エンタの巨匠』『推しエコノミー』『オタク経済圏創世記』(すべて日経BP)など。
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(エンタメ社会学者、Re entertainment社長 中山 淳雄)
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