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今のままでは「第2の大谷翔平」が生まれるわけがない…「飛ばない金属バット」で激変した高校野球に抱く危機感

プレジデントオンライン / 2025年1月27日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Loco3

野球の競技人口が減っている。ライターの広尾晃さんは「2024年から導入した新規格の金属バットによって、甲子園ではスモールベースボール化が進んだ。これで子供たちの『野球離れ』をとめることは難しい」という――。

■甲子園を国民的行事にした「画期的な道具」

2024年の高校野球は、変革の年だったと言える。夏の大会での「試合時間の変更」や「クーリングタイムの導入」など「酷暑対策」が大きな話題となったが、2024年春に導入された「新規格の金属バット」も、高校野球を大きく変えた。

高校野球が金属バットを導入した経緯について振り返る。

高校野球で金属バットの使用が認められたのは、1974年のことだ。

木製バットは原材料を自然乾燥させたものを使用する。だが、木材の資源枯渇や需要の拡大に伴って、メーカーは納期を短縮するために人工乾燥したバットを発売していた。こうしたバットは折れやすく、野球部、選手にとって用具代の負担増につながっていた。

金属バット導入について多くの議論があったが、当時の日本高野連の佐伯達夫会長は「高校野球は限られた部費で日々活動をしており、経費がかかり過ぎることで将来の発展に問題がある。木製バットは今後も値上がりが予想されるため、ここで思い切った措置が必要」と導入を決めた。

金属バットの導入は、高校野球を劇的に変えたと言ってよい。

1982年夏、春の甲子園を制した徳島県立池田高校はウエイトトレーニングをするなど「当たれば飛ぶ」金属バットの特性を生かした野球に徹して一時代を築いた。

そして池田の「夏春夏」の3連覇を阻止したPL学園高校は、桑田、清原のKKコンビで一世を風靡。清原和博は甲子園最多の13本塁打を打っている。

本塁打が飛び交う派手な試合が多くなった甲子園大会は大人気となり、プロ野球に肩を並べるようなスポーツイベントになった。

■金属バットの弊害

飛びすぎる金属バットによって、野球が大味になり、打球速度も上がりすぎるなど弊害も目立つようになり、2001年に日本高野連は社会人野球と連携して以下の新規格を満たす金属バットを導入した。

最大径の制限――バットの最大直径は67mm未満とする。
質量の制限――バットの質量は900g以上とする。
形状の制限――金属製バットの形状は、先端からグリップ部までは、なだらかな傾斜でなければならない。

しかし、この新規格は全く効果がなかった。

そもそも高校野球選手の体格は年々向上しており、さらには筋トレやプロテインの摂取など、選手がパワーアップに励んだこともあり、本塁打数はまったく減らなかった。

反発係数の規定がなかったので、金属バットメーカーもその規格内で「よく飛ぶバット」の開発を行った。

2010年頃から高校野球は競技人口が減少に転じた。プロや大学を目指す中学生は一部の強豪校に集中し、強豪校と普通の高校との格差が広がった。

トーナメント制の高校野球では、プロを目指すような強豪校と、9人のメンバーを揃えるのが精いっぱいの学校が顔を合わせることもある。

審判たちからは「強豪校の打者の猛打球が、相手校の選手の身体を直撃しないか、怖い」という声があがるようになった。事実、甲子園でも選手が打球で負傷する事件が起きている。

また、芯に当たらなくても振り回せば飛ぶ金属バットを使い慣れた選手は、木製バットを使う国際大会では十分な結果を出せないことが多くなった。

グラウンドに置かれた金属バット
写真=iStock.com/mcsilvey
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mcsilvey

■なぜか国際大会で勝てない日本の高校生

例年、高校野球世代は夏の甲子園が終わると選抜チームを作ってU-18ワールドカップやU-18アジア選手権に出場する。日本代表はU-18ワールドカップの前身のAAA世界大会に1980年代から参加しているが、2023年まで一度も優勝できなかった。

アマチュアの強豪国キューバが11回、アメリカが10回優勝しているのは良いとしても、韓国が5回、台湾も3回優勝している。

高校野球部の数で言えば、4000校近い日本に対して韓国は80校、台湾は200校と言われる。国際大会では金属バットは使えず木製バットに持ち替える。日本が国際大会で勝てないのは「飛びすぎる金属バットのせいではないか」と言われてきた。

さらに金属バットに慣れた高校生が卒業後、木製バットを使う大学、社会人、プロ野球で適応できずに戸惑う例も指摘されていた。

こうした状況から、2021年頃から金属バットを再び見直す動きが出てきた。2024年春からは、高校野球の金属バットは規格が改定された。

① バットの最大直径をこれまでの67mm未満から64mm未満と変更する。
② 打球部の肉厚を従来の約3mmから約4mmとする。

以前のバットは「羽子板」と揶揄されたように、芯を外しても強く振りさえすれば飛距離が出た。また肉厚の薄いバットは、ボールが当たると凹んでその反発で飛ぶ「トランポリン効果」で打球を飛ばしていた。それが、打球部をわずか1ミリとはいえ肉厚にすることで、打球速度、飛距離は一挙に下がると期待された。

■新規格の金属バットのすさまじい効果

新規格の金属バットは、予想以上の効果を生んだ。

高校野球(中等学校野球)の草創以来の本塁打の推移を図表1にまとめた。

【図表】「甲子園」での本塁打数の推移
筆者作成

戦前の甲子園球場は両翼が110メートルもあり(現在は95メートル)、日米野球でプレーしたベーブ・ルースが「Too large!(でかすぎる!)」と言ったとされるが、この時期の本塁打の大半はランニングホームランだったと言われる。

しかし、再改定された金属バットになってからの本塁打数は戦前、そして戦後の木製バットの時代よりも減っている。野球は一変したと言ってよい。

高校野球の指導者は、口をそろえて「新しい金属バットは芯を食わない(芯で打たないと)と飛ばない」と言う。また、さる内野手は「打球速度が落ちたので、思い切りダッシュして守ることができる」と言った。

選手の中には「どうせ飛ばないのなら、金属を使う必要はない」と木製バットやラミーバット(竹の集成バット)を使う例も出てきた。「上のレベルで野球をするためにはそのほうがいい」という理由からだ。

■野球がまったく変わった

図表2では、再改定された金属バット導入以前の2023年と2024年の春、夏の甲子園の打撃成績を比較した。

【図表】2023年と2024年の甲子園の成績変化
筆者作成

2023年春は記念大会で参加校が多く、試合数も多かった。また例年、高校野球は春よりも夏が打力はアップする。

2024年は2023年と比較して、春も夏も本塁打が激減しただけでなく、1試合当たりの得点、打率、長打率も大きく下落した。犠打数は、明らかに増加。盗塁数を見ると春は増加し、夏は減少した。

ざっくりいって、高校野球の打撃は「小型化した」のは間違いないだろう。

ただ、それ以外の傾向は、まだはっきりしない。各校の監督は「飛ばないバット」が基本になって、今後、どのような戦術、戦略をとるのか、また選手育成をどのように変えていくのか、模索中ということだろう。

2024年12月に宮城県仙台市で日本野球学会が行われた。毎年、この学会では大学、研究機関、高校などから最近の野球の様々な課題についての研究発表が行われるが、今回は、2つの高校によって新規格の金属バットを導入したことによる試合内容の変化などの研究発表が行われた。

和歌山県立桐蔭高校によると、金属バットの規格変更によって「試合の中でチャンスの場面が減少」「昨年まで二塁打になっていたフライが凡打になっていること」が報告された。

また新潟県立塩沢商工高校は、新潟県大会でのデータをもとに「試合の得点差が縮まり」、「長打率が大きく減少した」とし、新時代を勝ち抜くには「長打率を上げること」「盗塁を有効に使うこと」「走者二塁からの得点をいかに上げるかを考える」ことが重要だとしている。

■スモールベースボールの名手に未来はない

ベテランの野球指導者の中には「スモールボールに戻るべき」と主張する人がいる。

彼によれば「やっと昔ながらの高校野球のあるべき姿が、戻ってきた印象です。バットをぶんぶん振り回すのではなく、ボールをよく見極めて出塁し、その走者を丁寧に送っていく。チームの勝利のために1点を大事に取っていく。それがこれからの高校野球の姿です」というのだ。

しかしながら、金属バットの基準改定に伴うこうした「スモールボール化」に対しては、疑問視する声もある。

ある野球指導者は、「今、本気で野球で食っていこうと思っている高校生の目標は、甲子園ではなく、プロでさえもない。みんなMLBを目標に置いている。MLBではバントなんか滅多にやらない。それよりも、来た球をしっかりコンタクトして、速いスイングスピードで振り抜く方が大事だ。それに、バントなんか、大学やプロなど上のレベルに行っても習得できる。それよりも速い球に振りまけない鋭い振りを身に付ける方がずっと重要だ」と話す。

今、プロ野球で「バントの名手」と言われる選手の多くは、プロ入り前は中軸打者だった。プロには入って役割が変わって、そこから犠打の技術を習得したのだ。

高校時代からバントの練習をして「スモールボールの名手」になっても、そこからの発展性はない。まして今は、日本野球とフライボール革命全盛のMLBとは地続きになりつつある。

2024年4月21日、メッツ戦の3回、5号2ランを放ったドジャース・大谷。メジャー通算176本塁打とし、松井秀の記録を抜いた=ロサンゼルス
写真提供=共同通信社
2024年4月21日、メッツ戦の3回、5号2ランを放ったドジャース・大谷。メジャー通算176本塁打とし、松井秀の記録を抜いた=ロサンゼルス - 写真提供=共同通信社

■日本野球の未来のためにやるべきこと

飛ばない金属バットの導入は、木製バットとの違和感を是正する意味で、大事な改革ではあった。打撃技術の向上のためにも有益ではあるだろう。

しかし、それによって昔の野球に「先祖返り」するのでは、あまりにも魅力に欠ける。若者世代を野球に惹きつけることはできないのではないか。

木製バット同様の飛ばない金属バットでも、長打、本塁打を連発してこそ、野球の未来は拓けるのではないか。多くの野球選手の目標になっている大谷翔平は、いつでも、どんなバットでもフルスイングして、夢を掴んできたのだ。

打球速度が高まることによる怪我のリスクを回避するためには、選手を集めるのが精いっぱいのチームや、連合チームなどと、私学の強豪チームが対戦しないようにするために、高校野球のカテゴリーを「一部、二部」に分ける措置が必要ではないか。

さらに二部はリーグ戦にして試合数を増やすなどして、すそ野部分の底上げを図る必要があるだろう。

新しい金属バットの導入を「野球の明るい未来」につなげるため、さらに踏み込んだ取り組みをしてほしい。

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広尾 晃(ひろお・こう)
スポーツライター
1959年、大阪府生まれ。広告制作会社、旅行雑誌編集長などを経てフリーライターに。著書に『巨人軍の巨人 馬場正平』、『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』(共にイースト・プレス)などがある。

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(スポーツライター 広尾 晃)

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