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「中居正広氏引退」の道づれになりたくない…民放キー局の「社内調査やります宣言」に透けて見える本音

プレジデントオンライン / 2025年1月23日 22時15分

タレントの中居正広さんが芸能活動を引退することを伝える街頭モニター=23日午後、東京・秋葉原 - 写真提供=共同通信社

タレントの中居正広氏が芸能界引退を発表した。中居氏とフジテレビをめぐる問題では、民放キー局が、芸能関係者と局員の関係について「社内調査を実施する(実施した)」と相次いで表明している。元テレビ朝日プロデューサー鎮目博道さんは「民放各局は、フジテレビのCM差し替え・差し止め問題が自社に波及することを最も恐れている。社内調査の実施を表明しているが、形式的な調査では全く意味がない」という――。

■いまテレビ各局がいちばん恐れていること

タレントの中居正広氏が、自身の有料会員サイトでついに芸能界引退を発表した。発表直後からSNSで「中居引退」がトレンドとなり、驚きをもって受け止められた。

しかし、驚いているテレビ局幹部はたぶんいないだろう。遅かれ早かれこうなることが予想されていたからだ。それより各局が驚き、恐れ慄いているのは、フジテレビからスポンサーが離れ、多くのCMがACジャパンに差し替わっていることだ。中居氏の女性トラブルをめぐる問題がフジテレビを直撃していること、それが自局に飛び火することを最も警戒している。

これまでどんなスキャンダルが起きても、こんな一大事にはならなかった。タレントがひとり消えるか、あるいは番組が終了するか。それで解決するものだと誰もが思っていただろう。しかしそう甘くなかった。

フジテレビはこのままいけば、多くのスポンサーを失い、収益の大きな部分が吹き飛ぶ。それだけではない。直接的な当事者ではないフジテレビの系列局まで大きな損害を被ることになる可能性が高い。読売新聞の報道によると、実際に、関西テレビ(大阪市)のスポンサーは30数社がCMの差し替えなどを希望しているという。九州の系列局でも差し替えの動きが起きているようだ。

「こんなことが万が一にも自局に飛び火してはならない」と各局の経営者は思っただろう。各局が「自局の調査」を表明するまでのスピードは驚くほど早かったのはその証左だと言える。

■先手を打ったキー局

TBSは20日に、アナウンサーを含む社員を対象に、TBSのコンプライアンス部門が弁護士の助言を得ながら「TBSグループの人権方針にのっとり、実態を把握するための社内調査を始めている」と発表。

日本テレビは21日に「会食などにおける不適切な性的接触がなかったか」を、外部の専門家を入れて制作現場などの社員を対象にヒアリングを行うと発表。

テレビ東京は22日に「社内および番組関係者や取引先等との間で不適切な行為があったかどうか」などについて外部の専門家の協力を得て社内調査を開始するとした。

なんとテレビ朝日に至っては「年明けから出演者やその関係者と社員との関係性に問題がないか」その実態を把握する第一次調査として対面ヒアリングを制作現場やアナウンス部を中心に行い、終了したと22日に発表した。その結果「食事会等での不適切な行為の報告はありませんでした」という結論を得たようだ。

これは各局とも「うちは問題がありませんでした」とすぐにでも表明してスポンサー離れを食い止めなければならないからだ。

■「調査があまりにいい加減すぎます」

1月下旬くらいまでにはスポンサーに説明ができないと、4月が番組改編時期であることを考えると間に合わなくなってくる。また、いま他局に先駆けて潔白を表明すれば「フジテレビから離れたスポンサーを取り込めるかもしれない」という思惑も当然あると思われる。

決して「自社の社員の人権を守るため」や「視聴者の疑念を晴らすために」というのが第一の目的ではないと思えるのが、テレビ局で働いてきたものとしては非常に悲しい。

その証拠にというと言い過ぎかもしれないが、今回の問題でNHKは非常に冷淡だ。稲葉延雄会長は22日に「NHKはハラスメントの通報制度が確立している。これから強く運用していく。内部通報的なものは一切ない」と説明。特段改めて調査を行う考えはないようだ。これは、NHKが広告収入やスポンサーとは無縁だからこその余裕ではないか、と勘繰ってしまう。

そして実は、各局が行うとしている社内調査についても、その方法が果たして良いのかどうかについて、私は疑念を持っている。というのも、私は、私の出身であるテレビ朝日の女性社員からこんな話を聞いた。

「社内調査が行われたのですが、みんながいる場所でまるで立ち話のように上司から事情を聞かれただけでした。これではもし何かあったとしても、とても話すことができる環境ではありません。調査があまりにいい加減すぎます」

東京・お台場にあるフジテレビ社屋(写真= Guilhem Vellut/CC-A-2.0/Wikimedia Commons)

■結論を急く"調査"に意味はあるのか

どうやらテレビ朝日社内では「とにかく調査を急げ」と各部署の責任者にかなりプレッシャーをかけていたようだ。結果、男性の上司が、同僚のいる場所で女性に対して「性被害を受けたかどうか」というナイーブな内容を含む可能性のある聞き取りをおこなうような状況が社内で発生したとみられるのだ。

そして他局に先駆けて22日の報道ステーションなどで「不適切な行為の報告はなかった」と自らの調査結果をニュースとして報道している。

しかし、上記のような状態で行われた「女性社員への聞き取り」は、果たして十分であるといえるだろうか。結論だけを急ぐあまり、調査方法に問題があったのではないか、と言われたらテレビ朝日はどう返答するのだろう。これはまだ「第一次調査」であるということだから、今後きちんとした形で調査を改めてしてくれるのだと思いたい。

このように、調査方法が不適切ないしは配慮に欠けていれば、本当の実態は明らかにはならない。各局とも「外部の専門家の助言」などを入れているのは、そうしたことに配慮してのことだろうが、それでも調査が「問題なかったということを広告主に示すため」に行われていると推測できることや、結果を早急に得なければならないとして焦っていることなどを考えると、いい加減な調査に終わってしまうのではないかという疑念を持たざるを得ない。

■制作会社の人たちは声をあげられるのか 

各局の調査の詳細があまり明らかになっていない現状で、どんなことに注目すべきかを指摘しておきたい。

まずは、調査を行う「実行部隊」が、制作現場内部の人間であるかどうかということ。上記の例のように、調査対象部署の責任者的な人間が聞き取りや調査を担当するのでは「なかった」という答えをもらうためのようなものになってしまい、部下は正直に答えにくい。

テレビ局はいまだに男性社会だ。上司は男性である場合が多く、女性は特に話しづらいだろう。TBSはコンプライアンス部門が主体となって調査を行うようだが、調査対象者は膨大だから、実質の聞き取り担当者をコンプラ部門が行うかどうかまでは疑問だ。

そしてもうひとつの大きなポイントは、果たして調査対象者が社内の人間だけなのかどうかということだ。テレビ番組は、その大部分を番組制作会社などの外部スタッフに頼って制作されている。

「番組」という「小さな村」には、局員は下手をするとプロデューサーただ一人ということすらある。局員はいても多くて数人だ。そして局員はだいたい「番組の管理職」であり、現場の詳細についてはあまり把握していないケースも多い。「汚れ仕事」や「めんどくさいこと」は、社外のスタッフが行うわけだから、本当に問題が起きたかどうかは、そうした外部の人間に聞かなければ本当のところは分からない。

写真=iStock.com/dpmike
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/dpmike

■スピードとカタチだけの社内調査に意味はない

そして、制作会社など外部スタッフは、「局から仕事をもらう弱い立場」にあるため、「親分であるプロデューサー」の悪い話はしたがらない。仕事がもらえなくなるよりは、黙っておいたほうがいいのだ。局員プロデューサーも、自分の番組での出来事は全ての責任を負う立場になるので、正直に調査に答えるとは考えにくい。

よほど上手に外部スタッフから事情を聴取しなければ、なかなか番組で起きている「悪いこと」は明らかになりにくいのだ。そこを踏み込んで調査するほどの覚悟が各局にあるのだろうか。そこが問われている。

そしてもっと大切なこと。それは、各局の社員が自社を信頼できているかどうか、ということだ。いろいろな局の現場にいる局員たちと話をする機会がそれなりにある私の感触で言うと、きっと今の状況では局の調査に「素直に答える」人間は少ないだろう。

もし、正直に問題を告発したとしても、「きっと局は自分を守ってくれない」と大多数は考えるのではないか。それほど自分が働く放送局に対する信頼感は低下している、と思わざるを得ない。

もし、告発したことであからさまに嫌がらせを受けることはなくとも、「現場を外される」とか「不本意な仕事に異動させられる」くらいのことはされると思うだろう。なぜなら、「誰かが上に嫌われて現場から飛ばされた」などということは日常茶飯事で起きるのがテレビ局だし、「通常の人事異動による異動だ」と言われてしまえばどうしようもない。

まずは、局員も社外スタッフも、安心して正直に社内調査に応えられる環境整備を行うこと。これこそが遠回りのようでいて、各局が今すぐに取り組むべき最大の課題であるのではないかと、私は思う。

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鎮目 博道(しずめ・ひろみち)
テレビプロデューサー・ライター
92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教関連の取材を手がけた後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島取材やアメリカ同時多発テロなどを始め海外取材を多く手がける。また、ABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」、「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、放送番組のみならず、さまざまなメディアで活動。上智大学文学部新聞学科非常勤講師を経て、江戸川大学非常勤講師、MXテレビ映像学院講師。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究、記事を執筆している。 Officialwebsite:https://shizume.themedia.jp/ Twitter:@shizumehiro

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(テレビプロデューサー・ライター 鎮目 博道)

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