気づいていないのは「フジ経営陣」だけ…37年続く絶対権力"フジテレビの天皇"が生み出した"無責任の体系"
プレジデントオンライン / 2025年1月24日 13時45分
■引退表明で「中居問題」は「フジテレビ問題」に
タレントの中居正広氏が自身の有料ファンクラブサイトで、23日をもって芸能界を引退すると発表した。「これで、あらゆる責任を果たしたとは全く思っておりません。今後も、様々な問題に対して真摯に向き合い、誠意をもって対応して参ります。全責任は私個人にあります。これだけたくさんの方々にご迷惑をおかけし、損失を被らせてしまったことに申し訳ない思いでなりません」と謝罪をした。
トラブルがあったとされる女性に対しては「改めて、相手さまに対しても心より謝罪申し上げます」と述べた。サイトやSNSでは「逃げた」という非難や「潔い」と称賛する声など種々さまざま入り乱れている。だが、「引退」というタレント生命を断つような決心をして、自身にとっても最も手痛い「けじめ」をつけたことで、中居氏は報道されていることがおおまかな部分で事実だと認めたことになったと私は見ている。
もし事実と違うのであれば、ちゃんと釈明をすることもできたはずだ。もしかしたら、「いまの段階であれば、『中居』ではなく『中居さん』と惜しまれながら辞められる」と判断したのかもしれない。
そしてこのことで、フジテレビ(以下、「フジ」と省略)の立場がますます厳しくなった。事件の張本人が「引退」というかたちで、ある意味“潔く”「非」を認めてしまった一方で、のらりくらりと「調査委員会に委ねる」と繰り返す姿勢は、「言い逃れ」や「隠蔽」と非難されても仕方がないだろう。もはや「知らぬ存ぜぬ」では済まされない。
■「ちゃんとやっています」アピール
フジもそれをひしひしと感じているのか、23日には臨時取締役会を開き、その日のうちに社内で説明会を実施した。自社のニュースでは逐一「これから臨時取締役会が開かれます」と現状を伝えるなど、これまでの「閉鎖性」を払拭するかのような変わりようだ。だが、私はこのフジの対応を冷静に分析している。
上記のような行動は、以下の3者への「パフォーマンス」に過ぎない。その「3者」とは、「スポンサー」「海外投資ファンド」「総務省」である。それらに対して「ちゃんとやっています」というアピールをしているに過ぎない。
加えて「第4者」への配慮も必要になってきた。それは、「社内」である。社員や現場のクリエイターたちからの不満の声が大きくなってきたのだ。17日の緊急社長会見は、社内には周知されずにいきなりおこなわれた。そのことに対する社内のバッシングも多かった。
しかし、「言い逃れ」や「隠蔽」体質は、こんな小手先のことでは解消されない。それをひしひしと感じたのは、22日に開かれた関西テレビ(以下、「関テレ」と省略)の定例会見であった。私は、この会見に強い違和感を抱いた。
■フジ元専務「私が知る限り、上納、献上というのは…」
会見に臨んだ関テレ社長の大多亮氏は、中居氏とフジの社員と思われる女性との間でトラブルが起こったとき、フジの専務取締役として主に編成制作局やクリエイティブ事業局を担当していた。
これまでの報道が正しければ、被害者の女性は編成制作局に所属するアナウンサーであり、中居氏との会合をセッティングしたとされる編成幹部も編成制作局に所属している。そのため、フジの記者会見で港浩一社長が「認識しておりました」と述べた2023年6月の事件は、大多氏の耳に入り、大多氏から港社長に報告された。
これは会見で大多氏も認めている。そして、記者の「フジテレビの中で立場の高い人物が、立場の弱い女性を使って性接待したと疑念を持たれている。本当にないと自信をもって言えるのでしょうか」という質問には、「私が知る限り、上納、献上というのは、聞いたことがない」と堂々と言い切った。
だが、元フジテレビ関係者への私の取材では、以下のような証言が得られている。
「フジは私がADで働いていた頃から、社内不倫が堂々と横行していたり、宴会の席で既婚の40代男性社員が20代未婚の女性社員やADを追いかけ回していたり、無茶苦茶でした」
「力があるプロデューサーに呼ばれるとアナウンサーは絶対に行かなければならない。でないと、次の番組には使ってもらえない」
「会合が終わってエレベーターの中で抱きしめられたり、キスを迫られたりしたことは数えきれない。でも、そんなことは誰にも言えない。上司に言ったら干されるから」
■「知らなかった」「聞いていない」では済まされない
そんな宴会や会合の席でのひどい状況を、当時は数多くのトレンディードラマを手掛けるカリスマプロデューサーとして「現場のトップ」に君臨していた大多氏が「知る限り聞いたことがない」といったようなことがあり得るのだろうか。
もし「知らなかった」というのが事実であれば、プロデューサーとしての管理能力が問われるのではないか。また、中居氏と女性の会合をセッティングしたとされるフジテレビ編成幹部の関与に関しては、「中居氏とこの女性の間に起きた事案で、間に人がいたとは把握していない」と述べ、「私は聞いていない」と自信をもって答えた。
私はこの大多氏の「自信」には理由があると分析している。恐らく、大多氏が聞いていないのは事実なのだろう。しかし、この「聞いていない」という言葉には重要な意味が隠されている。大多氏は中居氏と女性の間でトラブルが起きたことを「把握していました。発生して、ほどなくして報告があがっています」と述べた。さらに「僕までで止めておくことも考えられなくはないですが、私の判断で社長にあげた。その日のうちに(報告を)あげた記憶があります」と話した。
恐らく、大多氏は中居氏の名前が挙がったとき、ピンときたのではないか。大多氏ほどのキャリアと事務所とのコネクションを持つ人物ならば、当然、当該の編成幹部と中居氏の関係についても常日頃から認識していたに違いない。編成制作担当の専務として、管轄する幹部社員の事務所づき合いは把握していて当然だ。大多氏は察しがついてしまったのだ。だから、あえて聞く必要がなかった。そう私は推察している。
■「いい番組を作りたい」の表と裏
大多氏は会見で述べた。
「女性社員、アナウンサーとの会食、社内外での会食はあります。私はそれ自体が悪いと思ったことはない」
確かにそうだ。社内外での会食は通常の企業でもあるだろう。だが、問題は「出演者の意向を汲んで、自社の女性社員を参加させて懇親会を開く」という発想だ。そんな食事会を設定するなど、他局であればあり得ない。
「女性社員、アナウンサーとの会食」があると断言したことにも違和感を抱いた。会食にあえて女性を同伴させることが日常化しているように感じられ、前時代的な風習が改善されていないように受け止められかねない。もしそれらの普通なら「あり得ない」ことがフジテレビでおこなわれていたとすれば、それはなぜなのか。
ここで読者の皆さんが抱く疑問は、「テレビ局側はタレントに仕事を発注する立場で力関係としては強いはずなのに、なぜタレントの意向を汲まなければならないのか」というものだろう。実は、ここには「局内における人事的なパワーバランス」が関係している。
もし「タレントの意向を汲む」ことによってある人物がそのタレントをキャスティングできる、そしてそれによってヒット番組を生み出せることができるとしたらどうだろうか。「タレントの意向を汲む=いい番組を作れる」という図式が成り立つことになる。もちろん、純粋に「いい番組を作りたい」と思っている人もいる。
だが、それを「人事=出世の道具」に使う輩がいたら、どうなるだろうか。タレントの意向に沿うことだけを考え、周りに無理を強い、犠牲も厭わないかもしれない。問題は、そんな「仕組み」を会社が「良し」とするかどうかだ。普通の会社やガバナンスがしっかりしている会社なら、そんなことを認めるわけがない。一人の人間の欲のために周りの人間が犠牲になることなど、あってはならないことだからだ。
しかし、それが成り立ってきたのが、フジテレビという組織だった。それは、フジの「企業風土」とも言えるものである。
■フジテレビは「テレビの王者」だった
文化放送キャリアパートナーズ就職情報研究所が毎年発表している「就職ブランドランキング調査」によると、2008年卒業生、2010年卒業生、2011年卒業生を対象にした3度にわたって日本中のすべての企業における「No.1人気」をフジが獲得している。
当時、フジは売上高が全民放のなかでトップ。ダントツの一強だった。だが、2011年に「視聴率三冠王」の座を日本テレビに奪われ、状況が一変する。「視聴率三冠王」とは、全日(6時~24時)、プライムタイム(19時~23時)、ゴールデンタイム(19時~22時)の3つの時間帯でそれぞれの平均視聴率トップを取ることである。なかなかできることではない。
フジが王座を明け渡した理由は何か。一言でいえば「慢心」だ。
90年代までは、テレビ業界は調子が良かった。2000年代に入り、テレビ広告市場が伸びなくなり、2008年のリーマンショックで市場が激しく縮小した。にもかかわらず、フジは対策を練らなかった。いや、それはフジだけではなく、ほかのテレビ局にも言えることかもしれない。だが、特にフジにおいてはそれが顕著だった。
テレビ業界は放送法で守られた免許事業で成り立っている。そこには一種の「特権意識」がある。「選民意識」とも言えるだろう。目に余りはせよ、テレビが「メディアの雄」と言われた時代には、かろうじてこの考え方が許されていた。しかし、いまはそんな時代ではない。だが、フジはいまだに「栄光の日々」という夢のなかにいる。大多氏の「女性社員、アナウンサーとの会食、社内外での会食はあります。私はそれ自体が悪いと思ったことはない」という言葉にそんな時代錯誤を感じるのは私だけだろうか。
では、なぜそんな時代錯誤がフジではまかり通るのだろうか。
トップの人間が変わっていないからである。日本テレビにおいては、1992年から2001年まで社長を務めた氏家齊一郎氏が「天皇」と言われていた。同じようにテレビ朝日では、2009年から2014年まで社長を務めた後、2022年に再び社長に返り咲いた早河洋氏は「早河帝国」を築いてた。だが、「天皇」や「帝国」と言ってもたかだか10年に満たない。
■40年続いた絶対権力が生み出した企業風土
しかし、フジでは長きにわたって日枝久氏が君臨し続けている。
日枝氏は1980年代のフジテレビが発展した時期に、創業一族の鹿内春雄氏を支え、信頼を得た。1988年に鹿内氏が急逝すると社長に就任。その後、2001年には会長兼CEOになり、2017年には取締役相談役になったが、現在に至るまで 37年の長きわたりトップの座から退こうとしない。いまだにフジの人事には絶大なる発言権を持つとされている。
トップが経営のパフォーマンスを充分に発揮できるように社内幹部の「組閣」をするのは、当然のことだ。会社の発展のためにはその方がいいだろう。だが、問題なのはそれが長すぎることだ。しかも、日枝氏は87歳という高齢である。
健全な企業であれば、同じ人物が40年近くもワンマン経営をおこない、「院政」を敷くなどあり得るだろうか。87歳の人物が決定権を持ち続けていることなど、あるだろうか。しかし、それを「良し」としてきたのがフジテレビという企業なのである。報道では、今回の騒動でフジの組合人数が80人から500人に増加した。このことに関して長年、大手金融機関で管理職を務めていた大学時代の友人はこう言い切った。
「加入していないことにびっくりした。自分たちは上級国民で労働者じゃないと勘違いしているのか? 金融機関は御用組合だが、非組以外は全員加入で一定のガバナンスは利いている。恐らく、右派マスコミなので組合が弱かったのでは」
■フジ副会長「影響力があることは間違いない」
こんなところにも「特権意識」が見られる。組合が弱いと物申す者もいない。当然、社長人事で選ばれるのは「傀儡」ばかりとなる。港氏や大多氏をはじめ、取締役などの要職の人事には日枝氏の意向が働いていると考えても間違いはないだろう。そして彼らが社内で力をつけ、出世の道具にしてきたのが、「タレントとの人脈」なのである。
もちろん、タレントや俳優、事務所とコネクションを築くこと自体は悪いことではない。むしろ、視聴者に良い番組を提示するために必要な「努力」だと言えるだろう。それは本来、出世のためではない。社内で偉くなるために、日々身を削りながら酒を交わし、コミュニケーションを取ってきたのではない。そのつながりが、いい番組を生み出すと信じているから頑張ってやっている現場の人間がほとんどだ。
だが、それを出世の道具にしている一部の人間がいるとしたら、すべての社員がそうだと見られかねない。しかし、そういう人間を日枝氏は重用してきた。自分も、そして相手も脛に傷を持っている者同士だとすれば、弱みを握られているうちは裏切らないだろう。そんなふうにして、「日枝ジュニア」は新しい「日枝ジュニア」を生み出してゆく。
民放連(日本民間放送連盟)の遠藤龍之介会長は23日、都内での定例会見後に、フジの副会長として「(フジの)企業風土というところの改善は必要。かなり根源的なことだと思います」と言及した。
「日枝氏の体制が一新されなければフジテレビは変わらないのでは?」という指摘に対しては、「全てのことを日枝が決めていると言われるんですけど、実はそんなことは本当にないんですよ。ただ影響力があることは間違いない」と弁明しながらも、「今の企業風土という中の一部に私も港も、もしかしたら日枝もいるということなのかもしれないなと思います」と認めた。
■「日枝体制」との決別しかない
中居氏が引退し、すべての真相解明と責任はフジに委ねられた。
フジは23日の臨時取締役会で、日本弁護士連合会(日弁連)のガイドラインに沿った第三者委員会の設立と3月末をめどに報告書を出すことを決めた。同時に、テレビカメラを認める記者会見を週明けの27日に開くことも発表した。
だが、第三者委員会の調査がどういう結果であろうと、会見がどんなものになろうと、今のままではフジテレビは変わらない。そう断言したい。では、フジ再生への道を拓くすべは何なのだろうか。
それは、「日枝体制との決別」しかない。
現在の執行部や幹部はすべて日枝氏の息がかかっている。フジの幹部たちも同様にタレントと仲良くなり、それによって良い番組を作ってきたという自負があるからこそ、変わらない企業体質が歴然と存在している。そんな社内の「日枝人脈」をすべて洗い出し、一掃しないと、また第二、第三の「日枝ジュニア」が誕生するだろう。
株式を保有する米投資ファンドのダルトン・インベストメンツの関連会社からも「凝り固まったグループ」で「ビジネスに必要なダイナミズム」を提供できるとは思えない」とガバナンスの弱さを指摘されている。企業体質を改善して再構築する。それしかフジテレビが生き残るすべはない。
唯一の「光明」は現場だ。今回の事件で現場には多大な影響が及んでいる。「現場にどんなしわ寄せや弊害が出ているのか」については、次稿に譲るが、こんな状況のなかでも現場は歯を食いしばって、いい番組を生み出そうと頑張っている。
2025年1月クールのフジのドラマも「119エマージェンシーコール」「日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった」などのように、オリジナルで作り上げようという気概が見られる素晴らしい作品が多い。上層部が変われば、もっともっと良くなるはずだ。
社員はもっと声をあげればいい。
現場から動かせることはきっとある。
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元テレビ東京社員、桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授
1964年兵庫県生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、テレビ東京に入社。世界各地の秘境を訪ねるドキュメンタリーを手掛けて、訪れた国は100カ国以上。「連合赤軍」「高齢初犯」「ストーカー加害者」をテーマにした社会派ドキュメンタリーのほか、ドラマのプロデュースも手掛ける。2023年3月にテレビ東京を退社し、現在は桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授。著書に『混沌時代の新・テレビ論』(ポプラ新書)、『弱者の勝利学 不利な条件を強みに変える“テレ東流”逆転発想の秘密』(方丈社)、『発達障害と少年犯罪』(新潮新書)、『ストーカー加害者 私から、逃げてください』(河出書房新社)、『秘境に学ぶ幸せのかたち』(講談社)など。日本文藝家協会正会員、日本映像学会正会員、芸術科学会正会員、日本フードサービス学会正会員。映像を通じてさまざまな情報発信をする、株式会社35プロデュースを設立した。
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(元テレビ東京社員、桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授 田淵 俊彦)
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