ビタミンCでもニンニクでもない…管理栄養士が「風邪にはコレ」とすすめるエビデンスのある栄養素と食事法
プレジデントオンライン / 2025年1月28日 9時15分
■「風邪に効く栄養素や食事法」
冬は、風邪などの感染症がもっとも流行する季節です。ただし、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起こってからの数年間は、感染対策がしっかり行われたこともあり、流行自体がありませんでした。それ以降も不規則かつ小規模な流行が多かったです。
ところが、今シーズンは違います。風邪や新型コロナだけでなく、インフルエンザやマイコプラズマなどの感染症も猛威を振るっています。特にインフルエンザの感染者は、現在の形で統計を取り始めた1999年以降もっとも多いとのことです。
こうして感染症が大流行すると、テレビ番組やネット記事で「風邪に効く栄養素や食事法」をよく見かけるようになります。「効く」といっても、栄養や食事はワクチンや医薬品ではありませんから、予防や治療にダイレクトに効くわけではありません。
それでも管理栄養士から見て「風邪にいい栄養素や食事法」はありますから、ご紹介していこうと思います。
■食べ物で免疫力をアップできるか
さて、感染症予防には、免疫力をアップすることが大切だと思っている方はとても多いのではないでしょうか。なぜなら「免疫力をアップ!」「免疫力を強化する」などと謳うサプリメントやドリンクなどの商品が、病気予防効果があるかのようにたくさん売られているからです。
確かに、私たちの体には、風邪の原因となるウイルスや細菌などを含むさまざまな病原性微生物から身を守るための「免疫」という仕組みが備わっています。でも、免疫はとても複雑な仕組みなので、免疫力を高めればよいというような単純なものではありません。
また、免疫力というのは医学用語ではありませんし、具体的な定義や指標もありません。近年たくさん売られているサプリメント等の商品はもちろん、昔から免疫力を上げて病気を予防するといわれてきた食品や栄養成分でさえ根拠が不十分だったり、効果が確認されていなかったりします。ですから、食べ物は免疫細胞が正常に働くことをサポートする役割を持っていると考える程度がいいでしょう。
■ビタミンCとニンニクで風邪予防
風邪の予防効果が期待されている食品や栄養成分はいくつかあります。エビデンスレベルが高いシステマティックレビューのあるもののうち、現時点で予防効果が報告されているものを紹介しましょう。まずは、昔から風邪にいいとされているビタミンCとニンニクから。
ビタミンCが風邪予防にいいという説は、ノーベル化学賞を受賞した物理化学者のライナス・ポーリングが「高濃度ビタミンC」を推奨したことで世界中に広まりました。以降さまざまな研究が行われましたが、信頼性の高い報告を分析した結果では、現時点でのビタミンCの風邪予防効果は限定的で、スポーツ選手のように激しい運動を行う人が摂取する場合のみ効果が確認されています。そのほかの人への効果は確認されていませんが、適量なら害はありませんから気休め程度に摂取してもいいでしょう。
ニンニクについては、〈摂取した群〉と〈摂取していない群〉を比較すると、摂取した群のほうが風邪をひく頻度が低かったという報告があります。しかし信頼性の高い報告が少なく、被験者も少ないため、風邪を予防できるかどうかはわかりません。またニンニクは香りが強いために、同形のカプセルなどにつめて偽薬(プラセボ)と比較する「盲検化」が難しく、研究の精度が高いとはいえないのです。ここに特徴ある食べ物の健康効果を検証することの難しさがあります。食べ物と健康の研究では精度の高い調査を行うこと自体が難しいのです。
■プロバイオティクスの風邪予防効果
もうひとつ、特に近年、注目を集めているのがプロバイオティクスです。体に有用な微生物を生きたまま体に取り入れることを「プロバイオティクス」といいますが、その代表的なものが乳酸菌です。「風邪予防には乳酸菌」といわれるほど、感染症予防効果を打ち出した乳酸菌のサプリメントや乳酸菌飲料が続々と発売されています。
実際、さまざまな研究で、特定のプロバイオティクスには風邪などの上気道感染症に感染する回数を減らす効果があることが報告されています。研究の数や被験者も多く、以前よりもエビデンスが蓄積されてきているといえるでしょう。少なくとも腸管の健康は、免疫機能の維持に重要な役割を果たしていると考えられます。
ところで、市販されている免疫によいとされるヨーグルトの風邪予防効果はどうなのでしょうか。そもそも食品なので盲検化が難しいうえ、企業が主体となった研究も多く、機能性表示食品の根拠とされる論文の質はあまり担保されていないというのが実際です。現状では他のプロバイオティクス食品と比べて、特にすぐれているとはいえません。
■上気道炎になったときに適した食事
では、感染症になってしまったら、どんな食事をするといいでしょうか。免疫系が機能を発揮できるようバランスよく食べて栄養状態を整えるのが一番です。ただし、症状によっては食事自体が困難なこともあります。そこで、症状に合わせた上手な栄養補給法を解説します。
【咳が出る場合】ハチミツには咳の症状を緩和させる効果があり、特に副作用もないため、軽い症状であれば試してみるのもいいと思います。ただし、「乳児ボツリヌス症」になるリスクがある1歳未満の子どもには絶対に与えないようにしてください。
【咽頭痛のある場合】刺激の強いものや固形物を飲み込むと喉が痛い場合は、水分が多く柔らかいものがおすすめです。野菜や魚は煮物にし、ほぐすなどして一口量を少なくすると食べやすいでしょう。刺激物やアルコールは炎症を悪化させる原因にもなりますので避けてください。痛みが強い場合は、栄養補給できる市販のゼリー飲料もおすすめです。
【鼻閉(鼻詰まり)がある場合】私たちが食べ物を食べる際は、口を閉じて鼻で呼吸し、飲み込む間は呼吸を停止しなければなりません。ところが、鼻閉があると咀嚼中に鼻呼吸をスムーズに行えないため、硬いものやすぐに飲み込めないものを食べるのが難しくなります。ですから、喉ごしがよく、咀嚼回数が少なくて済む、うどんやそうめんなどの麺類、お粥などがいいでしょう。
■おなかの風邪のときに適した食事
一方、おなかの風邪(感染性胃腸炎)の場合は、どんな食事が適しているでしょうか。まずは、消化にいいものです。また、嘔吐や下痢が起こると、脱水になる危険があるので、水分もしっかり摂取してください。
【消化管の不調がある場合】消化を考えると食事形態はご飯よりもお粥、肉よりも魚、魚では焼き魚よりも煮魚、野菜は生野菜より野菜スープがおすすめです。消化器系の症状のある風邪の場合には、生ものや冷たい飲み物は量を控えるようにします。
【脱水の心配がある場合】少量なら食べられるような場合には、お粥に梅干しなど水分と塩分がとれるものを用意しましょう。固形物が難しい場合にはスポーツドリンクを薄めたものを、下痢などで水分吸収が難しい場合には「OS-1」などの経口補水液を利用しましょう。小さな子が経口補水液の味を好まず拒否する場合には、リンゴ果汁を薄めたものでも大丈夫です。
固形物を受け付けないケースでは、少し落ち着くまでは水分摂取やゼラチンゼリーのようなものにとどめ、胃腸を休めてもいいでしょう。ただ、昔は下痢や嘔吐があるときには食事の摂取を控えたほうがいいといわれていましたが、現在では早めに食事を再開したほうが回復が早いことがわかっています。食べられるものを少量ずつ食べましょう。
〈参考文献〉
Cochrane Database of Systematic reviews. Vitamin C for preventing and treating the common cold (Published:31 January 2013)
Cochrane Database of Systematic reviews Reviews. Garlic for the common cold (Published:11 November 2014)
Cochrane Database of Systematic reviews. Probiotics for preventing acute upper respiratory tract infections (Published:25 August 2022)
Cochrane Database of Systematic reviews. Honey for acute cough in children (Published:23 December 2014)
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管理栄養士、健康科学修士
管理栄養士、健康科学修士。病院、短期大学などを経て、現在は社会福祉法人に勤務。主にインターネット上で「食と健康」に関する啓蒙活動を行っている。猫派。著書に『新装版管理栄養士パパの親子の食育BOOK』(内外出版社)、共著書に、『薬局栄養指導Q&A』(金芳堂)、『謎解き超科学』(彩図社)、監修書に『子どもと野菜をなかよしにする図鑑 すごいぞ! やさいーズ』(オレンジページ)がある。
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(管理栄養士、健康科学修士 成田 崇信)
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