「ホリエモンのようになりたい」という若者をバカにしてはいけない…脳科学者が説く「有名になるための条件」
プレジデントオンライン / 2025年2月1日 7時15分
2018年11月13日、日本陸連の新プロジェクト「JAAF RunLink(ランリンク)」発表会見に出席した、アドバイザーに就任した理学博士の茂木健一郎氏(左)と実業家の堀江貴文氏(東京都) - 写真=時事通信フォト
※本稿は、茂木健一郎『意志の取扱説明書』(実業之日本社)の一部を再編集したものです。
■日本人同士なら「どうもどうも」と言い合うが…
大学、企業の研究所、メディア……と、いろいろな組織、さまざまな職業の人と、日本だけでなく海外でも関わってきた。
移動するたびに、メタ認知をしないと、コミュニケーションをとるのが難しい。たとえば日本人同士が会うと、頭を下げながら「どうもどうも」と言い合う。
しかしそういう態度は、海外にいくと通じない。“How are you doing ?”と言い合って握手する。もしアメリカに行って、「どうもどうも」とやってしまったら、相手は怪訝に思うだろう。
それがメタ認知の第一段階。
でも、外国の人が日本に来ると、僕はつい「どうもどうも」とやっているような気がする。どっちが上・下ではなくて、その場の雰囲気で、自由自在にどちらの態度で対応するか、切り替えられるようになる。これが第二段階だ。
■メタ認知が高くなると、どんな場所でも生きていける
アメリカでクルマを運転するとき、左ハンドルで右側通行になるのはあらためて言うまでもない。その方式に慣れてから日本に戻って運転すると、しばらく戸惑ったりすることもある。なかにはそれを自慢げに言う人がいるが、そういう馬鹿にならないようにしたい。規則の違いをことさら言い立てずに、自由に切り替えられるようになるのがカッコいいことだと思うし、メタ認知が高いということだ。
それはさておき、こういうことを繰り返しやってきたので、メタ認知が強くなったのかもしれない。足を踏み入れた場所に合わせて、自分がどうするかをコントロールできる。
「Be water」(水になれ)
俳優・武道家のブルース・リーの言葉である。
「どんな容れ物にも対応できるように、水のようになれ」
メタ認知は水になるように状況を把握することである。
■経済学者が株式投資で儲けられないワケ
メタ認知があれば、経済学者が株式投資をすればかなり儲かるのではないかと思う。しかしそうはならないのだ。
普通に考えれば、経済のスペシャリストなのだから、かなり高い精度のメタ認知が発揮され、株式投資で儲け、経営者としても経済理論を駆使して、企業業績を伸ばしていけるのではないかと思ってしまう。
実は、かなり不思議なことだが、必ずしも成功をするとは限らないのだ。
20世紀末、高度な金融工学理論を駆使していたアメリカのヘッジファンド「ロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)」が、設立からわずか4年で破綻した。
運用チームは“ドリームチーム”と言われる陣容だった。ノーベル経済学賞を受賞した2人の経済学者、マイロン・ショールズとロバート・マートンに加え、ソロモン・ブラザーズの著名な債券トレーダー、ジョン・メリウェザー、取締役にはFRB副議長だったデビッド・マリンズが座っていた。それ以外にもかなりの著名人が役員になっていた。
■一番儲けているのは誰なのか
そのメンバーを見て、世界中から資金が集まった。巨大なレバレッジを仕掛けて運用を行い、一時は40パーセントを超える運用益を記録していた。
しかし幸せは長く続かなかった。アジア通貨危機による相場の大変動に対応できず、設立から4年で破綻。市場から退場を迫られた。
経済学者であるにもかかわらず、というべきか、経済学者だからこそ失敗したというべきか……。
人間はそれほどに非合理的な存在なのである。
作家・小川哲さんの小説『君が手にするはずだった黄金について』(新潮社)という短編集の表題作は考えさせられる。
みんな黄金を掴みたいんだけれど、黄金がどこにあるのかわからない。よく見ると、一番儲けているのは、黄金を掘るためのスコップを売っている人というくだりがあって、これは深い洞察だと思った。
黄金を探すという行為は、欲望の総合格闘技みたいなものだ。何が人の欲望を掻き立てるか、その中で利益を得るために何をするべきかを着想するには、深い洞察がないと難しい。経済理論による分析だけでは無理だろう。
■目標の人を設定することで発揮される意外な効果
欲望を設定するとき、「○○さんのようになりたい」と、具体的な人物をあげるケースは多い。
「イーロン・マスクのようになりたい」はよく聞くが、先に述べたように堀江さんや、ひろゆきさん、成田悠輔さんといった名前をあげる人もいる。
原則論を言えば、特定の人をあげて「○○のようになりたい」という目標設定は適切ではない。同じような人は世の中に2人も必要ないし、そもそも同じような人物になるのは無理だからだ。堀江、ひろゆき、成田の3氏は世界に1人いればいい。必要なのは、彼らがカバーしきれなかった新しい分野を切り開ける人だ。
ただ、ひとつ留保をつけておきたい。
落語の世界で、たとえば立川流の人たちは、立川談志に憧れて、談志のようになりたいと思ったり、談志みたいな表現がしたいという強い欲望があったりして入門している。
志の輔、談春、志らく……いずれも立川流の噺家で、落語界をある意味で引っ張る存在になっている。しかしそんな彼らでさえ、談志を超えられたかというとそうはなっていない。最初は談志のようになりたいと思うのだが、いずれ無理だということに気づく。
どうするかといえば、みな自分にできるそれぞれの道を探っていく。その結果、独自の個性にあった芸を磨いていった。
そういう軌道修正はありだと思う。だから、ある特定の人を、自分の力をある一定の水準に引きあげる対象として目標に設定するのはいいのではないか。
■首の長いキリンと「有名になりたい若者」
僕の部屋には、アインシュタインの写真が飾ってある。アインシュタインのようになるという意味もないわけではないが、いい科学者として活躍するという自分の気持ちの表れで、目標設定というわけではない。何か自分の目の前の具体的な課題があって、そのときに“アインシュタインだったらどう考えるかな”と思うことはある。ただ、自覚はないが、無意識のうちにそれがどこかで研究の動機付けになっているかもしれない。
そこで思い出すのは、キリンの話。
キリンの首が長いのは、なぜか。
高いところにある葉っぱを食べたいからではないかということが、まことしやかに囁かれたけれど、解剖学的な進化の道筋はそれとは違う。脳の回路の視点で見ると、「キリン」が高いところにある葉っぱを食べたい欲望があるから、「首」が伸びるということが実際に起こるのだ。それが学習というものである。
もし、ただ有名になりたいと願う若者がいるとしたら、その人には有名になるための回路が伸びていくわけだから、その欲望は大事だし、誰か目標にする人に近づきたいとか、そういう設定の仕方はあながち悪い方法ではないと思う。
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脳科学者
1962年生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学院理学系研究科修了。クオリア(感覚の持つ質感)を研究テーマとする。『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞を受賞。近著に『脳のコンディションの整え方』(ぱる出版)など。
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(脳科学者 茂木 健一郎)
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