なぜ暴力的な犯罪を起こすのは女より男が多いのか…進化の過程だけでは説明できない「攻撃的になる理由」
プレジデントオンライン / 2025年2月3日 18時15分
※本稿は、森口佑介『つくられる子どもの性差「女脳」「男脳」は存在しない』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
■大多数のセクハラや犯罪が、男性によって行われている
セクシャルハラスメントや犯罪に関する報道を目にしたとき、筆者は自分が男性であることを恐ろしく思うときがあります。
もちろん、こういう言い方自体がジェンダーステレオタイプを助長する可能性があることは認識しています。セクシャルハラスメントや犯罪は、男性が加害者になるケースだけではありません。女性が加害者になることも当然あります。ただ、統計的には、大多数のセクシャルハラスメントや犯罪が、男性によって行われているという事実があります。そこで、攻撃性の入り口として、まず、犯罪について見ていきたいと思います。
今日も殺人、暴力事件、強盗、詐欺のニュースがテレビやインターネットで報道されています。殺人犯が捕まったと聞いて、女性のイメージが浮かぶでしょうか、それとも、男性のイメージが浮かぶでしょうか。
実際の事件であれ、小説やアニメなどの作品であれ、犯罪は男性によってなされることが多いような印象があります。特に、暴行や殺人などの攻撃性の高い犯罪において顕著なように思えます。
犯罪には様々な種類がありますが、一部の犯罪は明らかに攻撃的な性質を持っており、暴力的な行動や他人への害を直接的に含んでいます。たとえば、強盗や殺人といった犯罪は、攻撃性の顕著な例と言えます。
■「男は攻撃的」だから、強盗や殺人を犯しがちなのか?
多くの犯罪は男性によってなされます。強盗や殺人、強制性交や強制わいせつはほとんど男性によってなされています。男性の場合、武器を使った犯罪が多いという報告もあります。
これは検挙された犯罪に限った話なので、検挙されていない犯罪も含めると多少の変動はあると思いますし、女性のほうが占める割合が多い犯罪もあるかもしれませんが、全般的に犯罪の多くは男性によってなされていることがわかります。
なぜ男性のほうが犯罪を犯しやすいかについては、攻撃性の高さだけではなく、生物学的な要因、社会的要因や環境的要因が総合的に影響してくるので、攻撃性の高さを示す1つの傍証に過ぎません。実際に攻撃性は男性において高いという証拠はあるでしょうか。
■提供する食事に辛口のソースをかけて攻撃性を測定する方法
攻撃性は、そもそもどのように調べられるでしょうか。一番手っ取り早い方法は、攻撃性の高さに関して色々と質問紙形式で尋ねるものです。当人に聞く方法もあれば、知人に聞く方法もあります。子どもの調査では、親や幼稚園・保育園の先生、学校の先生に尋ねることが多いです。
質問紙は一番ポピュラーな方法ですが、自分であっても、親であっても、客観的に攻撃性の高さを評価できるかどうかわからないという問題点があります。そのため、実際の行動を調べる方法もあります。たとえば、研究者が遊びの場面などを観察して攻撃行動を評価するようなやり方です。
筆者が面白いと思う方法に、辛口のソースを使う実験があります。皆さんが、気に入らない相手に食事を提供することになったとします。メニューはカレーで、その辛さは自分で調整できること、相手があまり辛いものを得意としていないことを知っているとします。その場合に、辛めのカレーを提供するか、甘めのカレーを提供するかで、その人の攻撃性の高さを調べるという方法です。実際の研究では、相手に提供される食事に辛口のソースをどれだけかけるかで攻撃性を測定します。
■身体的な攻撃は男性、「仲間外れ」のような関係性攻撃は女性?
このような方法で調べる攻撃性は、いくつかに分類されることが知られています。性差の文脈で出てくるのは、直接的攻撃性と間接的攻撃性です。前者は身体的攻撃と言語的攻撃のことを指します。身体的攻撃は手が出るような攻撃性のこと、言語的攻撃は主に悪口や非難のようなもののことです。
間接的攻撃には関係性攻撃が含まれます。これは身体的な攻撃ではなく、社会的関係性を使った攻撃性で、無視や仲間外れのような方法で心理的にダメージを与える攻撃性です。
一般的なイメージとして、身体的な攻撃は男性、関係性攻撃は女性というイメージがあるでしょう。筆者自身は男性なので、まずもって男子が身体的な攻撃をしがちであることは否定できません。小学校でも中学校でも、自分も含めて殴り殴られ、という経験は一度や二度ではありませんでした。
一方、筆者には女性の攻撃性の実態がよくわかっていません。ただ、中学生のころ見た光景として、女子生徒は様々なグループをつくっていて、そのグループ間に若干の序列がありました。怖いなと思ったのは、あるグループに属していた女子生徒がそのグループから徐々に締め出されていき、気づいたときには別のグループに所属していたことです。元のグループの他のメンバーは特に気にすることもない様子を見て、寒気を覚えた記憶があります。
このようなケースは決して珍しいものではありませんが、一方で、同じような光景を男子グループの中で見たことも少なくないのです。女子も男子も仲間外れや無視をする光景に出くわすことはあります。これらの攻撃性に性差はあるのでしょうか。
■国際的な分析によると、すべての国で男性は攻撃性が高い
攻撃性に関するメタ分析を紹介しましょう。この分析は欧米に加えてアジアの国々も含んだ分析です。身体的攻撃、言語的攻撃、関係性攻撃の性差について検討しています。
まず、身体的攻撃については、やはり男性のほうが女性よりも多いことが示されています。そして、この性差は分析に含まれた13の国すべてで見られており、興味深いことに、アジアにおいて、北米やヨーロッパよりも、性差が大きいことが示されました。
言語的攻撃についても性差が見られました。こちらについても男性のほうが多いことが示されています。ただ、身体的な攻撃に比べてその性差は小さく、すべての国で見られるわけではありませんでした。また、身体的な攻撃に比べて、言語的攻撃は北米やヨーロッパの性差が大きいことが示されました。
■「いじめ」のような関係性攻撃には男女差がない
そして、興味深いのが関係性攻撃の結果です。女性のほうが多いと思われている関係性攻撃ですが、実はほとんど性差がないか、あっても非常に限られた条件においてのみだということが示されました。これは意外です。
地域別に見ても、北米とアジアでは女性のほうがわずかに多いものの、ヨーロッパでは男性のほうが多いという傾向が示されており、これらの結果は地域によって異なるというよりは、性差がほとんどないと解釈をしたほうがよさそうです。
子どもの研究については、関係性攻撃の性差が見られるのは10代のようです。大人で性差が見られないのは、そもそも身体的な攻撃をすると犯罪となり捕まってしまうので、研究の範囲内では男性であれ、女性であれ、関係性攻撃をする傾向が強くなるという事情もありそうです。
少なくとも身体的な攻撃性に関しては、男性のほうが強いことが示されました。では、なぜ、男性のほうが攻撃的なのでしょうか。ここでは、2つの考えについて簡単に紹介しましょう。
1つは進化的な説明です。激しい繁殖競争、つまりは子孫を残すためのパートナーを獲得するためには、より強い攻撃性を持つ男性が有利だったため、男性の身体的攻撃性が進化してきたという考え方です。この考えに従えば、攻撃性の性差は人類に共通して見られる特徴であることも想定されます。こういう説明では、男性ホルモンと攻撃性に関係があるという指摘もなされますが、両者の関係を否定する研究もあります。
■男性の攻撃性は進化の過程で強くなってきたか
人間はともかく、人間以外の動物を見ると、この説明はうなずける部分もあるかもしれません。ボスのようなオスは身体も大きく、攻撃性があり、その力でグループを支配している動物もいるのです。一方で、人間にそのまま当てはまるかどうかというのは疑問があります。
もう1つは、歴史的な性役割に関する説明です。この説明では、女性は家庭内での仕事を担い、男性は外で働くという、性別による固定的な役割分担に着目します。もちろん、このような役割分担は恣意(しい)的なものであり、歴史や社会の産物であるという点がポイントです。
性別による固定的な役割分担がある場合、外で働く男性では、何らかの目標を達成するような役割が期待され、家庭を担う女性では、他人を気遣ったり世話したりする役割が期待されます。少し前の日本のような状況です。といっても、今でも地域によっては似たような状況があるでしょう。
■歴史的にも男性は社会で「目的達成」を課せられてきた
以上のような性別役割分業意識により、男性は、目標を達成する手段として攻撃的な行動が適切であることを学んでいくのではないかというのが、2つ目の説明です。攻撃性を持つことが、目標を達成するうえで必要になってくるということです。確かに、目標を邪魔する勢力に対抗するには攻撃性が必要な状況もあるでしょう。
さらに、男性の社会的地位が高いことが求められるような社会において、高い地位の獲得や維持には身体的、言語的、関係的な攻撃性が必要となるのかもしれません。結果として、男性の攻撃性が高くなるわけですが、社会がそのように方向づけているとも言えます。
進化的な説明では、男性の攻撃性の高さは生まれつきほぼ決まっていることを想定しており、「女性脳」「男性脳」を主張する人が好む説明です。一方、歴史的な説明は、社会や文化の役割を強調するものです。現在のところ、どちらが正しいというわけではなく、どちらもそれなりの説得力があるというところです。
子どもに目を向けると、たとえば遊びの性差が攻撃性の違いに影響を及ぼす可能性があります。それほど証拠が多いわけではないものの、女児は赤ちゃんのころから男児よりもヒトの顔を好む傾向があったり、人形を好んだりするなど社会的な傾向があるのに対して、男児身体的な遊びを好んだり、乗り物を好んだりするため、こうした好みや遊びの傾向が攻撃性の違いにつながるのではないかと考えられています。
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京都大学大学院文学研究科准教授
福岡県生まれ。京都大学大学院文学研究科准教授。京都大学大学院文学研究科修了。博士(文学)。専門は、発達心理学・発達認知神経科学。主な著書に『10代の脳とうまくつきあう 非認知能力の大事な役割』(ちくまプリマー新書)、『子どもから大人が生まれるとき 発達科学が解き明かす子どもの心の世界』(日本評論社)など。
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(京都大学大学院文学研究科准教授 森口 佑介)
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