0円で職場のストレスと不満を軽減する手があった…東大の研究で判明「絶好調な職場」で飛び交う5文字の言葉
プレジデントオンライン / 2025年1月30日 16時15分
※本稿は、樺沢紫苑・田代政貴『感謝脳』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。
■感謝によって個人の仕事が向上する
感謝が仕事に与える科学的効果を見ていきます。大きく分けて、「個人の仕事の向上」と「会社の業績アップ」の2つの効果が実証されています。まずは、個人の仕事に与える効果から見ていきましょう。
①仕事のモチベーション、パフォーマンスの向上
感謝によって自分の貢献が認められたと実感し、仕事に対する意欲が向上することが研究からわかっています。
自分にはできるという自己効力感。自分を律することができるというコントロール感が高まり、仕事へのモチベーションが向上します。感謝によって、自分の努力が評価される。もっと頑張ろう、もっとチームや会社に貢献したいという気持ちが、湧いてくるでしょう。結果的に、パフォーマンスも向上します。
②職場の人間関係の改善、ストレスの減少
感謝の表現は、職場の人間関係を深めるための有力な手段であることが多くの研究で示されています。感謝は、相互性やポジティブな評価を高め、仕事のパフォーマンスや従業員の満足度を向上させるだけでなく、ストレスを改善し、助け合い行動を促進します。
職場のストレスの9割が人間関係と言われます。職場の人間関係が改善されれば、当然ながら職場のストレスも減少します。感謝の表現は、職場での相互性、ポジティブな評価、活力を高めるので、感謝が多い職場は、ストレスフリーで働きやすい職場となります。
③仕事の満足度の上昇
他者から感謝されること、自分の仕事が評価されることで、仕事への満足度が上がるのは当然でしょう。しかし、「感謝の表現が増える」、つまり自分から積極的に感謝するだけで、仕事への満足度が上がることが研究で示されています。実に興味深いことです。
仮に全く人から評価されたり感謝されたりしなくても、自分からの感謝で、仕事への満足度を高めることができるのですから。
■感謝は「仕事の幸福」にとって不可欠な条件
④自己成長の促進
感謝を自己表現することで、自己改善、自己成長の意欲が高まります。「自分にはできる」という自己効力感が高まります。自分の成長を期待されていると感じ、より高い目標に向かって努力するようになります。
⑤向社会的行動が増える
「向社会的行動」とは、他者や集団のために自発的に行う行動で、思いやり行動とも呼ばれます。つまり、感謝によって、他者貢献の行動が増えます。
人から感謝されると、社会的価値観(自分は社会的に価値があるという感覚)が高まります。結果として、助けた人だけでなく他の人に対しても、一般的な他者に対しても向社会的行動が増加し、親切をしたくなります。感謝されると、社会貢献がしたくなるのです。
⑥仕事の幸福感の増大
仕事へのモチベーション、パフォーマンスの向上、所属感の向上、ストレスの減少によって、ワーク・エンゲージメントが増大し、仕事に「やりがい」を感じ、仕事が楽しくなる。結果として、幸福度が増大します。
以上から、「感謝の気持ち」は「仕事の幸福」にとって不可欠な条件と言えます
■会社の業績も「感謝」でアップ
続いて、組織による仕事、集団での仕事における、感謝の力を検証します。
感謝が会社の部署内、チーム内でも広がっていくと、お互いに感謝し合うようになる。そうすると、会社の雰囲気も良くなり、仕事の効率も上がり、会社の業績アップにもつながります。
感謝が企業文化として定着すると、計り知れない効果が得られるのです。集団的感謝が引き起こすすごい効果について説明します。
■生産性を向上させ、ストレスや不満を軽減する
①生産性向上
感謝の気持ちは、従業員の効率、成功、生産性に非常に重要であり、良好な人間関係と社会的支援を増加させます。従業員個人のモチベーション向上、生産性向上にともない、組織全体の生産性も向上します。
②会社への帰属意識、愛着の向上と離職率低下
感謝が多いほど、会社、組織への愛着が深まります。
感謝の気持ちが強い従業員は、リーダーや同僚との関係が良好であり、これが幸福感と組織へのコミットメント(愛着)を高めます。組織に対する感謝の気持ちは、組織の目標達成を支援したいという欲求を刺激し、帰属意識も高まります。
感謝されることで、組織の一員として「自分が必要とされる感覚」が高まります。さらに組織に感謝することで、帰属意識がさらに高まる。会社への愛着が高まることで、離職率を下げる効果も得られます。
「教員」を対象にした感謝の介入(仕事の中で感謝を取り入れる方針を取ること)により、仕事満足度が17.9%向上し、離職率が低下しました。
感謝はまた、職場環境におけるストレスや不満、心理的燃え尽きの影響を軽減します。従業員の満足度や仕事へのやりがいを増やすため、結果として離職率の低下が期待できるのです。
③不正行為の減少
感謝によって道徳性が向上し、不正行為を控える行動をとることが、実験で明らかにされています。
近年、大企業による「データ改ざん」や、社内の不祥事の隠蔽などが告発され、大事件となっています。企業の存続にも関わるダメージを受ける場合もあります。
従業員ひとりひとりの道徳心を高めるのは簡単ではありませんが、企業内に「感謝の風土」を作ることが、不正行為の抑止につながる可能性があります。
■従業員も経営者にもメリットしかない
④コラボレーション、イノベーション促進
安全な心理状態の中では、新しいアイデアや意見が出やすくなり、イノベーションが促進されます。
社内に集団的な感謝の気持ちがあると、組織内の人々の「質の高いつながり」を強化し、サービスの革新性を高め、企業の財務実績を高めることがわかりました。
チーム内での感謝の気持ちが強まると、知的交流が強化され、より創造的なアイデアが生まれ、コラボレーションが活性化します。結果として、チームのパフォーマンスが向上することがわかっています。
⑤企業イメージの向上
感謝を大切にする企業は、従業員だけでなく、顧客からも良い印象を持たれ、企業イメージが向上します。
たとえばサイボウズ。従業員に感謝の気持ちを伝え、モチベーションを高めるために「人事部感動課」が設けられました(現在は「人事本部コネクト促進部」に再編)。さらに、ワークライフバランスに配慮した制度や社内コミュニケーションの活性化などの施策で、24%と高かった離職率を4%に低下させて、企業イメージを大きく向上させました。
また、パナソニック、サントリー、リクルート、積水化学工業、花王などの大手企業も、感謝を効果的に活用して、成果につなげています。
⑥ワーク・エンゲージメントが高まる
「ワーク・エンゲージメント」とは、「仕事から活力を得ていきいきとしている」(活力)、「仕事に誇りとやりがいを感じている」(熱意)、「仕事に熱心に取り組んでいる」(没頭)の3つが揃った状態です。
仕事にやりがいを感じ、職場の人間関係が良く、楽しくいきいきと働ける。それは、会社員にとって最高の働き方です。また、組織が活性化し、従業員が生産性高く働き、従業員と会社の関係性も良く、離職しないとしたならば、会社員(従業員)にとっても、経営者にとってもメリットしかありません。
■東大の研究でわかったこと
ではどうすれば、ワーク・エンゲージメントが高まるのでしょう。そのために重要なのが。やはり「感謝」なのです。職場で集団的な感謝の気持ちを育むと、ワーク・エンゲージメントが大幅に向上します。
東京大学の研究では、72組織の計1187人の従業員を分析したところ、「集団的な感謝」が高まるほど「仕事への取り組み」「ワーク・エンゲージメント」が向上することがわかりました。
「集団的な感謝」とは、職場の中で「感謝の言葉」が日常的に飛び交う状態です。
# 仕事が終わったら、同僚や上司から「ご苦労様」とねぎらいの言葉がかけられる
# 感謝の気持ちを、メール、メッセージで送る
# リーダーが率先して感謝の言葉を伝える
# サンクスカードなどで、互いに感謝を伝え合う仕組みをつくる
# 1on1などの、個別のミーティングで、感謝を伝える
# 月間MVPなど、具体的な表彰制度を設ける〈会社からの感謝〉
# 社内報で、感謝のエピソードを紹介する〈会社からの感謝〉
# 感謝イベントの実施〈会社からの感謝。例:ディズニーランドのサンクスデー。キャスト(従業員)だけでディズニーランドを貸し切り、無料で楽しめる〉
# 研修などで「感謝」の重要性を伝える
これらの行動により、従業員同士、上司から部下、先輩から後輩、チームメンバー同士、リーダーからメンバーへ、会社から従業員へ。感謝のネットワーク(感謝のつながり)が、複雑になるほど、異なるメンバー同士で感謝するほど、チームの信頼感が強まっていくのです。
会社として「感謝の文化」が、企業風土として定着するほど、「ワーク・エンゲージメント」が高い会社ができ上がる、というわけです。
まさに、感謝は仕事と会社のための、最強のツールなのです。
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精神科医
作家。米・イリノイ大学への留学を経て樺沢心理学研究所を設立。YouTubeやメルマガで精神医学の情報を発信。著書に『学びを結果に変えるアウトプット大全』『精神科医が教える ストレスフリー超大全』『読書脳』ほか。
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(精神科医 樺沢 紫苑、感謝の研究家 田代 政貴)
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