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2次被害を生み出す地獄絵図…「日枝氏が君臨するフジテレビは生き残れない」2度目の会見で露呈した末期症状

プレジデントオンライン / 2025年1月28日 7時15分

フジテレビの嘉納修治会長(右)と港浩一社長=東京・台場のフジテレビ - 撮影=石塚雅人

芸能界を引退した中居正広氏の女性トラブルをめぐる問題で、27日、フジテレビの港浩一社長が2度目の記者会見を開いた。港氏と会長の嘉納修治氏が引責辞任し、新社長にフジ・メディア・ホールディングス(HD)専務の清水賢治氏が28日付で就任すると発表した。元テレビ東京社員で、桜美林大学教授の田淵俊彦さんは「2度目の記者会見は、フジテレビのガバナンスが非常に危ういものであることが改めて示された。会長・社長の辞任でフジテレビが簡単に再生するはずがない」という――。

■10時間半続いた会見、日枝氏は出席せず

1月27日午後4時から、フジテレビによる「やり直し会見」がおこなわれた。前回17日の緊急社長記者会見の際には、参加メディアを「制限」し、動画撮影も「禁止」としたが、今回は参加メディア「制限なし」、動画撮影も「可能」とした。

しかし、会見は10時間半に及び、怒声が飛び交う混乱を極めた。それは誰もが怒りたくなるほどの、「開く価値のない会見」だったからだ。

フジの労組からはすべての取締役の出席が求められたが、結局、出席したのは、フジテレビの嘉納修治会長、遠藤龍之介副会長、港浩一社長、親会社のフジ・メディアHDの金光修社長の4人だった。求められた取締役相談役、日枝久氏の出席は実現しなかった。

前回のプレジデントオンラインで、私はいかにフジのガバナンスが劣っているかと指摘し、日枝体制の根深さに焦点を当てた。そしてこの「日枝体制」との決別しか、フジの生き残りの道はないと述べた。であるから、今回の記者会見のポイントは「日枝体制」がどうなるのかという一点に尽きると私は考えていた。

記者会見に先立って同日におこなわれた取締役会で、嘉納修治会長と港社長の辞任が決定した。そして新社長は、清水賢治氏が就任する。清水氏は現在、フジ・メディアHDの専務取締役を務めている。

1983年にフジテレビに入社し、多くの名作アニメをプロデュースしてきた。「Dr.スランプ アラレちゃん」「ドラゴンボール」「ちびまる子ちゃん」「こちら葛飾区亀有公園前派出所」「幽☆遊☆白書」など多数の大ヒットアニメをプロデュースした。

撮影=石塚雅人
フジテレビの新社長に就任する清水賢治氏 - 撮影=石塚雅人

■アニメ畑を歩んできた新社長

私はこの人事を聞いて「甘い」と思った。

フジの現社員やOBに取材をおこなったところ、「清水さんはもともと次期社長の最有力候補とみられてきた。それが早まっただけ」「社長候補になっている段階で、すでに日枝氏の息がかかった人物」「日枝チルドレンの中では、まだまし」という証言が得られた。

日枝氏の取締役相談役の辞任はなかった。したがって、私が期待した「日枝体制」からの決別はかなえられなかったと判断せざるを得ない。一番の違和感は、経営陣から“わざと”ではないかと思ってしまうほど「日枝氏」の名前が出なかったことだ。

これは極めて不自然だった。社会や記者の関心はここにあることはわかっているはずだ。それに言及しないことは、正直“利口な”やり方ではない。

この会見は、フジにとって“名誉挽回の”場であった。そんな場であるのだから、逆に会見をおこなう側から「皆さんがご指摘されている日枝に関しては……」と切り出し、「なぜ、この場にいないのか」「なぜ、辞任をしないのか」を説明するべきだったのではないだろうか。

記者からの質問で重い口を開き、しかも「タブー」に触れるかのようなしどろもどろのよくわからない回答をする様子を見ていると、いかに日枝氏の恐怖政治が根深いものかということを改めて実感させられた。

記者に「なぜ、この場に日枝さんがいないのか?」と問い詰められると、幹部は「この事案に関与していないので、ここにいる必要がない」と繰り返した。「なぜ、港氏と嘉納氏の辞任に至ったのか?」という質問に対しては、「会社の取締役としての責任がある」と述べた。そうであれば、取締役である日枝氏もその「責任のもと」、会見に臨席する必要があるのではないか。

撮影=石塚雅人
フジテレビ社長を辞任した港浩一氏 - 撮影=石塚雅人

■社員の声は無視された記者会見

また、2023年6月の事件以降の①社内の対応、②中居氏への対応、③報道で伝えられているようなフジ社員編成幹部の関与、の3点について局側から説明がおこなわれたが、どの点においても以前と変わらぬ情報ばかりで何の新しさも見受けられなかった。

①の「社内の対応」に関しては、女性の「誰にも知られないで仕事に復帰したい」という意思を尊重したとの一点張り。②の「中居氏への対応」に関しても、「多くの人が知ることになることで、女性の意思を損ねることを恐れた」と17日の会見と言い分は変わらなかった。③の「社員の関与」についても、「第三者委員会に委ねる」という言葉でまたもやごまかされた。

恐れずに言おう。このような“意味のない”会見をこの期に及んで行っていること自体が、企業ガバナンス的に異常なことだ。会場にいた記者の人々は誰もが「こんなところに集められて、バカにされているのか」と感じただろう。

なぜ、こんな会見になってしまったのか。

それは、会社として「社員」という一番大事にしなければならない立場の人々をないがしろにし、彼らの声を無視していることから来ている。なぜならば、23日におこなわれたフジ社員向けにおこなわれた社内説明会の内容に、企業として考え、改善しなければならない点が浮き彫りになっていたからだ。

■社員向け説明会でも「異様な対応」

タレントの中居正広氏と女性とのトラブルから始まったこの騒動は、もはやフジの経営陣だけの問題ではなく、社員や現場に波及するという局面に発展している。

経営陣が社内説明会でおこなった発言をどう社員がとらえ、感じたのかということに重要な「再生のヒント」があった。それらを真摯に受けとめ、改善しようという思いがあるならば、27日のような記者会見にならなかったはずだ。

すでに75社以上のスポンサーがCMの差し止めを決め、一部の企業から返金請求や契約の前倒し終了の要請が来たことを受けて、フジテレビはCM出稿料の返還を始めた。このようなフジ最大の危機のなか、社員向け説明会はようやく開催された。

社員およそ1200人のうち、約450人が会場に集まったほか、リモートを含めると参加者は1100人にのぼり、社員の関心高さを物語った。なかには語気を強める者や涙ながらに訴える人もいたという。

だが、この社内説明会もひどい内容だったと聞いている。冒頭から注意勧告として「かん口令」が敷かれたことに、現場から「何の説明もしないうちから、『ここで聞いたことはしゃべるな』か!」と不満の声があがった。

ある社員が発言した際には、法務担当の社員が「会社法も知らないくせに不用意に発言をするな」「情報漏洩したら訴える」と社員に警告したという。あり得ない話だ。

撮影=石塚雅人
27日の記者会見に集まった報道関係者 - 撮影=石塚雅人

■コンプライアンス部署の不在

「定例会見になぜカメラを入れなかったのか」という質問に対して、港浩一社長は「終わって、失敗したと思いました。マスメディアのくせに、なぜカメラも入れないでやるんだと。言われてみればそのとおりです」と反省の言葉を述べた。

このことに対しても、社員から「会見では報道陣に『会場が狭い』と説明していたはず」といった反論が出ている。理由が「いつの間にか改変されている」という指摘である。

そして最も驚いたのが、コンプライアンス部署の担当者からの説明であった。中居氏の当該の問題について、昨年12月に週刊誌の取材を受けるまでコンプライアンス部署はトラブルを知らされていなかったというのである。

最初の記者会見で港社長は「弊社は発端となった事案について直後に認識しておりました。2023年6月初旬となります」と述べている。関西テレビの社長で当時はフジの編成制作担当専務であった大多亮氏も「(トラブル発生から)程なく私に報告が上がり、港社長に報告した」と証言している。

■隠蔽と言われても仕方がない

だが、副会長の遠藤龍之介氏は12月中旬くらいに自宅に週刊文春が来て初めて知ったとインタビューに答えている。これは、当該案件が社内では限られた人しか知らなかった「情報の独占状態」にあったことを意味する。

例えば、私が在職したテレビ東京においては、何かトラブルが起こった場合に、現場から上に報告してゆくフローがきっちりと組まれている。そしてそれに従って、コンプライアンス部署や必要に応じては法務や広報の担当にまで情報が共有される。それが「普通の会社」だ。フジのこのケースは極めて稀であり、企業ガバナンス的には危うい状態だ。

会社説明会で、港社長は「ここから先、どうしていけばいいということ。ひとつひとつやっていくしかないでしょうけど、まずは次の記者会見から姿勢を見せていく」と断言した。だが、実際の会見では、中居氏と女性のトラブル、フジの社員である編成幹部の関与などの具体的な説明はなく、終始、記者からの鋭い質問の「火消し」で精一杯だった。

繰り返される「信頼回復」は空しく聞こえ、「スポンサー」「海外の投資ファンド」「総務省」に対するケアとアピールというパフォーマンスを意識した会見だった。「スポンサー」に対しては、CMを差し止めた広告主に対し広告料を請求しない意向を伝えたことでとりあえずは様子見の状況だからだ。

撮影=石塚雅人
東京・お台場のフジテレビ社屋 - 撮影=石塚雅人

■2度目の会見は「投資ファンド」対策

今回、フジテレビの会見であるにも関わらずフジ・メディアHD社長の金光修氏が出席したことから、その目的がひとえに「投資ファンド」対策であったことがわかる。

金光氏は23日の会見で「ホールディングスとして、日夜、投資ファンドと向き合っている」と述べ、今回異議を唱えてきた米投資ファンドのダルトン・インベストメンツ以外にもすでにいくつかの投資ファンドからバッシングや批判がきていることを示唆していた。これを抑えないと大変なことになる。株価が暴落すると本当に買収劇も実現してしまうからだ。投資ファンドの向こう側には、企業価値に口うるさい株主たちの存在がある。

しかし、それを会見に出席した記者たち、そして世論は許さなかった。「かん口令」「理由の改変=嘘をついたこと」「情報の独占化」――社内説明会であぶりだされた以上3つがフジの問題点、企業として改善をしなければならないポイントであり、このことに関しての説明が記者会見ではおこなわれるべきであった。だが、それがなされなかったからだ。

「緘口(かんこう)令」はいまだに会社は社員に対して「強制的」であるということだ。これは「閉鎖的」な体質であることを示している。「理由の改変に隠された嘘」からは、日常的にこういった「虚偽」が繰り返されていることがわかる。

「情報の独占化」は完全に社内の「情報共有」のシステムが不全であることを暴露している。

■曖昧回答で被害女性の人権を守れず

27日におこなわれた記者会見は、これらが今後も続くのではないかという懸念を払拭しなければならない場だった。しかし、それはかなわなかった。相も変わらず、「第三者委員会に委ねる」という言葉を繰り返す姿勢は「隠蔽体質」が根深いことを露見させてしまった。

「女性のプライバシーと人権を守るため」という理由も繰り返されたが、プライバシーと人権を守りながら、しっかりと調査や対策をおこなうことはできるはずだ。でないと、今回のような問題が起こったらすべて調査ができないことになってしまう。詭弁だ。

何度も繰り返された「社員の関与はあったのか?」「トラブルは両者の同意だったのか、そうではなかったのか?」という質問に対しても、はっきりした返答をしなかった。「お答えできない」ということばかりが多く、被害女性の人権を守るのであれば、こんな状況では開かないほうがまだよかった。

開くならば、当然想定できた質問の答えを前もって準備するべきであった。質問する記者側がけん制しあい、被害者の女性に対しての「2次被害」も起こりかねないほど混迷した記者会見だった。前代未聞ではないか。

■「日枝氏の出席」「経営陣総入れ替え」は不可欠

では、「緘口令」「理由の改変=嘘をついたこと」「情報の独占化」といった企業体質を改善するためには、どういう対策が必要なのか。

「強制」や「閉鎖性」、または「虚偽」や「隠蔽」、そして「独占化」――そういったものはすべて、社内人事の膠着から来ている。したがって、私が以前の論考でも述べた、日枝体制からの決別が最低限必要なことだ。

だが、記者会見には日枝氏は参加しなかった。完全にこれは周りが「隠した」と私は見ている。87歳の高齢者が、記者の鋭い質問にその場でまともに受け答えができるとは思えない。結果的に、何時間もかかった質疑応答に耐えられたかどうかも疑問だ。

もしできたとしても、「ぽろっ」とヤバいことをしゃべりそうな可能性がある。だから、本人が「出たくない」というよりも、周りが「出ないでください」と言ったのだと私は推察している。

「日枝氏の出席」「経営陣総入れ替え」――これしか、フジテレビ再生の方法はないという私の考えは変わらない。

フジテレビの取締役相談役を辞めさせて「フジテレビから身を引いた」という茶番は通用しない。フジサンケイグループの代表である限り、日枝氏の支配体制は変わらない。両者の地位を退いて、初めて「日枝氏が身を引いた」となる。そして、「日枝チルドレン」「日枝ジュニア」全員の退陣が成立して「経営陣総入れ替え」が完遂する。

写真=時事通信フォト
フジサンケイグループ代表でフジテレビ取締役相談役の日枝久氏 - 写真=時事通信フォト

■中居問題からフジテレビ問題、そして業界全体の問題に……

27日の記者会見からは、嘉納氏と港氏という「トカゲの尻尾切り」をおこない3月末まで時間稼ぎをして、調査報告書をもって4~5月でスポンサー行脚をし、6月の株主総会を乗り切り、7月クールにスポンサーに戻ってきてもらおうという魂胆しか見られない。

だが、それは甘い。そもそもこんなに長い間、自社の記者会見を地上波で垂れ流ししていること自体が、「公共の電波の私物化」である。

この問題はフジテレビだけの問題ではない。日本のテレビ業界全体が試されている。私は今回の件は、テレビ業界全体に向けられた試練だと考えている。

視聴者はフジ単体では見ていないからだ。「テレビぜんぶそうだろう」と思っている。テレビ局全体が今回の真相解明とテレビ全体の構造改革をしっかり考察しないと、テレビの信頼を失うばかりである。私たちは、さらにこの問題を追及し続ける必要がある。

次回は、この問題の現場への影響とそれがフジテレビの未来、テレビ業界全体の未来にどういった影響を与えるのかを検証、分析してみたい。

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田淵 俊彦(たぶち・としひこ)
元テレビ東京社員、桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授
1964年兵庫県生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、テレビ東京に入社。世界各地の秘境を訪ねるドキュメンタリーを手掛けて、訪れた国は100カ国以上。「連合赤軍」「高齢初犯」「ストーカー加害者」をテーマにした社会派ドキュメンタリーのほか、ドラマのプロデュースも手掛ける。2023年3月にテレビ東京を退社し、現在は桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授。著書に『混沌時代の新・テレビ論』(ポプラ新書)、『弱者の勝利学 不利な条件を強みに変える“テレ東流”逆転発想の秘密』(方丈社)、『発達障害と少年犯罪』(新潮新書)、『ストーカー加害者 私から、逃げてください』(河出書房新社)、『秘境に学ぶ幸せのかたち』(講談社)など。日本文藝家協会正会員、日本映像学会正会員、芸術科学会正会員、日本フードサービス学会正会員、放送批評懇談会正会員。映像を通じてさまざまな情報発信をする、株式会社35プロデュースを設立した。

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(元テレビ東京社員、桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授 田淵 俊彦)

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