フジテレビの起死回生策は「ホリエモン社長」しかない…「最高権力者・日枝久氏の辞任」よりも実は必要なこと
プレジデントオンライン / 2025年1月28日 21時15分
■10時間半を超える「異例の記者会見」
フジテレビの「やり直し」記者会見は、10時間半を超える、異例の長さとなった。
前回の記者会見の反省から、「オープン形式」で、原則として、参加希望者をすべて受け入れた。重複する質問が多く、なにより、怒鳴ったり、叫んだりする記者側のモラルや見識が疑問視された。
くりかえされた質問のなかで多かったのが、「フジサンケイグループ」の代表・日枝久氏をめぐるものだ。
ほぼ半日つづいた会見に、日枝久氏は、あらわれなかった。
「フジテレビの天皇」と呼ばれる日枝氏は、同社と、親会社フジ・メディア・ホールディングスの取締役相談役を務めている。
「天皇」と呼ばれるのは、日枝氏が、「フジサンケイグループ」という「日本最大級のメディア・コングロマリット」(同グループ公式サイト)の代表だからである。「フジサンケイグループ」はフジ・メディア・ホールディングスや産経新聞社など79社、4法人、3美術館で構成されている。日枝氏は40年以上の長きにわたり、フジテレビの取締役も務めており、「影響力があるのは間違いない」と、同社の遠藤龍之介副会長が認めるほど、大きな存在である。
■なぜ「フジテレビの天皇」は会見に出ないのか
今回の記者会見を前に、フジテレビの労働組合が日枝氏を含む取締役全員の出席、ならびに、会見の場で取締役刷新の意向を表明、の2点を求めたと報じられている。
それほどまでに「影響力」を思わせる日枝氏は、なぜ、記者会見に出席しなかったのか。
フジテレビ側の答えは、日枝氏が、今回の事案にも、同社の嘉納修治会長と港浩一社長の辞任についてもタッチしていないから、というものだった。「日枝さんが出てくる必要がない」(嘉納会長)、それがオフィシャルな立場である。
日枝氏は、会見に出るのが怖かったのかもしれないし、あるいは、そもそも、自分(だけ)は悪くない=責任がない、と考えているのかもしれない。
だが、今回の本当の「問題」は、日枝氏が辞めるか辞めないか、ではないのではないか。
■フジテレビの現役社員の証言
なるほど、日枝氏の「影響力」は、私が複数のフジテレビ社員から聞いた範囲ですら、すごい。
もっとも鮮明に覚えているのは、20年前の出来事である。
「ライブドア事件」を覚えているだろうか。ホリエモンこと堀江貴文氏をはじめとする、同社の幹部が、決算報告書に虚偽の記載をした証券取引法(当時)違反により2006年に逮捕・起訴され、有罪判決が下された事件である。
この前年、2005年に、堀江氏は、ニッポン放送の株式を大量に取得している。ニッポン放送は、フジテレビの株を大量に持っていた、実質的な親会社だった。「ホリエモンがフジテレビを支配するのではないか」世間からは、そう見られていた。
2カ月あまりに及ぶ騒動の末、堀江氏は、当時、フジテレビの会長だった日枝氏とともに記者会見を行い、ニッポン放送株をフジテレビに売却し、同社を引き受け手にした第三者割当増資を発表する。
ここから日枝氏は「本領」を発揮した。
当時、フジテレビ報道局社会部で東京地方検察庁特別捜査部(=東京地検特捜部)を担当していた記者のひとりによると、「ホリエモンの疑惑を調査しろ」という“特命”があったという。記者たちは、日夜、報告するだけではなく、特捜部に対してネタを持ち込む。
逮捕後には、フジテレビでは堀江氏らの「疑惑」にまつわる独自ネタ(スクープ)が、連日連夜、報じられた。結果として、堀江氏らが罪に問われなかった「疑惑」でも、堀江氏が、いかにワルだったのかを印象づけるには、十分すぎるほどだった。
こうしたエピソードは、月刊誌『ZAITEN(ザイテン)』でも報じられたほか、堀江貴文氏も自身のYouTubeチャンネルで言及している。
■日枝氏が辞めれば問題は解決するのか
ほかにも、番組に対して「鶴の一声」もあったという。あまりに強い「影響力」と言えよう。
だからといって、中居氏をめぐるトラブルについて、日枝氏が関係しているとは思えないし、問題は、そこにはない。
たしかに港氏と嘉納氏の辞職をトカゲの尻尾切り、と見られても仕方がない。
たとえ経営責任があるとはいえ、今回の事案(中居氏をめぐるトラブル)への対応、その後の記者会見、それに伴う、CMスポンサーの撤退をもって、いきなり退任するほどのことなのか。
仮に、「日枝氏が戦犯」とか「日枝氏を吊し上げろ」、との要求がかなえられ、同氏が記者会見に応じたら、瞬間的にスカッとする人はいるだろう。今回の記者会見で怒号を響かせていた「記者」たちは、87歳の高齢者に罵声を浴びせるに違いない。
溜飲を下げられる反面、いま問われていることから目をそらす恐れが高いのではないか。日枝氏をスケープゴートにするだけで、何も変わらないのではないか。
■フジテレビが抱える「本当の問題」とは
問題は、記者会見でも何度も出てきた「企業風土」であり、フジテレビの体質である。
「問題」というのは、「企業風土」が悪いとか、あらためろ、と言いたいのではない。そうではなく、私が、1月17日の、あの「ボラギノール」と揶揄された記者会見を受けた記事<もはや「フジテレビ解体」の道は避けられない…元テレビ局員が考える「スポンサー離れ」が進んだ先に起こること>で書いたように、「テレビ=既得権益として、反発し、恨む対象に成り果ててしまった」かどうかを考えなければならない。
私の知っているフジテレビの人たちは、みんな「いい人」たちばかりだし、今回の記者会見で述べられていた通り、自由で風通しが良く、その場を盛り上げてくれる。その「企業風土」が、社会に受け入れられるかどうか、が問われている。
■「労働組合への加入率の低さ」が象徴するもの
象徴するのが、労働組合をめぐる動きである。
23日に開かれた同社の社員向け説明会では、「先週まで組合員数80人だったのが、本日時点で500人」と記載されていたと報じられている。同社の従業員数は1169人(2024年3月21日時点)である。
厚生労働省の調査では、日本全体の労働組合の推定組織率(雇用者数に占める労働組合員数の割合)は16.1%であり、情報通信産業でも12.7%である(厚生労働省「令和6年労働組合基礎調査の概況」)。
フジテレビには管理職も多いため、組織率が著しく低い、とまでは言えないものの、それよりも、この動きこそ、同社の空気をあらわしているのではないか。
よく言えば、おおらか、というか、仲良しでノリの良い集団であり、悪く言えば、付和雷同で、流されやすい。
労働組合に入らない、のがトレンドだった時は、見向きもせず、逆に、今回のような危機に際しては、右へ倣え、と動く。
これがフジテレビであり、だから、あの、1月17日の記者会見のように、視聴者をナメていたとしか言いようのない態度をとったのではないか。
■会見では『失敗の本質』への言及があったが…
新しく社長に就いた清水賢治氏は、今回の会見で、『失敗の本質』に言及した。
先日亡くなった経営学者の野中郁次郎氏らが、太平洋戦争における、ノモンハン事件、ミッドウェー海戦、ガタルカナル作戦、インパール作戦、レイテ海戦、沖縄戦、の6つの事例を分析し、日本軍の失敗パターンを挙げた名著である。
同書で言う「成功体験への固執」は、今回の記者会見で、フジテレビの遠藤龍之介副会長が述べた反省に通じる。また、「幹部の無能」が「現場のがんばり」に押し付けられる。その弊害が、同書では指摘されている。
実際、嘉納会長は、「私の力不足のために、みんなに迷惑をかけて申し訳ない」と謝罪している。日枝氏を含めた上層部を一掃すれば、「企業風土」が一変し、「現場のがんばり」で同社が復活するかのような期待を抱きかねない。
けれども、この期待は幻想に過ぎないのではないか。
■現場こそが「問題」
「事件は会議室で起きてるんじゃない。現場で起きてるんだ」
フジテレビが生み出したヒットシリーズ「踊る大捜査線」の映画第一作『踊る大捜査線 THE MOVIE』(1998年)で、主人公の青島俊作(織田裕二)が、警視庁の幹部たちに投げつけたセリフである。
今回の事件もまた、会議室ではなく、現場で起きたものであり、そこには、日枝氏はもちろん、記者会見に臨んだ首脳陣もいなかった。
「中居正広氏と女性とのトラブル」の中身がどうだったのか、でもなく、「日枝氏の責任」でもなく、フジテレビの現場に流れ、その「礎」(フジ・メディア・ホールディングス社長の金光修氏の表現)となっている「企業風土」は、どんなものだったのか。
それは、私の知る限り、金銭面にも容姿にも恵まれた、つまりは、あらゆる点で裕福な人たちの集まりである。ちょっと斜に構えた風なことを言いたがるところも含めて、私にとっては、愛すべき人たちである。
そんな人たちを、そして、そんな人たちがつくるテレビ番組を、受け入れられるかどうか。「現場」が問われている。
■フジテレビに突きつけられているもの
まさに、そんな人たちのなかで起きた「トラブル」である。日枝氏が会見に出席する必要はない、と彼らが言い切るのは、同氏に責任がないと純粋に考えているからである。隠そうととられても仕方がない、そんなことは、彼らだって、百も承知だろう。
世間がいくら求めても応じない。いくらズレていると言われても、そのズレを自覚できないほどにズレている。ネガティブにみれば世の中から浮いているし、ポジティブにいえば善良なのである。
今回の記者会見では、延々と同じような質問を繰り返したり、会見場の雰囲気を乱したりした記者たちのモラルや品位が批判された。むろん、そうした態度は、自業自得であり、自滅していたと言うほかない。
だが、そう映ったのは、記者たちだけが原因ではない。
壇上に並んだ、港社長をはじめとする経営陣の、いかにも好々爺然としたムードにもあったのではないか。437人の記者を前に、詰問を超えた激しい怒声を10時間半にわたって受けても、疲れを見せず、興奮もせず、落ち着いたままだった。
彼らは、私のイメージする「フジテレビの人」そのものだった。その対極にある、いかにも悪人に見えるのが日枝氏、というのは皮肉と言うほかない。
だからこそ、日枝氏だけを生贄にしても、何も変わらないのではないか。なぜなら問題の本質は、日枝氏に「忖度した社風」であり、仮に経営陣が総退陣して40代以下になろうが、それは変わらないからだ。かつて対立した「ホリエモンを社長にする」くらいの象徴的な出来事がない限り、スポンサーはCMを戻せないのではないか。
今回の記者会見で浮き彫りになった、同社の「企業風土」をどうとらえるのかが突きつけられている。
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神戸学院大学現代社会学部 准教授
1980年東京都生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(社会情報学)。京都大学総合人間学部卒業後、関西テレビ放送、ドワンゴ、国際交流基金、東京大学等を経て現職。専門は、歴史社会学。著書に『「元号」と戦後日本』(青土社)、『「平成」論』(青弓社)、『「三代目」スタディーズ 世代と系図から読む近代日本』(青弓社)など。共著(分担執筆)として、『運動としての大衆文化:協働・ファン・文化工作』(大塚英志編、水声社)、『「明治日本と革命中国」の思想史 近代東アジアにおける「知」とナショナリズムの相互還流』(楊際開、伊東貴之編著、ミネルヴァ書房)などがある。
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(神戸学院大学現代社会学部 准教授 鈴木 洋仁)
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