「フジ社長と中居正広」は消えるべきだったのか…「文春報道」を前提に袋叩きにしてきたネット民が向き合う現実
プレジデントオンライン / 2025年1月29日 6時15分
■週刊文春の“誤報”疑惑
フジテレビの2回目の記者会見、なんと10時間23分の長丁場となったようであります。壇上に立ったフジテレビ経営陣の皆さん、会場を仕切った関係者の皆さん、またご参加されたジャーナリストや記者の皆さんも、大変にお疲れさまでした。
そんなしんどい記者会見が動物園だったようである話は後述するとして、フジテレビ幹部A氏ほかの「会社組織ぐるみ性接待」を報じた文春報道は、どうも誤報だったのではないかという疑いが強くなってまいりました。
弁護士でファクトチェック方面の人である楊井人文さんも指摘していますが、元ジャニーズSMAP中居正広さんへの女子アナ「献上」をフジテレビが組織的に行っていた、とされる文春報道の根幹部分が告知なく「修正」されました。
この修正が事実ならばそもそもフジテレビは少なくとも中居事件では自社女子アナをだまし討ちして性的に何かさせ、9000万円もの示談金を支払う事件に発展させた話はビッグな誤報だったことになります(「週刊文春、中居氏報道で"修正"の説明文を電子版にこっそり掲載 フジ再会見の直前」)
■いったい何を見せられているのか…
一連の「フジテレビ性接待」文春報道は社内にいる関係者たちの証言が元になっていますが、実際にはフジテレビ幹部が具体的に女性社員やアナウンサーに対して指示した証拠や、その結果、こういう「戦果がありました」的な報告のような物証はなにひとつ出てきていません。
LINEでのやりとりや社内報告で具体的な「性上納」を示す文言のひとつでもあれば「そうなのかな」と思うところですが、実際には、社外との飲酒などの宴席で、相手側男性関係者の横に座らされたなどの、それ別に違法でもなんでもないし、ごく普通にどこの会社でもやっていることなんじゃないのという話が繰り返し指摘されているだけです。
第三者委員会も組まれることですし、これから弁護士の人たちが忖度なくフジテレビ幹部や社員に対してヒヤリングを重ねて調査報告書を出すことになりますから、その結果待ちになるわけですけれども、そもそもフジテレビ大炎上の発端となった「X子さんはフジ編成幹部A氏に誘われた」という記述がどうも誤報であるとなると、私たちはいったい何を見せられているのか、という疑問を抱かずにはいられません。
フジテレビが組織的に女性を「献上」している証拠はゼロのまま、中居さんが女性を単に飲み会後に自宅に誘ったというだけの話になるのであり、仮に示談しなければいけない男女間の事故があったのだとしても、それはフジテレビはまったく無関係の、男女の間の話でしかないという事案になるからです。
そして、今回「お断り」として修正された内容について、その前後関係を、むしろ文春側が説明しなければならない状況に追い込まれてしまうのではないかと危惧します。大丈夫なのでしょうか。
■踏み込みすぎた総務大臣の会見
さらに、独走した文春報道を受けて、各媒体も「性接待の事実ありき」でメディアスクラムが組まれて、大騒動に発展した結果、総務大臣の村上誠一郎さんが28日の閣議後会見で、フジテレビのやり直し会見を前提に「今後も説明責任を果たして、視聴者やスポンサーの信頼回復を果たしてほしい」と見解を述べてしまいました。
いやいやいやいや、まだ疑惑の段階で踏み込んで所轄大臣が見解述べてどうするつもりなのという気もしますし、せめて放送村は大臣羽交い絞めにしてでも「事実関係の確認を進めつつ事態を注視している」ぐらいにとどめさせないと大変なチョンボになると思うんですよ……。
そして、事実関係も文春報道以上のものが出てこない中、10時間以上に及ぶ経営陣記者会見であります。クビになることが分かっていたうえで、社長の港浩一さんや会長・嘉納修治さんらが最後のご奉公とばかりに冷静かつ淡々と対応していたのが印象的でした。何より、前回の密室記者会見が盛大な批判を受けた結果、会見に来たいやつノーチェックで全員集合ってかんじでやっちゃったものだから、変な女性記者から活動家みたいな左翼ネット媒体の皆さんまで、クビを獲って名を挙げろとばかりにマイク片手に自説開陳が繰り返され、ほとんど動物園状態になってしまいました。
■わが国のジャーナリズムは大丈夫なのか
当然、そんな状態では記者会見でみんなが驚くような新事実が引き出されることなどあるはずもなく、ジャーナリストや記者による質問であるはずなのに、報道ベースで外に出ているのが実質的に前述の文春記事しかないため確たる事実関係は誰にもわからないという体たらくでわが国のジャーナリズムは本当に大丈夫なのかという懸念すら抱きます。
そして、ACジャパンすら広告掲載がむつかしく、ライオンがフジテレビに広告費の返還(支払いの中止)を通達してフジテレビが全部それをのんだばかりか、既存の広告主のすべてに広告費支払いを求めない決定をするという全面降伏に至るのは、まだ事実関係すらハッキリしていない中での推定無罪もない状況になり驚きます。みんな、過熱しすぎじゃないですかね。
■もうちょっと冷静になったほうがいい
確かに、中居正広さんと被害女性の間で男女関係の何らか大きい問題があって、9000万円の示談金らしきものが提示されて解決したようだ、という緩い事実公表が発端なのです。当事者同士で具体的な内容は一切開示されておらず、途中中居さん側が「示談が成立したことにより、今後の芸能活動についても支障なく続けられることになりました」とオウンゴール、さらに問題が大きくなってから「芸能活動を永遠に引退」とさらにオウンゴールして、周りにアドバイスしてくれる人がいないんだろうなって話が際立っていたぐらいでしょうか。
それが、なぜかフジテレビだけでなく放送業界全体の「#metoo運動」みたいになったはいいけれど、確実な性接待の事実関係や組織ぐるみの指示や報告も一切出ない中で、お気持ちとして「テレビ業界けしからん」ってなって、広告が全部止まり、株主から怒られ、程度の低いジャーナリストから会見で「日枝久出てこい」とか煽られ、正直どういうことなんでしょうかねえ、これは。
女性が望まない宴会の席に組織からの指示で強引に連れて来られて性接待されたって話が具体的に出てきているわけではない中で、緩い疑惑のレベルで会社が潰されそうなフジテレビの問題については、やはりみんなもうちょっと冷静になろうね、っていう気持ちしか抱きません。はい。
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情報法制研究所 事務局次長・上席研究員
1973年、東京都生まれ。96年慶應義塾大学法学部政治学科卒業。東京大学政策ビジョン研究センター(現・未来ビジョン研究センター)客員研究員を経て、一般財団法人情報法制研究所 事務局次長・上席研究員。著書に『読書で賢く生きる。』(ベスト新書、共著)、『ニッポンの個人情報』(翔泳社、共著)などがある。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。
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(情報法制研究所 事務局次長・上席研究員 山本 一郎)
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