疲れきった顔に港浩一社長の"覚悟"が見えた…「フジテレビvs.文春」の行方に元週刊誌編集長が考えること
プレジデントオンライン / 2025年1月29日 18時15分
■「会見史」に残るロングランだったが…
1月27日に行われたフジテレビの出直し会見は「会見史」に残るロングランになった。午後4時過ぎから始まり、翌日の午前2時まで延々10時間半に及んだ。
1月17日の港浩一社長の会見は、雑誌やフリーのジャーナリスト、ネットメディアを排除し、動画も撮らせなかったために厳しい批判を受けた。CMを提供しているスポンサーたちも次々に離れていく異常事態になってしまったため、港社長たちが再び会見を開いたのである。
これまでは、2019年7月22日に行われた吉本興業・岡本昭彦社長が所属タレントの闇営業問題や騒動について開いた会見の5時間半が最長だった。
2023年9月7日にジャニー喜多川の性加害問題について東山紀之新社長(当時)、藤島ジュリー景子社長らが開いた会見は4時間12分。2023年12月4日に日大アメフト部の大麻に関して林真理子理事長らが出席した会見が2時間45分だった。
今回は参加者を限定しなかったため、191媒体、437人が集まった(フジテレビ調べ)。
冒頭、今回の「騒動」の責任をとって港浩一社長と嘉納修治会長の辞任が発表された。
港社長、遠藤龍之介副会長、嘉納会長、金光修フジ・メディアHD社長、新社長に指名された清水賢治氏が壇上に上がったが、フジテレビの“天皇”といわれている日枝久取締役相談役の姿はなかった。
■質問が集中した「5つのポイント」
ユニークだったのは被害女性のプライバシー保護ということで、実際の放送している時間ではなく、10分間のdelay=遅らせて放送したことである。質問者がX子さんの実名や、フジ編成幹部のA氏の実名を漏らしてしまった時、それを消す時間を確保したことだ。
実際に、一部の記者がX子さんの実名を口走ったことがあったようだが、テレビを見ていてわからなかった。
質問はおおよそこの5つに絞られた。
・X子さんを一人で中居邸に行かせたのは、フジの社員である編成幹部のAなのか
・そうした“人権侵害のある事案(港社長の発言)”の一方の当事者である中居を、なぜフジは使い続けたのか
・フジの社風を形作った日枝相談役はなぜここへ出てこないのか
・第三者委員会はこの件をどう調査するのか
挙手した記者の質問にはすべて答えるというフジ側の姿勢や覚悟はうかがえた。だが、予想通り、フジ側は「被害女性のプライバシー保護最優先」を楯にして、事件が起こった後、被害女性がフジの上司に相談した内容や中居とのトラブルの真相などの核心については、一切、ひな壇の人間たちが答えることはなかった。
■文春が「編成幹部Aに誘われた」部分を訂正
中でも、私が不自然だと思ったのは、中居と当該の女性との間に何らかのトラブルがあったことは認めているのに、彼女が文春などで話している編成幹部Aの「この件への関与」については、港社長が全否定したことであった。
その理由は後になってわかった。フジテレビの出直し会見が世の耳目を集めていた1月27日、週刊文春が有料会員向けの電子版にひっそりと「訂正」を掲載していたのである。しかし、「それはおかしい」と指摘した人物がいた。
「『文春』のインタビューを受けていた橋下徹弁護士は、この件を『大きな前提事実の変更があったことなので、しっかりと事実訂正を大きく報じて謝罪しないといけないと文春に伝えました』」(FNNプライムオンライン1月28日 火曜 午後7:39)
そういう経緯があったためだろう、その後、文春オンラインにも載せた。「中居正広・フジテレビ問題について」として、「昨年12月26日発売号では、事件当日の会食について『X子さんはフジ編成幹部A氏に誘われた』としていました。しかし、その後の取材により『X子さんは中居氏に誘われた』『A氏がセッティングしている会の”延長”と認識していた』ということが判明したため、1月8日発売号以降は、その後の取材成果を踏まえた内容を報じています」
その上で、「A氏が件のトラブルに関与した事実は変わらないと考えています」としているのである。
文春の看過できない誤報だが、それならば文春編集部はなぜ変更したのか、その理由は何かを丁寧に説明する必要があるはずだが、これについては改めて検証したい。
■本当に女性を守るためだったのか?
トラブル後、中居からフジ側に説明があったようだが、中居は「同意があった」と話していたという。女性側のいい分とは違っていたはずだが、それ以上、港社長たちはこの問題を追及せず、女性のプライバシー保護や彼女の容態だけを考えていたというのだが、納得しがたい。
9000万円(実際の金額とは異なるようだが)という莫大な解決金を中居がX子さんに払ったということをフジは把握していたのか、していなかったのか。知っていたとすれば、それはいつ頃か。
中居がX子さんの同意なしに性行為に及んだとすれば、レイプということになり、自社(フジはそうはいってはいないが)の社員が被害を受けたのだから、刑事告訴することも考えられたはずだが、何もしていなかった。
彼女が嫌がったのかもしれないが、彼女のプライバシー保護が主な目的ではなく、中居という視聴率を稼ぐタレントをフジは優先したといわれても致し方ないはずだ。
質問する側の拙劣さも目立った。フジの「社風」の礎を築いた日枝久相談役がなぜここへ出てこないのか、なぜトラブルがあったにもかかわらず中居を使い続けたのか、フジには女子アナを接待役として使う風土があるのではないかなど、繰り返し同じ質問を、時には声を荒げて、ダラダラと続けただけだった。
■「フジテレビはブスは採りません」
フジは女子アナを接待役に使う風土があるという指摘で思い出したことがある。
「フジテレビはブスは採りません」
フジテレビのアナウンス部長(当時)だった人物は、マスコミを志望する法政大学の学生たちの前でこういった。
2000年代初め、私が受け持っていた「編集学」の授業に彼を招いた時、学生から出た「テレビ局にはコネ入社はあるのか?」という質問がきっかけだった。
彼は「テレビ局だけでなく、どの企業にも多少なりともコネ入社があることは否定しません。ですが、アナウンサーだけは別です」といって冒頭の発言になった。女子学生たちが“呆然”としていたことを記憶している。
フジテレビの女子アナは時にキャバクラ嬢みたいだと揶揄されてきた。彼女たちには失礼ないい方にはなるが、「美人女子大生」を優先的に採用してきたのはフジテレビという社の方針だった。
「女子アナ」という言葉は1980年代から使われ始めたといわれている。中でもフジは美人女子大生を積極的に採用してアイドル化していった。
私がFRIDAY編集長時代(1990年~91年)、フジの有賀さつき、河野景子、八木亜希子の“アナドル3人娘”が全盛で、彼女たちをバラエティー番組にも出演させ、スターにしていった。
■民放No.1の地位を築いた“アナドル”戦略
FRIDAYだけではなく、多くの雑誌が女子アナのグラビアを挙(こぞ)って特集した。女子アナ、それもフジに採用されれば、スターの座は約束されたも同然だった。
この手法は見事に功を奏し、フジの民放ナンバーワンの座を不動のものにしたのである。
2000年代初め、“アヤパン”の愛称で活躍した高島彩には多くの熱烈なファンがいた。その頃がフジの全盛期だったのではないか。この当時の会長が日枝氏であった。
だが、フジの「女子アナアイドル化戦略」を他局も真似するようになり、フジ一強体制は脆(もろ)くも崩れていったのである。
しかし、今回の中居スキャンダルで明らかになったのは、フジの女子アナ活用は視聴率獲得だけのためではなかった。有力なタレントや芸能プロの社長たちを接待するための“キャバクラ嬢”としても彼女たちをこき使っていたようなのである。
私のような雑誌屋の間ではだいぶ前から、フジの女子アナは「寿退社」もあるが、早く辞める子がなぜか多いと囁かれていた。社の上司や幹部が、自分の出世欲のために彼女たちを「同伴」させる慣習は、かなり前からフジの“文化”になっていたと考えていいだろう。
■X子さんと港社長の“食い違い”をなぜ追及しないのか
会見の話に戻ろう。私が不思議だったのは、中居から被害を受けたX子さんの肉声のほとんどは週刊文春発なのに、そのことに触れた質問者が少なかったことだった。
文春でX子さんはこういっている。しかし港社長のいい分は違うではないか。X子さんは「中居もフジも許せない」といっているが、どう考えているのかという質問がほとんどなかったのはなぜなのだろう。
例えば、今週の文春(1月30日号)でX子さんは、昨年8月下旬にフジ関連の仕事から離れる決意をし、港社長に挨拶に行った時のことをこう語っている。
「港さんはトラブルについては一切会話に出さずに上機嫌で笑顔を浮かべて、五輪視察で訪れたパリの話ばかりしてきました。『この人は私が抱えるトラブルを知っているのか、知らないのか。どういう気持ちでいるんだろう』って。そして、最後まで謝罪はなかった」
港社長は知っていたはずだ。なぜなら、フジテレビの準キー局、関西テレビ(カンテレ)の大多亮(とおる)社長(66)は1月22日、大阪市北区の同局で新年社長会見を行い、こう語っているのだ。
■カンテレ社長の説明ともズレがある
「この事件が起きてから、ほどなくして私の元に報告が上がっております。(中略)大変重い案件でありますので、これは社長には上げないといけない。あの、僕までで止めておくこともですね、考えられなくもないですけど…知ってる人が増えるということは避けた方がいいのかというような考えもありましたが、私の判断で港社長に上げた。その日のうちに上げたような記憶があります」(Sponichi Annex 1月22日)
港社長は、自分がX子さんのトラブルを知ったのは8月だったと明言している。大多社長がいっている時期とズレがあるようだが、なぜなのだろう。
X子さんのプライバシーを優先したため、フジのコンプライアンスの部署にはまったく話をしていなかったというが、それでは何のためのコンプライアンスなのか。
またX子さんは文春(1月30日号)でこうもいっている。
「編成幹部のAさんに呼ばれた会では、彼や彼の部下が私たち女性陣にお酒や料理を用意して『(タレントの)横に座ってお相手して』と指示します。キャバクラのホステスと黒服みたいな役割。こんなことをするために、この世界に入ったのかと悔しくなりました。たくさんの女性アナがこんな会に参加させられていたのに、港さんは……。このまま不透明な調査委員会に任せて、全てが明らかになるとは到底思えません」
■女性蔑視、非人道的な会社ではないか
さらに文春は同号の中で、港社長が2014年に、約30歳下の銀座のクラブの女性と伊豆の温泉旅館へ「不倫旅行」をしていたことにも触れている。
文春のスクープだった。そんな港社長の持論は「遊んでいる人は優秀である」というものだという。そういえば、だいぶ前、フジのキャッチフレーズに「楽しくなければテレビじゃない」というのがあった。
フジの幹部や接待された有名タレント、芸能プロのトップには楽しいかもしれないが、接待役までさせられたフジの女性職員たちにとってフジは、女性蔑視、非人道的な会社だといってもいいはずだ。
さらに週刊ポスト(2月7日号)でもX子さんが港社長の「誕生日会」に出席させられたと話している。
「私は港社長とはほぼ初対面なので、『なんで私が?』とは思いましたが、Aさんに言われて参加させられました。会見で港社長は『飲み会の参加は自由』と仰っていました。ですが、偉い人との飲み会を若手社員が断われるわけないじゃないですか。今のように不透明なまま調査をしても、フジの実態が明らかになるのかは疑問です」
■“フジの常識は世の中の非常識”
週刊新潮(1月30日号)は、20年近くフジの正社員として過ごした吉岡京子さん(仮名)の証言を掲載している。そこで彼女は、こういう合言葉が使われていたと話している。
「それは、“フジの常識は世の中の非常識”というものです。あと、セクハラが世の中で問題になり始めた時も“セクハラとか言ったらウチの社員はみんな逮捕だ”と冗談めかして語られていました」
そして自身のセクハラ被害も語っている。
「今はもうフジを辞めている大物プロデューサーの自宅で行われた誕生会に呼ばれた時、だんだんそのプロデューサーが酔っ払ってきて、体中をベタベタと触られて動けなくなってしまったことがありました。その場にいたタレントさんたちもちょっと引いていました」
さらにこうもいっている。
「ある時、編成局の女性がこう言っていたのです。“私の友達がAさんと仲良くなったんだけど、22階のイベントスペース『フォーラム』の横にある多目的トイレに連れ込まれてキスされた。それだけじゃなくて抱きつかれたり股間に手を押し付けられたりもした”と。その子は周りに“絶対許せない”と話していたそうです」
京子さんは、「フジテレビは私にとってはすごく憧れの大きい会社で、やっと入ることができた。そう思ったのに体をベタベタ触られたり、“舐めるな”という言葉が飛んできたり、全てをひっくり返されたというか、裏切られた思いです。今回の件の被害者の女性も言っていますが、私の人生ももう戻ってくることはないんですよ」と、憤慨している。
■87歳の日枝氏はグループから離れる?
私はこの会見を聞いていて、日枝取締役相談役は第三者委員会の答申が出る頃にはフジグループを離れるつもりだろうと思った。日枝氏も87歳。これだけ社内外から批判されれば、これ以上ここにしがみついていても仕方ない、潮時と考えているのではないか。
だが、辞めるにしても日枝氏は、今回のことを含めてこれまでのフジの文化をつくってきた責任者として、すべてを洗いざらい話してからにするべきだ。
被害女性のプライバシーに関わることについては答えられない、日弁連の方針に沿った第三者委員会に今回の問題を調査してもらうので、この問題には言及できないと、何重にも壁を作り、10時間以上に及んだにもかかわらず、いま問われているフジテレビの問題の核心は明らかにされることはなかった。
フジテレビは、この記者会見をCMも定時の番組もすっ飛ばして中継を続けた。それは英断であったと思う。
■「幹部たちの疲れ切った顔」が物語っている
1969年にTBSを辞めて「テレビマンユニオン」をつくった萩元晴彦、村木良彦、今野勉が書いた『お前はただの現在にすぎない テレビになにが可能か』(田畑書店)という本が話題になったことがあった。
この会見を見ながらその本のことを思い出していた。テレビの存在理由、強みは現在起こっていることを映し続けることなのだ。それがどんなものであろうと。
最後にフジ報道局の平松秀敏編集局編集長が出てきて、この長時間会見について、港社長が開いた1月17日の閉鎖的な記者会見が失敗したから、「自業自得」だといった。小気味よかった。
この会見でフジのすべての疑惑が晴れ、失った信頼が取り戻せるとは到底思えない。ただただ会見が長かったということだけが後後まで語り継がれるだけだろう。
だが、ひな壇に並んだフジの幹部たちの疲れ切った顔を眺めているだけで、このテレビ局が置かれている深刻な状況が伝わってきた。それだけでもやる意味はあったと思う。
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ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任する。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『編集者の教室』(徳間書店)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、近著に『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)などがある。
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(ジャーナリスト 元木 昌彦)
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