「絶対に正しい謝罪」は存在しないが、それでも…引退を発表した中居正広氏に作家がどうしても伝えたいこと
プレジデントオンライン / 2025年1月30日 9時15分
■中居氏の謝罪文を読んで思ったこと
国民的スターで日本を代表するアイドルの一人だった中居正広さんが今、芸能スキャンダルなんて枠を超え、大企業の存亡の危機や総務省の介入といった社会現象、国を揺るがす騒ぎの中心にいる。
報道されていることが事実なのかどうかはわからない。ただ、最初のお詫び文で、「示談が成立したので今後の芸能活動は支障なく続けられます」との箇所が、「自分のことしか考えていない」「被害者とされる人の気持ちに対する配慮がない」と大炎上、結果として彼をさらなる窮地に追い込んだ。
さらに引退を決めた後、ファンに向けてのメッセージが「まるで感傷的なポエムみたい」となり、「事の重大さがわかっていないのでは」と火に油を注ぐ事態になった。
その騒動に便乗して私怨を晴らすなんてことはしたくないが、彼の「謝罪文」を読んで、中居さんとも示談の相手の女性ともまったく関係ない別の芸能人について、私の中では何かが結びついたので、ここに書かせていただく。
私もある芸能人に振り回された、いや、振り回されている最中でもあるのだが、中居さんの示談相手となった女性とは比べ物にならない。比べるつもりもない。
■あくまで私の個人的体験談
まず、私はその芸能人(以下、何の意味もない仮名のAさんとさせてもらう)に肉体的な毀損などはまったく受けておらず、金銭をだまし取られたなんてこともない。悪意を持って私に近づき、陥れようとした、罠にハメたというのも考えられない。
だから私もAさんに対し、憎いとか許せないとか、苛烈な処罰感情はない。
Aさんは困った人だなぁ、厄介だなぁという徒労感に疲弊感はあるが、苦笑、溜め息で済まそうとすればできなくもない。
正直、もっと距離を置きたい、敬して遠ざけたいとは願っているが。
なのでここはあくまでも、「中居さんの文章から思ったこと」「中居さんの謝罪文などで思い出したAさんのこと」だけ書かせてもらう。
とにかくそのAさんを公的に糾弾する気もなく、私的に絶縁したといとまでは思ってないので、本人を特定できるようなことには触れず、多少の脚色も加えさせてもらう。
■大物芸能人だったAからの接触
Aさんは中居さんほどではなくてもかなり活躍した時期もあったが、いろいろ不幸が重なって干された時期もあった。そのような頃、私に近づいてきた。
とりあえず芸能事務所に所属してテレビにも出ている私に、立て続けにあれこれ「お願い」「おねだり」をしてきた。
私はAさんとはまったく職種が違うし活動の場がかけ離れているので、「Aさんに恩を売っておけば仕事を回してもらえるかも」といった計算はできなかった。
私としては、「あんなスターだった人に頼られている」という喜びとおもしろさもあったし、小説家としては「ネタにできるかも」「いずれこの一連の物語を書きたい」というのが、いってみれば欲得の計算であったのは間違いない。
しかしAさんが、あんなスターだったのになぜかつての仕事関係者や有力な諸先輩方に頼らず、畑違いの小説家、しかもそれまでは大して交流もなかった私を頼ったのか不思議でもあったが、すぐにわかってくる。
かつての仕事仲間やAさんにとっての恩人、諸先輩方には早々に距離を置かれ、縁切りされていたのだった。そんなわけで藁にも縋る思いで、私を頼ったのだろう。
■「仕事がほしい」と言っていたのに
ともあれそのときのAさんは所属事務所もなく、仕事がまったくない状態だったので、「事務所に入りたい」「仕事がほしい」の二つの希望が切実で、私は毎日Aさんの電話とラインに追われ、しかし私ごときがその二つをやすやすと叶えられるはずもなかった。
事務所に関しては、ある所でけっこうなトラブルになってしまい、私はまるでAさんのマネージャーであるかのようにいろんな人に頭を下げるはめになってしまったが、諸般の事情からその辺りは詳細を書けない。
そして仕事だが、私なんかの力では何百万、何千万になるようなものは無理に決まっていて、しかし「出演料は安いけど、自由に語っていいインタビューページをもらいました」みたいな仕事はいくつか確保できたのだ。
ところがAさん、前者に関しては「入れてもらえない」となると私も含め迷惑をかけた関係者にはまったく謝罪なしで、けろっとして「なかったこと」にしてしまった。
そして後者だが、やはりどんなに仕事に困っていても、「自分ほどのスターがそんな安い仕事は嫌だ」となったようで、すべてドタキャンされてしまった。
それだけでなく、どうしても相談したいことがあるから会ってほしいとしつこく頼まれ、個室のあるレストランなど用意させられては、これもすべて直前に見え見えのバレバレの言い訳でひっくり返され続けた。
■謝罪文の難しさ
そのような「気まずい結末」を迎えるたび、いったんAさんは沈黙し、連絡してこなくなる。おそらく、私ではない新顔の「頼みごとができる人たち」のほうに河岸を変えるのだろうが、とにかく私はただの一度もAさんから謝罪されたことがない。
そうしてまた、ほとぼりが冷めた頃プラス、「頼みごとができる人たち」にも軒並みシャットアウトされたところで、またしても私に連絡してくる。とことん、けろっとして。この前はすみませんでした、という前置きもなし。
つい先日も、親をどうしても高級な施設に入れたいので、そういうところに顔がきく人を紹介してほしいなどと連絡してきた。精一杯の嫌味で、
「いつもご期待に沿えず、すみませんね」
みたいなことをいったら、天真爛漫に答えられた。
「過去のことは全然、気にしてないから。とりあえず親の施設のことお願いねっ」
私はもはや、Aさんに謝ってほしいとも思わなくなった。中居さんは、お相手に完全に許してもらってはいないが、謝罪はしておられる。ただ、その謝罪文が第三者にも「これは……うーん」と思われてしまった。
■書き続けるしかない
しかし中居さんがどんな謝罪文を書けば――示談のお相手の女性もとうてい許すなんてことはあり得ないとしても――とりあえず「これは謝罪文だ」と思えるのか。
これは正解がない気がする。たとえ第三者からは「心がこもった謝罪」に読めても、被害者は傷が癒えないうちは何が書いてあっても「心がこもってない」と感じるのだ。
そして被害者の傷が完全に癒えるなんてこともないので、中居さんも絶対的に正しい謝罪文は書けないのだ。しかし中居さんも、書き続けるしかないのだ。
繰り返すが、私は一度もAさんに謝罪してもらったことはない。それはAさんが、自分は悪いことをした、迷惑をかけてしまったとはまったく思ってないからだ。
もし私が一言でも謝れなんていえば、悪いことしてないのなぜ、と驚くはず。
中居さんはさておき、少なくともAさんは、「スターの自分が何かしてもらうのは当たり前だから、してくれた一般人には感謝も謝罪もしない」のだ。
さすがにはっきりとはいわないまでも、「スターの私に一般人のあなたが頼みごとをしてもらって、ありがたく思え。尽くせて光栄だろう。できなかったことはあなたが謝罪すべきだけど、謝罪を要求しない私って寛大」くらいに思っているのだ。
■一般人との大きな乖離
中居さんがAさんと同じ心情、もしくは信条でいるとはいわないが、「自分はスターだから、一般人は自分をありがたがるのが当然。まさか迷惑と思うなんて夢にも思わなかった」といった、まさに一般人との大きな隔たりはあったのではないか。
Aさんは別に引退しなきゃならないほどのことはしていないので、これからも芸能人でい続けると思うが、中居さんはとりあえず一般人に戻ることとなった。
一般人として静かに暮らしつつ、示談相手への贖罪の気持ちを持ち続けていれば、いつの日にかお相手の女性が、行為そのものは決して許すことはできないままでも、少なくとも謝罪しているということだけは伝わる文は書けるのではないか。
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作家
1964年、岡山生まれ。少女小説家としてデビュー後、1999(平成11)年「ぼっけえ、きょうてえ」で日本ホラー小説大賞受賞。翌年、作品集『ぼっけえ、きょうてえ』で山本周五郎賞受賞。2002年『チャイ・コイ』で婦人公論文芸賞、『自由戀愛』で島清恋愛文学賞を受賞。近著に『でえれえ、やっちもねえ』(角川ホラー文庫)がある。
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(作家 岩井 志麻子)
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