イーロン・マスク氏と孫正義氏、トランプ大統領が選ぶのは…「15兆円の超巨大AI計画」をプレゼントした狙い
プレジデントオンライン / 2025年2月3日 9時15分
2025年1月21日、米ホワイトハウスで記者団に話すオープンAIのサム・アルトマンCEO(左から2人目)、トランプ大統領(左端)、ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長(左から3人目)ら - 写真=ゲッティ/共同通信社
■SBG、オープンAI、オラクルの巨大連合
1月20日、第2期トランプ政権が発足した。トランプ氏は、米国経済を世界一に押し上げる「Make America Great Again(MAGA)」を狙って、米国内への企業誘致を目指している。
具体的には、高い関税を支払い海外で作ったものを米国に輸出するか、それとも、法人税率の低い米国で生産を行って販売するかの二者択一を迫っている。
トランプ氏の狙いに真っ先に応じたのは、わが国のソフトバンクグループ(SBG)が参加するスターゲート計画だ。昨年12月、孫正義会長兼社長はトランプ氏と会談し、1000億ドル(15.6兆円)のAI投資を表明した。そして1月21日、孫氏はトランプ大統領、オープンAIのサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)、オラクルのラリー・エリソン会長とともにAIインフラ計画である“スターゲート計画”を発表した。
■高い関税の代わりに米国での生産活動を要求
同計画での投資計画は今後4年間で5000億ドル(78兆円)に拡大した。雇用の創出効果は数十万人に上る見込みだ。AIデータセンターが消費する新たな発電技術の実用化、AIによる家計、企業、社会インフラなどのソフトウェア化の加速を考慮すると、スターゲート計画はMAGAを支える重要なファクターの一つになる可能性がある。
一方、計画が期待通りに進まないリスクもありそうだ。現時点で、同計画に必要な資金をいかに調達するかは今後の課題となるだろう。また、AIが人類にもたらす危険性をどう抑えるかは明確ではない。さらには、先端半導体の開発と供給が遅れ、予定通りにAI利用が進まないことも考えられる。
1月23日、トランプ新大統領はオンラインで“ダボス会議”に登壇し、米国第一の経済政策を世界に宣言した。米国を世界で最強の経済にするため、トランプ氏は「もし米国で製品を製造しないなら、それは企業の自由だが、これまでとは違う額の関税を支払わなければならない」と述べた。関税を負担せずに米国の市場にアクセスするなら、米国内で生産活動を行うよう世界の企業に求めたのである。
■堅調だが、支出意欲はまだら模様な米国経済
同大統領は、企業が米国内で生産活動を行う場合、法人税率を21%から15%の世界最低水準に引き下げる考えを示した。同氏は関税の引き上げをちらつかせる一方で、法人税引き下げのメリットを提示し、米国での投資を増やし経済成長を一段と高めることを狙っている。
企業の資金調達を支援するため、金利の引き下げを求める意向も表明した。インフレを押さえ込むため、主要産油国であるサウジアラビアとOPEC(石油輸出国機構)に原油価格を引き下げるよう求めた。トランプ新大統領は「原油価格が下がった場合、連邦準備制度理事会(FRB)に利下げを要求する」と述べた。
昨年11月の米大統領選では、米国の有権者の多くはバイデン政権下でインフレが進行したことに不満を募らせた。2022年6月には前年同期比9.1%まで米国の消費者物価指数は上昇し、金利も上昇した。
それにより、低所得者層でのクレジットカードローンの延滞率は上昇した。現在、米国経済は全体として相応の底堅さを維持しているものの、すべてが好調というわけではない。低所得者層の信用力、支出意欲などはまだら模様とみられる。
■孫氏が画策する「スターゲート計画」とは
そうした状況下、トランプ新大統領は関税の引き上げで世界の有力企業に対米直接投資の積み増しを迫り、それによって米国の雇用を増やし、個人消費を底上げして経済成長率を引き上げようとしている。
また、トランプ氏は、原油価格が下落するとロシアの石油関連収入は減少し、ウクライナ戦争が終結するとの見解も示した。経済だけでなく、安全保障面でも世界における米国の偉大さ、強さを引き上げようとしている。
経済面で、トランプ氏の宣言に応える計画が早くも現れた。わが国のソフトバンクグループ、米国のオープンAI、およびオラクル、アブダビの政府系ファンドのMGXが参加するスターゲート計画だ。
米国時間の1月21日、SBGはスターゲート計画の全体像を公表した。4社は共同で“スターゲート・プロジェクト”という企業を設立する。資本金450億ドル(7兆円)程度のうち、SBGが4割、オープンAIは4割、オラクルとMGXが2割を出資する模様である。
■目指すのは「生活のすべてがAIで完結する未来」
本計画は、米国内でオープンAI用の新たな“AIインフラストラクチャー”構築を目指す。昨年12月時点で、SBGは4年間で1000億ドルの投資を計画していた。今回、同額の投資は直ちに実行すると修正し、最終的な投資額を4年間で5000億ドルに積み増した。
孫氏は、AIや化石燃料生産に関する規制緩和、法人税率の引き下げと金利低下を重視するトランプ新大統領の経済政策の潜在的なメリットは大きいと判断し、大規模な計画実行への判断を下したとみられる。
SBG・オープンAI・オラクルは、スターゲート計画の推進を通して汎用型AI(AGI)の社会実装を目指し、AI時代の社会インフラを整備する。一般的にAIインフラストラクチャーという場合、データセンターをメインにAIの学習と利用を支えるサーバー、サービス提供を指すことが多い。
スターゲート計画の構想は極めて大きい。わたしたちが水道や電力、医療、インターネットに当たり前にアクセスするように、汎用型のAIを使う社会システム構築を目指す。仮に計画が実現すれば米国の市民、企業は水を使うときに蛇口をひねるようにAIを使い、必要な情報、モノ、サービスをAIインフラ経由で手に入れることが可能になる。
■投資家の期待を集めたオラクルの“戦略の妙”
足許で注目を集めている自動車のソフトウェア化だけでなく、交通インフラや国防なども、ソフトウェアが主導するような時代が到来するかもしれない。世界で最も成長期待の高い分野であるAI業界でそうした世界の実現を目指す企業が出現することは、MAGAの実現にとって重要なファクターと考えられる。
スターゲート計画は、AI分野の勢力図を書き換える可能性を持つ。注目の一つはオラクルだ。同社は、投資ファンドが建設したデータセンターをリースし自社の投資負担を抑えた。その戦略は、2025年6月末までに自前で800億ドル(約12.5兆円)を投じると表明したマイクロソフトと異なる。
スターゲート計画発表後の両社の株価の上昇率の差は、オラクルがオープンAIの主要パートナーとしての地位を高め、AIインフラ整備に主導的役割を果たすと期待する投資家の増加を示唆した。
データセンターの旺盛な電力需要を満たすため、米国で安全性の高い原子力発電や核融合発電技術の実用化が前倒しで実現する可能性もある。SBGは新エネルギーの活用も視野に、より多くの投資ファンドからも出資を募る方針とみられる。
■犬猿の仲、イーロン・マスク氏との求心力争いも?
その一方で計画にはリスクもある。まず、莫大な必要資金をいかに調達するかが当面の課題になるだろう。また、AIがもたらす危険性の増大スピードは高まる可能性がある。トランプ政権は、企業にAIの安全性の管理を義務付けた前政権の大統領令を撤回し、経済全体の成長加速につなげようとしている。
トランプ政権の方針に対して、ノーベル物理学賞を受賞し“AIのゴッドファーザー”と呼ばれるトロント大のジェフリー・ヒントン名誉教授は、AI開発は安全性確保と同時に進めなければ人類の脅威になると懸念を強めている。
スターゲート計画に必要な半導体供給に重要な役割を果たす、エヌビディアのGPU開発・供給が遅れる可能性も排除できない。現在、世界のGPU開発はエヌビディアの寡占化が鮮明化しており、台湾積体電路製造(TSMC)が担っている。エヌビディアのGPUに対応したメモリー半導体ではSKハイニックスが先行している。
GPUの供給が予想外に遅れ、エヌビディアの供給能力に問題が発生するリスクはある。その場合、米IT先端銘柄は下落し、AI関連新興企業に出資するSBGの業績下押し圧力も高まるだろう。主要な投資家はエヌビディアの成長を楽観しているだけに、そのリスクは軽視すべきではない。
トランプ政権内で、オープンAIのアルトマンCEOと犬猿の仲といわれているイーロン・マスク氏の影響力に陰りが出て、テスラの成長期待が雲散霧消することもあるかもしれない。スターゲート計画が期待通りの成果を実現できるかは、当面のトランプ政権やソフトバンクなど参加企業に無視できないインパクトを与えそうだ。
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多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。
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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)
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